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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
3109/3386

26

 影子はすぐに体を元通りにしたが、その分ツグミが消耗している。


「ムカつくわ、あの笑い顔。皮めくり取ってやるっ」


 ポチと激しく交戦中の影子であったが、視界内に一瞬大丘の絵顔が入ってきて、激しい苛立ちを覚えた。


「物騒なことを仰る。なるほど、貴方は色々な顔をお持ちのようだ。女の子であったり、男の子であったり、影がいたりと」


 大丘がツグミに好奇の視線を注ぐ。


「言うならバー、私もツグミの異なる顔の一つと言える、ネっ」


 悪魔のおじさんの目玉が飛び出し、さらには大きく膨張して通路いっぱいに広がる。飛び出したと言っても、根本は顔に繋がったままだ。


「これまた随分と気持ちの悪い攻撃ですね」


 呟くなり、大丘は転移する。そして悪魔のおじさんの後ろ側に現れる。


 転移直後に背後から不意打ちをしようとした大丘であったが、シルクハットの下――悪魔のおじさんの首の付け根に目玉が三つも出現し、思い留まった。

 悪魔のおじさんの背中から、何本もの骨が一直線に飛び出して伸びた。先端は鋭く尖っている。


 大丘は大きく後方に跳んで避けたが、骨が頬と耳を切り裂き、左腕にも浅く突き刺さっていた。


「うーむ、惜しイ」


 飛び出した目玉を元に戻し、にやにやと笑う悪魔のおじさん。


(後ろに転移することも読んでいた。いや、目玉で攻撃してきた時点で、私が後方に転移して攻撃するように、誘導したという事ですか)


 悪魔のおじさんにまんまとハメられたことを悟り、大丘は神妙な面持ちになる。


「敵だった時にはかなりの脅威だったが、こうして味方に回ると心強いな」

「うんうん、私も凄く思った」


 真が悪魔のおじさんを見て呟き、上美が同意した。


「残念だったネー、影子。彼の笑顔は私が消しちゃったヨー」

「はんっ、じゃあ皮めくりもついでに頼むわ」


 悪魔のおじさんがおどけた口調で言うと、影子は必死の形相で近接戦闘に臨みながら吐き捨てる。こちらは悪魔のおじさんとは逆に、押され気味だ。


「ダメ押しといこうかな」


 ツグミが言い、さらに怪異を増やした。悪魔のおじさんと挟み撃ちにする格好で、大丘の後方にミミズマンとデカヒヨコとシャチビッ子を呼び出す。


「ジャップ~」


 シャチビッ子を見て親近感を覚えたアンジェリーナが手を振る。空中に浮いたシャチビッ子も、アンジェリーナに向かって手を振り返す。


「はあ……いくら何でも多勢に無勢ですよ。流石に私だけでは対処できません」


 大丘が息を吐き、現れた三体の怪異のさらに後方に控えていた部下達に、目配せをした。


 大丘の部下達が戦闘に臨もうとするや否や、銃声が二度響き、部下の一人が喉を撃ち抜かれて前のめりに崩れる。もう一発は大丘を狙っていたが、大丘は避けている。


「それならこっちも動くだけだな」


 銃を撃った真が言うと、さらに二発撃った。両方大丘の部下に当たったものの、どちらも防弾繊維に阻まれ、殺すには至らなかった。


「ジャーップッ!」

 アンジェリーナがダッシュをかける。


 影子と戦っているポチが、一瞬動きを止めた。走ってくるアンジェリーナの狙いが、自分であると認識したのだ。


 ポチが緑色の液体をアンジェリーナに向かって噴射する。


「ジャッ!」


 アンジェリーナは際どいタイミングで横に跳んだ。アンジェリーナがいた空間を緑色の液体が横切る。


 ポチがアンジェリーナに攻撃した瞬間、影子はポチに隙を見つけ、一気に間合いを詰めた。

 長い節足の合間に入られ、ポチは至近距離から影子に液体を見舞おうとしたが、影子は読んでいた。液体を吐こうとした頭を狙って、上から思いっきり踵を落とす。頭部が砕かれ、影子

めがけて噴射しようとしていた液体が、床にぶちまけられる。


「ゲロばかり吐きやがって、汚えんだよ!」


 影子が叫びながら、節足を二つ掴むと、力任せにへし折った。


「おやおや、私の家族やモトカノに酷いことをしますね」


 ポチに対して攻勢に出た影子を見やり、苦笑する大丘。


「皆こう思うはずだヨー。君が言うかネー」

「でしょうね」


 悪魔のおじさんが突っ込むと、大丘は照れくさそうに笑った。


(劣勢ですね。これは明らかに逃げた方がよさそうです)


 真の銃撃と、三体の怪異相手に、部下達が苦戦を強いられている様を見て、大丘は思った。


***


 蟻広と柚は宣言通り、戦闘から離脱する構えを見せていた。柚はふくに向かって小さくかぶりを振り、後方に下がる動作を見せることで、もう戦意が無いことを示している。

 ふくは油断せずに柚と目線を合わせたまま、ゆっくりと立ち上がる。戦意が無いことを示したからといって、気を抜くことは無い。


 汚山の部下達も、近接前衛タイプと遠隔後衛タイプで分かれていた。前者は輝明達に接近し、後者はその場で能力を発動せんとする。


 遠距離攻撃に対しては、ふくが金色の網や幻術を用いて対処する。


 輝明が呪文を唱える。輝明を中心に電撃が渦を巻くようにして広がっていき、接近してきた汚山の部下三名を飲み込んだ。雷軸の術だ。

 二人は倒れて動かなくなる。一人はなおも動いていたが、何歩かよろよろと進んだ所で跪く。


「このボケカス無能! それでもミルメコレオの晩餐会の一員か! へたれてんじゃねーよ!」


 汚山が怒鳴り、跪いた男の後頭部に巨大なハンマーを振り下ろした。部下の頭蓋骨が砕かれ、脳の一部が飛び出し、血と脳症を撒き散らして崩れる。

 汚山はいつの間にか、煌めく青い西洋甲冑で身を包んでいた。フルフェイスヘルムをかぶり、それも鮮やかなブルーだ。しかし巨大なハンマーは槌も柄も真紅で統一されている。


「中々の外道っぷりだね」


 不快感を露わにした顔で、青いフルプレートアーマー姿の汚山を見る修。


「無能を晒したこいつが悪い! 当然の処置だ! これがミルメコレオの晩餐会の掟だ!」

「ポイントマイナス13。こいつはどんどんポイントが引かれ続ける奴だな」


 傲然と叫ぶ汚山の後方で、蟻広が呟く。


「てめーも今から無能を晒すんだよ。その掟はてめーもちゃんと守れよ」


 輝明が死体龍を汚山に向かわせる。


「気色悪いもの近づけんじゃ……」


 汚山は言葉を最後まで続けられなかった。死体龍が大きく口を開き、青紫の液体を吐き出したので、その回避を行った。


「気色悪いもの吐き出してんじゃ……」


 汚山は台詞を最後まで続けられなかった。死体龍が吐き出した青紫の液体は床に落ち、青紫から赤紫、赤紫から赤へと変色していくと、爆発を起こしたのである。

 至近距離で爆風を浴びた汚山であるが、少しよろめいただけで、倒れることもしない。


「ははっ、この程度か。やっぱり無能だったな。貧乏人だったな。チビだったな。ド底辺だったな。口だけだったな」


 汚山が輝明の方を向いて悪罵を連発する。


「チビまで混ぜるなよ。何でもかんでもけなせばいいわけじゃないだろ」


 幼少時から背の低いことは言われ続けているので、輝明はその点に関してはあまり感じない。


「こいつでその背をもっと低くしてやる」


 ハンマーを高々と振りかざして、輝明へと突っ込んでいく汚山。

 輝明の前方に、木刀を構えた修が立ち塞がる。


 しかし汚山が修と輝明の前に辿り着く前に、上からとぐろを巻いた死体龍の巨体が降ってきて、汚山の体を押し潰した。


「これは死んだかな?」


 修が呟きつつも、構えは解かない。死体龍の体重はどう軽く見積もっても2トン以上はあるだろう。何しろ何十人分もの死体を繋ぎ合わせている。3トン以上あるかもしれない。


「うごごご……」

 しかし汚山は死体龍の中から這い出てきた。


「切り逃げシャーク」

「げはっ!」


 這い出た汚山に、床を滑る湾曲した光の刃が直撃した。


「痛ててて……いい加減にしろ……よ……」

「はっ、口ばかりなのはてめーじゃねえか。そんな弱いくせに、イキってたんだからお笑いだぜ。それとも身を張ってそういうギャグしてたのか?」


 よろよろと立ち上がる汚山を、輝明がにやにや笑いながら罵る。


(弱くは無いと思うけどな。常人なら三回は死んでいる攻撃を食らって、こいつはなおも立っている。ただ、機先を制されて、攻撃を立て続けに受けてしまっただけだ)


 汚山を見て修は思う。


「大丘?」


 輝明と修の後方に、大丘が転移して現れた。それを見て汚山が声をかける。


「ボス、そちらも苦戦していましたか。こちらも劣勢です」


 大丘がいつもの笑顔を見せずに報告する。


「で、こっちに逃げてきたのかよ。おい、大丘、最近お前はずっとダメダメだな。俺はお前のこと評価していたのに、またがっかりさせてくれたなあ」


 自分のことを棚に上げて、汚山がネチネチとした口調で言う。


「彼、駄目なの? 僕にとって殺すべき敵だけど、感情は抜きにして、十分すぎるくらい強いと思うんだけど」


 大丘を追ってエントランスにやってきた、ツグミが不思議そうに尋ねた。


「そうだなあ。大丘は強いし賢いし、俺も評価していたって言ってたろ? でも世の中結果が全てでさ。多少の失敗は許せるが、こいつはここんとこケチのつきっぱなしでよ。今だって、ガキ相手にやられそうになってて、みっともないったらありゃしね――」

「ボス、今までお世話になりました。御達者で」


 汚山が話している途中で、大丘が恭しく一礼すると、再び転移して姿を消した。


「悪魔のおじさん、追ってよ」

「無理だネー。向こうの方が私より転移能力の距離が優れているヨー」


 ツグミが要求したが、悪魔のおじさんは首を横に振る。


「え……? 御達者で……って……てめえ! 大丘! ボスを置いて一人で逃げる馬鹿がいるか!」


 大丘がいた空間に向かって怒鳴る汚山。


「にゃははは、何つーかさ、お前終わったろォ? 終わったよな? 命運尽きた感がすげーぜ? それともまだ切り札あるのか? ん? あるならさっさと見せてみろよ?」


 輝明が心底心地よさそうにニタニタと笑い、汚山を煽る。

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