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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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24

 真、ツグミ、上美、アンジェリーナ、輝明、修、ふくの七名は、上手いこと建物内に侵入することが出来た。


「正面ですげー戦闘しまくってたし、陽動作戦の方はいらなかったんじゃねーかと思うわ。中もがらがらだぜ」

「同意」

「ジャップ」


 輝明の言葉に頷く修とアンジェリーナ。


 人の気配の無い建物内を歩く。


「先輩、ここが初めてじゃないと言ってたけど」

「ガイドはあてにしないでくれ。隅々奥まで歩いたわけじゃないんだ」


 上美が声をかけると、真は先回りして言った。


 侵入してから少し歩いた所で、真達は足を止めた。ミルメコレオの晩餐会の構成員達と遭遇したのだ。いや、ミルメコレオの晩餐会ではない者もいる。


「いきなり遭遇か」

「ジャーップ!」


 ツグミが静かに闘志を燃やして呟き、アンジェリーナが高らかに叫んで猫足立ちで身構える。


「ようこそミルメコレオの晩餐会へ。本当に来たのですね。少し嬉しく思います。いえ、嫌味ではなく」


 部下数名を引きつれて現れた大丘越智雄が、にこやかに笑って挨拶をする。


「ケッ、てめー等もいたか」


 神産巣蟻広かみむすびありひろと木島柚に視線を向ける輝明。蟻広は輝明の視線を真っ向から受け止める。


「何が嬉しいのかな?」


 ツグミが大丘を見据え、冷めた口調で短く問う。


「正義のため、殺された者の無念を晴らすため、敵討ちのため、わざわざ私を狙って来てくれたという事実が、シチュエーションが、とても嬉しいのです。それを何故嬉しく感じるのか、そこまで説明するのは難しいですね。とにかく嬉しいのですよ」


 恍惚とした顔で、大丘は思ったことを口にする。煽っているわけではない。これが今の大丘の偽らざる本音だ。


「あのさ。勘違いしてる。僕は善人じゃない。正義の味方じゃない」


 ツグミは冷めた口調と表情のまま言った。


「僕も貴方と同じだよ。人を殺したこともある。憂さ晴らしのためにね」


 つい先日とて、怪異の力を用いてミルメコレオの晩餐会の構成員の命を奪っていることを意識しながら、ツグミは語る。だが、それは憂さ晴らしの殺意によるものではない。憂さ晴らしの殺害は、ツグミが力に目覚めた時に行った。


「まあ、僕の場合、僕をいじめていた相手に仕返ししたんだけど、それでも同類だ。そしてこれからすることも、仇を取るなんて言わない。復讐するために戦いにきたんじゃない。違う理由なんだ。貴方と同じ理由なんだ」

「つまりは自分の落ち着かない気持ちを、すっきりとさせるためだけに私を殺すのですね」


 ツグミの話を聞いて、大丘は笑顔のままそう結論づける。


「そういうことさ。すっきりしない気分をすっきりさせるために、貴方を殺しにきた。貴方と同じ理由で貴方を殺す。でもこれは貴方が撒いた種だからね」

「つまりPO対策機構とは別口に、大丘がこの者達を呼び寄せたということか」


 ツグミの話を聞いて、柚が無表情にそう結論づける


「いえ、彼等の中にはPO対策機構も混じっているでしょう。星炭輝明と虹森修、それに相沢真はPO対策機構の手の者です。そこのイルカさんと、今喋っていた子と、もう一人の女の子が、私目当てと思われます」

「それにしても余計な奴を呼んだのは間違いない。マイナス3だ」


 蟻広がガムを吐き捨て、トレンチコートのポケットに手を入れたまま前に進み出た。


「ま、俺等とも何かと縁のある奴がいるようだ。ちょっと離れてあっちで遊ばないか?」

「ケッ、構わねーぜ」


 蟻広が親指を指して、通路の後方にあるエントランスを指す。


 輝明、修、ふく、蟻広、柚がエントランスへと歩いていく。


「僕はこの笑い顔で固まったおじさんとタイマン希望」

「危なくなったら手出すよ」

「ジャップ」


 ツグミが宣言したが、上美とアンジェリーナはいつでも乱入する構えだった。


「おじさんは酷いですね。笑顔も崩れそうです」

 笑顔を崩すことなく言ってのける大丘。


「そいつの手下達が動くようなことがあったら、僕達で相手をすればいい」

「そっか、そうだね。わかった」

「ジャップ」


 真が言うと、上美とアンジェリーナは納得し、いつでも手出しを出来るように臨戦態勢だけ取っておく。


「後ろにいる人達を虫人間にする可能性もあるし、よく考えたら僕も怪異を呼び出して戦わせるわけだから、タイマンと言っても微妙だね」

「彼等にそのようなことはしませんよ。彼等は全員サイキック・オフェンダーですから」


 大丘が後方にいる部下達に向かって手を掲げ、下がるように促す。部下達は従い、距離を取る。


 上美が怪異を呼び出す。悪魔のおじさんと影子だ。


「おやおや、また私の出番かネー。ツグミはすっかり私に甘えているようダー」

「はんっ、便利屋くらいにしか思ってないでしょ」


 悪魔のおじさんがもじゃ髭をいじりながら笑い、影子が皮肉る。


「偶然なのか導きなのか、私も自分が戦うことより、人外の下僕を使役する方を好みます。好むだけで、出来ないわけではないですけどね」


 大丘が喋りながら、懐に手を入れ、一枚の札を抜き取った。


「扱うのは虫人間だけではありませんよ」


 札が消失すると同時に、大丘の前に異形が出現した。


 それは人の膝くらいの高さしか無い。しかし昆虫のものと思われる長い節足の幅は、人が三人以上は優に入る。女、子供、赤子といった、無数の人の頭部が重なっている。女が多めだ。初老の男性の頭部も一つある。頭部のあちこちから、虫の触覚のようなものが生え、複眼のようなものが開いていた。

 複数の頭部の視線が、一斉に動く。上美とアンジェリーナと影子はぞっとした。目の動きだけではなく、目つきまでもが全員同じだ。絶望の闇が瞳を覆っている。赤ん坊の目に至るまで、死んだ魚のような目をしている。


「紹介します。ポチです」


 大丘がにっこりと嬉しそうに笑ってかがみ、足元の異形の頭部を撫でて回った。


「小さいですが、決して弱くありませんので、油断なさらないように」

「それは本物の人間を混ぜたのかナー。いい趣味してるネー」


 大丘がにこにこと笑う一方で、悪魔のおじさんもポチを見てにやにやと笑っている。


「これは私の父、こちらが私の母ですね。この赤ちゃんは私の妹です。こちらの男の子は弟ですね。他の女性や女の子は、私が以前付き合っていた女性ですよ。ただ殺すだけでは解決しないと思ったので、こうしてキメラにして可愛がっています」


 笑顔のまま、異形に混ぜ合わせた頭部が何者かを紹介する大丘に、真、上美、アンジェリーナは吐き気を催す。


「解決しないと思った?」

 ツグミはその台詞に反応した。


「はい。一高君は殺した程度ですっとしましたが、家族や彼女達は、結び付きが強かった分、殺してそれで終わりにはならないと思いました。自分と近くなったものは複雑です。怒りをそのままにせずぶつけたい。でも失うことも辛い。考えた結果、ポチにすることで解決しました。怒りを晴らし、失いもせずです」

「ジャップ……ジャップップ……」

「うん、そうだね」


 何かを口にしたアンジェリーナに、上美が同意する。


「何て?」

「雪岡先生よりずっとタチの悪いマッドサイエンティストみたいだってさ」


 影子が伺うと、上美が通訳した。


「私は科学者ではありませんよ。あくまでカウンセラーで、そして術師です。特定の人物に師事したわけでもなく、子供の頃から全て我流で様々な流派の術を学びました」

「わかった。もう話はいいよ。何かを口を開いて喋ると、どんどん気分が悪くなるだけだ」


 ツグミが言い、悪魔のおじさんと影子に目配せした。


 悪魔のおじさんの姿が消える。影子は正面から突っ込んでいく。

 その直後、ポチが動いた。


「ぎぃっ!?」

 影子が顔を歪めておかしな悲鳴をあげ、横に吹っ飛んで倒れた。


「速いな」

「それにしても……影子がまるで反応できなかったよ、あれ」


 真が無表情のまま呟き、上美は息を飲む。ポチが長い節足の一つで、突っ込んできた影子の体を高速で薙いだのだ。

 影子の体には大きく深い切れ目が横向きに入っていた。人間であれば致命傷のダメージだが、影子は怒りの表情で起き上がる。切れ目も無くなり、すぐに元の体に戻る。


 大丘が振り返る。転移した悪魔のおじさんが後方に現れ、大丘に攻撃しようとしていた所であった。


 悪魔のおじさんが手をかざすと、手が大きく膨れ上がり、大丘の体を包み込まんとする。

 大丘は慌てることなく、巨大化した悪魔のおじさんの手に向かって、自らも手をかざす。


 悪魔おじさんの手は、見えない壁に当たって衝突音を立て、それ以上は進まなかった。大丘が不可視の障壁を張ったのだ。


「フムムム、不意打ち失敗しちゃったヨー。その反応の速さからして、随分と戦い慣れていると見ター」


 そして空間操作系の力にも長けていると、悪魔のおじさんは大丘を見て判断した。おそらくは空間の歪みに気付いて、即座に対応して防いだのであろうと。


 悪魔のおじさんがステッキを振るい、念動力で直接大丘を攻撃せんとする。


「ムムム……」


 ステッキの動きが途中で止まり、震えだす。悪魔のおじさんが唸り、力を込めるが、大丘の体が動く気配は無い。


「不意打ちを失敗したら力押し。パターンですね。今までもそういう輩は何度も見てきました。よって、そういった輩に対処する力も身に着けました」


 大丘が悪魔のおじさんと喋っている最中に、足元に向かって大きく腕を振った。腕から光弾が何発も放たれ、壁寄りの床を穿つ。


「見抜かれてた……」


 ツグミが息を吐く。悪魔のおじさんの体に張り付いていた踊るジンジャークッキー数体を、壁に沿ってこっそりと接近させていたが、大丘はちゃんと見ていた。踊るジンジャークッキーは光弾によって全て砕かれた。


「そして不意打ちの保険をかけているケースも、何度かありましたね。あるいは悪魔のおじさんが囮で、今のジンジャークッキーが本命でしたか?」


 大丘が笑顔で余裕たっぷりに話している一方で、ポチが左右に跳躍してフェイントをかけつつ、影子に接近していた。


 影子はカウンターを見舞おうと身構えていたが、ある程度接近した所で、ポチの少年の頭部と赤子の頭部が大きく口を開いた。口の端が大きく裂けて、顎の関節が外れていると思われるほどに、蓋が開かれるかのように、顔が大きく開かれていた。

 ポチの開かれた口から、緑色の液体が噴射されて、影子にかかる。


「ぐぎゃああああぁっ!」


 影子が再び悲鳴をあげる。影子の両腕と、顔を除いた左上半身が、あっという間に溶けて消失していた。

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