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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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23

「伝わってくるぞ。貴様等の恐怖が。それは少しずつ大きなっていく。やがて瞳は濁り、哀願する顔になる。私の命を奪うつもりでいた貴様等が、自分の命は助けて欲しいと、表情で私に訴えるようになる。今にも泣きそうな顔になってな」


 彫りの深い顔に歪んだ笑みを広げながら、雫野春雄が煽る。


「ああいう悪役台詞好きな奴なのか?」

「噂じゃ警察署長の時からずっとこんな喋り方だったらしい」


 春雄の台詞を聞いて、義久と卓磨が若干引きながら囁き合う。


 いつの間にか、ミルメコレオの晩餐会のサイキック・オフェンダー達は、大きく後退していた。春雄だけがPO対策機構と向かい合っている。


 炎をまとった兎が五羽跳びはね、春雄に向かっていく。竜二郎が発動させた魔術だ。


 炎の兎が次々と春雄に飛びかかる。春雄は避けようともせず、悠然と佇んでいる。

 春雄の体が連続して大きく揺らぐ。それだけだった。何も影響を受けたように見えない。そして炎の兎も突っ込んだ瞬間消えていた。


「あれー? 攻撃が効かないのはわかりましたが、どーして消えてしまったんでしょうねー」


 魔術で作ったイメージ体まで消滅したことを、不思議がる竜二郎。


「出でよ! 捻くれ坊主!」


 春雄が叫ぶと、僧衣をまとった巨大肉バネが出現するなり大きく跳躍して、PO対策機構の兵士達が固まっている場所へと降り注ぐ。


「ふんっ!」


 PO対策機構の能力者の一人が、半球状の巨大バリアーを張って、この攻撃を防いだ。肉バネ僧侶が弾かれる。


「うーん……確かにそこにいる。解析してもそこにいるぞ。しかし攻撃は当たらない……。次元が一つズレているというわけでもない。うーん……これは……」


 春雄を凝視しながら、史愉は顎に手を当てて思案する。


(いや、次元が一つズレているわけではないけど、微かに空間の揺らぎが少し感じられる?)


 攻撃を受けた瞬間、春雄の体がブレて見えることが、史愉には気になった。空間の歪曲が発生しているように見える。しかし空間を捻じ曲げて攻撃をそらしているようには見えない。それならもっとはっきりと空間の歪曲が生じるはずだ。


「解析能力にしても完璧ではないでしょう……。そこからして錯覚をさせているのではないですか~?」


 男治が意見した。


「虹蚯蚓!」


 春雄が両の掌を胸の前で合わせる形でかざすと、手の間から虹色に煌めく靄のような物が伸び、靄からは七色のビームが様々な方向に次々と放たれていく。


「ぐぴゅ。攻撃も、確かにそこにいる黒マントから放たれているんだがなあ……」


 ビームを回避しながら、史愉は釈然としない様子で言う。


「こちらの攻撃だけ転移させて、すり抜けさせて防いでいるというわけでも、ないようですね」


 と、男治。


「あちらの攻撃そのものは、消滅視線で防御もできまあす」


 仲間に当たりそうだったビームを、幾つか消滅視線で消した優であった。


「慄け! 泣け! 叫べ! 奏でろ! 狂え! 踊れ! 演じろ! 貴様等は絶望に打ちひしがれ、断末魔の歌劇オペラを歌い続けるのだ!」


 高らかに叫ぶ春雄に、PO対策機構の者は無駄と知りつつも攻撃を行う。攻撃された春雄の体が一瞬大きく揺らいでブレたが、すぐに元通りになる。


「影法師でも相手にしているみたいだ」

 PO対策機構の兵士の一人が唸る。


「ああ……男治の言う通りだぞ。解析能力も錯覚させていやがるぞ。からくりがわかったぞ」


 解析しているうちに、そして攻撃を受けてその姿がブレている様子を見ているうちに、史愉は春雄の無敵状態の正体を見抜き、にやりと笑った。


「あいつは攻撃が来た瞬間、自分の体を分けているんだぞ。そのせいで単純な攻撃はすり抜けていやがるんス。それだけじゃない。あいつは一人ではなく、分裂固体の集合体なんだぞ、小さな分裂固体には、エネルギーを吸収する力もあるぞ。すり抜けが不可能な範囲攻撃――優の消滅視線とか、直接効果を及ぼす攻撃の類は、小さな一つの自分が全て受け止めて吸収してから、消滅している。解析能力も攻撃と見なしているから、解析が一個体しか出来ない仕様になっているっス」

「ほへ~、つまり一個人に見えて、あれは群体ですか~?」


 史愉の解説を聞いて、感心の声をあげる男治。春雄の能力に対しても、正体を見抜いた史愉に対しても感心していた。


「そう。一人に見えて群体。ただし、攻撃を受けた瞬間に限って、そういう状態になるみたいだぞー。ぐぴゅぴゅっぴゅ。解析能力がまともに機能していない理由が何かと考えて、解析の仕方を微妙に変えてみてわかったことだぞ」


 得意げに解説しきる史愉。


「問題なのは、例え範囲攻撃をしても、小さな一個体がエネルギーを吸収するという防御方法だぞ。何百何千という身代わりが存在することになるぞ。限界はあると思うが、力押しを続けていたら、ここにいる全員で攻撃しても足りないぞ」

「えへへへ、正体がわかったからには、いくらでも手はありますね~」


 心なしか危ぶむような口調で言う史愉であったが、男治は自信ありげに笑っていた。


「ふん。あたしにも思いつくが、面倒臭いから男治のお手並み拝見だぞ。ぐぴゅう」


 実は思いつかなかったが、悔しいのでそう言っておく史愉だった。


「頌死旋盤」

 男治が術を唱えた。


「何だ……と。貴様っ、それは……」


 男治が用いた術を誰よりも早く理解した春雄が、ここで初めて顔色を変えた。驚愕し、そして恐怖も見受けられる。


「えへへへ~、貴方にはわかりますよね~? 何しろこれ、雫野流妖術ですから~。チロンさんに教わったんですよ~」


 男治が得意げに笑った直後、人間の死体がぎゅうぎゅうに重なった巨大な円盤が、春雄の足元から浮かび上がった。盤の中央には、黒いボロ布をまとった四本腕を持つ骸骨の上半身が生えている。骸骨の手には、骨を繋ぎ合わせた長い棒が持たれていた。


「何を意味するかはわかりますよね~? そしてその顔色からして、私の推測は正解だったようです~。さて、史愉さん。彼を攻撃してくださいな。攻撃を吸収させるような、範囲攻撃か、直接効果を及ぼす類で~」

「何が何だかわからんけど、わかったぞー」


 史愉が男治の要求に応じ、大量の羽虫を袖の下から飛ばす。


 羽虫の群れが春雄の周囲を飛び交う。春雄は明らかに焦っている様子で羽虫を見ている。


 直後、羽虫から一斉に電撃が放たれた。

 春雄の体が一瞬にして崩れ落ちる。高電圧高電流を食らい、身体機能が完全にマヒした。


「あれ? 効いたぞ?」

 不思議そうに男治を見る史愉。


「あの頌死旋盤は、円盤の上にいる人の空間操作を封じる術なんですよね~。しかも中にいる人は、術が解除されるまで、盤の外に出ることができないんです~」

「空間操作を封じる? ああ、そういうことね……」


 その言葉を聞いて、史愉は春雄に攻撃が通じなかった原理を理解した。


「小さな分裂体が攻撃を吸収するという、史愉さんの話を聞いて、それはちょっと無理があるんじゃないかな~と疑いました。粉のような小さい体で、大きなエネルギーを吸収しきれないのではないかと。でも攻撃された際に、彼の体が大きくブレる光景を見て、空間の揺らぎが生じているとわかりました~。空間を曲げて攻撃をそらしているのではありませ~ん。攻撃エネルギーを吸収するための、亜空間への穴を作っていたんですよ~。いや、穴に変化していたんです~」

「なるほど。同じ空間操作での防御にしても、防御にかかるコストが段違いで低く済むぞ。言うならば、超超超超超々マイクロサイズの、ブラックホールとホワイトホールを作っているようなもんだぞ」

「物凄く小さい穴の物凄く強力な吸引力を持つ、掃除機とも言えますね~」


 空間を曲げて防御するには、守る方もそれなりに消耗する。分裂体がその存在そのものを亜空間への穴と変化するのであれば、消耗するのは、その小さな小さな分裂体一つだけということになる。


「負けた……。私は……死ぬ……ようだな。よかった……」


 死体の盤の上に倒れた春雄は、夜空を見上げて呟く。


「え……よかった?」


 自分の台詞に驚く春雄。そして意識する。そして理解する。


「くっくっくっ……奇跡が起こったようだ……」


 春雄が笑う。バーサーカー事件の際に、人格まで変わってしまった春雄であったが、今際の際に、事件で変化する前の人格に戻ったことに気付いた。


「最期に……元の私に……戻れた。神……もしそのような存在がいるのであれば、粋な計らいに……感謝して……やろう……」


 夜空に向かって笑顔で語りかけると、春雄は安堵したかのように静かに息を吐き、目を閉じた。

 だが次の瞬間、春雄は顔を怒りに歪めてくわっと目を見開く。


「馬鹿な! そもそも神がいるのであれば! 私を! こんな目に合わせんッ……!」


 最期の台詞を言い切れずに、憤怒の形相で目を見開いたまま、春雄は果てた。

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