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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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16

「ミルメコレオの晩餐会掃滅作戦に、あたしも直接出るぞー」


 史愉がミルクに電話で告げる。


『珍しいな。どういう風の吹き回しだ?』

「実験台確保したいだけだぞー。サイキック・オフェンダーは実験台として価値があるし、今までは捕獲した奴をこっそり横流ししてもらってたんだけど、それがバレて出来なくなったから、こうなったらあたしが直接出向いて実験台ゲットするぞ」

『ふん、いかにもお前らしい』


 理由を聞いて、鼻で笑うミルク。


「男治も乗ってくれたぞー。もちろんグリムペニスの超常の能力者達も投入しまくるぞー」

『お前それ嫌味のつもりか? 無血でと言った私に当てつけているのか?』

「その通りッス。よくわかったっスね~。わっはっはっはっ」


 ミルクの不機嫌そうな声を聞いて、高笑いをあげる史愉。


『ところで、高田義久というジャーナリストが取材の申し込みしてるんだが。作戦に同行したいらしい。お前連れて行ってやってくれないか?』

「は? そんなもんお断りだぞ」


 話題を変えるミルクに、史愉の笑いが止まって、不機嫌そうな声を発した。


『こいつは信じていい奴だと思う。中々良い記事を書く。うちのバイパーとも面識があって、一目置いているようだ』

「おーこーとわーりーっ。あたしはマスゴミなんか大嫌いっスっ。ぐひゅっ!」

『わかったわかった。お前は我は通すが、他人の頼み事は全く聞かないカスだってこと忘れてた』

「寝ぼけたこと言ってんじゃないぞー。それは頼み事によるぞ。何より何の得にもならない一方的な頼み事なんてお断りっス。ぐぴゅ」

『はいはい。お前なんかに頼んだ私がどーかしていたですよーだ。ばーかばーか』


 ミルクが罵り、電話を切った。


「どーせそのジャーナリストとやらに、あたしの監視もさせるつもりだったんでしょーが。お見通しだぞ」


 電話を置いて、史愉はせせら笑った。


***


 殺人倶楽部本部。


「明日PO対策機構は、東の最後の大物であるミルメコレオの晩餐会掃滅作戦を決行する。お前達にもお呼びがかかったぞ」


 殺人倶楽部の中心メンバー数名を前にして、殺人倶楽部のお目付け役である壺丘三平が告げた。


「今日の明日で色々とギリギリですねー」

「決定してすぐ決行なんだろう。情報が漏れないように」


 鈴木竜二郎と芹沢鋭一が言う。


「もう漏れているんじゃないの? あいつらPO対策機構の動きをかなり読んでいるって話だし」


 と、橋野冴子。


「実際その気配はあるな。奴等は超常の力を持つ集団だし、相手の陣営を探る力の持ち主がいても不思議じゃない。ま、それはこっちも同じことだがな」


 壺丘が頭を搔きながら言った。


「他にどのような方が参加されるか、わかっているんですかあ?」

「俺が今知る限りでは、お前達とも縁のある妖術流派の星炭家、相沢真。他はマイナーな始末屋組織複数、自警団複数くらいだな。グリムペニスからも参戦はあるようだが、こっちは何も情報を寄越してこない」


 暁優の質問に、壺丘が答える。


「星炭も来るのか。じゃあ、善治も来るのか?」

「それはわからん」


 鋭一の問いに、壺丘は小さくかぶりを振る。


「激しい戦いになりそうだけど、何人くらい投入予定なんだろう?」

「実戦経験のない連中もまた投入するのかねえ?」

「それなりの人数が入る。もちろん経験の浅い連中もぶちこんで、経験を積ます」


 藤岸夫と種島卓磨の疑問に、壺丘は少し渋めの顔になって答えた。主に卓磨の言葉を聞いて、少し気が沈んだ。


***


 真、ツグミ、上美、アンジェリーナは、輝明、修、ふくと対面し、明日のミルメコレオの晩餐会掃討作戦の打ち合わせを行うことになった。


「へえ、真も来るんだ」

「ああ」


 修が微笑みながら声をかけると、真はいつもと降り無表情に頷く。


「殺人倶楽部も参加するようだけど、こいつらには期待と不安が混ざっているな」

「不安要素は何だ?」


 真の台詞を聞いて、輝明が尋ねる。


「高頻度で新兵を投入してくる組織だからな。実戦経験を積ますという名目で。もちろん僕も傭兵時代に新兵だった頃はあったし、ある程度熟練してからは新兵の世話もしたけど、新兵の世話というのは色々と大変なんだよ。足を引っ張ってくることが大前提だし、そのうちの何割かは死ぬし。今回はそれなりに大規模で激しい戦いなんだから、殺人倶楽部も新兵投入はやめてほしい。人手が足りないわけでもないんだから」

「なるほど……。実戦で練兵――しかも異なる集団が混じって戦うのに、そんなことされたらたまらねーよな」


 真の話を聞いて、輝明は納得する。


「ジャップジャップジャ~ップ」

「何か話してるの?」


 アンジェリーナが何か話すが、わからないので、修が苦笑する。


「他所に期待するより自分達が頑張ればいいだってさ。私達には私達の目の前の戦いがあるから、それを果たせばいいって」


 上美が通訳する。


「ケッ、敵討ちしたいてめーらはそれでいいけど、俺達はそういうわけでもないんだぜ」


 皮肉げに輝明。


「でもそのイルカの言うことが正しいよ。結局は自分の戦いに専念するしかない」

「ジャプッ」


 修が言うと、アンジェリーナが修に向かって親指を立てる。


「味方に足引っ張られる可能性を言ってるんだから、そこで自分の目の前の戦いどうこうと言うのは、ある意味思考停止よ。崩れそうな味方もいるってことで、警戒しとけって話だと思う」


 ふくが釘を刺す。


「それはわかっているよ」


 ふくを一瞥して、微苦笑をこぼす修。実際はこの中で最年長だが、見た目では最年少のふくに注意されたことが、どうも格好がつかない構図だと意識した。


***


 半年前に発足したミルメコレオの晩餐会。短い期間で組織が大きくなったのは、初期メンバーに極めて優秀な人間が何人かいた事が関係している。


 組織の運営面においては、大丘とルーシーのおかげと言っても過言ではない。他にも何名かいる。ルーシー以外は自然とミルメコレオの晩餐会に集まり、発足者の汚山にあれこれと協力していった。汚山はこのことに気を良くしていた。優秀な自分がボスだからこそ、優秀な人材が集まったと信じて疑わなかった。

 一方で、PO対策機構を退け続けていた武闘派の存在も見逃せない。彼等がいなければ、組織はあっさりとPO対策機構に潰されていたと思われる。

 武闘派の中では、運営面のみならず戦闘力も高い、文武両道な大丘の活躍が目覚ましかった。そして一人、ミルメコレオの晩餐会の守護神とも呼べる男がいた。


「相変わらず高い所が好きだなあ」


 汚山は自らの足でその男に会いに行った。例え汚山の命令であろうと、その男は容易に従わない。そしてその力は汚山も認めているが故、自ら足を運ぶ。とはいっても、同じ建物の屋上であるが。

 黒マント黒フードの怪しい男がフェンスの側で佇み、屋上から見える風景を見下ろしている。汚山が声をかけても振り返ろうとはしない。


「おい、俺が声かけてんだぞ。反応しろよ。一応お前は俺の部下だろうが」


 汚山が少し苛立ち混じりの声を発すると、男が振り返る。フードが風で後ろにめくりあがり、その素顔が露わになる。短髪で、目が異様にくぼみ、日本人離れした彫りの深い顔は縦に長く、肌は不健康そうな土気色だ。そして口元には歪んだ薄笑いが張り付いていた。

 この男は他のサイキック・オフェンダーとは異なる。半年前の覚醒記念日以来の超常の能力者ではない。彼は元々名高い妖術流派の術師だったのである。


「お前には期待しているぜ。情報によると、PO対策機構の糞共は、明日攻め込んでくるらしい」

「そうか。楽しみだな。またこの手で多くの命を散らせる」


 黒マントの男がにたりと笑う。


「我等こそ争乱の使者。我等こそ混沌の象徴。我等こそ世界の破壊者。我等こそ悪の具象」

(恥ずかしくないのかね、この中二病おっさん……。ま、愚問か。そんな感性無いからこそ、こんな台詞堂々と口にできるんだろーけど)


 ぶつぶつと呟く黒マントの男の台詞を聞いて、汚山は呆れていた。


「もうすでに我が耳には聞こえるぞ。死を前にして絶望にむせび啼く声が。くっくっくっ……はーっはっはははははァーッ」


 かつて安楽警察の署長だった男――雫野春雄は高らかに笑った。

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