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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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15

 汚山はとある大企業の重役の一人息子として、裕福な家庭に生まれ育った。


「どうして悪重を公立の学校に入れなくちゃならないの? いじめだってあるかもしれないし、教師はいい加減だし、不安よ」


 汚山悪重は私立の幼稚園に通っていたが、父親が小学校からは公立に入れると決めた際、母親は驚いて抗議していた。その際のやり取りを、汚山は覚えている。


「カオスな世界の方がいい。人間としての力を子供の頃から鍛えるには、安定した環境より、汚れに満ちた世界の方がいい。世の中には阿呆と無能がいっぱいだ。ろくでもない親に育てられたろくでもない餓鬼と触れさせることも、反面教師としての教育素材として使えるんだ」


 この言葉の意味を、汚山は後々知ることとなる。


「いいか? 人間の価値は平等ではない。何で生きているのかわからないような、価値の低い人間と、世の中に多大な貢献をする価値の高い人間がいる。価値の高い人間は相応の良い扱いを受けねばならず、価値の低い人間は得るものも少ない。人は命の価値が異なる」


 父親は何度も、人の価値は違うと息子に刷り込んだ。汚山も父の言葉を信じて疑わなかった。しかしその価値観を揺るがす者と出会った。


 同級生に何をやっても駄目な子がいた。身体も弱く、頭もあまりよくない。おまけにドジだ。しかし人当たりはいいので、クラスメイトからは好かれていた。

 どう考えても価値の低い人間。それなのに友達が多く人気者という事実が、汚山には理解できなかったし、受け入れられなかった。汚山の価値観からすると、その子は価値の低さ相応に虐げられるべきということになる。友達と仲良く楽しい時間など過ごしていいはずがない。


 我慢できなくなった汚山は、クラスの他の児童が見ていない所で、その同級生を執拗にいじめだす。


「お前みたいなゴミ、生きていない方がいいんだよっ。死ねよっ」


 暴力を振るう際、汚山は執拗にその子を執拗に罵った。存在を否定する言葉を口にしまくっていた。

 バラしたら殺してやるとも脅した。お前の家に火をつけてやると言って、ライターで手を炙った。


 行き過ぎた暴力を繰り返し、その行為の心地良さに酔いしれる汚山。人を甚振ること、人が痛がり悲しむ姿を見ることが、楽しくて仕方ない。


 汚山がその子をいじめるようになってから四ヶ月後、その子は自殺してしまった。


 自分がいじめていた相手が、いじめを苦にして自殺したことを知った汚山は、信じられないような爽快感で満ち溢れた。胸がすっとした。自分の力で、価値の無い人間を消してやったと強く意識することで、達成感と爽快感で満たされ、愉悦に浸ることが出来た。罪悪感は微塵も無い。


 その後も汚山は小、中学と、成績、体格、運動神経、性格面で、劣ると判断した者を標的にしていじめぬいた。二人目の死者を出すことを期待し、目的としていたが、登校拒否や引っ越しする者はいたが、自殺しようとする者は最初の一人目以降一人も出ず、それを残念と思い続ける。


 ある日、汚山はいじめが原因で窮地に立たされた。いじめをしている証拠動画や録音を幾つも記録されて、それをネットで拡散されたのだ。そのうえ汚山の親が有名な大企業の役員であることも、セットで拡散されてしまう。

 学校中に問題が知れ渡り、PTAは大激怒、教師達は頭を抱えた。


 汚山は登校すると唾を吐かれ、罵声を浴びせられ、石まで投げられた。友人達は汚山が声をかけても無言で足早に去っていく始末。


「窮鼠猫を噛むという。お前はやり過ぎた。相手を見くびり過ぎたのだよ。今後は気を付けることだ」


 事実が父親にも伝わった時、父親は怒りもせず、優しい声でそう告げた。


(悔しい……。あんな奴に……価値の低い奴が俺に歯向かったうえに、俺に一矢報わせるなんてよ! そんなことあっていいのか!? 絶対あってはならないことだろ! しかも学校も、クラスの奴等も、ネットにかぶりついている暇人共も、俺を見下しやがって! 俺を下に見やがって!)


 それは汚山が味わった人生最大の屈辱だった。汚山は怒りのあまり、自分を晒し物にした、自分がいじめていた生徒に、ナイフを持って詰め寄った。


「お前……ふざけんなよ。生意気だろ? やっちゃいけないことだろ? お前程度の価値の貧乏人が、俺に歯向かう? 俺を悪者に仕立て上げた? 俺より背も低くて成績も悪くて金も無くて運動神経も悪くてダチも少ないお前がだぞ? 俺より上に立っていいはずないだろ! 俺をムカつかせていいわけないだろ!」


 喚きながら汚山は生徒の腹にナイフを突き刺す。


「これは自業自得だからな。お前はやっちゃいけないことをしたんだ。だからこうなったんだ。ばーか。ざまーみろ」


 血にまみれ、苦悶と恐怖の形相のまま果てた生徒の死体を見下ろし、爽快感とカタルシスに満ちた心地好さに酔いしれ、汚山は嘲笑を浴びせた。こんなに気持ちよくなったのは、最初にいじめた相手が自殺した時以来だ。

 その時汚山は自覚した。自分は人を殺すことが好きだと。特に、自分が下だと見なして見下した相手を死に追いやった時、途轍もない快感を覚える性質があると。


 汚山はすぐに逮捕された。汚山が死体に向かって吐いた台詞は、そのまま汚山自身にも該当する流れとなったが、汚山は屁とも感じない。やるべきことをやったまでで、自分は何も間違ったことはしていないと信じ切っていたからだ。


 しかし汚山は牢獄の中で、否が応でも思い知ることになった。自分は今、この世界の最底辺に位置すると。


 刑務所の中で屈辱の日々を、汚山は耐え抜いた。いずれ出所して、自分の正しさを証明する日を夢見て耐えた。今度は上手くやると。今度は見つかることなく、捕まることなく、上手に弱者を虐げ続けてやると。


 汚山は十二年経ってから釈放された。模範囚であったため、その後は孤児院で働くようになった


 孤児院で働きながら、汚山は孤児を相手にいじめを繰り返した。孤児達に自分の思想の押し付けも行った。バラされないように恐怖を刷り込んだ。


 そして半年前の覚醒記念日、汚山は超常の力に目覚めたことをきっかけに、孤児院を去った。


 汚山は力が覚醒したことで、世界が変わったことで、とうとう自分の価値観を本格的に証明できる機会を、天より与えられたと信じた。そして汚山はサイキック・オフェンダーを集めて、ミルメコレオの晩餐会を作る。


***


 一高が死んだ翌日、ツグミ、上美、アンジェリーナの三名は、真と会って昨日の件を報告した。


「PO対策機構はミルメコレオの晩餐会と戦うんだよね? 僕達も参加したい」


 今日も男の子のツグミが、真に申し出る。今日は服装も合わせている。


「話を通してみる。決行は明日だ」

 真が言い、メールを打つ振りをする。


「OKだ」

「早っ」


 即座にOKを出した真に、上美が少し驚く。実際には誰にもメールなど送って確認などしていないし、真が独断で決めたのだ。真にはその権限がある。


 そして四人で、明日のミルメコレオの晩餐会掃滅作戦の打ち合わせに入る。


「ちなみに明日は僕も参戦するぞ。酷い乱戦になる可能性がある。どこから攻撃されるかわからない。隙を見せないようにしろ。攻撃より防御寄りで臨め」

「攻撃こそ最大の防御だから、攻撃した方がいいという話になるよね」


 真の忠告を聞いて、ツグミが冗談めかす。


「先輩、崖室さんと西に行くって言ってたけどさ」

 上美が別の話を切り出す。


「いくら崖室さんの能力が凄いからって、そんな危険な場所に付き合わせるなんて、どうかと思うよ」

「お前達は僕と同じだ。こっち側だ。そして判断は本人次第。強制はしない。それに明日だって十分危険なんだぞ」

「ま、そうなんだけどさあ……西はもっとヤバそうな印象だし……」


 真の言うことはもっともだが、上美は不安を抱いていた。


「ひょっとしてさ、西に雪岡先生がいるの? 相沢先輩は雪岡先生を探しに行くのかな? あるいは。もう見つけてるからこそ行くの? それとも別に目的があるの?」


 ツグミの矢継ぎ早の質問に、真はうつむき加減になる。


「見つけていない。でも、可能性としては高いと見ている」

 と、真。


「ああ、もう一つ言い忘れていたことがあった。人身売買の際、純粋な人っていう条件があったみたいなんだけど……。これ、相沢先輩も思わない? 純粋さにこだわっていたのは政馬先輩もだよね。もしかして今回の件、スノーフレーク・ソサエティーが関与していないかな?」


 ツグミが真に意見を伺った。


「スノーフレーク・ソサエティーの動きに関しては注視していない。半年前からずっと大人しい。嵐の前の静けさという気もするけどな。世界が激変した今、あの政馬が何もしないままでいるとは思えないし」


 と、真。


「ミルメコレオの晩餐会との取引も、雪岡が絡んでいるかもしれない。スノーフレーク・ソサエティーが絡んでいても不思議ではない。どちらも可能性はある。でも雪岡と政馬は決裂している」

「雪岡先生があんな組織と手を組んで、人身売買するなんて、先輩は本気で思ってるの?」


 上美が不思議そうに問う。上美の純子に対するイメージからすると、そこまで非道なことをするようには思えなかった。


「あいつはそれくらいのことはする。ツグミや上美と会った頃には丸くなっていたけど、それより前はもっと非道なことをよくしていた。一般人も巻き添えにして死なせることもあった」

「ジャッブジャップ」


 真が言うと、上美は息を飲み、アンジェリーナは腕組みしてこくこく頷いた。


「雪岡先生がそんな悪いことしているなんて……相沢先輩は――」

「僕はあいつを改心させる。マッドサイエンティストではなくしてやる。それが僕の目的だ」


 ツグミが何か言いかけたが、真はその言葉を遮り、明らかに力を込めて宣言した。

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