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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
3097/3386

14

 その日の午前、史愉と宮国は裏通り中枢施設の一つへと招かれた。PO対策機構によるミルメコレオの晩餐会掃討作戦の会議のためだ。


「オンライン会議にせず、わざわざ呼び出してるんじゃねーぞー。ぐぴゅうぐぴゅう」


 会議室に入り、早速文句を垂れる史愉。


 会議室には悦楽の十三階段のうち、沖田、弦螺、新居の三名がいた。真の姿は当然無い。悦楽の十三階段のメンバーであることは秘匿されている。エボニーも人前にはなるべく姿を見せない。犬飼は別の用事があると言い、欠席していた。


「リーダーの犬飼さんはおられないのですか?」

「大したリーダーじゃないから気にしなくていいぜ」


 宮国がにこやかに尋ねると、新居がどうでもよさそうに答える。


「ユニークな答えですね」

「リーダー不在ってことで、見くびられていると思われたんじゃないかと、そう感じたからだよ。そんな意図は無いと伝えたかったんだが、言葉が足りなかったかな」

「いえいえ、私の理解力が足らなかったようです」


 アンニュイな口調で話す新居に、宮国は愛想の良い笑顔を崩さない。


「呼び出された身ということで、あたしから話があるぞ。その権利があるぞ。純子のアホによってばら撒かれた、リコピーアルラウネバクテリアを意図的に覚醒する薬がバラまかれている件について触れるぞ」

「それもミルメコレオの晩餐会の仕業だな」


 史愉の話を聞いて、沖田が言った。


「何で奴等がそんなことをするのか、おかしいと思わないっスか? 販売しているわけではなく、タダでバラまいているんだぞ」

「わぁい、つまりミルメコレオの晩餐会の取引相手は純子ちゃんてこと~?」


 弦螺が伺う。


「ぐぴゅぴゅ。人身売買の取引も、変な条件つけているみたいだし、その可能性を考えているぞー」


 と、史愉。


「そいつも捨て置けない話だし、軽視するわけじゃねーが、今はミルメコレオの晩餐会の殲滅作戦に関してだ。そっちからどれだけの戦力を出せる?」

「戦力の出し惜しみをする気は無いぞー」

「敵に合わせます。そしてPO対策機構と足並みを揃えるつもりです。ただし、常識の範囲内でといったところですね」


 新居の確認に、史愉は気前よく、宮国は慎重に答えた。


(PO対策機構と足並みを揃えるって言い方が、まるで外部にいるような物言いにも聞こえるが……まあ細かい所はいいか)


 宮国の言い方が、少し気になった新居だった。


「ふん、無難なところか。合わせてくれるだけでも良しとしよう」

「いつぞやは出し渋りしていた事もあったしな」

「その時は貴方達がまだ信じられなかったこともあります。私達を矢面に立たせるつもりではないかと、疑っていました」


 沖田と新居の言葉を聞いて、宮国が柔らかな口調で、グリムペニスがPO対策機構を信じ切っていなかった理由を口にする。


「あの時、グリムペニスが距離を取って様子を見計らっていたから、今では逆に我々が信じられていないようですね」

「そうなるるる。でも少しずつ氷解してきていると思うよう」


 弦螺が爽やかな笑顔で言い、宮国は少し救われた気持ちになった


***


 ツグミ、上美、アンジェリーナ、洋司は学校へと足を運び、鶴賀とスピカにも報告を行った。


「もうこの件から手を引いた方がいいだろうな」


 部員がいなくなった報道部の部室にて、話を聞き終えた鶴賀が、腕組みして瞑目したまま、厳かな口調で告げた。


「珍しく教師みたいな発言してるね」

 ツグミが茶化す。しかし目は笑っていない。


「教師だからな。しかし教師の立場ではない、俺一個人の意見としても、そこまでの危険に踏み込むなと言いたい」

「僕も……そう思います。これで先輩も死んでしまったら……僕が先輩を殺したようなものになっちゃいますよ……」


 鶴賀の言葉に、洋司も力無く同意する。


「ま、どうせ言ったところで、上野原も崖室も聞くまいが」

 そう言って鶴賀が立ち上がり、茶を淹れる。


「ジャップ!」

「どうした? アンジェリーナ」


 突然力強く叫んだアンジェリーナに、一同が注目し、鶴賀が尋ねる。


「ジャプジャプジャーッブ!」

「何て言ってるの?」


 何やら訴えているらしいことはわかるが、何と言っているかわからず、スピカが上美の方を向いて伺う。


「このまま引き下がれない。危険も全て乗り越える。カタはつける。そんな所かな」

「ジャップ!」


 上美の翻訳を聞いて、アンジェリーナは弾んだ声と共に、上美に向かって親指を立てた。


(私が思っていることも同じだよ。崖室さんもね)


 上美がツグミの横顔を見る。少女の姿をした少年の心を持つ少女の凛々しい顔が、夕日に照らされていた。


***


 大丘は古い知り合いに呼ばれ、裏通り中立指定区域の一角に訪れた。

 一応部下達も連れてきている。大丘は裏通りのルールになど従うつもりはない。ミルメコレオの晩餐会は裏通りに属する組織ではない。それでいてあらゆる犯罪ビジネスを行うため、裏通りからは激しく敵視されている。


 しかし荒事にはならないだろうと、大丘は踏んでいた。自分を呼び出した相手は、裏通りに属する人物だ。ここで争いは起こさないだろう。


 カウンター席に座る大丘。部下達は離れてボックス席に座る。


「よう、久しぶりだな。何年振りだったか忘れたけど、相変わらずみてーだな」


 隣に座っていた、人を食ったような笑みを浮かべた痩身の男が、声をかけてきた。


「犬飼さんは裏通りの頂点にまで昇りつめたそうですね。おめでとうございます。ヴァンダムと雪岡の決闘での仕切り役は御見事でした」

「歯の浮くようなお世辞も相変わらずだ」


 大丘が称賛すると、犬飼一は皮肉げに笑って肩をすくめた。


「歯が浮くほどではありません。ほんの社交辞令程度のつもりです」


 かつて大丘が所属していた組織のボスである犬飼と、再会するのは何年かぶりだ。犬飼の喋り方も表情の作りも全く変わっていないように、大丘には感じられた。


「用件を聞く前に――せっかく会えたのですから、是非伺っておきたいところです。何故ホルマリン漬け大統領をお辞めになられたのです?」

「ホルマリン漬け大統領はおかしな方向性にいっちまった。しょーもない残酷ショーばかりやる、しょーもない組織になっちまった。それは俺が目指したもんと違う」


 大丘の質問に対し、犬飼の笑みがひどくニヒルな代物へと変わる。犬飼のこんな表情は、かつて見たことが無い


「その方が儲かりましたけどね。それが原因だったのですね」

「その方向に仕向けた張本人が、お前さんだろうに。わからねえ奴だよなあ。お前さんこそ、より儲かる組織になったホルマリン漬け大統領を辞めた?」

「恥ずかしながら派閥抗争に敗れました。いえ……私は敗れる前に、危険を察して逃げ出したのですよ。実に恥ずかしい失態ですが、色々と勉強になった経験です」


 ホルマリン漬け大統領のその後を考えれば、敗れて逃げ出していたからこそ、自分はこうして生き残っていると、大丘は思っている。何しろホルマリン漬け大統領を運営していた大幹部達は、全員爆死しているのだから。


「それで、私を呼び出して何の御用でしょう? 立場的には敵対する間柄なので、不安ですが」


 少しも不安など感じさせぬ口振りと、明るい笑顔で尋ねる大丘。


「一人称が僕から私になっているのな。お前も立派な社会人様か。で、お前は何でサイキック・オフェンダーなんかに与しているんだ? しかもミルメコレオの晩餐会なんつーつまんねー組織によ。いや、つまんねーのはあの組織のボスか。お前は何を狙っているんだ?」

「狙いがあったとして、それを私が口にすると思いますか?」

「俺が知ったとしても、そいつをPO対策機構にチクりはしないぜ。目的如何では協力してやってもいいし、取引に繋げてもいい。はっきり言うけど、俺は半分以上好奇心で、お前さんを呼んだんだ」


 犬飼の言葉を真に受けるのは危険だが、この言葉は偽りではないように、大丘には感じられた。何となく、直感的に。


「聞くまでもなく、大体察しはついているのではないですか?」

「じゃあ……言い当ててみるか。お前は西のサイキック・オフェンダーの組織のスパイ……かな?」


 犬飼が指摘すると、大丘はくすりと微笑んだ。


「正解。まあ、少し考えればわかることですね。私を知る犬飼さんであれば特に」

「その組織とやらがどんなものかも知らねーけど」

「ミルメコレオの晩餐会も一応は賛同者です。我々と同じ志を、汚山悪重も持っています。同志だからこそ、向こうの都合に合わせてあれこれ動いているのです」

「人身売買以外にもやっているのか」

「おや、御存知ありませんでしたか? これは買いかぶりかつ藪蛇でした」


 犬飼なら他のこともすでに耳に入れていそうだと思いつつも、あえて皮肉って挑発してみる大丘。


「犬飼さんが好奇心で接触したという事は、事実なのでしょうね。昔からそういう人でした。しかしそれにしても今の貴方は、裏通り中枢の一員――しかもトップにいる人です。そんな人との接触は、極めて危険でありますし、極めて好機とも捉えられます」

「俺を人質にでもとるつもりか?」

「迷いましたが、後始末が面倒臭そうなのでやめておきます。それに貴方一人で来たわけでもないですしね」


 大丘が後方を向く。一見して誰もいないボックス席。しかしそこに何者かが潜んでいる事に、大丘は気付いていた。


(また僕の気配を感じとる奴がいた……)


 テーブルの下の床で平面化していたデビルは、大丘の意識が自分に向いたことに、苛立ちを覚えていた。

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