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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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11

「あ……危なっ……何……?」


 流石の能天気なツグミも肝を冷やした。何しろ目の前に赤い車が垂直に降って来たのだ。あと少しの差で、下敷きになる所だった。

 前方部分が地面に突き刺さるようにして、垂直に立った状態の車は、ボンネットが衝撃で開いていたが、ゆっくりと閉じる。そしてゆっくりと車体を下ろして、地面にタイヤをつける。

 車がスピンして向きを変えると、側にいるツグミに向かって走り出した。


 ツグミは見た。車の運転席を。誰もいない。助手席にもいない。後部座席にも。


「ボーっとしてるんじゃないヨー」


 悪魔のおじさんがステッキを振り回すと、ツグミの体が宙を舞い、横に吹っ飛ばされた。その一秒後には赤い車が、ツグミがいた空間を猛然と突っ切っていく。


「く、クリスティーン!?」


 空中にいるツグミが両手でスカートを押さえながら、赤い車を見て意味不明な言葉を口にする。


 赤い車はUターンすると、今度は上美達のいる方に向かって走り出す。


「ジャップーッ!」


 突っ込んでくる車を見て、アンジェリーナが真っ先に逃げ出す。


「散らばって逃げろっ!」


 輝明が叫ぶと、修、アンジェリーナ、悪魔のおじさんが散開する。


「何してるんだっ!?」

 輝明自身も逃げつつ、後ろを向いて叫ぶ。


 上美だけは逃げなかった。否、逃げられなかった。


「これ……他の奴の能力……」


 上美は自分の両足を見て蒼白になる。アスファルトが盛り上がり、上美の両足の足首まで覆って、上美の動きを封じていたのだ。

 身動きが取れない上美を見て、ツグミが大慌てで能力を発動させる。


「イエロースポンジ君っ! デブウサギ! 土偶ママ! 狸生徒!」


 ツグミが叫ぶと、上美の前に四体の怪異が出現した。迫りくる赤い車から、身を張って上美を護る布陣だ。


 土偶ママが四つの目からビームを放ち、ボンネットとフロントガラスを貫いたが、車の動きは止まらない。

 両腕を大きく広げたデブウサギが車を受け止めようとして、さらに狸生徒と土偶ママがその後ろにつく。イエロースポンジ君は動けない上美の全身をくるむ。

 三体の怪異が身を挺して車を止めようとしたが、車は止まることが無かった。三体の怪異がはねとばされ、イエロースポンジ君と上美の体にも衝突した。


「ジャ……ジャップゥゥゥ!」


 上美が車に轢かれるシーンを見て、悲痛な叫びを上げるアンジェリーナ。


 車が停まった。土偶ママのビームでも勢いは停まらなかったが、ビームは車の機能を完全に破壊していた。いや――車の穴から血が噴き出した。


「これは……」


 車の形がみるみるうちに変わっていく。小さくしぼみ、あっという間にそれは人間に変わった。体に四つの穴が開いて、大量の血を流してアスファルトを赤く染めて果てている女性だ。


「車に変身する能力かよ……」


 輝明が呟き、車に轢かれた上美を見る。上美の姿は、足しか見えない。全身をイエロースポンジ君によって覆われている。


「ジャァーップーッ!」

「だ、大丈夫よ……」


 駆け寄って気遣うアンジェリーナに、上美が手を振って身を起こす。衝撃は怪異達が盾になって弱めてくれた。


「ジャップ~ッ」

「痛い痛いっ、アンジェリーナさん、無茶しないでっ」


 アンジェリーナが憎々しげな声をあげ、アスファルトに埋まっている上美の足を引っ張るが、抜けることはなく、上美は悲鳴をあげて制止する。


「ふむ。そこカナー」


 悪魔のおじさんが建物の陰に向かってステッキを指すと、手前に引く。


「ぬおっ!」


 ステッキの動きに合わせて、建物の陰から一人の男が引きずり出される形で宙を飛び、一同の前に落下した。


「おのれ!」

 男が銃を抜き、手近にいる輝明に向けた。


 次の瞬間、修の木刀が閃き、男の頭部を激しく打ち据えた。頭蓋骨が割れる音が響く。


「人の足を……引っ張ることだけが……生き甲斐の……腐った人生……だった……」


 男は目鼻耳から血を噴き出しながらそんなことを呟くと、白目を剥いて崩れ落ちた。


「あ、解けた」


 上美の足を覆っていたアスファルトが元に戻り、上美の拘束が解かれる。今、修に殺された男の仕業だった。


「まだ来るぞ」

 輝明が周囲を見渡して警戒を促す。


 数秒後、ターゲットがいる建物の入口から、次々と異形の存在が駆け出してきた。入口だけではない。窓からも飛び出してきた。


「虫? いや、虫人間かな?」


 修が木刀を構えながら呟く。現れたのは、直立して手足が伸びたヒューマノイドであったが、固そうな甲殻や柔らかそうなブヨブヨした腹を持ち、手足もキチン質で覆われて鋭利に尖り、顔から牙や角や触覚が生えた、虫と人が混ざり合ったような姿の者達であった。


「星屑散華」


 空中から襲いかかってきた、スズメバチと人が混ざったような虫人間を、輝明が金平糖の礫で撃ち抜く。


 バッタと混じった女が跳躍し、悪魔のおじさんめがけて落ちてくる。


「ほいっとナー」


 悪魔のおじさんの顔がめくれあがって広がった。バッタ女はめくれた顔の中に落下する。落下直後、悪魔のおじさんの広がった顔がバッタ女を飲み込むようにして閉じた。そして悪魔のおじさんの顔は元に戻り、バッタ女はいなくなった。


 オケラと混じった女が修に飛びかかる。

 修は木刀でその首を突き、女はあっさりと倒れた。

 喉の骨が折られ、あっさりと果てる女。その際に修は見た。女というより少女だ。そして助けを請うような目で、自分のことを見ていた。


(まさか……)


 修は悪い予感を覚えながら、他の虫人間達の顔を見た。皆若い。十代と思われる者も多い。


「ううう……痛い……痛い……イヤダ……死にたく……」


 輝明に撃ち抜かれて落下した虫が泣いていた。これもまだ十代前半の少年だ。


 修に向かってカマキリ男が接近する。カマキリ男は恐怖に怯えた顔をしている。恐怖の表情のまま、修を殺さんとしてカマを伸ばす。


 修は前方に踏みこんで、カマに掴み取られる事を避ける。どういうことか理解しつつも、修は躊躇せずにカマキリ男の頭部を木刀で割った。自分が殺されてはかなわない。


「テル、こいつら……」

「わーってるよ。自分の意思で攻撃しているんじゃない。操られているんだろ。そして多分……」


 輝明は言葉を途中で止め、呪文を唱え始めた。


 輝明の体から電撃が螺旋状に伸び、虫人間達を次々と飲み込んでいく。星炭流妖術の奥義、雷軸の術だ。


「おおおお、すごーい」


 それを見て感心の声をあげてから、ツグミは倒れたままの上美に視線を向けた。


「上美ちゃん、大丈夫?」


 ツグミが上美を案じる。上美にも虫人間達は襲いかかるが、悪魔のおじさんとアンジェリーナがガードしている。


「足引っ張られて……足引っ張っただけじゃいられないな」

「ジャップ!」


 悔しげに唸って立ち上がる上美の前で、何故かアンジェリーナは嬉しそうな声を発して親指を立てていた。


***


 影子は亜空間トンネルの中から、大丘越智雄と中司一高を監視していた。

 大丘は教室のような場所で、多数の青少年を前にただ佇んでいた。青少年達は不安げな顔をしている。大丘から敵襲があるからじっとしていろと言われた。


 外が騒がしい。戦闘していることは影子にはわかっているし、その様子もチラ見している。大量の虫人間達が、輝明達を攻撃している光景も見ている。


 大丘は電話をしていたが、やがて電話を切って、同室内にいる青少年を見渡した。


「東林君、西木君、南樹君、北森さん、中司君、テストと本人の希望の結果、この五人は不合格となります。他の方々は合格です」

(何が合格だってのよ)


 大丘の台詞を聞いて、影子は思う。


「合格した方は、これから西に向かいます。貴方達は大いなる力を与えられ、理想社会を作る名誉ある一員となるのです。貴方達は間違いなく悩みから解放されます。貴方達の苦しみも消え失せます」

(うへー、怪しすぎぃ)


 大丘の演説を聞いて、影子は思いっきり顔をしかめる。


「申し訳ありませんが、今呼ばれた不合格の方々は、部屋の外へ出てください」


 大丘が言うと、扉の方へと歩いていき、開く。


 呼ばれた者達の中で、一高が真っ先に立ち上がった。それから不合格扱いされた者が一人、二人と立ち上がる。


「どうして不合格なんですか? そもそも何のテストだったんですか? 私達ここに一泊して……一体何だったんですか?」


 呼ばれた一人の少女が立ち上がり、不審げな顔で尋ねる。


「ここに来ることを選んだ時点で、貴方達には救われたいという願望があったはずです。新たな世界を見たかった人達です。私はそれを叶えます。しかし適応しない思想の人を無理矢理付き合わせると、その人は不幸になります。その判別を行うテストでした。例え望んでいたとしても、これ以上先には連れていってあげられません。御理解の程を」


 にこやかに、柔らかに話す大丘であったが、有無を言わせない語り草であった。決定している事だから、何を言っても覆す気は無いと断じている。


 諦めたように、質問した少女も従った。


 一高と他四人を連れる格好で、廊下を歩く大丘。亜空間トンネルの中から追跡する影子。

 突然、大丘が足を止めて振り返った。他五名も、影子も足を止める。


「この辺りでいいでしょう。君達は運悪く不合格でしたが、私はそんな君達を見捨てる気はありません。別の方法で助けてあげますね」


 にっこりと微笑んで告げると、大丘は両手でポケットの中をまさぐり、何かを取り出してみせた。


 掌の上には、それぞれ二匹ずつ虫がいた。右手にはクワガタ、サソリモドキ。左手にはムカデ、リオック。


 大丘が笑顔のままで呪文を唱えると、虫が不自然な形で飛び立った。虫が自分の力で飛んでいるわけではなく、念動力で飛ばされていた。そしてあっという間に、四人の不合格者のそれぞれの口の中に、一匹ずつ虫が入り込んでいく。

 四人はこれまた不自然に口を開いていた。影子は思う。呪文によって口を開かされ、呪文によって虫が飛んで入れられたのだと。


 四人が虫を飲み込んでから、大丘はまた呪文を唱える。

 すると四人の体に一斉に変化が起こった。体が膨らんで服がちぎれ飛ぶ。四人共、虫と人が混ざり合った虫人間へと変化する。一人はクワガタと混じった姿。一人はムカデ、一人はサソリモドキ、一人はリオック。


 悲痛な叫び声があがる。混乱に満ちた声で喚く。恐怖と絶望に満ちたうめき声が漏れる。

 目の前で虫人間となった四人を見て、一高は震えていた。一高だけは無事だった。


「さあ、行ってらっしゃい」


 と、大丘が窓の外を親指で指した直後、廊下の少し離れた場所にある窓が割れた。


「来る必要はないんだよネー。こっちから乗り込んでやったからサー」


 割れた窓をくぐり、ツグミと上美を担いだ悪魔のおじさんがにやにや笑いながら、大丘の方を見て言った。

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