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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
3089/3386

6

 中司洋司がツグミとスピカに、兄の中司一高の依頼をしたその翌日。

 その日は祝日だった。本格的に調査するにはうってつけだ。


 繁華街で待つツグミ、スピカ、そして上美の前に、洋司が現れる。


「おはよう、洋司君」

 今日は男の子モードのツグミが、笑顔で迎える。


「ごめんなさい、遅れてしまいました」


 昨日と全く服装も雰囲気も異なるツグミを見て、洋司は少し戸惑う。ツグミが日によって、男の格好をすることは、話には聞いていて知っていたが、直に接するのは初めてだ。


「お兄さんの服にGPS受信機つけれた?」

「はい。気付かれていません。今は――」


 上美に問われ、洋司がホログラフィー・ディスプレイで地図を投影する。兄一高の動きを探るために、出掛ける前に仕掛けるようにと、昨日別れる前に上美に言われていた。


「兄さんがいる場所、安楽市内みたいですけど、ここから大分離れていますね」


 洋司が地図を指す。兄の一高を示すポイントは、神奈川に近い場所だった。


「心当たりある場所?」

「いえ……全然わかりません」


 スピカの問いに、かぶりを振る洋司。


「タクシーで行こう」

「タクシーじゃお金かかるでしょ……。私そんな余裕無いよ」


 スピカが促すが、上美が難色を示す。


「すみません……。頼んだ身ですけど、僕の家も生活が苦しくて……」


 申し訳なさそうな顔で洋司。


「皆で少しずつ出すのでも駄目かな?」

「それも距離によっては苦しくなりそう……」


 スピカが言うが、やはり上美は難色を示す。


「僕の家も裕福じゃないよ。でもお金は僕が出すよ」


 一方でツグミは自信ありげな顔で申し出た。皆の視線がツグミに向く。


「そんな……悪いですよ。電車で行きましょう」

「ここらこの場所だと、電車では乗り継ぎが何度もあって面倒だし、時間がかかるよ。ちょっと待ってて」


 洋司が言うが、ツグミは拒み、電話をかけた。


「相沢先輩。タクシーで移動したいんだ。お金出して」

『わかった。闇タクシーを送る』


 ツグミの要求に、真は二つ返事で応じる。


「タクシー来るってさ」

「それ、崖室さんが出すって言わないからね……。相沢先輩に出させたんだから」


 上美が呆れて突っ込む。


「相沢先輩も僕によく頼み事するから、持ちつ持たれつさ。しばらくしたら先輩と一緒に西に行く予定だしね」

「西に……」

「危なさそう……。画伯、そんなのに付き合うの……」

「もう僕はこの先ずっと危ないことばかりの人生だと思ってるし、何も悲観してないよ。そんな人生を楽しんでいるから」


 ツグミの話を聞き、洋司とスピカは引いていたが、ツグミは爽やかな表情で言ってのけた。


 その後四人は闇タクシーで、一高がいる場所へと向かう。


 四人が訪れた場所は、寂れた団地だった。昔ながらの低層の五階建て集合住宅が建ち並んでいる。いずれも相当古い建物だ。


「人が住んでいる気配無いね。ゴースト団地だ」


 ベランダと窓を見て、上美が言う。いいい天気なのに、洗濯物も布団も一切干されていない。ベランダにエアコンも置かれていない。鉢植えも無い。パラボラアンテナも無い。


「お兄さんがどこら辺にいるか、わかる?」

「えーっと……」


 スピカに促され、洋司がホログラフィー・ディスプレイを投影して探る。


「こっちです」

 地図を開いたまま先導する洋司。


「ゴースト団地にいるなんて、それだけでもちょっとおかしい」

「うん。でもこういう人気の無い場所の建物って、悪い人達が潜むにはうってつけだよ」


 スピカと上美が囁き合う。


「あのマンション? みたい……ですね。あの辺かな? 何階にいるかまではわからないですけど」


 しばらく歩いた所で洋司が立ち止まり、建物の一つを指した。


「さあ、出番だよ。頑張ってね」


 ツグミが七十七の怪異――フルーツサイチョウと踊るジンジャークッキーを呼び出して、建物の窓の一つ一つを偵察させていく。


「うーん、いないなー」

「怪異が見たもの、崖室さんにも見えるの?」


 ツグミの台詞を聞いて、上美が尋ねる。


「踊るジンジャークッキーに関してはね。彼等の視点で見ることができる。フルーツサイチョウを通じて音声を届けられる」


 解説するツグミ。


「あっ……これは……当たりかな」

 ツグミの表情が変化する。


 踊るジンジャークッキーを通して見た、窓の中の光景。一つの部屋に大勢の人が集まっている。中には一高もいた。


『今日はリアルで会うのは初めましての人が多いですね。改めまして、大丘越智雄です』


 フルーツサイチョウを通して、室内の音声をツグミがいる場所に伝える。全員が耳を傾ける。


「綺麗な声だ」

「これがあの大丘って人?」


 ツグミとスピカが言った。


『僕はいじめにあっています……。外では部活の先輩に、そして家では義父からも言葉で罵られて……逃げ場が無いです。世界中全部的に見える。相談できる相手は、大丘先生だけでした』

『私は新しい職場のブラックっぷりがキツくて……もう耐えられなくて……』

『受験勉強に嫌気がさしてます。勉強だけするマシーンにされている感じです。その先に一体何があるの? 父さんも母さんも、私の成績のことしか頭にないみたいで……。あんな人達が親だって、あんな人達を喜ばせるために生きているんだって意識すると……もう誰彼構わずぶっ殺してやりたいっ』

『包茎です!』

『空気に触れると溶けてしまう特殊体質なんですが、家族の誰も理解してくれないんです。あ、空をボインのわんこが飛んでいるぞっ。僕も飛ぶう~。ウォーンっ』


 室内にいる者達が次々と悩みを訴え始める。


『うるさいんです』

 一際ダークな声が響いた。


「兄さんの声ですっ」

 洋司が声をあげる。


『え?』

『うるさい声が響くんです。僕の母親は僕を責めません。でも心の中で母親が僕に要求するんです。あれこれ求めるんです。僕は長男だからしっかりしろとか、高校に入ったらバイトして、家計を助けて欲しいとか。部活の連中は、バレー部の勝利を求めて、僕に期待をかけて、僕のことばかり意識しています。弟に至ってはその両方です。僕に色々求めすぎ、要求しすぎです。その声が……口には出してないけど、その声が聞こえてきて、押し潰されそうなんです』


 絞り出すような声で訴える一高の悩みを聞いて、洋司は蒼白な顔になっている。


「兄さん……そんな風に悩んでたんだ……。しかも僕も原因だったなんて……」


 兄が口にした苦しみを聞いて、洋司は泣きそうな声で呻いた。


『そんな時、足をおかしくしてしまって……。病院に行ったら、靭帯が腫れているから安静にって……。でももうすぐ大会なのに……。休んだら、部活の連中も、弟も、母親も、みんながっかりさせる……』

「兄さん……。僕はそんなこと思ってないし、言ったこともないし、それは兄さんの思い込みだよ……」


 震える声で訴える洋司だが、その声は兄に届くことは無い。


 それからも部屋に集まった者達が、次から次へと悩みを打ち明けていった。


『君達に共通することは二つ。一つは純粋さです。そしてもう一つは、現実社会から受ける耐えがたい苦しみです』


 悩みを聞いていた人物――カウンセラー大丘越智雄が優しい声で告げる。


『対抗するには、君達が新たなステージに昇る必要があります。まず君達も力を覚醒させることです。そのためには、ある組織へと入って頂く必要があります』

「うわあ……どんどん怪しい話になってきた」

「入ったら絶対駄目な奴よね、これ」


 スピカと上美が囁き合う。


『その組織は、新たな世界を創ることを目指しています。混沌の地と呼ばれている西に在り、貴方達のような、純粋で悩める者達を集めています』


 語り続ける大丘。


『苦しみに耐えていても、苦しみは続きます。苦しみから逃げても、苦しみは追いかけてきます。戦う道を選ぶことです。しかし一人ではどうにもできませんし、戦うためには強さがいるでしょう。そのための組織、そのための力ですよ。ただそれだけのことです』

「怪しい宗教に勧誘してるみたいな胡散臭さ」

「いや……怪しい宗教勧誘じゃなくて、これって多分マジだよ……。本気でサイキック・オフェンダーに仕立て上げて、サイキック・オフェンダーの組織に入れるつもりなんだと思う」

「しかも無法化しているという噂の、西にある組織か」


 スピカ、上美、ツグミがそれぞれ言った。


「西の情報はネットでしか入ってこないけど、ネット上の噂では、眉唾なのか本当なのかいまいちわからないのよね」


 と、スピカ。


「嘘も混じってるだろうけど、本当のことも多いと思う。サイキック・オフェンダーのやりたい放題で、警察も相手がサイキック・オフェンダーだと知ると逃げ出すっていう話は、本当なんだろうね」


 上美が言った。上美は日頃から裏通りの情報にも触れているので、西にまつわる恐ろしい話も表通りの者よりはよく知っている。


「気を付けて、皆」


 上美が身構え、鋭い声を発して注意を促した。


 右から、左から、数人の男達が現れて、ツグミ達の方にゆっくりとした足取りで向かってきている。男達全員の視線が、ツグミ達四人に注がれている。

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