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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
91 超常犯罪組織と遊ぼう
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2

 放課後。ツグミ、スピカ、洋司、鶴賀とで、大丘越智雄という謎のネットカウンセラーに探りを入れてみることにした。

 報道部の部室は普通に部活動が行われているので、四人は視聴覚室に集まった。


「顔写真が本人のものかわからないが、人当たりの良さそうな顔をしている」


 鶴賀が大丘越智雄のサイトを見て言った。爽やかな笑顔の、清潔感溢れる壮年の男が映し出されていた。


「んじゃ、相談してみるねー」


 ツグミが脳波で文字を打ち込んでチャットを開始する。


『中学二年生です。学校でいじめられてます。いじめられている原因は、私が二重人格っぽくて、日によって男の子の格好をしたり、女の子の格好をしたりしているからです。と、これでいいかな。あ、やばい』

「画伯、早く消してっ」


 余計な文章までうっかり打ち込まれたので、スピカが半笑いで促す。言われるまでもなく消すツグミ。ブレイン・マシン・インターフェースの弊害だ。


『なるほど。周囲に相談できそうな人もいないのですね?』


 すぐにチャットで返答がくる。


「レスやたら早い。これは確かに定型文ぽくない?」

 と、スピカ。


「親に相談できないからこそ、親以外に相談するのだろうが」

「それは僕も同じです……」


 鶴賀の言葉を聞いて、洋司がうつむき加減になって申し訳なさそうに言った。


「一応の確認でしょ。相談したのかしないのか、相談できない事情があったらそれはどんな事情なのかとか、そういうの知りたいじゃない。それによって相手の背景も見えるしさ」


 スピカが鶴賀に反論した。スピカも朝、洋司に親に相談したかどうかを伺った。


「ふむ。そうか。弓村は中々賢いな」

(私が賢いというより、鶴賀先生が大雑把すぎなんだと思うけど)


 褒める鶴賀に、スピカは思う。


『はい。お母さんには心配かけたくありません。お母さんと二人暮らしですし』

『なるほど。君は優しい子のようですね。そんな子がいじめられているという事実に、私は深い悲しみと強い憤りを感じます』

「これも定型文か?」

「そうかもねえ。半分くらいはそれっぽい気がする」


 レスを見て、鶴賀とスピカが囁き合う。


『いじめっ子達に復讐したい気持ちにはなりませんか?』

「うっわあ……いきなり復讐心の確認きちゃったよーコレ。たはは……」


 相手の文章を見て、半笑いになって呆れるツグミ。


「この時点で引く子も多そうだよね」

 と、スピカ。


「復讐心の確認をすることで、復讐心を煽っているとも受け取れるぞ。第三者から復讐する意識を呼びかけているのだ」

「おお、鶴賀先生が鋭いこと言った? ちょっと教師っぽい」


 鶴賀の考えを聞いて、ツグミがからかう。


「崖室は俺のことを相当舐めているようだな」

「すまんこっこー。ま、あの時の気持ちを思い出して、正直に答えておくねー」

「あの時だと?」


 ツグミのその台詞に、鶴賀は反応した。


『復讐を意識したこともありますけど、そんなことが出来るくらいなら、いじめられてもいませんし、そんなことをするくらいなら自殺します』

「実際自殺しちゃったんだけどね。未遂で終わったけど」


 ツグミがチャットを打つと、自虐的な微笑をこぼす。


「おい崖室、何を言ってるんだ? お前もいじめの被害を受けていたのか? しかも自殺だと……」

「うん。その経験を今話してるの」

「担任教師は気付いていなかったのか?」

「気付いていたと思う。でも何も言わなかったよ」

「そうか……。その教師に代わって謝る。助けてやれなくてすまん」


 厳粛な面持ちになると、深々と頭を下げる鶴賀。


「えー? 鶴賀先生は担任じゃなかったんだから、謝ることないじゃなーい」

「その学校の教師全てに責任はあると俺は受け止める」


 驚いて声をあげるツグミに、鶴賀は重々しい口調で言った。


『自殺は絶対にいけません。それだけはしないでください』

『もうしちゃいましたー』

『え?』

『あ、ヤバい。えっと……自殺はしたんですけど、未遂で終わりました』

『よかったです。二度としないでください』

「未遂で終わってよかったです」


 チャットのやり取りを見つつ、洋司が言った。


「うんうん。画伯がそこまで追い詰められて苦しんでたなんて、酷い話だよね。というか、こんなこと言うとなんだけど、今の明るい画伯からは想像しづらい」


 スピカが言う。その頃のツグミは、報道部にも顔を出していなかった。


『貴方の命の価値を貴方が軽んじてはいけません。人生は苦しいこともあります。しかしその苦しみを乗り越えることも出来るのです。乗り越えることを目指しましょう。私が力になります』

「私はもう乗り越えちゃいましたー。たはー」


 レスを見て、おどけた声をあげるツグミ。


「俺はカウンセリングにかかったことはないが、この発言はどうなんだ? 耳障りのいいことを口にしているが、力になると明言していることが気になる」

(そりゃ鶴賀先生はカウンセリングとは無縁だろうね……)


 鶴賀の台詞を聞いて、スピカが心の中で突っ込む。


「でも言われた方は嬉しいと思うなー。例え顔の見えない文章が相手でも、追い詰められている時に言われたら、とっても気持ち和らぐよコレ」


 かつての心境を思い起こすツグミ。


「兄さんも……追い詰められていたのでしょうか。一体どうして……」


 洋司が暗い面持ちになる。


「よし。相談だけでどう助けてくれるのかと、尋ねてみろ。いや、尋ねなくても向こうから言いそうな気もするがな」

『相談するだけなのに、どう助けてくれるんですか?』


 鶴賀に指示を出され、ツグミは尋ねてみた。


『私は心の在り方を示し、さらにその先を示す特別なカウンセラーです』

「うわぁ……胡散臭い」

「でも心が弱っていると、こういうのに凄く惹かれるものなんだよ。今はそんなことないけどー」


 スピカが顔をしかめ、ツグミは苦笑いを浮かべる。


『ではすぐに私の心が救われるよう示して欲しいです』

『落ち着いてください。まず命を捨てるという考えを払拭すべきです。その考えを取り払うためには、自分がどうしてこんなことになっているのかを考えたうえで、その理不尽さをしっかりと受け止めることです』

「ほう。理不尽を受け止めろときたか。そこから改善策を示すというのか?」


 皮肉っぽく笑う鶴賀。その台詞に酷く胡散臭さを感じた。


『貴方は被害者です。人の痛みがわからない――いや、人を痛めつけて喜ぶ、残酷で邪悪な加害者の好き放題にやられて、辛い日々を過ごす。貴女の人生を蝕まれる。この理不尽。悲しく辛いでしょう? でも、それだけではなく、怒りを感じませんか?』

「カウンセリングにしては物騒な物言いだ」

「ヤバい方向に向かいそう」


 鶴賀とスピカが囁き合う。


「よっしゃ、流れに乗ってみるね」

 ツグミが弾んだ声をあげる。


「画伯は段々賢くなってきてる感じ?」

「これを賢いというのか?」


 スピカと鶴賀が囁き合う。


『よっしゃ、怒り充填中』

「こらこら画伯……」

「うわーん……この脳波インターフェイスがおかしいよ~」


 チャット誤爆を嘆くツグミ。


『そんなわけで、そんなこと言われたおかげで怒りに打ち震えています』

「崖室、ふざけているのか?」

「違うってばー、このBMIブレインマシンインターフェイスがおかしいんだよう」


 半眼になる鶴賀に、連続して入力ミスをしたツグミが釈明した。


『そうですか。しかし一人で怒っているだけでは解決しませんよね。解決に向けて動き出さないと。その方法が何であるかわかりますか?』

『いじめっ子達を訴える? それとも暴力でやり返す?』

『正解に近いですね。貴方は貴方の人生を大事にしなくてはなりません。貴方を蝕む者を退けることです。そのためには、力が必要です』

『力?』

『覚醒記念日より、多くの力の覚醒者が現れました。望んで力を手に入れた者もいれば、追い詰められて発現した者もいます。力を覚醒させるには、心の迷いや痛みもトリガーとなります。私は力の覚醒を促しています。私が様々な方法を伝授します。私が様々な価値観を教授します。それに従って試行錯誤をしてみてください。私はこの方法で何十人もの覚醒を実現させています』

「うおー、一気に怪しさ爆発だあ」


 嬉しそうな声をあげるツグミ。


「ふむ、そうか。こうきたか……」

 腕組みポーズのまま眉をひそめる鶴賀。


「何か強引なんだけど、心が弱ってると、こんなのにもころっと騙されちゃうもんなの?」

「うん。ころっといくねー。何度も言うけど、あの頃の私だったら、そりゃもういちころだったねー」


 不思議そうに言うスピカに、ツグミが明るい声で言った。


「兄さんもこの人のこんな言葉に従って……それでおかしくなっちゃったのか……」


 怒りにも似た感情を覚える洋司。


「そもそもお兄さんはどんな悩みがあったのかな?」

「それも調べたいところだよね」


 ツグミとスピカが言う。


「中司の兄の件も重要だが、今はこちらの情報に引き出しに神経を注げ」

「ほーい」


 鶴賀に言われ、ツグミはチャットを再開した。


『それなら……力が欲しいです。教えてください』

『ネット越しに教授は無理があります。定期的な会合があるので、日時と場所を教えます。興味があるなら足を運んでください』

「なっるほっどー。この会合に乗り込むって話だぁ」


 にやにや笑うツグミ。


「この会合に、洋司君のお兄さんも出てるのかな……?」

「そうかもしれません。結構外出が多くなってますし」


 スピカが伺うと、洋司は不安げな表情で答える。


「しかし御都合主義展開満載の漫画みたいに、とんとん拍子に話が進んだね」

「乗ってしまう者が多いのだろう。それだけ切実に救いを欲している。そして力を得るということに魅力を抱いてしまい、簡単に騙されてしまっていると見た」


 拍子抜けした感じで小さく息を吐くスピカと、鶴賀が神妙な口振りの鶴賀。


「よーし、会合に乗り込む前にぃ、次は洋司君にお兄さんをチェックだー」

「よろしくお願いします」

「俺は今日はそこまでは付き合えん。部活の方に顔を出さないとな」


 勇むツグミに、洋司は頭を下げ、鶴賀は腕組みしたままかぶりを振った。

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