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月も星も見えない曇り空の夜、加えて山中という最悪な環境でも、勤一や吉川は移動が出来る。勤一達の慣れもあるが、ユダの感知能力は人の気配だけではなく、地形のサーチも出来る。崖や急斜面などの危険な場所は前もってわかる。
そんな彼等を追跡するのは一苦労であるはずだが、それでも追跡者達は勤一達に迫っていた。
「数が多いです。自警団ですね、彼等は」
ユダが言う。
自警団と一口に言っても、そのスタンスは様々だ。PO対策機構と繋がりを持たずに独自に動いている集団もあれば、PO対策機構と協力している者もいるし、完全に傘下になった者達もいた。サイキック・オフェンダーからスカウトされた者もいるという噂だ。
彼等の多くは、近親者や友人がサイキック・オフェンダーによって被害を受けているため、士気はかなり高い。能力に覚醒した者も少なくない。
「正義ぶって戦っていることに酔っている連中ね。一番嫌いだわ」
「酔ってはいないだろう。命がけの時点でな。純粋に正義感が強いうえに、死を覚悟で戦っている者達だ。その点は認められる。そして油断禁物だ」
凡美が吐き捨てると、勤一が諫める。勤一はかつて五人の仲間の中でリーダー格であったが、十歳以上年上の凡美に対しては、それなりに敬意を抱いて接しているものの、今のように、たまに感情的になる凡美を諫めることもしばしばあった。
「ネット上で、犯罪に憤るコメント並べ立てることが生き甲斐のカス共よりは、ずっと好感が持てるな」
「身内を殺されて復讐目的の人も多いようですよ」
吉川とユダが言ったその時、立て続けに何発も銃声が鳴り響いた。すぐ側の木の幹に着弾する音も響く。
敵の方から仕掛けてきたが、四人は落ち着いて行動する。
勤一は変身を行い、凡美は口からビームを放つ。ビームによってこちらの居場所がわかってしまう心配はいらなかった。敵はかなり正確にこちらの場所を把握していることが、銃撃の正確さからわかったからだ。
銃弾をものともせずに、敵の集団に向かって駆けていく勤一。
敵はそれを見て、一斉に横に散った。明らかに示し合わせてある行動と、勤一の目には映る。
(罠があるか?)
勤一が警戒して足を止めると、勤一が足を止めたすぐ前方の地面から、鮮やかオレンジの光の幕のようなものが地面から伸びあがった。
オレンジの光の膜は、勤一に覆いかぶさるかのような動きを見せたが、勤一は後方に下がって避ける。
(危なかった。あれに包まれたらどうなるかわからんが、足を止めるのが遅かったら、包み込まれていた)
恐怖を覚えつつも、すぐに気を取り直した勤一は、左右に分かれた自警団のうち、右の方に向かって突っ込んだ。
狙われた方の自警団は散り散りになって逃げる。手の空いている自警団は、勤一に向かって銃を撃つ。
背中に無数の銃弾を浴びる勤一だが、ものともしない。
銃撃を行っている自警団に向けて、凡美がビームを照射する。銃撃が止んだが、ビームが当たった気配は無い。
勤一が近接戦を仕掛けにいくが、自警団たちも勤一のずば抜けた戦闘力を承知しているので、無理に付き合おうとしない。逃げに徹している。
吉川は動こうとせずに、様子を見ている。勤一が危機的状況に陥ったら、すぐ助けに行くつもりでいる。
(ちまちまとしているというか、本気で戦おうという気配がないな。いくら勤一と真っ向からの戦いを避けたいとはいえ――)
自警団達の消極的な戦い方を見て、吉川は不審に思う。
「少し離れた場所にもう一組いるようですよ。そんなに離れていません。いや……目と鼻の先です。おかしいですね……。絶対に戦闘していることはわかっているのに」
「そいつらは何で加勢してこないのかという疑問だな。そしてこいつらの戦い方から見てわかる。時間稼ぎをしているんだ」
ユダの報告を聞き、吉川は納得した。
「つまり援軍が来るのを待っているわけね。私達をここに留めさせておくために」
吉川の言葉を聞き、凡美がそのような結論に至る。
(明らかに時間稼ぎをしているな)
勤一もその事実に気付いて苛立ちを覚える。
「さて、どうしたものか。このまま戦っていたら不味い気がするぞ」
吉川が呟いた時、勤一が撤退して戻ってきた。
自警団は無理して追いかけてこないが、銃撃による追撃は行っている。しかし勤一に当たっていない。
「前にいる連中は時間稼ぎしている。奴等を突破して、後ろに潜んでいる奴等に襲いかかる。今なら、自分達の存在に気付いていないと思っているだろう。いきなり仕掛けられれば、浮足立つはずだ。掻き回して、一人でも多く殺してやる。サポートしてくれ」
勤一が三人に向かって告げる。勤一も後方に潜んで動かない者達の存在に気付いていた。
「了解」
「わかったわ」
吉川がにやりと笑い、凡美は真顔のまま頷いた。
吉川が勤一の手を取り、転移する。
勤一と戦っていた自警団の後方に転移する二人。
吉川はさらに転移して、凡美とユダも連れてくる。
前方にいる自警団は無視して、後方に潜んでいた自警団を急襲する勤一と凡美。
不意を突かれた一人が、凡美の鉄球によって頭を吹き飛ばされる。その後、勤一が一人に飛びかかって腕を薙ぎ、首をへし折った。
「うわああっ! こっちに来たぁぁ!」
「いつの間にぃぃ!」
「前の奴等は何してるぅぅ!」
「助けてぇぇ!」
「どうしていきなりこっちに現れたんだよぉぉっ!」
自分達の存在には気付かれていないと思った、後方に潜んでいた自警団は、あっさりとパニックに陥った。
実は彼等はあまり戦闘慣れしていない新兵達であり、そういった事情から、後方に待機させられていたのだ。
「まださらに後方にいます。敵の部隊は幾つにも分かれて、間隔を開けているようです」
ユダが報告する。
「何でそんな配置なのかは謎ですが」
「こちらが罠を張っていて、一網打尽にされることを避けたのかもな。こっちにそんな余裕も手も無いが」
顎に手を当てて不思議がるユダに、吉川が冗談交じりに言う。
後方部隊を次々と血祭にあげていく勤一と凡美。
前方部隊が慌て気味に殺到し、勤一と凡美に銃撃を行う。
能力を用いる者もいた。またオレンジ色の光の膜が浮かび上がる。さらに真っ赤に渦巻く炎の塊が幾つも飛来し、大量の金属片が降ってくる。
勤一と凡美が防御する必要は無かった。吉川が空間を歪ませて、まとめて遠隔攻撃をあらぬ方向へと飛ばしたからだ。
「あ、不味い……」
吉川が口元を歪めた。真っ赤な炎の塊がそこかしこに飛んでいって、樹木に着弾し、燃えあがったからだ。
「視界が一気によくなったな」
火に照らされた森と自警団達を見渡し、勤一は不敵に笑う。
そこに新たな援軍がやってきた。美香とクローン達五人だ。
「またあんた達なの……。本当しつこいわね」
美香達を見て、うんざりした口調で言う凡美。
「西に逃しはしない! してきたことの償いはしてもらう!」
「償い? 何を言ってるの? 私達が世界に償わせているのよ。世界が私達にしてきたことを償わせてやってるのっ」
美香の言葉を鼻で笑う凡美。
「ここでケリをつける!」
自分を睨んで勇ましく言い放つ美香に、凡美は思わずたじろぐ。
(かっこいいものね。私は悪党なのに、自分をやっつける正義の味方に、思わずそう感じちゃった。私も最初からそっちだったらよかったのに……)
一瞬自虐的な笑みをこぼした凡美だが、すぐに闘志を滾らせた。




