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半年前から現在まで続く、サイキック・オフェンダー騒動。犬飼一は最初の頃は楽しんでいたが、最近になってわりとどうでもよくなってしまっている。
世界が変化したての頃は新鮮で楽しい。次は何が起こるのかとわくわくする。慣れてくるとただの日常の一コマだ。何もわくわくはしない。
「しかもそのわくわくを奪う事に加担したのは俺だ」
ホテルの一室。ウイスキーを呷りながら、犬飼はアンニュイな口調で呟く。
裏通り中枢は、サイキック・オフェンダーの掃滅に力を入れてきた。犠牲も相当出たが、日本の東部においては、新たなサイキック・オフェンダーの存在が明るみになれば、大抵のサイキック・オフェンダーは、すぐさまPO対策機構を派遣して処理できるようになった。
(もちろん判明した奴に限るけどな。覚醒した能力で犯罪を働いても、バレないように上手く処理している奴だっているだろうし)
取り締まる側としては、バレないように罪を犯してくれる事はとても助かる。余計な手間が省けるからだ。
(世の中に不満を持つ奴等、追い詰められている奴等、虐げられていると感じている奴等から、力を覚醒させていった。そして身に着けた力を使って大暴れだ。しかし爽快な逆転劇かと思いきや、社会の圧力の方がずっと強かった。奴等のやりたい放題を許さなかったっていう、しまらねーオチだ)
取り締まる側にありながら犬飼はそれがつまらないと感じる。
「まだ西が残っているけど、そいつも時間の問題だろうな……」
日本の西部はサイキック・オフェンダーのやりたい放題という話である。実際西まで手を伸ばす余裕が無かった。しかしいつまでも放っておくわけではない。
(真は西に手出しをしたがっている。目的は行方不明になった純子だろう。そして真の話によると、この事態を引き起こした純子からすると、力を得た奴がただ暴走して犯罪に利用するばかりの世の中なっちまった事は、理想とは食い違っていたものらしいな。だからこそ純子は姿を消したんだ。きっと純子は企んでいる。自分の思い通りの理想になるよう、軌道修正するために、何か企んでいる)
そちらの方も非常に興味がある犬飼であるが、ここ半年間、純子は全く姿を見せていない。『オーマイレイプ』の最高金額コースでも、その行方はわからないままだ。
「せめて西だけでも、デビルに調べてきてもらいたいもんだが……。最近帰ってこないしな……」
そのデビルが現在追跡中のA級サイキック・オフェンダー達と絡んでいるなど、思いもしない犬飼であった。
***
真はほころびレジスタンスの事務所へ訪れた。
「近々、僕は西に行くつもりでいる。主に調査目的だ。裏通り中枢からの依頼だ」
十夜と晃を前にして真は告げた。凛は茶を淹れにキッチンに行っているが、リビングにいる真の声は聞こえている。
「僕一人では心許ないし、お前達にも来て欲しい。中枢には話を通す。他にも声はかける」
「おおっ、相沢先輩に頼られちゃってるよ、僕達。行く行く、是非行く。面白そうだし嬉しいし~。ていうか相沢先輩、背縮んだ?」
真の誘いを受け、喜びの声をあげる晃。
「お前が成長して大きくなっただけだ……と、突っ込むのもバカバカしい突っ込みだな」
真の視線は晃より十夜に向けられた。
「晃はそこまで背が伸びてないけど、それでも僕との目線の位置が変わる程度には伸びたか。十夜の方がよく伸びてるな」
「うん。178になっちゃった。自分でも驚いてる。急に伸びた感じ」
照れくさそうに十夜。年齢的に考えて、まだ伸びる余地はある。
「メジロエメラルダーやっている副作用かもな」
「ええええ? そんな副作用あるの?」
真の言葉に驚く十夜。
「ただの当てずっぽうだ」
「相沢先輩も冗談言うのかと思って期待したら、当てずっぽうだった」
晃が笑う。
「西に行くなんて反対したい所なんだけどね」
凛が茶と茶菓子を持ってきて、刺々しい口調で言った。
「凛さん、こういう時いつも否定的じゃない?」
「危険な仕事は出来るだけ避けるべきよ。ま、刺激が欲しいという気持ちもわからなくもないけどね」
かつては凛も危険に自ら飛び込んでいく傾向があったが、今では鳴りを潜めている。真との戦いで死にかけたことも影響しているし、晃と十夜の面倒を見るようになったことはさらに大きく影響している。
「西には雪岡がいるかもしれない。西の調査のついでに、個人的に僕はあいつのことを探すつもりでもいる」
「むしろ貴方にとってはそっちがメインなんじゃないの?」
真の目的を聞いて、凛が皮肉っぽい口調で言う。
「否定はしない」
「ま、別にそれはいいんだけどね。私も純子がいなくなった事は気になっているし」
と、凛。
「俺達三人と相沢先輩の四人?」
「いいや、他にも三人ほど声をかけるつもりだ」
十夜の問いに、真が答えた。
「六人PTならしまりのいい感じだけど、七人PTか~」
何故か残念そうな声をあげる晃。
「どういう違いがあるの?」
「ゲーム的なものだろ。四人PTや六人PTは多いが、七人というのはあまり見たことがない」
凛が尋ねると、晃ではなく真が答える。
「あれ? 相沢先輩もゲームやるんだ。あまりそういうイメージ無かったけど」
意外そうに言う晃。
「勝手なイメージで人をあてはめるもんじゃない。いただきます」
真がティーカップに口をつける。
「でもある意味で六人PTかもな。七人だけど六人みたいな感じだ。当人に言うと怒られそうだけど」
「何それ?」
「あ、僕わかっちゃった」
真の言葉を聞いて十夜は小首を傾げたが、晃は誰を連れてくるのか見抜いた。
***
夕方。勤一、凡美、吉川、ユダの四人は、車で福島関所の近くまで迫っていた。
「そろそろ関所だな」
「また山の中を通るんですねー」
「面倒だが仕方がない。そして都合のいいことに、夜になる」
「ここが最後の関門になるといいわね」
四人が車の中で喋っていると、後方上空にヘリコプターが四台現れた。見覚えのある軍用ヘリだ。
「追ってきやがったか……」
勤一が舌打ちする。
「監視装置の配置ラインにうっかり引っかかったの? 関所まではそれなりに距離があるのに」
凡美が困惑気味に言う。
「それならまずミサイルが飛んでくるはずですよ」
「そうだったわね」
ユダに突っ込まれ、少し混乱していたとはず隠しなる凡美。
「さっきのファミレスでの騒動、あれがよくなかったかもしれないな」
と、吉川。
「よくないに決まっている。罪ッターを見てみろ。トレンド入りしてるし、吉川の写真まであがってる」
「こっそり撮影して、ネットに投稿か……。やれやれだな」
助手席の勤一がホログラフィー・ディスプレイを投影し、運転席の吉川がそれをチラ見して渋面になった。
「どうします?」
ユダが不安げな顔で伺う。
「バレたんだから、関所を車で突っ切るか、それとも山の中に入るか」
「前者はありえないでしょ。ミサイルの餌食になるわ」
勤一の案を凡美が拒む。
「まだ車で走っておく。もうしばらく関所に近付いてから、車を捨てて山の中へ入る。森の中を移動すれば、上空からは見つけにくいだろう。そもそもこの車に俺達がいるとまでわかったわけでもない」
吉川が言った。
「しかし車を捨てて森の中に入る際は、多分バレるな」
「そのタイミングが一番危険よ」
勤一の言葉を受け、凡美はその際に、自分の能力を用いて守りに入ることを決めた。




