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安楽市某所。中枢施設の一つ。
「新居関所ね。呼び名は違うが、漢字が俺の苗字と同じか」
悦楽の十三階段のメンバー達が揃う前で、ホログラフィー・ディスプレイに映し出された地図を見やり、新居が言った。
会議には犬飼、沖田、新居の三名が出席している。弦螺はテレビ電話で繋いでいる。真とエボニーは欠席だ。
「不殺を貫いていたサルバドール吉川は、仲間殺しをやったうえに、A級指定のサイキック・オフェンダーである原山勤一と山駄凡美と組んだ。こいつも同じくA級指定でいいな」
沖田が他の三名を見渡して伺う。異論は出なかった。
「関所の存在はサイキック・オフェンダーにも知れ渡っているし、こいつらも巧みに潜り抜けて移動するようになっているから、もうさ、関所の存在って意味なくね?」
「皮肉なことに、関所を避けるのではなく、関所の近くを抜けた方が安全だと思われているようだしな」
犬飼が疑問を口にすると、沖田は溜息をついた。
「A級指定された者の中で、原山と山駄は長いこと逃げ続け、こちらに被害を出しまくっている。此奴等は必ず仕留めておかないとな」
「警察の沽券に関わる――ではなく、裏通りの沽券に関わる、か」
沖田の言葉を皮肉る犬飼。
『A級指定された中でも、特に厄介な二人は、裏通りでも名が知れているるる』
弦螺が言った。
「今追跡中の原山勤一と……あとは……あいつか。『ミルメコレオの晩餐会』のボス。いっそS級とか作ってみるか?」
おちゃらけた口調で犬飼。
「汚山悪重。あのイカレ野郎か。PO対策機構の被害はともかく、一般人への被害に関しては、原山や山駄より格段に酷い。あいつは許せねーなー」
新居が一瞬不快な面持ちになる。
「奴はここしばらく鳴りを潜めているな。次現れた時はしっかりマークして仕留めなければ」
厳格な口調で沖田が言う。
「真が西に手を出すと言っていたが、グリムペニスも霊的国防機関も自警団も、難色を示している」
と、新居。
『僕達だって難色を示してるるる。どう説得するるる?』
「どっちを説得すんだよ? 真か? PO対策機構の他の連中か?」
弦螺の言葉を聞き、犬飼が肩をすくめる。
「いずれにせよ西に手は出すだろう。時期の問題だ。今は早いと感じる者の方が多い」
「真は調査したいと言ってるんだし、少数精鋭で調査するくらいならいいんじゃねーか? 俺は許す」
沖田と新居は、真の方針にさほど否定的でもなかった。
「西を下手に刺激して、西が東に攻め込んでくるとか、そういう熱い展開を期待しちゃうね」
『熱くないよう。暑苦しい展開だよう』
「上手いこと言ったつもりなのかもしれねーが、暑苦しいとは違うから外してんぞ」
ふざける犬飼に突っ込む弦螺に、さらに新居が突っ込んだ。
***
浜名湖の近くに来た勤一と凡美と吉川とユダの四人は、車を降りた。
「あれが新居関所跡。そしてこれが……現代の新居関所ですね」
ホログラフィー・ディスプレイに映し出した映像を指すユダ。
「物々しいわね。付近の住人は何とも思わないのかな」
警備員や警備車両が並んでいる道路を見て、不思議がる凡美。
「浜名湖の先か。高速道路のすぐ近くだな」
勤一が湖を見渡し、湖にかかる橋と湖畔沿いの道をそれぞれ見やる。
「高速を無理矢理抜けようとすると、すぐにミサイルが飛んでくるだろう」
と、吉川。
「他の車に当たったらどうするんですかねー」
「巻き添え上等なんだろ。PO対策機構からすれば、俺達の命にはそれだけの価値が有り、善良な一般市民には巻き添えで殺される程度の価値しか無いんだろう」
ユダが疑問を口にすると、勤一がたっぷり毒を込めて言い放った。本気で言ってるわけではない。ただの皮肉だ。
「地理的に辛いな。浜名湖の上を通る道は絶対に監視網が働いているはずだ。大きく迂回するにしても、どこに生体情報監視装置が仕掛けられているかわかりづらい。箱根の方は、西に渡ったサイキック・オフェンダーの情報もあったし、大体当たりがつけられたが……」
難しい顔になって言う吉川。当然、湖や海を泳いでいくという選択肢は無い。
「気になっていましたが、警備が厳重なのに、何でわざわざ関所近くを通るのですか?」
ユダがまた疑問を口にする。
「明智は知らなかったのか。監視装置が仕掛けられているゾーンのラインがわからないからだ。東西を繋ぐ車道のどこかに、監視装置が仕掛けられている。それは無差別に仕掛けられているというわけではなく、関所を挟んだ南北に延びるラインゾーンに沿って仕掛けられている」
「しかし関所に関しては、関所に仕掛けられているとわかっている。なので、関所近くに向かうのが一番安全で、関所の近くから、歩道を避けて通るのがいいらしい。西に上手く逃げたサイキック・オフェンダーと、失敗したが運よく生きのびたサイキック・オフェンダーの情報だ」
吉川と勤一が二人がかりで解説した。
「つまり、湖畔に沿って大きく湖を迂回するとなると……どこで監視の網にかかるかわからない。どこかに監視ラインがあるはずだ」
湖畔の道路を見やる勤一。箱根のように道から外れて移動する手もあるが、かなりの長距離移動となる。
「湖を上手く渡ったとしても、その先は住宅街だ。近くに森もあるが」
と、吉川。
「つまり……家の中を抜ける?」
「そうなるな」
凡美が伺い、吉川が頷く。
「屋根の上を移動はどうでしょう?」
「目立つだろ」
ユダの提案を即座に否定する勤一。
「家の中も面倒よ」
と、凡美。
「家の中といっても、屋内には入らず、できるだけ庭を通っていく」
「なるべく見つからないように移動して、見つかったら殺して解決だな」
吉川と勤一が言った。
「今更だが、遠回りして福島関所にすればよかったかな。あちらは周囲が山だ」
勤一がぼやく。
「先に関所周辺の地理を把握しておけばよかったですねえ」
「四人揃って誰も気付かなかったし、迂闊だったわね」
ユダと凡美が渋い顔で言う。
「湖越えと、さらにその先の関所越え。課題は二つか」
「湖越えの方が大変だ。その先は住宅敷地内を抜ける方法でいいだろう」
勤一と吉川が言った直後、ユダが異変に気付いた。
「あれを見てください」
ユダが後方の空を指す。軍用ヘリが四台、こちらに向かってきていた。
「この場所にこのタイミングで現れた時点で、俺達を追ってきたPO対策機構以外にねーな」
「同じヘリだしな」
勤一が言うと、吉川が突っ込む。
「覚えてなかった」
気恥ずかしそうに勤一。
「戻ろう」
勤一が方針を決めた。
「一旦引き返す。そして長野に向かう。北の福島関所にルート変更だ」
「それでいいな。ここにいても埒が明かなかったし。それに、奴等も俺達がそんな手に出るとは思っていないんじゃないか? これは一種の賭けだが」
「いいじゃない。その賭けでいきましょ」
吉川と凡美が勤一の方針に差賛成する。
「一つ注意。ここからのルートだと、途中の道で監視ラインに引っかかる可能性が無いわけでもないぞ」
吉川が釘を刺す。
「監視ラインは関所を起点に、東西を隔てるように、おおよそ南北に伸びているっていう話だから、平気だとは思うけどなあ……」
若干自信無さげに言いつつ、勤一が先に車に乗った。




