表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
3068/3386

17

 勤一の横からロッドが襲いかかる。


 テレンスに気を取られていた勤一は、微かに反応が遅れる。ロッドが放った拳が、勤一の左側頭部に炸裂した。


(重い。こいつは超常の力の持ち主か? それとも生身でこの強さか?)


 ロッドから力の気配は感じない。テレンスも同様だ。体内のリコピーアルラウネ・バクテリアによって、同様の覚醒者の気配はわかってしまう。


 ロッドは一撃に留まらず、何発もの拳を高速で勤一に撃ち込んだ。

 人間の頭蓋骨を容易く割ってしまうほどのパンチを放てるロッドだが、勤一の頭蓋骨を割るには至らない。衝撃はダメージとなって加算されているが、強い再生能力を持つ勤一にしてみれば、大した攻撃とは言えない。


 勤一が大きく腕を振り回し、ロッドを薙ぎ払おうとしたが、ロッドは後方に素早く下がって避けた。


 注意がロッドに向いたその隙をついて、テレンスと強化吸血鬼二人の計三人が一斉に飛びかかってくる。吸血鬼の一人は大きく跳躍して、文字通り飛びかかってきた


「さよならパーンチ!」


 飛びかかってきた吸血鬼に反応し、勤一は拳のヴィジョンを繰り出す。吸血鬼の胴体がひしゃげて、空中で跳ね返されるようにして、後方に吹き飛ばされる。


 テレンスが低い体勢でナイフを振るう。勤一の膝裏を狙い、切り裂く。しかし意味は無いに等しかった。切り裂かれた傷は、すぐに塞がれてしまう。


(これは我々の手に負えない相手かもしれませんね)


 この時点でテレンスはそう判断する。


 もう一人の吸血鬼が、テレンス同様に身を低くして勤一に接近すると、すれ違い様に手刀を一閃させた。勤一の片足を完全に切断した。

 バランスを失って倒れる勤一。そしてテレンスは切断された足を見て、ふと閃く。


「おいっ」


 テレンスが切断された勤一の足を手に取って、鞄の中に入れてしまったのを見て、勤一は呆気に取られて声をあげる。こんなことをされるとは思ってもみなかった。そして再生させないための有効な手である。


「ほあっ?」


 テレンスが思わず間の抜けた声をあげた。テレンスの真横に、吉川で転移してきて、ひょいと鞄を奪い取り、勤一の方へと放り投げたのだ。


 勤一は鞄をキャッチして、鞄の口を開けて中の足を取り出し、切断面にくっつける。


 テレンスは一瞬呆気に取られたが、すぐに気を取り直して、吉川の首を狙ってナイフを横に振るう。

 吉川はその場から消えた。転移して避けた。

 その吉川がいた空間を、投げ縄が横切る。


「あ~ん……外れ~」


 キャサリンが吉川を狙って投げた投げ縄だった。残念そうな声をあげるキャサリン。


 強化吸血鬼達が次々と、一人突出した状態の勤一に襲いかかる。


 そこに凡美が再び棘付き鉄球を放つ。今度はバネをつけたまま地面と水平に飛ばした。

 空中でぴたりと止まる鉄球とバネ。強化吸血鬼達はそれを見て立ち止まる。何か危険な気配を感じて、鉄球の側を横切ることを躊躇っていた。


 彼等の判断は半分正しかったが、間違ってもいた。立ち止まらず、さっさと逃げるべきだったのだ。鉄球が激しく燃え上がったかと思うと、四方八方に炎を噴き出した。噴いた炎は大きなアーチを作り、その二つが吸血鬼に直撃した。


「うぎゃああぁぁっ!」

「ノオォオオ!」


 火達磨になった吸血鬼が七転八倒する。他の吸血鬼は危うい所で回避していた。


「このビッチが!」


 ミランが毒づき、凡美に二丁の銃口を向ける。


 ミランはぎょっとした。引き金を引けなかった。銃を構えた自分の両腕が、拳銃が、さらにはその周囲の空間が、ぐにゃぐにゃに歪んでいる。

 危険を感じたミランは、すぐさまその場から飛び退いた。刹那、ミランがいた空間に切れ目が走る。


「惜しい。反応が早いな」


 空間歪曲によって断層を作り、ミランを切断しようとした吉川が呟く。


 空中にヘリコプターのプロペラ音が響く。二台のヘリが徐々に近づいてくる。


「援軍みたいですっ」


 空を見上げて、ユダが叫ぶ。一昨日にも見た、PO対策機構を運んでいた軍用ヘリだ。


 そのユダの背後から、黒い影のような物が飛び出てきた。


 上空の二台のヘリに気を取られた状態で、背後から不意打ちであったにも関わらず、ユダはその攻撃を避けた。


(今のをかわされるなんて)


 今度こそ邪魔なユダを始末できるとして、絶好のタイミングで不意打ちをかましたつもりであったデビルは、嘆息してしまう。


「やはりですか」


 ユダがデビルの方を向いて、さして驚いた風でもなく告げる。


「嫌な予感……ずっとしていたんですよ。そして貴方が死んだとはどうしても思えなかったんです。いやー、警戒し続けておいてよかったー。残念でしたっ」


 デビルに向かって、小気味よさそうに笑うユダ。

 デビルは別段腹を立てなかった。それどころか逆に、ユダに対して称賛の念すら抱いてしまっていた。


「こいつ……まだ生きてたのか……」


 ユダとは逆に、吉川は驚いていた。凡美と勤一も、デビルは死んだと思っていた。


「何なのあの真っ黒な子。こっちの味方っぽい?」

「どうでしょうねえ……」


 デビルを見て、キャサリンとテレンスが訝る。


 二台の軍用ヘリがどんどん近付いてきたかと思うと、吉川、凡美、ユダに向けて機銃で攻撃してきた。勤一は側に海チワワの構成員がいたので、勤一ヘの銃撃を避けた格好だ。


 凡美はいつの間にか棘付き鉄球を手元に戻していた。手元の鉄球から凄まじい速度で針が伸び、そして根本から動いている。

 銃弾は全て鉄球の棘によって弾かれていた。


「ちょっと疲れてきたわ……」


 鉄球に次から次へと様々な力を発動させた凡美が、額をぬぐって息を吐く。


「鉄球に後付けで能力をいくらでも付与できるという能力――確か能力名は『ワイルド・どんでん返し・シングス』でしたっけ?」


 テレンスが凡美に声をかける。


「もうその名前は恥ずかしくて使ってないし、その能力名を口にしたのって、たまたま酔っ払って勢いで言っちゃったんだから……」


 凄く嫌そうな顔になる凡美。


(何でもありの凄い能力と思われているのかしらね。実際には条件があるんだけど)


 凡美の鉄球は、後出しじゃんけんのように、状況に適応させた形状に変化し、あるいは能力を発動させるが、その度にどんどん能力や変化が増えていくわけではない。また、発動するにあたって、危険を感じた状況に限るという条件がある。


 軍用ヘリの一台が着地する。扉が開いて中から無数の拳大の塊が、勤一めがけて飛来した。


「悪意への支援!」

 ヘリ中から声が響く。


 勤一は回避したが、一つだけ肩に当たってしまった。当たったのはトマトだった。


「ぐっ!」


 くぐもった声を漏らし、苦痛に顔を歪める勤一。肩にへばりついたトマトの中身が、勤一の肩を溶かしていく。肩から煙が出ている。


「一つしか当たってねーじゃん。オリジナルの運命操作術しょぼーい」

「黙れ! 私の力をもってしても一つしか当てられない、二号の方にこそ問題がある!」


 二号と美香が文句を言い合いながら、ヘリの中から降りてきた。続けて、十一号と七号も姿を現す。十三号はヘリの中にいるままだ。


 さらにもう一台のヘリも着地した。こちらもPO対策機構だが、自警団で構成されている。


(流石に多勢に無勢)

 軍用ヘリを降りてきた面々を見て、デビルは思う。


(あいつはデビル……!? どうしてここに!?)

 美香の視線がデビルに向けられる。


「好機ですよ」

「わかってるわよん」


 テレンスが微笑み、キャサリンが特製の投げ縄を投げた。


 投げ縄が空中で解けて、鋼線の網が広がり、勤一の頭から降りかかる。


「このっ……」


 勤一が片腕で網をちぎろうとしたが、出来なかった。それどころか肌と肉が鋼線に切り裂かれる始末だ。


「世話を焼かせる」

 吉川が息を吐き、勤一の側へと転移する。


「偶然の悪戯!」


 その瞬間を狙って、同時に運命操作術も発動させながら、美香が銃を二発撃った。

 吉川が転移して助けにくることを、美香は読んでいた。しかし具体的な場所まではわからない。そのため、運命操作術をかけながら、大体の当たりをつけて撃った。


 銃弾は二発とも、吉川の背中に当たった。

 不幸中の幸いであったが、防弾繊維は貫けなかった。しかし吉川は呼吸が止まって全身が痺れるほどの衝撃を味わい、その場に倒れて無防備な姿を晒してしまう。


「はっはーっ、さよならベイベーッ」

 その吉川に、ミランが狙いをつける。


「吉川さんっ!」

「吉川っ!」


 ユダと勤一が叫ぶ。勤一はすぐ側で倒れている吉川を何とかかばおうとするが、網に絡めとられていて上手く動けない。


 ミランが引き金を引いたのとほぼ同じタイミングで、吉川の体が地面に沈み込むようにして消えた。


「はあっ!?」

 顔を歪めて怒気を孕んだ声をあげるミラン。


「まさか……!」

 美香は何が起こったのか理解した。


 吉川がいた場所の地面から、腕が伸びる。現れたのは腕だけだ。吉川の腕だ。そしてその手が、網に捕らえられた勤一の体に触れる。

 直後、網をその場に残して、勤一の姿が消えた。吉川の手も消えた。転移したのだ。


 二人がいた場所の地面には、黒い影のようなものがあった。


「デビル! 何故邪魔をする!」

 美香が黒い影に向かって叫ぶ。


(奈落に落とすのは、希望が叶うと思えたその直前。そのタイミングが一番。今は違う)


 デビルは口に出す事無く、美香の問いかけに対して答えた。そして二次元化したまま道の外へと移動する。


「デビルが……助けてくれた?」


 目の前で起こったことを見て、美香の叫びを聞いて、ユダは呆然とした顔になっていた。


「そう……みたいだな。げほげほっ」


 ユダの横に転移した吉川が、苦しげに咳き込みながら認める。勤一もいる。


「逃げましょうっ」

 凡美が声をかけ、鉄球を飛ばした。


 飛ばした鉄球が無数に分裂する。そして何個もの鉄球が空中を旋回しだす。


「何なの? これ……」

「こわいにゃー」


 十一号と七号が慄く。


「迂闊に近付かない方がいいですよ。何が起こるかわかりません」


 テレンスが警告した直後、眩い光が放たれ、轟音が響いた。

 何名かは硬直し、何名かは失神していた。


「スタングレネードとはな……」

 しかめっ面で一番早く身を起こすロッド。


「まんまと逃がしたか!」

「そのようですね……」


 美香もしかめっ面になって悔しげに叫び、テレンスは嘆息していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ