表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
3066/3386

15

「何だ……こいつは……」


 影が起き上がるようにして現れた、全身真っ黒な影のような少年を見て、吉川が唸る。


「わかりません。でもこいつはずっと僕達についてきました。時折感じたんです。気のせいかとも思いましたが、そうではなかったようです。そしてこの悪意はただ事ではないです。もしかしたら……」


 ユダがデビルを睨んで、いつになく厳しい口調で言う。

 デビルもユダを見返していた。ずっと隠れて観察しているつもりだったが、ユダのせいで台無しになってしまった。


「あなたがお婆さんをおかしくしたの?」

「お婆さん、目が悪いから。お婆さん、目が悪いから。お婆さん、目が悪いから」


 問いかける凡美に、同じ台詞を繰り返すデビル。吉川とユダには何のことかわからないが、凡美はぞっとした。先程自分が口にした台詞だったからだ。


「もしかして、吉川さんをおかしくして、皆を殺させたのもこいつですか? いや、バーサーカー事件を引き起こしているのはこいつですか? だとしたら、何のためにそんなことを……。何のために僕達を……」

「何だと……」


 ユダの推測を聞き、吉川の顔色が変わる。


「ニートの仲間あぁぁ! 四人集まればニート四天王ぉぉお!」


 老婆が叫びながら腕を振るうと、腕から伸びていた湾曲していた針のようなものが、一斉に射出された。


 凡美は針を避ける。勤一は腕で防ぐ。吉川とユダがいる方には放たれていない。


「否定するなら申し開きくらいは聞いてやる」


 デビルを睨みつけて吉川が問うと、デビルは目を細めた。明らかに笑っているのがわかる。それを見て、吉川のやることは決まった。


「有罪」


 吉川が一言呟くと、デビルがいる場所の空間を歪める。空間の歪みはみるみるうちに大きくなり、やがて歪みが極限になった時、デビルの体が頭頂から股間にかけて、縦一文字に切断された。


 直後、吉川とユダは驚愕した。二つに分かれたデビルの切断面がそれぞれ盛り上がり、それぞれが元のデビルになったのである。そして目の前に二人のデビルがいる。


「分裂しましたよ……」

「プラナリアかよ。面白いな。無限に分裂できるかどうか試してやるか」


 ユダが声に恐怖を滲ませるが、吉川は臆することなく、さらにデビルの周辺空間を歪ませる。


(無駄な消費。これ以上のダメージも分裂もお断り)


 今度はデビルもただやられるわけではなく、二人揃って、地面に潜り込むかのように二次元化して、空間歪曲による切断を避けた。


「どうしたのっ? 勤一君っ」

「毒……かな? 糞っ……」


 突然蹲り、苦しげに顔を歪める勤一に、凡美が声をかける。


「うがああぁぁあ! にぃぃぃぃとぅぅぅおうおぅおぅ!」


 叫びながら迫る老婆に、凡美が口からビームを放った。


「うごっ!」

 ビームの直撃を受けた老婆が倒れる。


「何の……こ、これしきぃぃ……ニートなどに負けぬわぁ~……」


 かなりのダメージを負ったはずだが、老婆を殺害するには至らず、老婆はゆっくりと身を起こす。


「勤一君、大丈夫なの?」

「大丈夫……でもねえけど、頑張って排出してみる」

「これでどう?」


 凡美が右手を鉄球に変えて飛ばし、勤一が毒針を受けた箇所にくっつけた。


 鉄球の棘が勤一の腕に突き刺さり、何かを勤一の体内に注入していく。


「大分楽になった。でも……今は動けない……」

「わかった。時間を稼ぐわ」


 勤一をかばうようにして、勤一の前に立ち、老婆と向かい合う凡美。


「お前かっ! お前が一郎をたぶらかし、堕落させてニートにしたんだね! 私にはわかるんだよ! 許さなあぁぁぁい!」


 勤一と自分の間に立った凡美を見て、老婆が怒り狂う。


 二次元化したデビルが、二手に分かれてそれぞれ左右に分かれて、家屋へと接近してくる。


 吉川はユダの手を取り、転移した。家の中から庭へと出た。相手が何をしてくるかわからないので、ひらけた場所の方が戦いやすいと判断した。


 デビルは動きを止め、Uターンして、自分の後方に転移した二人の方へと向かう。


(二人同時は無理だ……)


 吉川が右側から来るデビルに狙いをつけ、空間を歪ませた。


 今度は切断されるのではなく、爆発が起こった。極限まで空間を収縮させることで、圧縮された空気が爆発的に広がった。爆音と共に地面が爆ぜ、土が弾け飛ぶ。そしてデビルの体も。

 血肉が、骨が飛び散る。体表とは異なり、血は赤い。骨は白い。中身は人と変わらないように見える。


 左側から来たデビルが地面から飛び出るようにして三次元に戻り、吉川とユダに向けて衝撃波を放った。


 吉川もユダも避けられず、大きく吹き飛ばされて倒れる。


(当たったけど、クリーンヒットはしていない。少し目測を見誤っていた)


 二人を吹き飛ばして倒したものの、そのダメージはいまいちと見るデビル。


「死ンねええぇぃ! ニート製造機さげまんあばずれがァァッ!」


 老婆が跳躍し、大きく伸びた二本の牙を凡美に突き刺そうとする。


 凡美は冷静に右腕を振り、手首のバネを伸ばした。


「ぷぽっ!」


 棘付き鉄球が老婆の顔を横殴りにして、老婆の牙を二本共折った。頬骨と鼻も折れ、歯も何本も折り、老婆は凡美のすぐ手前に落下する。


「ごぼごぼ……よくも……」


 顔面を血塗れにして、老婆が恨めしそうに凡美を見上げる。口から吐き出す血の中に、歯も混じっていた。


(殺すしかないのか……)


 動けずに凡美任せにしている状態で、勤一は口の中で呟く。


(俺は手をかけたくない。凡美さんにやってほしい……ああ、卑怯なこと考えてやがるな、俺……)


 自身の考えを恥じる勤一。


「うぽおおおう!」


 老婆が叫び、両腕から再び湾曲した針のようなものを何本も生やす。


 老婆が腕を振り、凡美めがけて至近距離から針を一斉に飛ばした。


 凡美の鉄球が手に付いたまま、激しく回転しだす。同時に、鉄球についた棘の何本かが伸びて横に大きく広がり、まるで扇風機の羽根のような形状になった。扇風機の羽根モドキは高速回転して、全ての針を弾き飛ばした。


「ンおのれえええぶふっ!」


 悔しそうに叫んでいる途中に、老婆の体が大きく吹っ飛ばされた。縁側から庭へと落ちる。


「勤一君」


 凡美が勤一に目を向ける。まだ苦しそうな顔の勤一が、渾身の力を振り絞って殴り飛ばしたのだ。


「俺が……ケリをつける……」


 勤一がよろけながらも、倒れた老婆に向かって歩いていく。凡美は頷き、見送った。


「この……親不孝者がぁ~……。ニートになったうえに……親に手をあげるなんて……」


 見下ろす勤一を、老婆般若のような形相で見上げ、毒づいた。


「ごめんよ。俺は一郎じゃねーんだ。でも……」


 勤一が告げると、老婆ま表情が激変した。憑き物が落ちたかのように、急に穏やかな顔になる。


「ああ……そうだったのかい……。私……色々勘違いしていたみたいだ……」


 先程までの笑顔が老婆に戻った。


「今……靄がかかっていた頭が冴えて、色々思いだしてきたよ……。ありがとうね。私に……」


 老婆の台詞は途切れた。何かを伝えようとして、途中で絶命した。


「吉川さん」

「大事無い」


 デビルの衝撃波で倒された吉川に、凡美が声をかけると、吉川は痛みに顔を歪めながらも立ち上がった。

 四体一の構図になり、デビルは小さく息を吐く。流石にこれは分が悪い。


「お前は何者だ? どうしてこんなことをする」

「俺がケリをつける。俺がケリをつける。俺がケリをつける」


 吉川が問うと、デビルはつい今しがた勤一が口にした台詞を繰り返す。


「この親不孝者がありがとうね。この親不孝者がありがとうね。この親不孝者がありがとうね。この親不孝者がありがとうね」


 今度は老婆の台詞をオウム返しで繰り返すデビルに、その場にいる全員が激しい苛立ちを覚える。


「何なんだ! お前は!?」

 叫んだのは勤一だった。


「何でこんなことをするんです!」

(楽しいから。暇つぶしと興味本位)


 さらにユダも怒りの形相で叫ぶと、デビルは勤一と老婆の亡骸の方へとゆっくり移動した。


「この!」


 悠然と歩いてくるデビルに対し、勤一が蹴りを放ったが、デビルは二次元化して避ける。


(え?)


 目を剥く勤一。デビルが消えただけではない。老婆の遺体も消失していたからだ。


 デビルは二次元化する際に、老婆の死体も同時に二次元化していた。そして影のような状態になって、共に移動して、四人から少し離れる。


 片腕で老婆の亡骸を抱えていたデビルが、もう片方の手で老婆の体を引き裂き、肉片をちぎり出した。そしてちぎった肉片を、己の前方の地面に次々と投げつけていく。

 死体を弄ぶような所業を目の当たりにして、四人は固まってしまっていた。あまりにも常軌を逸する行動を見て、何も出来なくなってしまった。しかしその行動の意味を知り、さらに常軌を逸した行いだったと知る。


 デビルは肉片を地面に投げつけて、文字を作っていた。アルファベットの五文字が、地面に描かれている。DEVILと。


「イカレアピールか? くだらない奴だ」


 硬直からいち早く解けた勤一が呟き、拳のヴィジョンを放った。


 デビルの全身が粉々に吹っ飛んだ。かつてないほどの巨大な拳。これまでで最も高速。以前の有効範囲を遥かに越えた距離への攻撃。


(彼の怒りが、威力を大きくはねあげたみたいね)


 勤一の孫の手の威力を見て、凡美は思う。


「死んだ……死にました。生命活動停止しています」


 肉片となって散らばるデビルを見て、ユダが報告する。


(確かに死んでいる。でも……何だろう、この感覚。死んでいるのに、死んでいないような気がする……。どうして……? 気配も無いのに)


 報告した一方で、ユダは漠然として不安を抱いていた。


「こいつは何だったんだ? PO体側機構の刺客にしては趣味が悪すぎる」

「案外……俺達と同じかもな……」


 訝る吉川に、勤一が放心気味の顔で言った。何となくそう感じたのだ。


「同じサイキック・オフェンダーです? それなのにこんなことを?」

「別にサイキック・オフェンダーが全て仲がいいわけではないから、そういうこともあるかもな」


 信じられないし信じたくないユダであったが、吉川は可能性としてありうると受け止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ