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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
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4

 勤一の肌が青黒く変色し、筋肉が膨張していく。


「キツいけどあいつの接近戦は受け持つよ。でも俺一人じゃ難しいから援護よろしく」

「私も行く」


 十夜が前置きして進み出ると、十一号も十夜の横に並んだ。


「コスプレ二人組かよ」


 怒りの形相を張り付かせた勤一が、十夜と十一号を前にして身構える。


「十と十一の力が合わさり二十一億のパワーに変わる~♪」


 突如十三号が歌いだすと、十夜と十一号の体に変化が生じた。全身に燃えるような力が漲っている。十一号は慣れているが、十夜は少しだけ戸惑った。


 晃が勤一を撃つ。銃弾が勤一の胸の中心を貫く。

 心臓に穴が開き、勤一の動きが止まった。衝撃が思考も停止させた。再生能力を持つ勤一はこの程度では死なないが、ダメージをものともせずに瞬時に超回復できるというほどでもない。


 その機を狙って、十夜と十一号は動いた。二人揃って駆け出し、一気に間合いを詰めた。


「させるか!」


 仲間の一人が叫び、十夜と十一号を狙って無数の小さな光弾を放つ。


「させにゃーいっ」


 七号が真似するように叫び、無数の石礫を放った。正確にはアスファルトの塊を礫にして飛ばしている。


「偶然の悪戯!」

 ワンテンポ遅れて美香が叫ぶ。


 地面から飛んだ石が地対空ミサイルの如く、飛来する光弾を迎撃していく。美香の運命操作術が作用し、命中度が飛躍的に増している。


「出でよ白竜……」


 サイキック・オフェンダーの一人が小さく呟くと、美香や晃達の横に、巨大な白い鱗で覆われた竜が現れ、口から冷気のブレスを吹きかける。


「みそウォール」


 美香と晃達はその場を飛び退いたが、回避する必要も無かった。凛がみその壁を作り、冷気を遮断したからだ。

 白い竜はすぐに消えた。竜を呼び出した勤一の仲間は、悔しそうに顔を歪めている。


 凡美が勤一の背後から、棘付き鉄球を飛ばした。狙いは十夜だ。

 バネのついた棘付き鉄球は直線状には飛ばずに、勤一を避けて放物線を描き、十夜に襲いかかる。


 十夜は手刀でこれを打ち払う。鉄球が大きく横に逸れる。


「メジロ水平チョップ!」


 技を出した後で技名を叫ぶ十夜であったが、同時か先に叫ばないと締まらないと思い、ヘルムの下で眉根を寄せた。


 棘付き鉄球は地面に落ちる寸前で引き戻され、再び十夜に襲いかかる。手首を変化させたバネにより、凡美はこの鉄球を上手にコントロールすることが出来る。


「メジロエル……ボ!」


 今度は技名と技のタイミングを合わせたつもりの十夜であったが、迎撃しようとして繰り出した肘打ちは当たらず、鉄球は十夜の側頭部に当たり、十夜の体が横向きに倒された。


 倒れた十夜にとどめを刺そうとした凡美だが、晃が銃を撃ってきたため、追撃は妨げられた。

 銃弾は凡美の頭の近くをかすめる。殺気に反応して、際どい所で回避できた。凡美はさらなる銃撃を警戒して、後方へと下がる。


「ピンクバズーカ!」


 十夜が倒されたので、仕方なく一人で勤一に仕掛ける十一号。


 十三号の歌の効果もあって、十一号はパワーアップしている。しかし、勤一は凡美の拳を太い前腕で容易く受け止めた。


 勤一が蹴りを繰り出す。十一号は避けられず、腹部に蹴りを受けて吹き飛ぶ。スーツを着ていて、肉体強化されている十一号で、十三号の支援歌を受けていてなお、一発で行動不能になる恐るべきパワーだった。常人なら即死するであろう威力だ。


「ギャッ!」


 十一号が吹き飛んで倒されたその時、ほぼ同時に、勤一の後方で悲鳴があがった。


 思わず振り返る勤一。仲間の一人が、湾曲した黒い刃で殺害されていた。刃が背中から胸まで深々と貫き、さらに腹部へと向けて切り裂いていき、血と内臓が一気に噴き出す。


「石江君!」


 凡美が殺された仲間の名を叫ぶ。


(攻撃そのものを転移できるのか……厄介だ)


 勤一が敵の集団に目を向ける。誰の仕業なのかを見抜こうと目を走らせる。そしてすぐにそれが誰であるかわかった。刃が半分消えている状態の大鎌を持っている女がいる。凛だ。


「さよならパーンチ!」


 凛を狙って遠隔攻撃を繰り出す勤一。巨大な拳のヴィジョンが、凛の前方に出現する。


「みそウォール」


 凛は慌てることなく、みその壁を作って勤一の念動力攻撃を防がんとする。


 みその壁は相当厚めに作っておいたが、勤一の孫の手は壁を突き抜けた。しかしみそ壁の厚みが、その力をかなり減衰させており、突き抜けてきた拳のヴィジョンはスピードもパワーもかなり失っていた。凛は簡単に拳を避ける。


(前衛二人がやられちゃっているこの状態は不味いわね。あいつの力、半端じゃない。何とかしないと一方的に蹂躙されちゃう)


 凛が勤一を見据え、鎌を構え直す。十夜と十一号が倒れているとあれば、自分が前衛に出て、勤一の相手を務めるしかない。しかし正直自分では、近接戦闘で勤一と戦うには、力不足な感が否めない。


「ぐへえっ!」

「おはあっ!」


 さらに悲鳴が二つ上がる。


「はははは、油断しやがって。ざまーざまー」


 嘲笑をあげたのは二号だ。勤一達の仲間二人の近くの地面から、小さな木が生え、枝から刀剣のような形状の巨大な葉が伸びて、一人の腹部を突き刺し、もう一人の足を切り裂いていた。


「亨君! 歩君!」


 凡美が攻撃された仲間の名を叫ぶ。


(これは……分が悪いぞ。亨は助からないが、歩は致命傷というわけではない。このままでは不味い)


 勤一はこの時点で、逃走した方が良いと判断した。

 自分一人なら戦ってもいい。しかし残った仲間二人も失いかねない。それだけは避けたい。


 勤一は敵に背を向け、走り出した。


「えっ?」

「逃げる」


 走りながら勤一は、凡美の体を抱きすくめる。足を切られて倒れた仲間のことも駆け抜け様に抱え上げる。そうして二人を担いだ状態で、逃げていく。


 晃がその背に向けて銃を撃とうとしたが、勤一に担がれた凡美が口からビームを吐いて、追撃を妨げんとする。

 ビームが地面に直撃すると、爆発が起こった。


「危なっ」


 ビームの着弾点から距離を取り、爆風を至近距離で浴びずに済んだ晃が、思わず呟く。美香やクローンズも慌てて回避していた。


「痛たた……」


 凛だけ若干回避が遅れ、爆風を近距離で浴びて倒れていたが、すぐに立ち上がる。


 側に停車してあったトラックに乗り込む、原山勤一と山駄凡美と他一名。


「あーあ……また逃がしちゃったかあ……」


 走り去るトラックを見て、晃が残念そうに呟く。


「トラックのナンバーは撮ったぜ」

 リチャードがやってきてにやりと笑う。


「でかした! オフィスに送ろう!」

「どうせすぐに乗り捨てるべー」


 美香が称賛したが、二号せせら笑ってケチをつけていた。


『御苦労だったな』


 美香がオフィスに連絡して、戦闘の報告を行うと、電話に出た人物――壺丘三平が労った。


 壺丘三平は元フリージャーナリストで、その後に殺人倶楽部のお目付け役となったが、現在はPO対策機構のオフィスの一員も兼任している。むしろそちらの仕事の方が本業化してしまっている。


『西に逃げる可能性があるな。西に逃げ切られたら現状では手を出しづらい。出来ればその前に始末したい』

「本気で西に逃げる気なら、もう追跡は無理だ! 車でそのまま西に向かえばいい」

『そうでもない。関所があるからな。マークしたサイキック・オフェンダーを、これ以上西には送らせない。特にA級指定の奴はな』

「さっきも聞いたけど、関所って何……?」


 二号が疑問を口にした。


「知らなかったのか!?」

 驚いたように二号を見る美香。


 サイキック・オフェンダーが西に流れるようになってから、政府は秘密裏に関所を設けて、特に凶悪なサイキック・オフェンダーが西に行かないようにしている。サイキック・オフェンダーの中でも特に凶悪な者は、生体情報が取得されていて、関所と呼ばれる場所の周辺の道路には、生体情報監視装置が仕掛けられている。この監視装置があるおおよそのポイントが、関所と呼ばれているという話だ。


『江戸時代の関所とは違うぞ。実は関所だけではなく、東西に繋がる車道のあらゆる場所に監視装置が仕掛けられていて、こちらで生体情報を取得しているサイキック・オフェンダーが近付くと、反応する。そして関所から大量のロケット弾が飛んでいく仕掛けだ』

「私は関所の実態を知っていたがな! 関所だけを警戒しているサイキック・オフェンダーが関所を避けても、他の車道に隠されている監視装置に引っかかる者が多いと、PO対策機構内部で聞いた!」

「私も知ってるにゃー」


 壺丘が解説した後で、美香と七号が言った。


「ちくしょー、何だよそれ。あたしだけ無知かい」

 二号が頬を膨らませる。


『ま、知らない奴がいるのは無理も無いな。公には秘匿されているんだ。サイキック・オフェンダー内では知れ渡っているようだが』


 と、壺丘。


『まあ、原山勤一と山駄凡美に関してはもういい。実は月那には別の仕事を頼む所だったんだ。他の奴等と協力してな』

「僕達は?」


 晃が伺う。


『ほころびレジスタンは休んでていいぞ』

「えー、まだまだいけるのに」

「あたし達も休みたーい。つーかもう夜中だし寝かせろー」


 晃と二号がそれぞれ不満の声をあげた。


『今すぐ動けとは言ってない。動くのは明日からでいいぞ』

「仕事内容は!?」

『今回は殺しは無しだ。『義賊屋吉川』を捕獲しろ』

「えー、あの現代の義賊集団の『義賊屋吉川』を捕獲しちゃうの? 放っておいていいじゃん。金持ちしか狙わないし、貧乏人に金をバラまきまくってるんだろー?」


 壺丘の新たな指令を聞いて、二号が異を立てる。


『義賊を名乗ろうと犯罪者だし、サイキック・オフェンダーだぞ。放ってはおけんよ』


 はねつけつつも、壺丘も二号の言い分に多少は共感していた。


***


 トラックの助手席に座る凡美は、運転する勤一の顔を見やる。

 強張った表情の勤一を見て、凡美はすぐに目を逸らしてうつむき加減になる。


(一日に二度も襲われて、仲間を二人も失って、かなり堪えているみたいね。この子、自然とリーダー役になって、皆のこと守り続けてきたし、仲間を死なせたことに負い目も感じていそう)


 自分が少しでも勤一の支えになってあげたいと、凡美は切に思う。


「畜生が……何もいいことありゃしねえ」

 ぽつりと呟いて、勤一ははっとする。


(もうこの台詞はやめようと思っていたのにな……)


 それは昔勤一がよく口にしていた独り言であったが、自分で口走りながら、その台詞を口にしていることが、勤一は嫌で仕方なかった。


「凡美さん」

「え? 何?」

「あんたは強いんだな……。俺よりずっと余裕あるように見える」


 勤一が静かな口調で言う。最年長者で、自分より十歳以上年上の凡美に対してだけは、さん付けで敬意をもって接していた。


 正直勤一は、女性に対して嫌悪感を抱いている。年上の女性に対してはさらに嫌悪感が増す。二十歳以上年上の女性の家で、ずっとヒモ生活をしていたおかげでそうなった。しかしどういうわけか凡美に対しては、そのような感情が湧かなかった。


「私は息子と二人暮らしで、あの子のために必死に頑張って耐えてきたからね。年季が違うのよ」


 仲間の前で自分の身の上の話をするつもりは無かったが、今の勤一の気持ちを少しでも和らげられればいいと考えた凡美だった。


「そうだったのか……」


 凡美は冗談めかして言っていたが、彼女が短く口にした過去は、勤一の心に重くのしかかった。


(でも今の凡美さんは、俺達と一緒になって、パプリックエネミーになっちまってる。その一人息子ってのはきっと……もうこの世にいないんだろうな。あるいはそれが原因で?)


 勘繰りかけた勤一だが、下世話に思えて、それ以上は考えることをやめた。

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