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数十分後、月那美香含めたツクナミカーズの五名が現場に到着し、ほころびレジスタンスの三名から、尾行していたサイキック・オフェンダー五名を取り逃したことを聞いた。
「そんなわけで、晃が貴女達の到着を待たずに先走って取り逃がしちゃったのよ。ごめんなさいね」
凛が謝罪する。
「はー……とんだ無駄足。本当に悪びっ!」
「否! 晃の判断は正しかった! 私が同じ状況でもそうしただろう!」
二号が悪態をつきかけた所を、美香がげんこつで頭を殴って中断させて、凛サイドの動きをフォローする。
「その結果取り逃し、今後も犠牲者が増えることになっても?」
「そ、それは……!」
フォローしてもらっている立場ではありながらも、凛が辛辣な台詞を口にしたので、美香は鼻白む。
「青臭い正義の味方よろしく、感情任せに突っ走ったんだから、そういうことになるわなー。ケケケ……」
二号がさらに嫌味を口にするが、今度は美香も殴らない。
「まあ、人工衛星から位置情報は把握済みだから、今からまた行けばいいけどね」
晃が言い、ホログラフィー・ディスプレイを開いた。
「どこなの?」
「あ……位置情報把握できなくなった。超常の力で妨害されたみたい」
十一号が問うた矢先、晃は顔をしかめて報告する。
「オフィスにも全部報告しておいたわ。これで少し私達の評価が下がって、仕事が回って来なくて楽になるかもね」
凛が皮肉げに言う。オフィスとは、PO対策機構の上層部のことだ。
「追跡されていることも見抜けるような感知能力がいるんじゃ、情報屋に追跡させるのも危険だなー」
「追跡させているの?」
晃の台詞を聞いて、凛が眉をひそめる。
「頼んじゃった。『マシンガン的出産』に」
「今すぐキャンセルしておいて」
「わかった」
有無を言わせぬ口調で凛が告げると、晃は言う通りにする。
『キャンセル? どうして?』
情報組織マシンガン的出産に所属するリチャード井上は、晃の言葉を聞いて不満げな声をあげた。
「危険だからだよ。人工衛星からの監視さえ眩ますんだぜ? 関所の生体情報監視装置もちゃんと機能するかわからない」
「関所?」
晃の言葉に小首を傾げる二号。
『そういう能力があるってことか。でもそれは相手の監視の位置まで把握できるって、確定したわけじゃないだろ?』
「それはそうだけど……」
『最先端のテクノロジーで監視した後に、アナログな尾行を重ねてやってみたらどうなるか、試してみない? やばそうならすぐ逃げるさ』
「危険だ! ディック!」
美香がリチャードの愛称を叫ぶ。彼女もリチャードと面識があるし、マシンガン的出産には世話になっている。ボスの古賀とも数年来の付き合いだ。
「かなりヤバい奴だし、そっちの心配してキャンセルしよーって話なんだよ」
『ああ……それすっごくカチンとくるね。プライド傷つくね』
晃の台詞を聞いて、リチャードは鼻で笑った。
『美香の姉さんよー、それに晃も、こちとら裏通りの情報屋だし、うちらは古臭いやり方で体張っているんだから、いつだって危険だよ。なあ、だからさ、晃、俺に任せてくれよ』
「んー……わかった。じゃあ頼むよ」
晃は息を吐き、電話を切った。
「本当に良かったのか?」
それまで道に座って休んでいた十夜が、立ち上がって尋ねる。
「上手くいったらめっけもんだ。失敗しても僕達は何とも無い。ちょっと寝覚めは悪くなりそうだけどね」
肩をすくめて投げ槍に言う晃。
「ま、あの子の言う通り、危険は承知の世界だしね」
「相手は超常の力を備えているのですよ? 危険の度合いが違うと思いますが」
「それももちろん承知済みってことよ」
十一号、十三号、凛がそれぞれ言った。
***
時刻は午前十二時に近付いていたが、原山勤一と山駄凡美と他三名は、深夜の工業地帯を歩いていた。裏通りの住人の隠れ家や抗争場所としては、おあつらえ向きの場所だ。
五人は途中まで車で移動していたが、途中で捨てた。その後は徒歩で移動となった。
「眠い……どこまで逃げるんだ?」
仲間の一人が問いかける。
「もうすぐだ」
逃げる場所を決定して案内していた仲間が答える。
「俺が裏通りのしがないパシリだった頃、使っていた隠れ家だ。ベッドは一人分しかないがな」
「普通にホテルに泊まった方がよかったな。さもなきゃ適当に家に上がり込んで、中にいる住人ぶっ殺して泊まるんでよくないか?」
「追跡されている最中に、派手な動きをしてどうする」
「まあ今更だろ」
「尾行を察知したり撒いたりすることが出来る能力があるから、助かる」
「でも常時発動ってわけじゃないからな」
歩きながら仲間達が喋っている間、ずっと勤一は黙っていたが、やがて口を開いた。
「しばらくは隠れるしかない。さっきお前が言っていた案……西に行くことも考え直してみる。こうも短期間に次から次へと襲われたのは、流石の俺も堪えた。しかも敵が強くなっているし」
勤一が仲間の一人に向かって言うと、仲間達は一斉に口をつぐむ。
「悪いな、言うこところころ変わって」
「状況に合わせて柔軟に考えを変える方が、リーダーとしてはありがたいわ」
謝罪する勤一を、凡美がフォローする。
(俺が変に意地を張っているから、皆を苦労させちまってる。もっと早くこうすればよかったんだ)
そう思って落ち込み気味になっている勤一だった。
(犠牲が出る前にこの決断が出来ただけマシか)
勤一がそう思ったその時だった。最後尾を歩いていた仲間が立ち止まった。
「また見られている……。今度は近い」
感知能力持ちかつ、認識を狂わせる力を持つ仲間が、強張った表情で報告する。
(うわ、見つかったか……? でもすぐには見つからなかった。つまり探知する能力を意図的に使わなければ、見られていることには気づかないってことだな)
その台詞は、彼等を尾行していたリチャードの耳にも届いていた。
(悟られちまったんなら、これはもう危険水域だ。流石にもう逃げていいかな。務めは十分に果たした。何より……)
リチャードが逃げようとした矢先、最後尾の人物が、リチャードが潜んでいる場所に視線を向け、指を差してきた。
「あそこだ」
(ヤバい。これはヤバいっ)
潜んでいる場所まで特定され、リチャードは慌てて逃げ出す。
「いたぞっ」
リチャードの姿を確認して、一人が声をあげると、五人で一斉に追いかける。
「餓鬼だっ。速いっ」
「仲間がいるかもしれないから警戒してっ」
「あるいは連絡して呼び寄せたかもしれないぜっ」
追いながら声をかけあう五人。
「届くかどうかぎりぎりだが……さよならパーンチ!」
勤一が能力を発動させる。巨大な拳のヴィジョンが現れて、リチャードめがけて飛来する。
(駄目か? いや……)
リチャードのいる位置が、能力が届くぎりぎり範囲外かのように思えたが、勤一は気合いを入れて、能力の届く距離を伸ばしてみようと試みた。
勤一の目論見は成功した。拳はリチャードの足に当たった。
「あぎゅおっ!」
足に凄まじい衝撃を受け、派手に転倒するリチャード。
無理矢理飛距離を伸ばした分、威力は相当低くなっている。当たった場所も狙いとずれていたが、それでも勤一はリチャードを止めることに成功した。
(マジか……こんなことに……。あと少しだってのに……。ギリギリアウトは勘弁してくれ。何とか粘らないと……)
死の恐怖に怯える一方で、この場の凌ぐために頭を高速回転させるリチャード。
リチャードは足の痛みを堪えて起き上がると、転がり込むようにして狭い脇道に飛び込む。
目の前に扉があることを確認し、工場の建物の中へと逃げ込もうとして、扉のノブに手をかける。しかし、鍵がかかっていた。
「む……」
リチャードを追って脇道に近付いた勤一達であったが、その足を止めた。
「間一髪!」
勤一達の前に立ちはだかった美香が叫ぶ。クローン達も全員いる。
それだけではない。ほころびレジスタンスの十夜、晃も、凛の姿もある。
「またお前達か。しかも――」
勤一の視線は十夜達に向けられた後、美香達の方に向けられた。
「月那美香とツクナミカーズだ……」
「あいつらPO対策機構の中でも相当な戦果あげてるって噂だぞ」
仲間の二人が美香達を見て囁き合う。
「はあ……危機一髪でヒーロー登場ってさ、予測してないタイミングで現れると感動するけど、予め来るのがわかっちゃってると、何で早く来てくれないんだよーって気持ちになるし、もうすぐ来るのに死ぬと嫌だーとか、そんな気分になるね」
美香や晃達の姿を確認すると、リチャードは扉にもたれかかって尻もちをつき、胸を撫で下ろしながらぼやいていた。




