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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
3054/3386

3

 数十分後、月那美香含めたツクナミカーズの五名が現場に到着し、ほころびレジスタンスの三名から、尾行していたサイキック・オフェンダー五名を取り逃したことを聞いた。


「そんなわけで、晃が貴女達の到着を待たずに先走って取り逃がしちゃったのよ。ごめんなさいね」


 凛が謝罪する。


「はー……とんだ無駄足。本当に悪びっ!」

「否! 晃の判断は正しかった! 私が同じ状況でもそうしただろう!」


 二号が悪態をつきかけた所を、美香がげんこつで頭を殴って中断させて、凛サイドの動きをフォローする。


「その結果取り逃し、今後も犠牲者が増えることになっても?」

「そ、それは……!」


 フォローしてもらっている立場ではありながらも、凛が辛辣な台詞を口にしたので、美香は鼻白む。


「青臭い正義の味方よろしく、感情任せに突っ走ったんだから、そういうことになるわなー。ケケケ……」


 二号がさらに嫌味を口にするが、今度は美香も殴らない。


「まあ、人工衛星から位置情報は把握済みだから、今からまた行けばいいけどね」


 晃が言い、ホログラフィー・ディスプレイを開いた。


「どこなの?」

「あ……位置情報把握できなくなった。超常の力で妨害されたみたい」


 十一号が問うた矢先、晃は顔をしかめて報告する。


「オフィスにも全部報告しておいたわ。これで少し私達の評価が下がって、仕事が回って来なくて楽になるかもね」


 凛が皮肉げに言う。オフィスとは、PO対策機構の上層部のことだ。


「追跡されていることも見抜けるような感知能力がいるんじゃ、情報屋に追跡させるのも危険だなー」

「追跡させているの?」


 晃の台詞を聞いて、凛が眉をひそめる。


「頼んじゃった。『マシンガン的出産』に」

「今すぐキャンセルしておいて」

「わかった」


 有無を言わせぬ口調で凛が告げると、晃は言う通りにする。


『キャンセル? どうして?』


 情報組織マシンガン的出産に所属するリチャード井上は、晃の言葉を聞いて不満げな声をあげた。


「危険だからだよ。人工衛星からの監視さえ眩ますんだぜ? 関所の生体情報監視装置もちゃんと機能するかわからない」

「関所?」


 晃の言葉に小首を傾げる二号。


『そういう能力があるってことか。でもそれは相手の監視の位置まで把握できるって、確定したわけじゃないだろ?』

「それはそうだけど……」

『最先端のテクノロジーで監視した後に、アナログな尾行を重ねてやってみたらどうなるか、試してみない? やばそうならすぐ逃げるさ』

「危険だ! ディック!」


 美香がリチャードの愛称を叫ぶ。彼女もリチャードと面識があるし、マシンガン的出産には世話になっている。ボスの古賀とも数年来の付き合いだ。


「かなりヤバい奴だし、そっちの心配してキャンセルしよーって話なんだよ」

『ああ……それすっごくカチンとくるね。プライド傷つくね』


 晃の台詞を聞いて、リチャードは鼻で笑った。


『美香の姉さんよー、それに晃も、こちとら裏通りの情報屋だし、うちらは古臭いやり方で体張っているんだから、いつだって危険だよ。なあ、だからさ、晃、俺に任せてくれよ』

「んー……わかった。じゃあ頼むよ」


 晃は息を吐き、電話を切った。


「本当に良かったのか?」


 それまで道に座って休んでいた十夜が、立ち上がって尋ねる。


「上手くいったらめっけもんだ。失敗しても僕達は何とも無い。ちょっと寝覚めは悪くなりそうだけどね」


 肩をすくめて投げ槍に言う晃。


「ま、あの子の言う通り、危険は承知の世界だしね」

「相手は超常の力を備えているのですよ? 危険の度合いが違うと思いますが」

「それももちろん承知済みってことよ」


 十一号、十三号、凛がそれぞれ言った。


***


 時刻は午前十二時に近付いていたが、原山勤一と山駄凡美と他三名は、深夜の工業地帯を歩いていた。裏通りの住人の隠れ家や抗争場所としては、おあつらえ向きの場所だ。

 五人は途中まで車で移動していたが、途中で捨てた。その後は徒歩で移動となった。


「眠い……どこまで逃げるんだ?」

 仲間の一人が問いかける。


「もうすぐだ」


 逃げる場所を決定して案内していた仲間が答える。


「俺が裏通りのしがないパシリだった頃、使っていた隠れ家だ。ベッドは一人分しかないがな」

「普通にホテルに泊まった方がよかったな。さもなきゃ適当に家に上がり込んで、中にいる住人ぶっ殺して泊まるんでよくないか?」

「追跡されている最中に、派手な動きをしてどうする」

「まあ今更だろ」

「尾行を察知したり撒いたりすることが出来る能力があるから、助かる」

「でも常時発動ってわけじゃないからな」


 歩きながら仲間達が喋っている間、ずっと勤一は黙っていたが、やがて口を開いた。


「しばらくは隠れるしかない。さっきお前が言っていた案……西に行くことも考え直してみる。こうも短期間に次から次へと襲われたのは、流石の俺も堪えた。しかも敵が強くなっているし」


 勤一が仲間の一人に向かって言うと、仲間達は一斉に口をつぐむ。


「悪いな、言うこところころ変わって」

「状況に合わせて柔軟に考えを変える方が、リーダーとしてはありがたいわ」


 謝罪する勤一を、凡美がフォローする。


(俺が変に意地を張っているから、皆を苦労させちまってる。もっと早くこうすればよかったんだ)


 そう思って落ち込み気味になっている勤一だった。


(犠牲が出る前にこの決断が出来ただけマシか)


 勤一がそう思ったその時だった。最後尾を歩いていた仲間が立ち止まった。


「また見られている……。今度は近い」


 感知能力持ちかつ、認識を狂わせる力を持つ仲間が、強張った表情で報告する。


(うわ、見つかったか……? でもすぐには見つからなかった。つまり探知する能力を意図的に使わなければ、見られていることには気づかないってことだな)


 その台詞は、彼等を尾行していたリチャードの耳にも届いていた。


(悟られちまったんなら、これはもう危険水域だ。流石にもう逃げていいかな。務めは十分に果たした。何より……)


 リチャードが逃げようとした矢先、最後尾の人物が、リチャードが潜んでいる場所に視線を向け、指を差してきた。


「あそこだ」

(ヤバい。これはヤバいっ)


 潜んでいる場所まで特定され、リチャードは慌てて逃げ出す。


「いたぞっ」


 リチャードの姿を確認して、一人が声をあげると、五人で一斉に追いかける。


「餓鬼だっ。速いっ」

「仲間がいるかもしれないから警戒してっ」

「あるいは連絡して呼び寄せたかもしれないぜっ」


 追いながら声をかけあう五人。


「届くかどうかぎりぎりだが……さよならパーンチ!」


 勤一が能力を発動させる。巨大な拳のヴィジョンが現れて、リチャードめがけて飛来する。


(駄目か? いや……)


 リチャードのいる位置が、能力が届くぎりぎり範囲外かのように思えたが、勤一は気合いを入れて、能力の届く距離を伸ばしてみようと試みた。


 勤一の目論見は成功した。拳はリチャードの足に当たった。


「あぎゅおっ!」


 足に凄まじい衝撃を受け、派手に転倒するリチャード。


 無理矢理飛距離を伸ばした分、威力は相当低くなっている。当たった場所も狙いとずれていたが、それでも勤一はリチャードを止めることに成功した。


(マジか……こんなことに……。あと少しだってのに……。ギリギリアウトは勘弁してくれ。何とか粘らないと……)


 死の恐怖に怯える一方で、この場の凌ぐために頭を高速回転させるリチャード。


 リチャードは足の痛みを堪えて起き上がると、転がり込むようにして狭い脇道に飛び込む。

 目の前に扉があることを確認し、工場の建物の中へと逃げ込もうとして、扉のノブに手をかける。しかし、鍵がかかっていた。


「む……」


 リチャードを追って脇道に近付いた勤一達であったが、その足を止めた。


「間一髪!」


 勤一達の前に立ちはだかった美香が叫ぶ。クローン達も全員いる。

 それだけではない。ほころびレジスタンスの十夜、晃も、凛の姿もある。


「またお前達か。しかも――」


 勤一の視線は十夜達に向けられた後、美香達の方に向けられた。


「月那美香とツクナミカーズだ……」

「あいつらPO対策機構の中でも相当な戦果あげてるって噂だぞ」


 仲間の二人が美香達を見て囁き合う。


「はあ……危機一髪でヒーロー登場ってさ、予測してないタイミングで現れると感動するけど、予め来るのがわかっちゃってると、何で早く来てくれないんだよーって気持ちになるし、もうすぐ来るのに死ぬと嫌だーとか、そんな気分になるね」


 美香や晃達の姿を確認すると、リチャードは扉にもたれかかって尻もちをつき、胸を撫で下ろしながらぼやいていた。

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