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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
90 欲望の赴くままに遊ぼう
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1

 夜。二十一時過ぎ。男が一人、静まり返った住宅街を疾走している。

 かなりの距離を走り続けているにも関わらず、男は全く息を切らせる様子が無い。彼の肉体は数ヶ月前より大きく変貌し、膂力、体力、敏捷性、五感、全てにおいて常人のそれを遥かに上回っている。


 俗に『覚醒記念日』と呼ばれる、超常の力の覚醒者が大量に出現したあの日において、彼は何の力も持っていなかった。男は自身が選ばれなかったことを悔しく思い、毎日力を望んだ結果、その一ヶ月後にようやく待ち望んだ力が目覚めた。そして彼も、『サイキック・オフェンダー』の一人となった。

 半年前の覚醒記念日より、目覚めた超常の力を用いて犯罪行為に及ぶ者が、世界中に大量に出現した。彼等は『サイキック・オフェンダー』と呼ばれ、世界を未曾有の大混乱に陥れた。


 しかし一方的に彼等がやりたい放題ということも無かった。社会は彼等を許さなかった。


 男は走りながら振り返る。純粋な肉体強化によって、常人には出せない速度で、しかも長距離を走る男であったが、追跡者を振りきれない。全身ピンクのタイツに身を包み、ピンクのヘルムを被った女が、男とほぼ同等の速度で走って追ってきている。


(くっそー……せっかく力を手に入れて、俺もやりたい放題出来たってのに、こんなことになるなんて……)


 力を手に入れた男は、これで何でも出来ると浮かれた。そして多くのサイキック・オフェンダーと同様に、欲望の赴くままにやりたい放題やってきたが、それ故に目を付けられてしまった。


 男が曲がり角を曲がった所で、まるで男を遮るかのように、一台のタクシーが停まっていた。そのうえ男が現れた瞬間、突然ライトを照らして、男をひるませた。

 タクシーの中から、三人の少女が次々と降りてくる。少女は全員同じ顔をしている。彼女達の顔を知る者は多いだろう。


(くっそー……先回りされていたのかよ。万事休すかよ。こうなったら、いちかばちかっ)


 前後を挟まれる格好になって、男は住宅の塀を上りだした。

 しかしその行動も、追撃者からすれば織り込み済みだった。塀の内側にある松の木から、針の如く硬質化した松の葉が一斉に発射され、男の全身に突き刺さったのだ。


「ざまーっ。手間取らせた罰だ」


 松の木の葉の横――何も無かった空間が開いて、タクシーから降りてきた少女達と同じ顔の少女が現れ、小気味よさそうに嘲る。


「ピンクバズーカ!」


 後方から追ってきたピンクタイツ女が迫り、松の葉が全身に刺さって落下した男の顔面を拳で打った。男は吹き飛んで倒れる。


「確保! 解決! 皆、御苦労さままま!」


 同じ顔をした少女の一人が叫ぶ。彼女だけがキャップを被っている。


「いやあ、本当にお疲れさまままだね、美香ちゃん。それにツクナミカーズの皆。『PO対策機構』のおかげでこの国は大分マシになってきたよ」


 運転席にいる初老の髭面のタクシードライバーが、白黒入り混じった顎髭を撫でながら、追跡者である少女達を労った。


「どういたしましてっ!」


 月那美香がタクシードライバーの方を向いて、帽子を手に取って少し浮かせて会釈する。


「はあ……しっかしサイキック・オフェンダー討伐の仕事ばっかりで、アイドルとしての仕事が滞りまくりだじぇ~」

「アイドルではない! ミュージシャンだ!」


 愚痴る二号に、美香が訂正する。


「いずれにしても芸能界のお仕事はお休みしまくりですにゃー。復帰しても忘れられてしまっているかもですにゃー」

「そうそう、それが心配なんだよなー」


 七号が寂しげに言い、二号がうんうん頷く。


「大丈夫ですよ。世間はツクナミカーズが、サイキック・オフェンダー討伐を頑張っているから、芸能活動を出来ないことも知っています。忘れ去られることなどありません」


 タクシードライバーが朗らかに微笑みながら口を出す。


「そう信じたい所だけど、不安にはなるわね」


 ずっと男を追跡していた十一号が、戻ってきてヘルムを脱ぎ、憂い顔で言った。


「忘れられたら思いださせればいい! 私も大丈夫と信じる! ツクナミカーズの力を信じろ! ファン達は我々の復帰を心待ちにしている! しかし今は世を荒らすサイキック・オフェンダーの対処に専念だ!」

「そうですね。ファンの人達はきっと理解してくれると思います」

「ちっ……ファンなんて薄情だって。しばらく活動しなきゃ忘れられちゃうって。夢見がちな奴等ばっかりで困っちゃうわ」


 美香が力強く訴えると、十三号がにっこりと微笑んで同意し、二号は悪態をつく。


 電話が入り、チェックする美香。


『やっほー、美香さん。仕事中だったー? 増援欲しいんだけどいいかなあ?』


 軽い声が響く。


「今丁度終わった所だ! 必要なら行くぞ!」

『じゃあ来て来てー。PO対策機構をずっと悩ませていた、原山勤一と山駄凡美を追い詰めたんだよ』

「あいつらか! それは是非仕留めておきたい所だ! 行くぞ!」


 電話を切った。


「誰だったのかにゃー?」

「『ほころびレジスタンス』の晃からだ!」


 七号が問い、美香が答える。


「ちょっちょっちょっちょっちょぉっ、オリジナルさあ、まさか続けて仕事? 今こうして一匹サイキック・オフェンダー捕獲したばっかりなのに、休まず連戦?」

「そういうことだ! 行くぞ! 乗れ! そいつは意識を失わせる薬を注射して、トランクの中に入れておけ!」


 二号がげんなりした顔で伺うと、美香は肯定して、指示を出す。


 全員タクシーに乗り込む。後部席に四人は座れないので、二号だけはタクシーの中で亜空間に入って一人分空ける。


「そんなわけでまた仕事が入った! では引き続き頼む!」

「PO対策機構に入ってお互い仕事が沢山増えてしまったね」


 助手席のミカがタクシードライバーに促すと、タクシードライバーは冗談めかして言いながら、車を出した。


***


 半年前の『覚醒記念日』を皮切りに、世界中で犯罪が多発した。超常の力を覚醒させて犯罪に及ぶ彼等は、『サイキック・オフェンダー』と呼ばれている。

 単純に個人レベルの犯罪を行うだけではない。徒党を組んで、都市や国を乗っ取りにかかった者達もいる。その結果、先進国でさえ、無秩序状態になってしまった地域や都市もある。日本もそうだ。

 日本の西部はサイキック・オフェンダーが特に活発で、かつての暗黒都市であるぽっくり市と転烙市は、サイキック・オフェンダーの支配域にされてしまったという噂だ。そしてその噂を聞いた多くのサイキック・オフェンダーが、西へと流れている。


 しかし全てのサイキック・オフェンダーが、西に向かっているわけでもない。わざわざ住み慣れた土地を離れて西へ行くという選択は取らず、地元で犯罪を繰り返す者も多い。


 国もサイキック・オフェンダーのやりたい放題にさせているわけではなかった。サイキック・オフェンダーを探し、捕獲もしくは殺害する組織、『PO対策機構』を作り、日本東部の治安維持に乗り出した。

 PO対策機構は、名目上は国が作った組織ということになっており、国家機関に所属してはいるが、実は裏通り中枢が主導して作り、裏通り中枢を含めた複数の組織や機関が運営している。所属者は裏通りの超常能力者達、グリムペニスの戦闘員、国仕えの霊的国防を担う者達、殺人倶楽部等、そし民間の自警団が入り混じっている。


 始末屋組織『ほころびレジスタンス』もまた、PO対策機構に組み込まれた裏通りの組織であった。サイキック・オフェンダーとの戦い日々で、PO対策機構はかなりの犠牲が出ているが、ほころびレジスタンスはそんな中でもかなりの戦果を上げ、この半年間で三十人以上のサイキック・オフェンダーを無力化していた。


「美香さん達が来てくれるから、それまでは監視ね」


 ほころびレジスタンスのリーダーである雲塚晃が告げる。


 現在ほころびレジスタンスのメンバー三名は、雑居ビルの廊下の窓から、隣の雑居ビルの飲食店にいるサイキック・オフェンダー五名を見張っていた。徒党を組んだサイキック・オフェンダーは、超常の領域で戦い慣れているほころびレジスタンスの面々からしても、油断のならない相手だ。警戒して臨まなくてはならない。

 しかもそのうちの二人、原山勤一と山駄凡美は、これまでPO対策機構の刺客を複数組に及び返り討ちにしている、非常に強力な能力者である。判明している犯罪件数も非常に多く、A級指定という、サイキック・オフェンダーの中でも特に危険な者に区分されている。


「それまでバレずに監視や尾行を続けられるかな?」


 柴谷十夜が疑問を口にする。


「バレそうになったら亜空間トンネルに避難するわ。向こうに空間使いがいないことを祈るのね」


 岸部凛が言った。すでに銃を抜いて、いつでも抗戦できるように備えている。敵に自分達の監視がいつバレるかもわからない。あるいはバレていて、気づかない振りをしているかもしれないと、そこまで凛は想定している。そういう能力者がいても不思議ではない。


「原山勤一は近接も遠距離も両方いけるパワー系か。孫の手の使い手でもあるし、結構厄介だ。山駄凡美は口からビームを吐くって。他にも能力はあるみたい」

「どちらも条件ハメ系の能力では無いんだ。よかったよかった」

「パワー系の方が厄介でしょ。条件ハメ系は、その条件を見破ればモロいし、何より抵抗レジストしたらそれまでなんだから」


 十夜、晃、凛が喋っていると、隣の雑居ビルの五名が席を立った。食事を終えたのだ。


「もっとゆっくり食事していればいいのにねえ」


 晃が軽口を叩き、移動を開始した。凛と十夜も後に続く。

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