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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
89 千年前の記憶を掘り返して遊ぼう
3045/3386

28

 翌朝。


「追っ手がかかっているのに、のんびり寝ちまったなー」


 リュカが状態を起こして目をこする。身を起こせる程度には回復した。


「追っ手との距離も縮んだろうね」

 進んできた方向を見て言うウィル。


「夜通し逃げて体力が低下するよりはいいですよ。何よりリュカの体調がよくありませんしね。それに昨日、ヨブの報酬の偵察が見えた時点で確信しました。追っ手が迫るにはまだ時間を要するでしょう」


 昨夜は嘘鼠の魔法使いの判断で休息を決定させたが、リュカもウィルも不安がっていた。


「だからといってのんびりはしていられないよね」

「馬車での逃亡じゃ、じわじわと距離狭められちまいそうだしな」

「行き先で待ち構えられている可能性も十分にあります。ヨブの報酬は数ヶ国にわたって蔓延っていますから」

「町に立ち寄るのは危険だが、食いもんの補充もしたいな。川か池があれば釣りしてもいいけど。野兎の狩りでも」

「それこそ悠長なことだろ。リスクはあるけど、逃亡中の食料の補充は町でした方がいいよ」

「十分に気をつけないといけませんね」


 ウィル、リュカ、嘘鼠の魔法使いが方針を話し合う。


「やれやれ。中々に厄介な仕事引き受けちゃったな」

 微苦笑をこぼすウィル。


「炎鉄の町と呼ばれる鉱山都市が近いです」

 嘘鼠の魔法使いが地図を広げて指す。


「鍛冶の町でもあるな。一度行ったことがある」

 リュカが言った。


***


「敵のおおよその場所は把握してまーす」

 シスターが地図を見やりながら言った。


「お、おおよそ? 監視し続けているのではないのか?」

「斥候の気配に感づかれたので、斥候には距離を取らせてありまーす。今は使い魔も出していませーん。でも、動きがあれば大体わかりますよー。距離を取りながらも、たまに接近させて、付かず離れずで追跡させてまーす」


 ネロに問われ、シスターは最新の情報を伝える。


「現在地と逃走経路を見るに、こ、ここから、お、追いつけそうだな」

「このまま真っすぐ逃げていくなら、そうですねー」


 二人が喋っていると、部下が報告にやってきた。


「念話が入りました。リュカと嘘鼠の魔法使いは、炎鉄の町に向かっている模様」

「炎鉄の町か……」


 部下の報告を聞いて、ネロが腕組みして思案顔になる。


「鍛冶と鉱山の町ですねー。山岳地帯の麓にありますしー、見失うと厄介ですからー、こちらの監視に気付かれてもいいので、監視を強化してくださーい」

「はいっ」


 シスターが部下に命ずる。


「町の裏にある山岳地帯に逃げ込まれたら、た、確かに厄介だ」

「そこに逃げ込むのであれば、馬車を捨てることになりまーす。私達の支配圏から逃れようとしているなら、その選択は無いと思いますよー」

「そ、それもそうか……」

「それよりも、鉱山の坑道の中に逃げ込まれる方が厄介ですねー」

「そ、それもそうだ……」

「あの町にはヨブの報酬の支部もあったはずですねー。念話で支部長に連絡しておきましょー。そして、私達も部隊をまとめて炎鉄の町に向かいますよー」


***


 正午過ぎ。嘘鼠の魔法使い達四人は、炎鉄の町へと入った。


「結構大きくて栄えた町だねえ」


 初めて来るシェムハザは、物珍しそうに町の風景を見て楽しむ。彼女が生まれ育った町以外で、町と呼べる規模の人が住む場所に訪れたことがない。大抵が村だ。生まれ育った町の周辺は、ほとんどが村か集落だったからだ。

 ごちゃごちゃしているうえに不衛生というのが、シェムハザの印象だった。道の幅も狭い。建物が必要以上に隣接しすぎている。そして人が多い。それらの事情があって、町の中に馬車で入るのは難しいので、厩舎に預けて徒歩で移動している。


「ずっと監視されています。監視の目を振りきれませんね」


 嘘鼠の魔法使いが後方を向いて言う。


「ケッ、何となく視られている気配はわかっても、監視者がどこにいるのか、町の中に入って余計にわからなくなっちまったな」


 リュカが小指で耳をほじりながら、忌々しげに言った。


「遠視の術や使い魔の監視なら結界で防げますが、監視者は肉眼のようですしね」


 嘘鼠の魔法使いが小さく息を吐いた。


 町の中で買い物を済ませた四人は、宿屋へと移動する。

 その宿屋に入ろうとする直前に、襲撃にあった。


「何?」


 ナイフを持った襲撃者の手首を取り押さえ、ウィルが怪訝な声を発する。相手は女の子だった。


「グルるる……ギルるるルル……ご、ごろぢだい……」


 口から涎を垂らし、目は血走り、殺意はたっぷり。どう見ても正気と思えない様子の、十歳にも満たない女の子だ。


「ウッキぃィぃぃーッ!」


 四人が驚いていると、寄生と共にさらなる襲撃者が現れた。トカゲを連想させる顔の中年女が、フライパンを振りかざし、シェムハザを狙って殴りかかってきたのだ。


 嘘鼠の魔法使いが杖を振りかざす。呪文無しで魔法が発動し、光るルーン文字が一文字現れて、中年女性が大きく開いた口の中へと飛び込む。直後、中年女性の頭部が炎に包まれる。


「ウッキャアァァァァ!」


 倒れて悶絶し、断末魔の叫びをあげる中年女性。


「死にくされえぇえぇっ!」

「ぶっころおぉぉぉお!」


 さらに二人の男性が、憤怒の形相で、採掘用のハンマーを持って襲いかかってくる。


 ウィルが剣を一薙ぎして、二人の男のハンマーを持った腕をそれぞれ同時に斬り落とした。


「ほんげええぇぇっ!」

「グエエェっ! よくもーっ!」


 片手を失った二人の男が悲鳴をあげたが、すぐに殺意と怒りに満ちた形相へと戻り、道に落ちたハンマーを拾い上げて、再び襲ってくる。


 それを見たウィルは、今度は加減することなく、首をはねて二人の男を殺害した。


「おい……まさか……一般人をヤクか術で操って襲わせているのか?」


 明らかに正気を失った襲撃者達を見て、リュカが呻く。


「うらうぅぅああゥぁっ!」

「死ねやァぁあァぁぁっ!!」

「お願い死んでぇえぇ!」


 さらに三人の男女が追加で襲ってくる。いや、よく見るとその後方にはさらに何人もの男女が、手に得物を持ってこちらに走ってきている。


 ウィルが次々と襲撃者達の首を撥ね飛ばしていく。


「ヨブの報酬が、一般人をこのように巻き込むことをするとは思えませんが……」

「それにしたって実際襲ってきているし、私達が狙われているよー」


 嘘鼠の魔法使いとシェムハザが言う。


「逃げた方がいいぜ、こりゃ。数が数だし、多少傷つけても動じないしで、正面から戦うのは得策じゃねーよ」


 リュカが促した。


「そうですね。今の所、一方向からして襲ってきていませんし、一旦逃げましょう。


 嘘鼠の魔法使いが次々殺到してくる襲撃者達を見やる。おそらく、一般人を襲撃者に変えている者が、この先にいる。


***


 炎鉄の町に元々滞留していたヨブの報酬の面々は、監視していた嘘鼠の魔法使いやリュカ達四人組が、気の触れた一般人達に襲われているという情報を掴んだ。


「あれはどういうことだ?」

「監視対象が正気を失った市民に襲われている……。誰の仕業だ?」

「我々がそんなことするものか」

「取り敢えずシスターに連絡を」


 ヨブの報酬の面々もすっかり困惑している。


「事態の収束を計った方がいい。監視対象は容赦なく返り討ちにしている。正気を失った市民達の動きを止めるのだ」


 リーダーが命じ、方針が決まった。


「おい、新入りの小僧……何ぼーっとしているんだ。さっさと動……え……?」


 つい先程町に着いたばかりの覇権されてきた新人の少年に、リーダーが声をかけたその瞬間、リーダーは呆け顔になった。


「どうしました? は……?」

「何……を……?」


 様子のおかしいリーダーを不審に思ったヨブの報酬の戦士達だが、リーダーの傍らにいる新人の少年を見て、リーダーと同様に呆け顔になる。


 やがて彼等の表情が変わる。全員ほぼ同時に怒りに顔が歪む。

 少年――悪魔はその様子を見て、目を細めた。

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