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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
89 千年前の記憶を掘り返して遊ぼう
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12

 アバ老の依頼の件から三ヶ月程経ったある日。シェムハザは嘘鼠の魔法使いと共に、森へ触媒となる動植物を取りに行った。


「マスター、私何時になったらマスターみたいに、触媒無しで魔法を使えるようになるのかなあ?」


 森の中、隣を歩く嘘鼠の魔法使いを見上げて、シェムハザが問いかける。


「すでに多くの魔法を行使できる貴女の才に、私は舌を巻いていますよ。普通なら術の一つを使えるようになるだけでも、もっと時間がかかるものなのですよ」


 いつもと変わらぬ穏やかな微笑をたたえて、嘘鼠の魔法使いは告げる。これは世辞ではない。実際シェムハザは嘘鼠の魔法使いから見ても驚異と映る、卓越した才能の持ち主だった。


「あ、あれが生えてるっ」


 滅多に生えない毒草を発見したシェムハザは、声を弾ませて、嬉しそうに駆けていく。


(この子は、注意力や観察力も優れているようですね。私はあの草の存在を見落としていました)


 草を摘むシェムハザを見て、嘘鼠の魔法使いは思う。似たようなことは、過去に何度かあった。


(術師としてだけではなく、色々な方面で、この子は私より優れていますね。そんな子の師匠を務めることは……複雑な心境です)


 その時すでに、嘘鼠の魔法使いの頭には、ある計算が立っていた。自分が出来ない事でも、シェムハザであれば可能ではないかと。それならば、託した方がいいのではないかと。


(そのためには、私の希望を彼女に刷り込み、共感させておく必要がありますね)


 己の野心のために、弟子を利用する。弟子に己の目的を託す。すでに決めたことではあるが、正直心が痛む。


「ねえ、マスター。ずっと気になっていたことがあるんだけど」

「何ですか?」

「どうしてマスターは嘘鼠なんて名前を名乗っているの?」


 シェムハザの質問に、嘘鼠の魔法使いは自虐的な笑みを浮かべた。このタイミングでそのような質問を受けるとは、何とも皮肉だった。


「それは私が嘘吐きだからです。色々な嘘を吐き続けて生きているからです」

「私にも嘘吐いてる?」

「はいと言ってもいいえと言っても、それが嘘であるかどうか、貴女に判別がつきますか?」

「んー……何かそれちょっと意地悪」


 シェムハザが不満げな顔になる。


「ネズミは?」

「一番弱くて脆くて忙しくて哀れな動物……だからですかね。かつての私もそうでした」


 嘘鼠の魔法使いの言葉を聞いて、シェムハザはシンパシーを感じる。


「私もゴミの中でネズミみたいに暮らしてたよー。たまにネズミ食べてたけど」


 発言してから、シェムハザはふと思った。


「ひょっとしてマスター、私がネズミみたいだから、私のことを拾ったの?」

「それは関係ありませんよ。ただの運命の導きですし、そのように見たことはありません」


 真顔になって答える嘘鼠の魔法使い。


「嘘吐きの鼠の話……最後は何も感じない虚無へと陥るって話、あれってマスターのことなの?」


 シェムハザが少し不安げな顔になって尋ねる


「違うと思います。多分……」

「多分? じゃあそうなる可能性もあるのー?」


 自信無さげに言った嘘鼠の魔法使いに、シェムハザは不安げな顔のまま突っ込む。


「あれは私が私の師匠から聞かされた話なのですが、虚無に陥るようなことはしていませんし、その兆候も見えません。そのような最期にはならないと思いますよ。あの話は、不老の適正を持たない者との話ともかぶりますね。あるいはその教訓であるのかもしれません」

「不老の適正?」

「肉体を不老化するだけであれば、そう難しい話ではありません。方法は沢山あります。しかし人は体だけではなく、心も老いていくのです。嘘吐きの鼠の虚無とは、そのような状態だったのかもしれません」


 シェムハザに話題に出された時点で、嘘鼠の魔法使いも初めてそう思うに至った。


 その後二人は帰宅して、毒草を調合しだす。


「おやシェムハザ、また目分量をしていましたね? 目分量はいけませんよ」


 弟子の作業する様を抜け目なくチェックして、嘘鼠の魔法使いが笑顔で冗談めかした口調で注意する。


「えー、でもわかるけどなあ、私」

「そうでしょうね。それが貴女の優れた才です。しかし己の力を過信するのはよくありません。手順を踏むようにしなさい。もちろん状況次第ではその手順を抜く場合もありますけどね」

「んー、わかったー」


 丁寧に諭され、シェムハザは思案顏で頷いた。


「ダズゲデーッ! オネガイジマズーッ!」


 寝台に拘束された人相の悪い男が、必死に命乞いをしている。自分がこれから如何なる運命をもたらされるか、前もって聞かされている。


「ドクニンジンの分量は極めて少なめがいいですね」

「だねー。こっちのサソリの毒は?」

「それは多めでよいでしょう。激しい痛みは生じますが、容易く死には至りません」

「なるべく時間をもたせないとデータとれないからねえ」

「ふふふ、わかってきましたね。シェムハザも」

「もうここに来て何年も経つしー」


 嘘鼠の魔法使いとシェムハザは、男の命乞いに耳を傾けることなく、和気藹々と雑談しながら、実験台の男に薬を投与していく。


「ギギギ……ダジュゲデ……グルジジジジィ……」

「あ、顔の半分が痙攣しだした。これは新反応だよー。おもしろーい」


 命乞いして懇願する姿も、苦しむ姿を見ても、シェムハザは一切動じずにこにこ笑って反応を楽しむ。そんなシェムハザを見て、嘘鼠の魔法使いは満足げに微笑む。


(この子がここに来て、もうそろそろ二年が経ちます。今は十一歳か、十二歳くらいでしょうか。この子と二人の生活がここまで心温まる、満ち足りたものになろうとは……)


 微笑みながら弟子を温かく見ていた嘘鼠の魔法使いであったが、その笑みが唐突に消える。


(しかし私にいつまでもべったりというわけにもいきませんね。より経験を積むためには、一人での行動もさせないと。そして……アレが近くをうろうろしているようですし、誘き寄せるにも都合がよいでしょう)


***


 翌朝、シェムハザは師に告げられた言葉を聞いて、愕然とした。そして泣きそうな顔になった。

 弟子の予想通りのリアクションを見て、嘘鼠の魔法使いも表情を曇らせる。


「シェムハザ、これまでは私が保護者という立場でずっと行動を共にしてきましたが、今後を見据え、貴女の修行のために、少しの間、私から離れてもらいます」


 嘘鼠の魔法使いはシェムハザにこう告げたのである。


「嫌だよ……。私、ずっとマスターと一緒がいいよ……」


 泣き顔になって訴えるシェムハザ。


「私もそうしたいのですが、一人になってこそ見えてくる風景があり、思考と心の有り様も変わってきます。より成長します」


 真摯な口調で告げる嘘鼠の魔法使い。


「わかった……。でも離れるって? マスターどっか行っちゃうの?」

「違います。シェムハザ、貴女に一人旅をしていただき、かつ、私に依頼された事件の解決を、私の代わりに貴女一人で行って頂きたい」


 まだ十一、二歳の少女に一人旅をさせたあげく、事件の解決に挑ませるなど、やりすぎなのではないかと、嘘鼠の魔法使い自身も思っている。しかし、理不尽な運命に立ち向かう力も、今のうちから身に着けておくべきだとも考える。


(そしてこの子が動けば、アレが釣れる可能性が高いです。最近……近くにいるようですからね)


 そして弟子に修行させるという目的以外にも、嘘鼠の魔法使いには目論見があった。


「依頼者がもうすぐ来る事になっています。正確には依頼者の仲介人ですけどね。依頼者は知り合いですが、ここには来られないようです」


 嘘鼠の魔法使いが言った。嘘鼠の魔法使いが魔法使いであるということは知られてはならないのに、知っている人はそれなりにいて、あれこれと悩みをもちかけてくる。

 その事に対し、シェムハザは疑問であり、不満だった。自分達は力を隠していなければならない。ばれたら町にはいられなくなる。そんな嘘鼠の魔法使いの力をあてにして頼る者達。師匠が魔法使いであるとは知らず、様々な知識と技術で難題を解決してきた便利屋として頼っているにも関わらず、力の正体を知れば間違いなく掌返しをするのだ。


 依頼者が訪れ、嘘鼠の魔法使いとシェムハザと向かい合う。


「実は今、私の故郷の村で、狼男が出るという噂が流れています」


 依頼者の仲介人である壮年の男が言った。


「わかりました。しかし今回の解決は、弟子のシェムハザに当たらせます」

「はあ……よろしくお願いします」


 年端もいかぬ娘に事件解決を任せると告げた嘘鼠の魔法使いに、依頼者の仲介人は困惑気味であったが、文句を言うことも無かった。


「いつも思うんだけど、超常絡みの事件解決を、表向きはお医者さんてことにしているマスターに持ってくるのって、何かおかしい気がしない? 結構多いし」

「依頼者は私の正体を知る者と知らない者がいますね。そして今回のように、私の正体を知る知り合い経由、さらにそこに仲介人も入るというケースが多いです」


 シェムハザの疑問に対し、嘘鼠の魔法使いが答えた。


***


 嘘鼠の魔法使いの家を出て、初めての一人旅に出たシェムハザは、暗い顔で馬車に乗る。嘘鼠の魔法使いの持つ馬車ではなく、町と目的地の村を行き来する定期便の馬車だ。シェムハザ以外にも何人も乗っている。


 郊外で待機し、まだ出発しない馬車に、一人の少年が近づく。


「止まりなさい」


 声をかけられて、少年は驚いて止まり、振り返った。


「シェムハザを一人にすれば、貴方は必ず現れると踏んでいました」


 帽子の唾に手をかけた嘘鼠の魔法使いが、少年を見てにっこりと微笑む。


「悪魔という呼び名ではなく、本当の名前が知りたいですね。呼ぶときにいちいち悪魔と呼ぶのは、変な気分です」

「名前は忘れた」


 自らを悪魔と名乗る少年は、嘘鼠の魔法使いに向かって短く告げた。

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