表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
89 千年前の記憶を掘り返して遊ぼう
3024/3386

7

 ヴェルデはその国の第一王女として生まれた。

 十歳になるまでは姫として大事に育てられたが、十歳の誕生日を迎えて、彼女の運命は一変する。


 この国には秘密の儀式があった。第一王女は供物として神に捧げ、その代償として国家の繁栄を神が約束してくれるという慣わしが、百年以上も代々受け継がれていた。

 そしてその事実を十歳になるまで、ヴェルデは知らされることもなく、ある日突然告げられたのだ。


「姫様の死は貴い。姫様の貴き死によって、我が国は救われ、栄えるのです。故に姫様の死は貴いのです。何も嘆くことはありません。最も価値のある死を得られるのです。神に選ばれ、神に捧げられ、天上で神の寵愛を授かるのです。とても名誉なことなのですよ」


 世話係の爺やが優しい口調でそう諭したが、ヴェルデは狂乱して泣き喚いた。城内で暴れ狂った。拘束された後は、声が枯れるまで泣き叫び続けた。


 ヴェルデは自室に幽閉された。飛び降り自殺をしないように、窓は板で塞がれ、刃物や針の類も全て部屋からは取り除かれる。花瓶も取り除かれた。割った破片で自殺しないようにだ。


「死ね……死ね神様……。いや、神様なんかじゃない。悪魔だ。神様の振りをした悪魔め……。いや、皆そうだ。皆悪魔だ。皆地獄に落ちろ……。こんな国、滅んでしまえ……。悪魔の国め……」


 泣きはらした目で、ぶつぶつと呪詛を吐き続けるヴェルデ。


 部屋中の床や壁をかきむしり、爪は全て剥がれた。しかしそんな痛みなどもうどうでもいい。怒りと呪いと悲しみのあまり、ヴェルデの精神は狂気に犯されつつあった。


「皆悪魔……? 皆地獄に落ちろ……? こんな国滅べ……?」


 何者かの声がして、ヴェルデはぎょっとする。狂気に犯されかけていた心が、正気に戻された。

 真っ黒な服を着た黒髪の子供が、いつの間にか部屋の中に佇んでいた。瞳も黒い。肌は青白く病的で、痩せ細っている。


「僕、悪魔」

「だ、誰よあなた……」


 ヴェルデが驚いて声をかける直前に、黒服の少年が自分を指して名乗った。


「誰よあなた? 誰よあなた。悪魔だ。死ね神様」


 台詞をオウム返しする少年を見て、ヴェルデはぞっとする。極めて禍々しい存在であると直感した。


「解き放って。気持ち」

 悪魔を名乗った少年が手を伸ばす。


「地獄に落ちろと願うのなら、地獄に落とす力を手に入れて。後は……契約すればいい。僕の力を得ればいい」


 悪魔はひどく冷めた響きの淡々とした喋り方であったが、何故かその声が、狂乱状態だったヴェルデの心を落ち着かせた。

 ヴェルデはほんの十秒弱、思案する。そして思案する必要も無かったと悟る。選択肢など無いと悟る。このまま何もしなければ、世を呪いながら死ぬ運命しかないのだ。


「あたしに力をくれるなら頂戴……。こんな死に方したくないよォ……」

「その代償に魂は呪われる。それでもいい?」


 求めるヴェルデに、悪魔が再確認する。


「その代償が何であろうと構わない……」


 捨て鉢になったヴェルデが、絶望の表情で告げて手を伸ばした。


 少年の手がヴェルデの手を掴む。痩せ細った腕であるにも関わらず、驚くほど強い力で握り返される。

 握られて数秒後、心地好く、身も心も弾けるような感覚を味わい、ヴェルデは己に力が注がれていることを実感した。


「取引は完了した。力を得たこと、わかる?」


 悪魔が伺うと、ヴェルデは恍惚とした表情で頷く。それを見て悪魔は手を放す。


「これで君は呪われた。魂が死に魅入られた」


 悪魔を名乗った少年がにんまりと笑う。顔立ちはまあまあ整っているのに、途轍もなく不気味な笑顔だと、ヴェルデの目には映った。


「呪いって何……?」

 ヴェルデが尋ねる。


「君の呪い。死んでも解けない呪い。魂が未来永劫呪われ続ける。生まれ変わっても呪われたまま。君の心は死に魅入られ、君そのものが死を招き寄せる存在になる」


 少年は笑顔のまま答えて、姿を消した。


 その後、力を得たヴェルデは王城を抜け出した。


 王家や国に対する復讐心は後から湧いてきた。復讐の一つとして、ヴェルデは秘匿されている第一王女の話を噂として流した。悪魔に魅入られた狂われ姫が、国を荒らしているという噂。実際に荒らして、幾つかの村を壊滅に追いやった。

 きっと噂は王家に届いていると、ヴェルデはほくそ笑む。世話係の爺やも両親も、弟と妹達も、自分の存在を意識し、恐怖に震えているだろうと。いつ王城に殺しに現れるかもしれないと考え、震えているだろうと。

 そう意識するだけで、ヴェルデは満足だった。その一方で、実際に家族を殺すまでには、踏み切れなかった。


***


「シェムハザ、ひょっとしてこの中に知り合いいるん?」


 連れてきた新しい友達を見て固まっているシェムハザを見て、ヴェルデが尋ねる。


「ヴェルデちゃん、この人は友達にしないで」

 ペドロの側に寄って、シェムハザが懇願した。


「ふわぁ……困ったな……」

 ヴェルデは視線を外して頭をかく。


「シェムハザ以外は皆、死のダンスを踊らせてあげたかったんだけどなあ。友達の友達を殺したら……きっとシェムハザは悲しむし……見逃すしかないよォ~」


 ヴェルデのその台詞を聞いて、シェムハザは胸を撫でおろした。


「ありがとさままま、ヴェルデちゃん」


 にっこりと笑って礼を述べるシェムハザに、ヴェルデも照れ笑いを浮かべる。


「まあ、そういうこともあるもんだよね~。たまたま運が悪かったけど、殺すに至らなかったのが、不幸中の幸い……」


 ヴェルデの言葉が途中で止まり、表情が険しくなる。

 シェムハザも気配を察した。異形の気配。そして殺気。


 ヴェルデが連れてきた集団の後方より、何者かが跳躍した。小柄な影だ。シェムハザよりは大きく、ヴェルデよりは小さい。


「さ、せ、なぁいっ!」

 ヴェルデが叫び、腕を払う。


 黒衣姿の黒髪の子供が、空中で撥ね飛ばされて一回転して着地する。


 青白く病的な肌の痩せた子供が、床に片膝をついた格好で無表情にヴェルデを見上げる。

 少年の黒い瞳を見て、シェムハザは息を飲んだ。瞳の中が無明の闇であるかのように見えた。瞳の奥が底無しの奈落に繋がっているかのように見えた。


「悪魔……いたのかよ。一体どういうつもりぃ? シェムハザが悲しむようなことするなよ。あたしの友達なんだからさァ」


 少年を睨みつけるヴェルデ。


「これが悪魔?」


 話題の悪魔とやらが突然現れたという事実に、シェムハザは驚く。


(何だかイメージと全然合わないなあ)


 もっとおどろおどろしい存在か、あるいは意地悪そうな外見を想像していたが、全くそれらのイメージとは異なる。全く悪魔には見えない。見た目通りの人間の子供にしか見えない。しかし普通の子供にも見えない。


「シェムハザ……」


 悪魔と呼ばれた少年は、シェムハザの方を見つめて、その名を口にした。


「おいィ? 聞いてんのォ~?」

「綺麗な瞳。綺麗な魂。ヴェルデの友達。それなら僕の友達」


 ヴェルデが声をかけると、悪魔はそんな台詞を口にした。


「勝手に決めんなよォ。あたしはあんたの友達じゃねーし、そんな風にはならないからさァ」


 不機嫌そうな声でヴェルデが言い放つ。


「そう」


 悪魔が目を細める。他に表情は動かない。視線もシェムハザから外さない。


「ヴェルデ、君はもういらない。飽きた。これからはこっちがいい」


 シェムハザを見つめたまま、悪魔はそっけない口調で言った。


「はあ~……? 上っ等ッ。あたしだって、あんたなんかともう関わりたくねーんだよっ!」


 殺気を漲らせ、ヴェルデが悪魔めがけて攻撃を仕掛けた。ヴェルデが腕を振るうと、その動きに合わせて不可視の力が生じる。


 先程は空中にいたので避けられなかったが、今度はヴェルデの攻撃を避ける悪魔。


 悪魔が静かな動作で手を軽く上げ、ヴェルデに向かって人差し指を突きつける。

 悪魔の指の前方に、無数の赤、青、緑の小さな点が空中に現れる。


「おっと……」


 ヴェルデが慌てて回避行動に移った直後、赤、青、緑の小さな点から、様々な色の光線が生じ、ヴェルデがいた空間を突き抜けた。

 無数の三色の点は空中に浮いたままで、光線は発射され続ける。ヴェルデは危うい動作でひたすら避け続けていたが、とうとう一発が右足首を貫いた。


「糞っ」


 足をやられて毒づきながら、必死に回避を続けるヴェルデ。


「やめてっ」


 シェムハザが小さく叫び、小さなワンドを取り出して振りかざす。


 呪文の詠唱無しで、魔法が紡がれる。杖より無数の光るルーン文字が生じたかと思うと、家の外の地面に落ちている幾つかの石が浮き上がり、ヴェルデが連れてきた者達の頭を飛び越えて、悪魔めがけて飛来する。


 後方から不意打ちされる形となって、悪魔は攻撃の手を止めて石つぶてを避けた。


 悪魔がシェムハザに視線を向け、微笑んだ。ここで初めて悪魔が表情を見せた。

 まだ幼いシェムハザが、術を行使して自分に挑んできたという事を、悪魔は何故か嬉しいと感じてしまっていた。そしてシェムハザのことを面白いとも感じていた。


「死にくされっ!」


 隙を見せた悪魔めがけて、ヴェルデが攻撃を仕掛ける。その場でパンチの素振りを行い、渾身の力を込め念動波を悪魔にぶつけんとする。


 悪魔の体が吹き飛ばされ、家の壁に衝突した。


「う……」


 明らかに攻撃がクリーンヒットしたにもかかわらず、ヴェルデは眉間に皺をよせ、口元を歪めていた。

 ヴェルデとしては、今の一撃で悪魔の体を徹底破壊するつもりだった。それだけの威力を持つ攻撃だった。しかし悪魔を吹き飛ばして叩きつけたにすぎない。悪魔の体は破壊されているように見えない。


 悪魔はすぐに身を起こして立ち上がる。力場の膜を生じさせて、ヴェルデの攻撃から身を護っていた。


(もう一度っ!)


 ヴェルデが再び拳を振るい、同じ威力の一撃を見舞わんとする。


 だが悪魔の攻撃の方が一瞬早かった。再び三色の光点を生じさせると、色取り取りの光線をヴェルデめがけて放った。


 攻撃態勢に移っていたヴェルデは、これを避けられなかった。幾つもの光線がヴェルデの体を貫き、ヴェルデの動きが止まる。


「ヴェルデちゃん!」


 シェムハザが悲痛な叫び声をあげた二秒後、ヴェルデの体がゆっくりと横向きに倒れる。


「狂われ姫!」


 ヴェルデが倒れたと同時に、大勢の僧衣を纏った者達が、家の前に現れた。その先頭にいる大柄な男が叫ぶ。

 叫んだ男のことを、シェムハザは知っていた。町で会った、ヨブの報酬の戦士ネロだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ