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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
89 千年前の記憶を掘り返して遊ぼう
3023/3386

6

 シェムハザは毎日ヴェルデの家へと通った。初めてできた友達――不思議で怪しい友達と過ごす時間は、シェムハザにはとても刺激的で楽しいものだった。


 ヴェルデが呼び寄せる『友達』は、日に日に増えていった。彼等が何であるのか、何のために集めているのか、ヴェルデは教えてくれない。そのうち話すとは言っている。


『友達』を使って遊ぶ際に、ヴェルデは力を隠す事無く使用するようになった。それは『友達』にした者を自由自在に操る術だ。

『友達』同士が激しく取っ組み合いを行っている。どちらが勝つか賭けようとヴェルデは言ったものの、二人してあまり面白くないと感じて、途中で辞めた。


「シェムハザの力も見せて欲しいんよ」

「いやあ、人前で使っちゃいけないって言われてるし」

「そっか。残念」


 シェムハザが要求を断っても、ヴェルデは気を悪くすることもなく、微笑んでいた。


「ヴェルデちゃんはどうしてそんな力を身に着けたの?」


 これも教えてくれないかもと思いつつも、シェムハザは尋ねてみる。今までは尋ねることを控えていたが、思い切って聞いてみた。


「あたしは悪魔と取引したんだ」


 虚空を見上げて笑いながら、ヴェルデが答える。それも以前に聞いている。


「どうして悪魔と? 何で悪魔がヴェルデちゃんと取引を?」


 さらに突っ込んで聞くシェムハザ。


「力の無いあたしに、力をくれるって言ってさ。そして色々な力を手に入れた。でも悪魔はそんなあたしを見て、薄気味悪く笑っていたよ。代償として、お前は死んでも解けない呪いがかかるって。あたしの魂は未来永劫呪われ続け、生まれ変わっても、死に魅入られ、死を招き寄せる存在になるって。そう言って笑ったよ」


 喋っているうちに、ヴェルデの顔から笑みが消え、ぞっとしない顔つきになっていた。


「でもさァ、それが何だっていうの? それって悪いことなん? 別にどうでもいいよ。むしろ便利だわさ」


 わかりやすい作り笑いを浮かべてうそぶくヴェルデ。


 そんなヴェルデを見て、シェムハザは痛々しく思う。ヴェルデは間違いなく恐怖しているし、己の運命に悲観しているようにも見えた。


 何故力を欲したのかを聞く前に、シェムハザは別の質問をぶつけてみることにした。


「あのさ、ヴェルデちゃんは……狂われ姫なんだよね?」


 思い切って尋ねてみると、ヴェルデはにかって歯を見せて笑った。


「うん、そーだよォ。あたしのこと知ってたんだー」

「街中で結構噂になっちゃってるよ。ヴェルデちゃんのことを探している人達もいる。危ないよ」

「危なくないよォ~。ていうか別に危なくてもいいよォ~」


 案ずるシェムハザであったが、ヴェルデはどうでもよさそうに笑っていた。そんなヴェルデの笑顔が、シェムハザの目にはひどく空虚に映る。


「悪魔さんと契約して、狂われ姫になっちゃったの?」

「あれが本当に悪魔なのかどうかも、いまいちわかんないんだよね。そしてあたしが狂っちゃったのは、その前からかな。順番的には、狂ったから悪魔と取引したのか、狂ったあたしのことを嗅ぎつけて、悪魔が接触してきたのか。とにかく狂ったのが先」

「私にはヴェルデちゃんが狂っているようには見えないよー?」

「いやあ、狂ってるんだよね。あばばばば……」


 シェムハザの言葉を聞いて、ヴェルデは自虐的に笑う。


「もう何年前の話かなあ……。あたしはこの国の第一王女だったんだよォ~。多分妹や弟達はもう、あたしより大きくなっちゃったろうね。あたしは悪魔から貰った力のおかげで、ずっと子供のままなんだ」


 遠い目で述懐するヴェルデ。


「悪魔から貰った力で、酷いことばかりしてきたから、皆に嫌われちゃったんよ。でもそれでいいんだわさ。これもあたしの望み通り。そしてこんなあたしにも、シェムハザっていう友達が出来た。それだけであたしは幸せだよォ~」


 ヴェルデが微笑みながら手を伸ばし、シェムハザの手をぎゅっと握る。


 シェムハザも微笑み返し、自分の手を握るヴェルデの手の甲に、もう片方の手を重ねて置くと、軽く握った。


「んー……悪魔かあ……」


 何とはなしに呟くシェムハザ。悪魔などという呼び名の時点で、ろくでもなさそうな存在だが、それを言うなら狂われ姫という呼び名も相当ろくでもない。しかしシェムハザにしてみれば、ヴェルデは大切な親友だ。


「あのさ……悪魔の奴、シェムハザのことも気に入ったみたいなんだわさ」

「えっ?」


 思ってもみないことを言われて、シェムハザは驚きの声をあげる。


「あいつ、ちょくちょくあたしの様子を見にきやがるんだよォ~。だからあたしと一緒にいるシェムハザのことも知っちゃってさ。紹介しろとかぬかしてるんよ」


 言いづらそうに言うヴェルデ。きっとそのことを悩んでいたのだろうと、シェムハザは察する。


「面白そうだし、私も会ってみたいなー」


 ヴェルデを気遣っただけではなく、純粋に興味を抱いて、シェムハザは言った。幼い頃から彼女は好奇心の塊だった。


「変な奴だぜィ。会うだけならともかく、あたしみたいに契約とか絶対しちゃ駄目だよォ~。ま、会うだけなら多分害は無いと思うわ」

「うん、わかったー」


 ヴェルデはそう言うものの、シェムハザは信じていなかった。その悪魔という存在は、ヴェルデを狂われ姫にした時点で、相当危険な存在だと感じられた。


「おっ、新しい友達が来たよォ~」


 ヴェルデが立ち上がり、玄関へと向かう。シェムハザもついていく。またヴェルデの力で頭が壊れた人間が来たのだ。そしてこれからそれらを痛めつけて遊ぶ。


 現れた数人の男女を見て――いや、その中の一人を見て、シェムハザは固まった。


「ん? シェムハザどったの?」


 シェムハザが一度も見せたことの無い反応を見て、ヴェルデが怪訝な表情になる。

 虚ろな表情の男女数人。その中にペドロの姿を確認して、シェムハザは硬直してしまった。


***


 ヨブの報酬の戦士にして大幹部であるネロ・クレーバーは、半年間も同じ町に滞在し、狂われ姫の存在を追っていた。

 狂われ姫のルーツについても調査し、どうして狂われ姫が生まれたのかも、多少わかった。


「あ、あれはこの国の第一王女だという話だ。し、しかしその存在は秘匿されている。この国の……王家とごく一部だけが知る、おぞましい因習のせいだ」


 ヨブの報酬の戦士達を前にして、ネロは語る。


「おぞましい因習とは?」

「ま、まだ不確かな情報だが、第一王女はその存在そのものを秘匿され、贄とされる。それがこの国で古くから続けられている、い、因習のようだ」


 神妙な面持ちで語るネロ。


「そ、そして狂われ姫は、悪魔と取引した。悪魔より力を授かった」

「狂われ姫と、力を与えた悪魔ですか……」

「ひょっとしてあの悪魔?」

「だろうな……悪魔と言えばあいつだ」


 ネロの話を聞いて、ヨブの報酬の戦士達は納得した。しかし全員が理解したわけでもない。


「悪魔とは何のことですか?」


 ヨブの報酬の戦士達の中には、悪魔の存在を知る者と知らない者がいた。


「西方から来た者は……知っているようだな。ここより西方の国では、あ、悪魔と名乗る者が、気まぐれに人に力を授け、混乱と悲劇をもたらしている。それがこの国にもやってきたようだ」


 と、ネロ。


「その悪魔とやらが、狂われ姫の力の謎を解く鍵になるかもしれない。悪魔の調査も並行して行え」

『はっ』


 ネロが命じ、戦士達が気合いの入った声で応答した。


***


(狂われ姫に力を与えし悪魔なる存在。興味はありますが、ヨブの報酬が絡んでいる時点で、迂闊に手を出さない方がよいですね)


 使い魔を通じて会話を聞いていた嘘鼠の魔法使いが思案する。


(しかし……もしもシェムハザが狂われ姫に関わっているとあれば、そうも言っていられなくなります)


 そう考えた直後、嘘鼠の魔法使いは表情を変えた。


 その時、嘘鼠の魔法使いの予知能力が働いた。嘘鼠の魔法使いが任意で使える能力ではない。天啓を得るかの如く、予知映像が頭の中に見える。大雑把だが、ある程度の時期までわかってしまう。

 嘘鼠の魔法使いが見たのは、シェムハザが危険に晒されている映像だった。


「そうも言っていられなくなりますか」


 心の中で呟いた言葉を改めて肉声で呟き、嘘鼠の魔法使いは立ち上がった。

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