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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
89 千年前の記憶を掘り返して遊ぼう
3022/3386

5

 シェムハザはヴェルデの緑色の瞳が好きだった。まずその瞳に魅せられた。


「シェムハザの目は本当に綺麗だねー。この世の物ならざる瞳って感じ。もしかして、シェムハザの正体は悪魔? それとも冥界の住人? あたしは冥界に興味津々なんだよねえ」


 一方でヴェルデも、シェムハザの真紅の瞳を気にいっていて、それを先に口に出した。


「私もヴェルデちゃんの緑の目、好きだよー」

「あぶあぶあぶぶぶ、真似すんなよォ」


 ヴェルデがおかしな笑い声をあげながら、シェムハザの紙をくしゃくしゃにする。


「ねえ、ヴェルデちゃん、家の掃除しないのー?」


 廃屋とほぼ変わらない家を見て、シェムハザは何の気も無しに尋ねる。


「ふわぁ~、こんなボロ家、掃除とかそんな次元じゃねーべ。やっても無駄だし、元々あたしの家じゃねーから、そんな面倒なことしないよォ」

「そっかあ……」


 シェムハザは綺麗な家に住んでいるし、家の掃除を欠かさないように嘘鼠の魔法使いに躾けられているので、ヴェルデが全く掃除しないという事に、違和感と戸惑いを覚えてしまう。

 一方で元々ゴミの中で生活していたため、埃や汚れや臭いの酷さを、不快と感じることもなかった。


「普通の家だったら気を付けるけどね。これは手が付けられない。あたしは仮住まいにここにいるだけで、いずれ他所に引っ越すつもりでいるし」

「え? どっか行っちゃうんだー……」


 せっかく友達になったのにと、シェムハザはひどくがっかりする。


「んんん? あたしがいなくなったら悲しい? 何ならあたしに着いてくる?」


 ヴェルデがシェムハザに顔を寄せて問いかけると、にかっと歯を見せて笑ってみせる。


「んー……それはできないかなあ……」


 嘘鼠の魔法使いの元を離れるわけにもいかない。


「あらら~。そっか。じゃあいずれお別れだぜィ。ま、いつお別れかわかんないけど、それまでは一緒に遊んでやんよォ~」

「う、うん……」


 快活に笑いかけるヴェルデであったが、せっかく出来た友達と、いずれ別れることを宣言されてしまったので、シェムハザの表情は浮かなかった。


「よーし、じゃあ捕まえてきた蛙と鼠をばらばらにして遊ぼう」

「うん」


 それから二人は動物を解剖して遊ぶ。生きたままかっさばいて、反応を楽しむ。中に詰まっているものを見て楽しむ。仲に土や石を詰めて楽しむ。薬をかけて楽しむ。


 これらの行為に対して、シェムハザに抵抗は無い。しかし疑問はある。ヴェルデは会った時からこんなノリだった。彼女が普通じゃないことは、シェムハザにもわかっていた。

 シェムハザは解剖遊びを進んでやりたいと思わないが、ヴェルデと一緒に遊んでいることを楽しいと感じている。


(でもヴェルデちゃんから見た私だって、普通じゃないだろうしねえ)


 そう思って、シェムハザはヴェルデの趣味や嗜好には触れない事にしている。


「ほら、もうすぐ死ぬ。もうすぐ楽になる~。はい、死んだ。楽になった」


 動かなくなった蛙を見て、心底おかしそうにくすくすと笑うヴェルデ。


(ヴェルデちゃん、死に深い想い入れがある。死に取り憑かれている)


 ヴェルデを見てシェムハザは彼女の性質を見抜いた。


「ああ、そうだ。もうすぐあたしの別なダチがくるよぉ」

「え? じゃあ私ここにいない方がいい?」


 シェムハザが意外そうな声をあげた、ヴェルデの友人は自分だけだと思っていたからだ。そして何故か引け目のような感情を抱いてしまう。


「何でそうなるんよォー。シェムハザにも紹介したいから、ここにいてよ」

「わかった」


 変わり者のヴェルデの友達だから、また変わり者なのだろうなあとシェムハザは思っていた。

 やがて家を訪れたのは、老人と中年女性だった。どちらも覇気の無い顔をしている。


「お、きたきたー。あがって、あがって」

 訪れた二人を、ヴェルデは笑顔で招き入れた。


「この人達が……友達?」


 てっきり子供が来るかと思いきや、異様な顔つきをした大人二人が来たので、シェムハザは引き気味になって尋ねる。


「そーだよォ~。大人だけど友達。心がぶっ壊れかけてるけど、友達から差別しちゃダメだぜィ」


 あっけらかんとした笑顔で答えるヴェルデ。


「でもこっちの二人の友達の名前は、別に知らなくていいや。頭壊れかけているせいで、ろくに会話成立しないから。さて、何して遊ぼうかな~」


 それは立派に差別じゃないかとシェムハザは思ったが、突っ込まないでおいた。


「あ、また他のダチが三人ほど、ここに向かってきてるよォ~」

「そんなことわかるんだー」


 ヴェルデが何かしらの超常の力を有していることは、シェムハザも知っているが、一応驚いたふりをしてみせる。反応が薄いと、ヴェルデはがっかりすることが多いから、彼女の性格に合わせた振る舞いを心掛けている。


「あばばば、あたしは悪魔と取引して色んな力を身に着けたからねー」

(悪魔と取引か……)


 その話も何度かヴェルデの口から聞いていたが、シェムハザは詳しくは尋ねない。何となく聞くのが怖かった。自分達の仲にも悪い影響が出そうな気がして。


「シェムハザだって隠しているけど、おかしな力を持ってるべー? あたしにはわかるよォー」


 からかうように言うヴェルデであったが、シェムハザは特に驚かなかったし、今度は驚く素振りもしなかった。ここで動揺した振りをするのは、嘘をついているようで嫌だった。厳密に言うのであれば、いつもわざとらしく驚きの反応を示すことも、嘘と言えなくも無いが、それは愛想笑いやリップサービスのようなものだ。


 さらに来た三人は、職人らしきエプロン姿の青年、売春婦らしき扇情的な格好の少女、豪華な装飾と衣服で金持ちだと思われる初老の男という、年齢も身分もばらばらの組み合わせだが、生気に欠けているという事では共通している。


(ヴェルデちゃんがこの人達をこんな風にしたの?)


 そうシェムハザは想像する。そしてそれ以上のことも想像してしまう。


(私のことも……同じようにするつもりなのかな?)


 そう疑いを抱いたが、それは無いような気がした。根拠は無いが、直感で。


「殺して……殺して……早く……死にたい……」

「闇じゃ……この世は闇なんじゃ……」

「全て壊れろ……何もかも壊れろ……」


 売春婦らしき少女と老人とエプロン姿の青年が、ぶつぶつ呟いている。


「何して遊ぶの? この人達も解剖するの?」

「シェムハザこわーい。人を解剖するなんていう発想があっさり出ちゃうなんて、こわーい。あぶあぶあぶぶ」


 シェムハザが尋ねると、ヴェルデは心底おかしそうに笑った。


「安心してよォ。まだそんなことしないからさァ」

(まだなんだね)


 その言葉が何故おかしくて、シェムハザもつられて微笑む。


 その後、ヴェルデは遊びを始めた。殺しはしないし、解剖もしないが、遊びの内容はかなり酷い代物だ。切り刻み、えぐり取り、突き刺し、熱し、拷問そのものだ。


「面白いでしょー。この友達、何やっても怒らないしー。あばばばばば」


 心底愉快といった風に笑うヴェルデ。シェムハザは愛想笑いを浮かべながら突き合う。不愉快とは感じないが、やはり残虐行為そのものに楽しいとは感じられない。


 十分に遊んでから、シェムハザはヴェルデの家を後にする。


「シェムハザ、あんたにならあたしの秘密を……あ、それはまだ言わない方がいいかなあ」


 別れ際にヴェルデが口走ったその台詞が、シェムハザは気になった。


***


 嘘鼠の魔法使いは街中に使い魔を放ち、ヨブの報酬の戦士数名を張りこませた。


 大きい町であるし、かなりの数の僧がいる。しかしヨブの報酬に属する僧はすぐにわかる。衣装が独特であるという理由だけで。

 彼等は戦闘を前提に鍛えているし、超常の力の持ち主もいるため、使い魔での監視も気を付けなくてはならない。悟られる可能性は十分にある。


『手がかりはある。やはりこの町にいるようだ』


 ヨブの報酬の戦士達の会話内容を聞いて、嘘鼠の魔法使いは眉根を寄せて息を吐いた。


(とうとうバレてしまいましたか……。ここはいい町でしたし長く住んでいたので名残惜しいですが、旅立つ時ですね)


 そう思った嘘鼠の魔法使いであったが、続いて発せられた言葉を耳にして、考えを改めた。


『ああ、間違いなく狂われ姫はこの町にいる。目撃報告もあったし、他の村や町同様に、心ここに非ずといった感じに呆けてしまった者の話も聞いた』

(狂われ姫……。私ではなく、そちらを追っていたのですか)


 嘘鼠の魔法使いも知り合いの魔術師から、狂われ姫の話を聞いたことがあった。この地方の術師間では、わりと噂になっているらしい。


 少し安堵した嘘鼠の魔法使いであったが、その狂われ姫とやらが健在である限り、ヨブの報酬の戦士が数多くこの町を出入りするので、気が置けない。

 そもそももうこの町に、ヨブの報酬の支部まで出来てしまっている。


(支部が出来てしまいましたが、狂われ姫がいなくなれば、彼等の出入りも少なくなるでしょうね)


 狂われ姫とやらを自分で先に見つけ出して、ヨブの報酬にもわかるような形で排除できないかものかと、嘘鼠の魔法使いは考える。


「ただいまんこー」

 と、そこにシェムハザ帰ってくる。


「遅かったですね。最近物騒ですし、あまり遅くならないようにしてください」


 やんわりと注意する嘘鼠の魔法使い。友人が出来て遊んでいるということは、シェムハザ本人から聞いている。


「物騒なのー?」

「ヨブの報酬の戦士達が数多く出入りしていますしね。使い魔に調べさせた所、彼等の目的は狂われ姫のようです」


 嘘鼠の魔法使いの話を聞いたシェムハザは、反射的にヴェルデのことを思い出した。

 シェムハザはずっと疑っている。巷で噂の狂われ姫とは、ヴェルデのことではないかと。


 一切表情に出さないシェムハザではあったが、嘘鼠の魔法使いは弟子の感情の変化を、気配という名の電磁波の変化で察知した。


「あ、それ、ペドロさんも話してたよー。街中で噂になっているみたい」


 自分の心を悟られずに誤魔化すつもりで、会話を合わせるシェムハザ。


(師である私を謀るとは、良い度胸です。もう少し上手な嘘の付き方を……いえ、それはわざわざ教える必要はないですね。自分で学ぶべきことです)


 シェムハザが隠し事をしている事に、嘘鼠の魔法使いは特に不快感は無い。それどころか好ましく思う。


 一方で気がかりでもある。シェムハザは話題の狂われ姫とやらに、心当たりがありそうであるということが。それどころか関わりがあるのではないかと、嘘鼠の魔法使いは疑っていた。

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