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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
88 もう一度世界を変えて遊ぼう
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28

 木島の民宿で眠りについた真は、夢の中で、お馴染みの前世の三人と向かい合っていた。


「満足か? お前の望み通りになったぞ」


 嘘鼠の魔法使いを見て、真が皮肉げに問いかける。


「まだわかりませんよ。具体的に何か変化の兆しが見えてからそれは言うべきです」


 優雅な微笑をたたえて嘘鼠の魔法使いはのたまう。


「お前を同じ自分だと思いたくないよ」

「はっ、同感だぜ」

「くぅ」


 真の台詞を聞いて、御頭が皮肉げに笑い、獣之帝が頬を膨らませて頷く。


「まだ諦めたわけじゃあるめえ」

 御頭が真の方を見て伺う。


「諦めるわけがない。勝負はこれからだ」


 決意を込めて言い放ち、言ったあとで自分の台詞のクサさを意識して、恥ずかしく思う真であった。


「恥じるこたあねえ。同じ自分の前だ。それにその意気見込みは、確かにお前の本心なんだからよ」


 御頭が真に向かって朗らかに笑いかける。何となくサイモンを思いだす真。サイモンも御頭も、見る者の心を和ませる温かい笑顔を見せる。


「世界の変化を止めるのですか? 元に戻すのですか? 途方も無い話ですね」


 嘘鼠の魔法使いが柔和な口調で伺う。からかっているわけではない。真の覚悟に対する再確認だ。


「お前は世界を変えるという途方も無いことをやってのけた。雪岡にやらせた。僕には無理だと言いたいのか?」

「いいえ。私は楽しみにしていますし、どのような結果が出ても受け入れますよ」


 真に睨みつけられ、嘘鼠の魔法使いは悠然と微笑みながら言ってのけた。


***


 翌日には、全員が木島の里から帰還した。


 勇気は衰弱していたが、深刻なほどではない。メディカルチェックを受けたが、ほぼ正常だ。


「しょれで、世の中に変化した兆候は見受けられましゅか?」


 報告を聞いたシュシュが、史愉とミルクに問う。同室には宮国もいる。


『昨日の今日だ。まだ何もわからん』


 ミルクが眠たそうな声で答えた。純子の思い通りの展開になったことについて、色々と考えて眠れなかった。


「オーマイレイプに依頼して、日本各地の異変をチェックしてもらっているっス。超常の領域が関わってそうな事件の発生をね。ぐぴゅぴゅ」


 と、史愉。


「たった今、オーマイレイプから報告が届きましたよ。情報内容が漠然としすぎていて、調べる方も大変なようですね。幾つかの分類に情報を分けさせていますが、ただの超常現象の発生や、幽霊や人外の発見報告まで混じっていますよ」


 宮国が報告し、各自オーマイレイプの調査報告をチェックする。


「膨大だぞ。分類分けされているのはありがたいが、特に怪しそうにケースだけ、現地に調べにいかせた方がいいぞ」

『まあデータは多くあった方がいい。何かあった時には、重要度の低いデータの中から、情報が再発掘されるなんてこともあるしな』


 史愉とミルクが言い、その後しばらく四人は、オーマイレイプによって送られた報告と格闘し続ける事となった。


***


 政馬がグリムペニス日本支部ビルを訪れる。勇気は今朝方、このビルの医療室に運び込まれて、ずっと療養中だと聞いた。


「あれ? 元気そうじゃない」


 ベッドの上でゲームをしている勇気を見て、政馬は口元を綻ばせた。鈴音の姿は無い。別室で寝ている。


「衰弱してはいたが、ゆっくり眠ったし、栄養剤もたっぷり注入した。大事を取って、明日までは安静にしろと言われたが、暇で仕方ない」


 そう言って勇気はゲームを中断し、政馬の方に向き直った。


「俺を恨んでないのか?」


 珍しく申し訳なさそうな表情の勇気を見て、政馬は微苦笑を浮かべる。こんな勇気の顔は、あまり見たくない。


「ちょっと怒ってる。ミルクや純子の都合のいいように動いちゃってさ。でも、怒りきれない。勇気の気持ちもわかる。ミルクと純子の気持ちも、今は何となくわかる」


 いつものように弾んだ早口ではなく、静かな口調で語る政馬。


「純子は純子で、ミルクはミルクで、僕とは違った形で世界を変えようとしているんだね。ああ、それにマコもね。皆今の世界が不満だったんだよ。そして勇気も同じだった。だから勇気は、ミルクに乗ってしまって、純子にも乗ってしまった。そういうことだよね? できれば僕に乗って欲しかったな」

「悪いけど、お前の目的は人類大半皆殺し前提だから、一番乗りたくない。気持ちはわかるけどな」

「僕の気持ちがわかるの?」


 勇気の言葉を聞いて、政馬は目を丸くした。


「他人の気持ちが全部わかるとまでは言わないが、部分的にくらいならわかるぞ。俺はお前と同じ気持ちもあった。この世界は理不尽で、しんどくて、悲しみで溢れている。鬼の泣き声が聞こえる俺は、多分政馬以上に、世界の醜さを見まくったと思う。お前の手伝いをしたいという気持ちもあったが、それは間違った道だ。誰かを犠牲にしたら、どんなに御立派な理想や大儀があろうと、それは間違いなく悪だと、俺は思っているからな。だからお前に同調はしなかった。でも……そうしたい気持ちは、俺にもあったんだ」

「そうだったんだ……」


 勇気の本心は、政馬にとって嬉しい反面、勇気の気持ちを思うと複雑だった。政馬と同じ気持ちがあってなお、それに従わないということは、苦しかったのではないかと考えたが、それを政馬の方から直接問いかけるのは躊躇われた。


「あの時、俺はお前の心を癒したはずだ。鬼の泣き声は止めたはずだ。それなのにまだお前は

引きずっているんだな。いや……それは心の傷から引きずっているものとは、ちょっと違うな。ネガティヴさからくる復讐心ではなく、ポジティヴな信念なんだろう。だから……俺はお前が間違っていると感じても、全部を否定しない。ただ、お前に完全に同調するってことは、俺のしてきたことを否定することになる」

「勇気が僕の気持ちをわかってくれただけでも嬉しいね。同じ想いがあったこともね」

「で、お前はいつまで世界を嫌ってるんだ? 気持ちはわかるけど、お前の憎しみは以前にも増して強くなっている。それは見ていて辛いな」


 勇気のその台詞を聞き、政馬はむっとした顔になる。勇気に言われたくない台詞だ。


「この世界はどうしょうもなく醜く歪んでいる。僕の父さんは僕を救おうとして、母さんに殺された。僕は仇を討つために母さんを殺した。でもあれは母さんだけが悪いとも言えない。電々院家の悪と言っていい。でも電々院家だってこの醜い世界の一部だからこそ、醜く歪んでいる」


 なるべく感情を抑えて喋っていたつもりの政馬であったが、次第に語気が荒くなってくる。


「全部……全部ひっくり返してやりたいよっ。リセットして作り直したいんだよ。反吐が出る。大嫌いだ。この世界の醜さが許せない」


 怒りに満ちた表情で心情をぶちまける政馬を見て、勇気は大きく息を吐いた。


「確かにこの世界には糞が転がっているが、綺麗な花だって咲いている。スカトロマニアでもないかぎり、糞を見ていたいとは思わないだろ。それなのにお前は、花を見ず、わざわざ大嫌いな汚い糞を凝視して、糞に腹を立てている。馬鹿すぎるぞ」


 勇気の指摘を受け、政馬は思わず笑みをこぼす。今ので怒りが大分引っ込んだ。


「理想の世界を作るとか、そういう奴って絶対ろくなことしない。大儀を掲げて、そのためなら何をやってもいいとして、他人に迷惑かけまくる。そっちに行くとなると、もうはっきりと悪だ。間違った道だ。しかし……俺もそれに加担してしまったな……」


 自嘲気味に言う勇気を見て、政馬は痛ましく思う。自身が忌避していた行為を、勇気自身が行ってしまったことで、勇気も傷ついているのではないかと心配する。


「純子にかけられた暗示はもう解けたの?」

「ああ。史愉とミルクによって、黒アルラウネとやらは摘出したし、暗示効果が残らないような処置もされた」

「結局どうなるんだろう?」

「純子の目論見通りになるなら、世界は変わっていく」


 勇気が立ち上がり、窓へと向かう。窓の外は東京湾が広がっている。いつもと変わらぬ世界だ。


「何をした所で、結局世界は汚くもあり綺麗でもある。俺はそう思うけどな」


 海の中に発生している赤潮を見やり、勇気は言った。


***


 木島の里から帰還した真、悦楽の十三階段の面々を前にして、これまであったことを全て口頭で報告した。


「裏通りと直接関係無い件だと、たかをくくっていられなくなるかもなあ」

「そうだな」


 新居が言い、沖田が同意して頷く。純子の目論見通りに、世界中に超常の能力者が溢れかえったら、世界の秩序の根底が覆される。世界の有様が変わる。裏通りにも多大な影響が及ぼされると見なした。


「僕達白狐家は仕事が増えるるる」

「世界規模で広がるなら、戦場のティータイムにも影響あるのかねえ。マコに報告しねーと」


 渋面の弦螺と、皮肉げな微笑をたたえた犬飼が言った。


『ヨブの報酬のやつらもだらしねーにゃー。おまけにミルクのばかもにゃにやってんだにゃー。純子にまんまとだしぬかれて』

「僕も現地にいて、まんまと出し抜かれた一人だ。雪岡本人の動きを封じていたが、勇気が単独で動くように仕向けていたのは盲点だった。累の動きを見逃したこともな」


 罵るエボニーに、真が淡々と述べる。


「これからどうなっていくか、しばらくは様子見か」


 と、沖田。


「どうもならない可能性もあるるるる」

「何も起こらないことを願いたいが、それは希望的観測だな。希望的観測なんてのは持たない方がいい」

「同~感。希望的観測ってのは大概裏切られる」


 弦螺が言うと、新居がニヒルな口調で言い、犬飼が伸びをしながらおどけた口調で新居に同意した。

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