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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
88 もう一度世界を変えて遊ぼう
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27

 夜。史愉、ミルク、バイパー、桜、つくし、熱次郎、男治が揃って純子の元へと向かう。

 カケラから受けた連絡を聞いて、嫌な予感がしていた。綿禍がいなくなって連絡もつかないこともまた、純子の仕業であり、まだ陰で動いているのではないかと考えた。


 不意に轟音が響く。


「おい、何だありゃ……」


 木島の里の夜道を移動中、バイパーが立ち止まって、海の方を見た。


 他の面々も立ち止まり、海を見る。海の向こう――木島があった場所が光っている。

 光はみるみるうちに大きくなり、やがて光の中に、それまで見えなかった巨木が姿を現した。光源はこの巨木だ。


「島の外から見えなかったあの合体木ですよね~……」

「確かに大きかったけど、あんなに大きかったか?」

『何で突然見えるようになったんだ。ていうか……どんどん膨らんでるですよ』


 男治、熱次郎、ミルクがそれぞれ言う。


「ぐっぴゅう……やっぱり純子が何かしやがったみたいだぞ。勇気達とも連絡がつかないッス」


 忌々しげに報告する史愉。


 木島の里の住人達も異変に気付いて、家から外に出て来る。

 木島の住人達も木島の巨木の存在は知っているが、それが陸地から見えて光っていることに驚いていた。


「ああ、そっちも来てたの」


 政馬が現れて声をかける。ジュデッカと季里江もいた。


「チロンさんに連絡した所、純子さんは何もしていないそうですよ~」

「うん。知ってる。こっちも真に確認取った」


 男治の報告を聞き、政馬が言った。


***


 民宿で夕食を取りながら、純子、真、シスター達も外の異変に気付いた。


「外が騒がしいな」

「外、明るいぞ」


 真とブラウンが呟く。民宿の窓の外からでは木島の光る巨木は見えなかったが、光だけは見えた。


「史愉の言っていた話と関係かあるのか?」


 チロンが特殊な拘束衣を着せられた純子を見る。史愉からは、綿禍がさらわれたという連絡聞いている。問いただすために、全員でこちらに向かっているとも聞いた。拘束衣はそれを聞いてから着せられたものだ。それまではただ監視されていただけだった。


 純子は御飯を口に運びながら、にやにや笑っている。食事のために片手だけは動かせる。


(勇気君の体内には黒アルラウネを移植しておいた。あれは相利共生ではなく、寄生する生物。宿主の精神に悪影響を及ぼす作用がある。私はちょっと改造して、勇気君にマインドコントロールを仕掛けたけど、上手くいく保障は無かった。やっぱり私の読み通り、勇気君にも私と同じ気持ちが少なからずあったのかもねえ。それを黒アルラウネが刺激した)


 上手く自分の思惑通りに運んだことに、こみ上げてくる笑いが押さえられない純子だった。


(賭けに勝ったかなー? 綱渡りでハマったパズルの最後のピース。これで私の――私とマスターが夢見た世界になるかな?)

「何をしたんだ?」


 ほくそ笑む純子に、真が問う。


「思いついたことで、出来ることの全てをし尽したよー。勇気君の体内に移植した、陰体と黒アルラウネ、これが上手いこと作用してくれたね」


 もう隠す必要も無いと思い、純子は全て話すことにした。


「惑星グラス・デューで見つけた陰体の欠片、木島の生薬とかけあわせて、活性化させてみたよ。陰体の中にアルラウネバクリテリアを大量に内包したうえで、勇気君と、彼の中にいるアルラウネのDNAを抽出して、リコピーアルラウネバクテリアとかけあわせるよう、プログラミングしておいた」


 純子が屈託のない笑顔で、食事の手を止めることなく、嬉しそうにネタ晴らしを行う。


「黒アルラウネの人の精神に悪影響与える効果は、少し緩和して、弱いマインドコントロール程度に抑えたけど、勇気君は思った通りに動いてくれたね」


 そこまで喋った所で、純子の食事が終わる。


「真君に、私の計画――ジュースでリコピーアルラウネバクテリアの散布を妨害された時にさ、もっと良い散布手段はないかと考えたんだ。そして思いついたのが、蚊や蝿なんかの生物を媒介して拡散するか、花粉に乗せて拡散する案なんだけど、それを思いついた後に、木島の合体木――アルラウネの終宿主である大鬼の成れの果てのことを知ったんだよねえ。ここ木島の里でそれを見つけたんだ」


 パンダ刑事、殺人倶楽部、グリムペニス等が絡んだ例の騒動の後、純子が一人で旅行に行っていた事を思いだす真。


「木島のあの合体木の正体は、何となくだけどわかっていた。そしてアルラウネバクテリアの散布に仕えないかと考えたんだ。そのために、良い具合に刺激させて、調和する存在――同じ魂を持ち、アルラウネの終宿主ともなっている勇気君を、鍵として使えないかと考えたんだよ。もちろんただ接触させるだけじゃ、行き当たりばったりの当てずっぽうになっちゃうし、色々と仕掛けは施したよー」


 当てずっぽうであるが、純子はこの関連付けは上手くいく可能性が高いと踏んでいた。何しろあの木も勇気も、同じ魂が宿っている肉体だ。


「力不足になるかもしれないと思って、それを補うために木島の宝鏡や、綿禍ちゃんにも協力してもらったよ。綿禍ちゃんを連れてきたのが誰かはわかるよねー?」

「累が一緒にいない時点で……より警戒すべきでしたのに、迂闊でしたねー」


 シスターが沈んだ声で言う。自分の間抜けさ加減に腹が立った。


「今回はお前の勝ちかもしれない。でもお前の思惑通りにはさせない」


 真が静かな口調で言い放つ。


「僕はお前の企みを今後も阻み続けるし、お前が犯した罪も全て浄化してやる」

「浄化?」


 真が口にした言葉を聞いて、純子が面白そうな声をあげる。


「それは必ずやる。方法は今教えなくても、そのうち知ることになる」

「ふん。累が惚れるだけのことはあるの。威勢の良さは気に入ったわ」


 力強く宣言する真を見て、チロンがにやりと笑う。


「そっかー。楽しみだねえ」


 純子の言葉は嫌味でも挑発でもない。紛うことなき本心だ。成長した真がこれまで以上に、自分に本気で向かってくるのが、楽しみで仕方がない。そして現時点ですこぶる嬉しい。


「ネロと幸子から連絡でーす。病院に勇気君はいないようでーす」

「今更な報告だわ」


 シスターの報告を聞いて、ブラウンが鼻を鳴らす。


 その時、真や純子がいる旅館に、史愉や政馬達がやってきた。


「雪岡、今話したことをこいつらにももう一度教えろ。楽しそうに喋っていたし、楽しかったんだろ? それならもう一度同じことを全部話せるよな?」

「え……え……? うん……」


 有無を言わせぬ口調の真に、純子は少し引きつり気味の笑みを浮かべて頷いた。


***


 合体巨大木はしばらくの間光り続け、轟音を響かせ続けていた。


 いつの間にか、大鬼の残留思念の姿は消えている。

 やがて光が消え、音も消える。


「何がどうなったのかわからないな。今の光は何なんだ?」

「膨大な力の凝縮と膨張と放出による発光作用だと思われます」


 勇気の疑問に対し、綾音が答える。


「力の流れも消えたよ」

 解析した鈴音が告げる。


「取り敢えず帰るぞ。やることはやった」


 勇気が言い、一同は揃ってその場を離れた。

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