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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
88 もう一度世界を変えて遊ぼう
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「よかった……勇気……。いつまでも寝てるから怖かった」

「そのくらいで怖がるな馬鹿。二度も言うな馬鹿」

「二度言ってないよ」

「似たような台詞二回目だ。それより何だよ、その目は……まさか……」


 鈴音の片目が包帯で塞がれていることに突っ込んでから、その原因が何であるか察してしまい、勇気の血の気が引いた。


「治してよ。治してくれると思ったからやったんだよ。口の中もかなり。掌も」

「この……大馬鹿野郎……」


 胸の痛みを覚えながら、勇気は表情を歪める。癒しの鬼の指先だけを現出させて、鈴音の負傷を全て治す。

 勇気は鈴音の生来の能力が好きではない。鈴音がマゾヒストであることは知っているが、それでも好きになれない。


「私のためにそんな辛そうな顔してくれたんだ」

「はあ? 調子に乗るなよ。おい、そんなに顔近づけるな。さっきから何なんだ」


 嬉しそうな笑顔を寄せる鈴音に、勇気は嫌そうに顔をしかめた。


「勇気、私のこと好き?」

「はあ? お前何を……」

「誤魔化さないで本音教えて欲しい」

「大嫌いに決まってるだろ。いつも俺を苛立たせるし、食いしん坊属性あるし、エロいし。だからいつも罰を与えてやってるんだ」

「そういうの、もういいから、口で言ってよ」


 顔を寄せるだけではなく、寝台の上に乗って、勇気に覆いかぶさる格好になる鈴音。


 鈴音の動きを見て、起きたばかりでぼやけていた勇気の頭が一気に覚醒した。

 緊張と嫌悪感が同時に湧きおこる。勇気にも性欲はあるが、性自体が勇気にとって忌まわしい記憶を掘り起こす禁忌である。

 そして一緒に暮らしてきた鈴音も、その事は知っていた。承知のうえでこのような行為に及んでいる。常日頃から、自分が勇気の心の傷を癒したいという気持ちが、鈴音にはあった。しかし今はそんな想いではなく、ただただ自身の欲求で勇気に迫っている。


「それを言えばどうなるってんだよ」

「好きでもないなら一緒にいないよね?」

「口にするとシラける。言う必要も無いことだろ」

「私はシラけないよ。大事なことだよ。ちゃんと口にして言って欲しい」


 鈴音が顔を間近に寄せてまま、強い語気で要求する。勇気がさらわれて離れ離れになったことで、鈴音の気持ちは止まらなくなった。


「断る。鬱陶しいししつこいし気持ち悪いし恥ずかしい」

「恥ずかしい?」

「あ……」


 うっかり口にした勇気の台詞に、鈴音がにやけながら確認する。勇気は愕然とする。


 やにわに勇気の表情が変わった。


「どうしたの?」


 勇気の表情の変化を見て、鈴音が顔を離して尋ねる。ただごとではない気配を感じた。


「呼んでる……」

「え?」

「ああ……そうか。これは違う。俺の意思じゃない。でも……逆らえない……」


 脈絡のないことを口走り、頭を押さえながら、苦しそうな表情が身を起こす勇気。


「鈴音、お前も来てくれ……。見届けろ。もし俺がおかしなことをしたら、俺が何をしたか、他の家来共に報告しろ」

「何を言ってるの? 勇気」


 わけのわからないことを告げる勇気に、鈴音は底無しの不安を覚える。何か途轍もなくよくない事態が発生しているかのように感じられた。


「いいから来い……。俺の言う通りにしろ。俺は……逆らえない」

「ここから出ちゃ駄目だよ」

「ここで妨害すると……お前まで傷つけかねない。俺の体も心も……蝕まれて操られている。だから……」

「やっぱり……純子が何かしたのね……」


 鈴音の顔が険しくなる。心の中で、純子への怒りの火が揺らめくヴィジョンが浮かんでしまった。


「これがいいことなのか、悪いことなのかも……わからない……。俺が望んでいる。その望みも、俺の本心かどうかもわからない」


 喋りながら、勇気は寝間着を脱いで、タンスの中にかけてあった自分の服を着た。


「望みって?」

「あの木の下に行って……望みを叶える……」


 眼鏡をかけながら言うと、勇気は巨大な鬼の手を二つ、窓の外に出した。ちなみにここは三階だ。


 鈴音と自身の体を鬼の手に乗せて、窓から外に出る勇気。


 その勇気を待ち受けていたかのように、一人の少女が病院の前に立っていた。勇気と鈴音が大鬼の手によって降ろされる様を、じっと見上げていた。


「お前は……」

「この子……純子と一緒にいた……」


 夜道に立つ少女を見て、身構える勇気と鈴音。


「今晩は、御父上。お久しゅうございます」


 少女――柚が勇気を見据え、凄まじく冷たい口調で述べる。明瞭な敵意に満ちている。


「久ぶりというほどでもないだろ。この間会ったばかりだ」


 勇気が顔をしかめる。正直この少女に苦手意識がある。


「おちちうえ……?」

「私は木島の鬼具が一つ、木島の宝鏡。魔道具でありながら魂を持ち、今やこうして人の体も備えている。私を創ったのは……私を生み出したのは、彼の前世――癒しの大鬼と呼ばれる者だ。故に君は私の父親なのだよ。しかし私は失敗作だったらしい。御父上は存ぜぬだろうが、私を失敗作と断じて、私のことを壊そうとした」


 柚が事情を知らない鈴音に、自己紹介を行う。


「前世の勇気が何をしようと、今の勇気に罪はない。そんな恨みをぶつけるのはやめてよ」

「恨みをぶつけるつもりはないよ」


 非難するように訴える鈴音に、柚は小さく息を吐く。


「理屈ではわかっている。輪廻を越えてまで恨みを抱くことは、ナンセンスだ。横文字の言葉で……これはあっているか? ただ、感情はどうしても抑えられない部分がある。それが今出ているかな。生みの親に失敗作扱いされ、壊されようとした私の心など、いくら口で言ってもわかってもらえないだろうが、その本人の魂を見てしまうと、どうしても恨みがましくなってしまう」

「そうか。まあ恨んで気が済むならいくらでも恨めばいい。ただし手を出してきたら、お前の背景がどうであろうと、俺も容赦しない。それで……何の用だ?」

「少しでも悔いる心があるなら、大人しくあの島まで同行して欲しい」

「悔いる心は無いが、哀れんではやる。いいだろう。ただし、俺がお前の同行を許すんだ。お前に俺が同行してやるわけじゃない」


 勇気も元々そのつもりでいたので、柚の要求は無意味だと思ったが、口にはしなかった。


(政馬に報せないと……)

 鈴音はバーチャフォンを開き、政馬にメールを送った。


(いよいよ動くか……)

 その三人に、影の中から視線を向ける者がいた。


(手を出すにしても、今じゃない。何をするつもりか、もう少し見届けてからがいい……)


 歩き出した三人を、デビルは平面化したまま尾行する。


***


 政馬、ジュデッカ、季里江の三名は、グリムペニスやヨブの報酬や真達とは別の旅館に泊まっていた。夜中に起きて真達のいる旅館に向かい、交代で純子の見張りをすることになっている。


「陽が完全に落ちるまで、木島のデカ木の調査はしていたんだけどな。流石に真っ暗闇の中ではダルいってことで、撤収になった。明日また続きをやるそうだ」


 政馬と季里江を前にして、ジュデッカが話す。


「そんなに重要なことなん?」

 季里江が尋ねる。


「謎が幾つもあるとよ。そして純子のやろうとしていたことを突き止めて、封じる手立てを見出さないと、また純子が同じことをやろうとする可能性もある」


 ジュデッカが答える。これは史愉やミルクが決定した方針だが、理にかなっていると感じたので、特に反対もせず、彼等に任せてみようと思った。


「さっさと純子を殺してしまえば、それで解決しそうじゃない?」

「短絡的だなー。それはそれでややこしい事態になっちまうぜ」


 季里江の言葉に、ジュデッカが微苦笑をこぼす


「鈴音からメッセきた。勇気が起きたって。でも島に向かおうとしているって。操られている感もあるとか、柚という女の子が、前世の勇気に作られたとか何とか言って……ああ、もう色々と情報いっぱい」


 政馬がしかめっ面で報告する。


「いずれにしても放っておけないぞ。他の連中にも連絡回して、止めに行こうぜ」

「おっけー」

「あいよ」


 ジュデッカが促して立ち上がり、政馬と季里江も後に続いた。


***


 純子や真とは別の民宿の一室で、史愉、ミルク、バイパー、桜、熱次郎、男治が会話を交わしていた。


「えっとですねえ、あの残留思念は気になることを言ってましたね~。自分の力を死後も存続させると」


 男治が気になっていたことを口にする。


「ぐぴゅう。失敗したけどね。癒しの力を放出し続けて世に満たすというコンセプト、純子の目的とも繋がるぞ。純子はそれを完成させようとしたんじゃない?」

「私もそれを思いました~」


 言いたいことを史愉に言われた格好の男治。


『勇気を使ってか……。どう繋げるつもりだったかは知らないが、純子にはその目算が立っていたのかもしれないな』

「阻止できてよかったな」


 ミルクが神妙な口振りで言い、バイパーが微笑む。


『わりとぎりぎりの阻止だった。ヨブの報酬のうすらヴォケ共が来たおかげで、阻止できたようなもんだ。そして純子はまだ諦めていない。あの木そのものをどうにかしないことにはな。さもないとずっと純子を監視していなくちゃならないし、それはいくらなんでも面倒臭いですよ』


 ミルクの話を聞き、純子を殺すという発想が無いことに、熱次郎は安堵する。


 その時、史愉とチロンにメールが送られてきた。どちらもカケラからだ。


『綿禍が返って来ない。メールも電話も繋がらない』


 メールの内容を見て、史愉とミルクは顔を見合わせた。


「ぐぴゅう……。まさかこれも純子の仕業?」

『累がここにはいないしな。あいつの手引きであることは考えられる』


 二人が話していると、さらにメールが届いた。今度は政馬からだ。


「ぐっぴゅ……勇気が病院を抜け出ただと……。しかも柚が一緒にいるみたいだぞ」

「たは~、純子さんが動けなくても、他が動きまくってるわけですね~。抜かりないことです」


 史愉の報告を聞いて、男治が感心したような声をあげた。

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