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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
8 カルト宗教に入って遊ぼう
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11

 趙超は何十年もの間、強者との戦いを求めて世界中の裏社会を渡り歩き、殺し屋や護衛や戦闘代役などを続けてきた。自分より強い者と戦って負けたことも幾度かあったが、運よく命は失うことなく、還暦までは生きてこられた。

 日本にたどり着き、芦屋黒斗との戦いを経て、芦屋の圧倒的な力の前に敗れ去り、力や強さを求める意義を失ってしまった所で、夢の中でみどりと出会った。

 そして趙超は己が得た強さを己以外の何かに使ってみようと初めて思い、教団にて武術指南を施す日々を送っていた。


 他の信者達とは異なり、特に解放の日など意識はしていなかった。稀にバイパーや麗魅のおこぼれの刺客と戦ったが、実力差がありすぎて大した刺激にもならず。バイパーと修行の手合せをしていた方がよい刺激になった。

 最早自分は年老いて朽ちていくだけで、戦いの中で死ぬなどという事は無いのだろうと考えていた。


「あーあー、趙超のじっちゃん、死んじゃったよォ。なんまいだー」


 自室に戻ったみどりが、趙超の死を悟り、室内にいる麗魅に教えるニュアンスで声に出して言い、手を合わせて瞑目する。


「刺客に殺されたのか? あのじーさまを殺すとか、かなりの手練れじゃんかよ」


 天蓋付きの豪奢なベッドに寝転がっていた麗魅が起き上がる。みどりのベッドだ。杏、バイパー、麗魅の三人の持ち回りでもって、護衛兼話し相手のためにみどりの部屋に泊まっている。


「最後に戦って死ねたんだから本望っぽかったよ。みどりの中にちゃんと流れ込んできているもん。じっちゃんの死ぬ時の気持ちが。死ぬ前にあたしの意識も飛ばしたかったけれど、今回は間に合わなかったのが残念ぽ」

「殺した相手もわかってんのか?」

「もち。ヨブの報酬のエージェント、盲霊師さんこと杜風幸子。この人も中々すごいのよ。教団施設内のあたしの精神波による探査からも巧みに逃れてたし、滅多にひっかからなかったから。由緒あるシューキョー的秘密結社モブの報酬までもがあたしを殺りにくるたー、御名誉なこってすたーい」

「なはははー、モブの報酬とか、またえらいのが刺客送ってきたね」


 呑気に笑う麗魅だったが、目は笑っていない。いよいよもって危険な刺客がやってきたと警戒を強めている。


「モブじゃなくてヨブー。施設の中のあちこちに結界を作って、精神波はもちろんのこと、分裂させた精神体の侵入も防いでいるぜィ。ま、結界がどこにあるのかは大体わかるけれど、これはどうしようかなあ。潰すよりも、あえて泳がせていた方がいいかなあ。いざとなったらどこに逃げるかもわかるわけだし。よ~し、泳がせておこう」

「さっさと潰した方がいいと思うぜ。甘く見てりゃ食いつかれるかもしれねーぞ」


 異を挟む麗魅だったが、みどりが聞き入れるわけもない事も知っている。


「是非食いついて欲しいわ~。バイパーや麗魅姉が頑張ってくれちゃってるせいで、こちとら退屈ですから~」

「あんたのために頑張るのも複雑な気分だよ。あたしはあんたのやってること、全く認めてねーからな」


 虚飾の笑顔から一転して不機嫌な顔になり、みどりを睨む麗魅。


「あんたにはあんたの立場や考えがあるってことを理解し、尊重してるからこそ守っているけどよ、この糞ったれ教団の連中は今すぐ皆殺しにしてやりたいし、おかしな連中そこら中からかき集めてきて扇動しているあんたにも、正直腹立ってるからね」

「うん。知ってるし、申し訳なく思ってるよォ~」


 みどりの顔からも笑みが消える。


「別に最初からこうする予定だったわけじゃないの。あたしの思想をストレートに並べたててたら、破壊願望のある人らがいつしか集まってたんだもん。乗りかかった船ってわけじゃないけれどさァ、みどりね、やるならとことんやらなくちゃ気が済まない性格だから、似たような人を集めまくってみたのよ。中途半端な人数で暴れさせるより、大勢集めて大騒ぎさせた方が盛り上がるじゃん」


 言葉だけ聞いていると、悪意と破壊願望を撒き散らして享楽に酔いしれんとしているかのようにも聞こえるが、そうではないから複雑だった。

 麗魅も杏もバイパーも知っている。みどり自身にはそのような破壊願望は無い。社会に対する憎悪があるわけでもない。信者達が暴れているのを高みの見物して楽しみたいわけでもない。そんな下衆なら、麗魅達はみどりを守ったりしない。


「ドン底に落下しちゃった人達ってのが、世の中にはいる。あとは自殺するか他殺するか発狂するか路頭に迷うか引きこもるか、そういう哀しい人達がいる。そうなって、世界を恨んでいる人達がいっぱいいる。誰にも認められず、見てもらえず、孤独と絶望と怨嗟の中で蠢く魂。でもみどりは見てあげることができる。みどりは認めてあげられる。そういう人達を集めて、傷の舐めあいをさせることもできる。さらに煽って鼓舞して気持ちよくもしてやれる。あたしだけが、みどりだけがそれをできるのよね~。んで、みどりはそうした人達と関わっちゃった。そんな人達の魂を揺り動かしちゃった。だからあたし、最後まで面倒看てやんないとさ。麗魅姉達には迷惑と心配かけちゃって、悪いと思ってるけどさァ」


 みどりは信者達を大事にしている。世に背を向け、世間と反発しあい、世俗を否定し、世界から否定された彼等に、みどりは手を差し伸べている。

 たとえ彼等がみどりの思想を破壊の欲求へと解釈しようと、それを否定しない。みどりはみどりなりに筋を通し、教祖としての責任を果たそうとしている。だからこそ友人である麗魅達はみどりを見捨てられない。


「本当迷惑だよ。ま、他人に迷惑一切かけない人生なんてもん、世捨て人にでもならないかぎり、ねーけどな」


 息を吐き、微笑む麗魅。今度は目も笑っていた。


「他人に迷惑をかけなければ、何やってもいいどころの話じゃないよ~。他人を大勢巻き込んで迷惑かけまくってでも、我を通さずにはおれない人間てのもこの世にはいるもん。みどりのようにね~」


 が、みどりのその言葉に、また不機嫌顔になる麗魅。


「あたしの家族はイカレたカルト妖術師共に嬲り殺しにされたし。突然大事な人を奪われ、殺される側の身になって考えると、そういう連中に同情の気持ちなんて沸かないけどな。反吐が出る」

「へーい、でもさァ麗魅姉、社会に適応できない奴が社会につまはじきにされたり、底辺で蠢いてるのを指して、適応できないから仕方ない、自己責任でございます――で済まされる構図も反吐が出ない? 社会の枠組みの中にいて、うまいこと適応している人達に一矢報いてあげちゃうのも、そんなカタルシスが存在するのも、真理の一面じゃないかなァ。社会に適応できなくて、追い詰められて、一人で死ぬとか哀しすぎるぜィ。そんなんだったら死ぬ前にやりたいことやって、暴れまくって死んでやるーって気持ちも、みどりは理解できちゃうのよ。何もしないまま死んだら救われないもん。やりたいことやって死んだら大分救われるよ?」


 みどりはあくまで信者達の側につくために、何を言っても引かない。話はいつでも平行線だ。


「そいつの犠牲になった奴が今度は救われないじゃんかよ。そっちは無視かって話だ」

「敵だから仕方ないですしおすし。世界に絶望した者と、世界の中で枠の中で生きている者は、その時点で相対する運命なの。てゆーかァ、麗魅姉は何であたしを止めようとしないの? 杏姉やバイパーならともかく、麗魅姉の性格ならあたしを止めようとするはずじゃーん」


(止めるために、こうして側にいるさ)


 口の中で呟く麗魅。すでにそのための準備も進めている。みどりは人の心を読めるがため、麗魅の心の中も覗いていたら筒抜けであるが、それは無いと麗魅は信じている。友人の心を覗くような真似はしないと、日頃から公言しているみどりの言葉と性格を信じている。


(もっとも、止めるのは馬鹿騒ぎの方であって、みどりをどう止めたらいいか、そっちはわからない。いい方法が思いつかねーよ。畜生め)


 この祭りが終わった後に、みどりにどのような運命が待ち受けているか、麗魅は知っている。杏もバイパーも知っている。どうするのか、みどり本人から聞いている。いや、たとえ聞かされなくても、みどりの性格と、これまでにみどりがやってきたことを考えれば、容易に想像がつくことだ。

 だが実の所、麗魅達は知らなかった。知った気になっているだけだった。解放の日の後、みどりがやろうとしている事が何であるかを、全ては聞かされていなかったし、想像も及ばなかった。

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