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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
8 カルト宗教に入って遊ぼう
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8

 安楽警察署の署員達の多くは、薄幸のメガロドン対策に駆り出されていた。駅前歓楽街、工場、娯楽施設など、警察官の見回りが入念に行われている。機動隊も警備にあたり、市内は物々しい空気で包まれていた。

 元々、暗黒都市に指定された市の警察署には、選り抜きの人材と人数が配置されているし、安楽市は特に優秀な人員が揃っているがため、裏通りの住人達への抑制効果も高い。


 だが、いつどこで起こるやもしれぬ宗教テロへの警戒など、これまで経験した事の無い仕事のため、神経をすり減らす日々が続いている。

 テロは警備の目をくぐって幾度となく発生している。その後始末は警察の力だけでは処理しきれず、裏通りの組織にも要請していた。


「解放の日が来るより前に、あのキチ教団のイカレ信者共が暴れてくれているからな。毎日厳戒態勢でたまらんね」


 安楽警察署刑事課裏通り班に勤務するベテラン刑事、梅津光器は缶コーヒーを片手にぼやいた。


「いっそ解放の日が早く来てしまって欲しいとか思っちゃいますよね。そうすりゃうちらも楽になりますし」


 新人刑事の松本完が冗談めかして言ったが、梅津にじっと見つめられ、きまり悪そうに視線を逸らす。


「まああの宗教団体に内通者がいて、こちらに情報流してくれているからこそ、解放の日とやらの存在も知る事ができたんだがな。そいつを知らなければ、俺達は普段通りの仕事のままだったろうよ」


 入信者を装って薄幸のメガロドン内部への潜入捜査は全て失敗に終わったが、そうする以前に教団側から警察やマスコミに対し、解放の日に向けて一斉テロを企んでいるというタレコミがあり、それによって解放の日の存在が世間の明るみに出たのである。


「機動隊の突入とかできないんですか? 世論でもそれを望んでいる声が強いんでしょう?」


 松本が問う。薄幸のメガロドンの教団施設の周囲は機動隊で取り囲んでおり、出入りする信者達の動きも常にチェックされているが、その監視の目も抜けて単独で宗教テロに走る者が後を絶たない。


「お偉いさんらに、奴等の息がかかっているらしいから、どーしょーもないわ。何度要請しても強制捜査に踏み切れないとよ。だから警察も公安も……噂では防衛省からも、独断かつ秘密裏に刺客を送り込んでいるが、全て返り討ちだ。せめて芦屋が動かせればな」

「芦屋先輩を呼び戻すことはできないんですかねえ。大規模テロが起こる可能性があるんですから、日本に返してもらって、こっちを優先させてもらった方がいいのに」

「植民地の支配者様からの要請の方が優先されるんだとよ」


 梅津が忌々しげに吐き捨て、コーヒーの缶を片手で握りつぶす。


「物騒な世の中になりましたね。宗教テロとか、何が楽しくてそんな見境ない破壊活動するんでしょうね」

 大きく息を吐く松本。


「楽しいとかそういう問題じゃないが、国が不安定になれば、国民の心も荒廃する。そして最後に行き着く所は暴力だ。どの国でも暴動デモやテロなんかあるだろ。日本人は大人しいからそんなこと無いかと思ってたら、そうではなかったみたいだな。とうとうそういう段階にきちまったのかもしれん」

「嫌ですねー。テロなんてどんなに警察が優秀でも、完全に防ぐのは難しいですし」


 松本のぼやきは、聞く者によっては職務放棄や法の番人としての敗北宣言とも取れるが、そうではなく正しい認識であると梅津は思う。

 法による裁きの抑制効果は、保身をかなぐり捨てた殺意に対しては全くの無力だ。突然どこから降り注ぐかわからない殺意など、常人には防ぐ手立ては無いし、法も法の番人も守ってくれない。守りようがない。ましてやその行為が一斉に、かつあらゆる場所で行われたら、どう防げというのか。

 薄幸のメガロドンという宗教は――プリンセスみどりという得体の知れない狂気のカリスマは、己の死も織り込み済みの恐ろしいテロリスト達を量産してしまった。


「俺はテロが100パーセント悪いとは思わん。独裁者が圧政やら民族弾圧している国だってあるし、世界の警察を僭称するジャイアン国家の金儲けと票取りのために、戦争ふっかけられている国だってある。それに対しての反逆の手段として、テロしかないって側面もあるんだ。力の無い少数派に残された、唯一の抵抗手段とも言えるからな。そういうのはまだわかる。だがな、単なるイカレた思想団体や、イカレ宗教の腐れ教義に踊らされてやっているんだとしたら、流石に認め難いな。いや、それも全然認めないってわけでもないが……」


 梅津の価値観からすれば、テロを闇雲に悪と断じているのは、ただ単に権力者の保身のためだとすら思える。もちろんテロによって一般人も死ぬことはわかっているので、テロリストの擁護を全面的にする気も無いが。


「つーか、そうした存在が現れないための防波堤としても、裏通りがあったんじゃなかったんですかね」


 裏通りは見境ない暴力を抑え、隔離と管理し、さらには産業へと昇華するために、暗黙の了解として認められていた存在であったが、その管理の枠から外れる存在が多数出現するとあれば、その存在基盤は怪しくなる。


「社会に適応できる人間ばかりではないからな。その裏通りにすら行き着くことができない奴が、イカれたカルトに行き着いたあげく、破壊を繰り返すとかよ。裏通りのろくでなし共が可愛く見えるわな」


 梅津は裏通りの住人に対してさほど悪い感情は持ち合わせていない。相手にもよるが、概ね理解を示している。だが薄幸のメガロドンへの認識は違う。いまいち共感できない。


「ま、警察だけでなくいろんな機関が動いているからな。噂によれば、世界を裏から操る正義の秘密結社様まで、刺客を送り込んだとか。教祖は生きてはいられないだろうぜ」

「お縄に頂戴は出来ず、暗殺が末路ですかー。何だかなー」

「ただ、教祖を始末できたとしても、わんさかいる信者共の暴走が食い止められるわけでもないんだが、その辺ちゃんとわかってて刺客差し向けてるのかねえ」


 皮肉げに笑う梅津。


「それじゃあ結局打つ手なしなんじゃ? だからやっぱり機動隊無理矢理突撃させて、全員お縄にしないと駄目でしょー」


 梅津の言葉を受け、目を丸くして大袈裟な口調で言う松本。


「考えてみれば、それだけでもまだ足りないわ。そいつらが釈放されたらテロるかもしれないわけだしよ。それを抑える方法なんて無い。保身を考えず、大嫌いな社会に牙を剥くあいつらを完全に縛れる法律が無いんだからな」

「じゃあどうしろと。ミサイルなりぶちこんで、薄幸のメガロドンの信者皆殺しにするしかないんじゃないですか?」

「そーだよ」


 松本の言葉を梅津は真顔であっさりと肯定する。


「自身の命も投げ打って反社会をしようなんていうテロリストは、問答無用で殺すしかない。その可能性があるだけで社会の野放しにさせちゃいけない。存在自体許しちゃいけない。そういうもんだぜ? 当たり前だろ。国際社会じゃそれが常識。しかしそれができない国際社会から見たら非常識な国が日本、と。テロリストとはまた違った意味でイカれた――おかしな思想を持つイカれた連中が、何十年もその非常識を美徳としているからな。国民の命を肩代わりにしてよ。少し前までは、人質立てこもり犯の狙撃すら許されないほどだったんだぜ?」


 梅津の話を聞いて、松本は絶句して二の句が告げられなかった。市民の安全を守るために警察になった自分は何なのか。社会に害を成す輩が確かに存在しているのに、それを見て見ぬ振りして、ひたすら受け身になるしかない事への歯がゆさと悔しさがふつふつと沸いてきて、松本の表情が歪んでいく。


「お前はすぐあいつらをぶちのめして、日本を救うヒーローにでもなりたいのか」

 そんな松本に、梅津が諭すような口調で言った。


「出来る範囲の事をやるのもうちらの務めだ。俺達は何もしてないわけじゃない。仮に奴等と遭遇したら、奴等が市民を手にかける前に、うっかり発砲してうっかり射殺したって構わないだろ? こちとら元々なんでもありの裏通り班だからな」


 不敵な笑みを浮かべて語る梅津に、松本も少し気が晴れたように小さく笑った。

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