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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
5 世界一下品な遊園地で遊ぼう
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22

 突如現れて窮地を救った正義の味方――と己では信じて疑わないマウスを残し、瞬一と美香は引き続き盲霊師を探して歩いていた。


(ターゲットが移動していたら、すれ違いの可能性もあるんだよな)


 美香が言うには、調べてない場所は限定されているという話だが、瞬一はその杞憂があった。たまたま潜伏場所を出ている可能性もある。もしその不運があれば、捜索はまたゼロからやり直しになる。


「来たぞ!」

 美香が叫ぶ。


「偶然の悪戯で反応があった! 盲霊師の居所が近い!」

「大雑把だけれど、まさかそれだけで終わり?」

「これが限界だ! あとはこの周囲を徹底的に調べるのみ! 範囲が限定されただけ由としよう! ここ二日ほど楽しませてもらったが、それももう終わりかもな!」


 結局東京ディックランドのほぼ全てのアトラクションを満喫しておきながら、名残惜しそうに言う。


「遊園地なんて初めてだしな! 恋人とデートならもっとよかったんだが!」

「今度真でも誘ったら?」

「ふざけるな! 片想いでふられた相手をどの面下げて誘うというんだ!」


 憤怒の形相で瞬一の胸倉を掴む美香。

 美香の頭に、最悪の記憶が蘇る。


『お前が好きだああぁっ!』


 人ごみの中で、真の背後から美香はほとんど絶叫に等しい告白を行った。周囲の目が美香に降り注ぐ。真も振り返って唖然としていた。いつもポーカーフェイスの真が、その時は明らかに表情を浮かべていた。美香が初めて見る顔だった。

 数秒後、真は元の無表情に戻り、美香から顔を背けてそそくさと早足でその場を立ち去ろうとした。


『おい! ちょっと待て! 私の想いに答えてくれないのか!』


 慌てて真の後を追い、呼び止める美香だったが真は応じずにそのまま歩いていく。そのリアクションを見て、美香は呆然と立ちすくみ、やがて全身を震わせ、紅潮した頬を涙でぬらし始めた。


『それが……それが答えなんだな! わかった! 悪かった!』


 大きく頭を下げて涙声で謝り、美香は真とは逆方向にダッシュをした。その二分後、真と同じ目的で仕事の依頼の遂行中だった事を思い出して、真の所に戻って気まずい雰囲気のまま仕事をこなした。


「自分を抜き差しならぬ状況に追い込んで、背水の陣をひいたつもりで舞い上がっていた! 相手の迷惑も考えずにな!」

「そんなことがあったのか」


 苦しげに述懐する姉に、瞬一は納得と同情が入り混じった声を漏らす。


「あの思い出は一生忘れられそうに無いトラウマだ!」


 成長する過程としてはよかったのではないかと思った瞬一だが、流石にそれは口にできなかった。


「一番売れた歌が唯一の失恋ソングだったよね。それはその時の?」


 瞬一はあまり美香の歌が好きではなかったが、その歌だけは好感が持てた。


「まあな! しかし私の信条とするスタンスはあくまでポジティヴに! 後ろ向きな歌はたまにでいい!」

「まあ、姉ちゃんの失恋話はわかったけどさ、早いところ盲霊師探さないかな? さっきの正義の味方が頑張ってくれている間にさ。側にいるんでしょ?」

「応! そこにある軟体動物専門水族館が怪しいな!」


 萌えアニメ風味イラストで可愛らしい幼女が巨大ウミウシの上に乗ったり、巨大クリオネを抱きしめていたりする看板の建物を指す。周辺にある建物はここと、お尻畑という奇怪なアトラクションだけだ。後者はつい先程調べた――というか、遊んだばかりである。


「入るぞ! くれぐれも注意しろ!」

「うん」


 これまで通り、期待に胸を膨らませてうきうき顔で水族館へと向かう美香の後を、緊張した面持ちで瞬一は追った。消去法からいけば、すれ違いさえなければここに必ず目当ての盲霊師がいる。


***


 労働拒絶戦士ファイナルニートが生み出す力の原動力は精神エネルギーであり、労働と外出を頑なに拒絶するスピリットにあると、京は純子より教わった。

 引きこもることにより生じる精神的引力が、ファイナルニートスーツによって物理的引力へと転換され、半径十五メートル以内の指定した物体を、手元へと引き寄せることができる。質量による限界はあるが、人間くらいなら問題無く引き寄せることができる。全て純子の弁であるが、京はそれを信じて疑っていなかった。


「動かざること……」


 小さく呟き、左手を突き出し、引き寄せる相手に指定と照準を合わせる。

 照準を合わせたら、そのまま左手をゆっくりと引く。左手の動きに合わせて黒服が上半身から見えない力に掴まれて引きずられるようにして、京の方へと引き寄せられていく。引き寄せを行うのに、この二つのアクションは不可欠だった。

 体勢を崩し、地が足を離した状態になった相手は、回避行動がほぼ不可能である。多くはパニックを起こして、必死に手足をばたつかせ、京の手が届く距離まで引き寄せられていく。

 ある者は引き寄せられながらも京の方に向かって銃を撃つが、体勢を大きく崩しているうえに引き寄せられながらでは、ろくに狙いを定められるはずがない。


「山の如し!」


 手が届く範囲まで引き寄せられた時点で、お約束の叫びと共に目にも留まらぬ速さで繰り出される右拳により、頭部が粉々に破壊されていく。そんなことが数回繰り返された時点で、日戯威の構成員達は完全に士気を失い、逃走しだした。


 一息つく京。与えられた使命は月那瞬一という子の手助けをすることであるから、まだ終わりではない。純子から美香の居場所を捕捉するレーダーを与えられてはいるので、瞬一と共に行動している限りは居場所の検討はつく。レーダーに映る光点に向かって移動しようとしたその時――


「写真一枚プリーズオ願イシマース!」


 おそらく小学生高学年くらいであろう淡い金髪の少女が駆け寄ってきて、嬉しそうな笑顔で写真をねだってきた。ティアラを被り、フリルをふんだんにつけたロングスカートをはき、お姫様のようなごてごてした服装だが、その服がところどころ無惨に破れているうえに、服の至る場所に蝋燭が垂れ落ちたような白い粒がついているため、京はギョッとしてしまう。

 京は知らなかったが、東京ディックランドのキャラクターである白液姫と同じ格好であった。


「いや、俺ちょっと急がないと……」

「みーとぅーっ、みーとぅーっ」

「ヘイ! カモン、ヒーロー!」

「ディックランドニューHENTAIヒーロー? サインプリーズ!」


 躊躇う京の周囲に、外国人観光客達が大喜びでサインや写真や握手をねだりにくる。完全にアトラクションキャラだと思われていたのはわかったが、それでも悪い気はせず、京はそれらに答えてやった。


(とんだ時間のロスになっちゃったけど、大丈夫かな……)


 野次馬達から離れて、美香の方へと向かう。

 その京の前に、一人の人物が立ちはだかった。


「ねー、何でそんなコスプレ紛いの格好しているの? 一度聞きたかったんだよね。ヒーロー系のマウスって、そういう格好して恥ずかしいと思わないの? それともそれ格好いいと思ってるの? できれば教えて? 真剣に教えて」


 髪をピンクに染め、黒とピンクの二色にしぼった服装の女。右手に銃を携え、左手には鉄製の槍のようなものを肩ごしに掲げている。いや、槍ではない。銛だ。


「何か日戯威の人達さ、ギャラリーいるのに銃撃ってたし、危ないよね。危ないと思わなかったのかな? あんたもそーだよ。巻き添えで表通りの人が危ないと思わなかったの? 思うのなら場所移しているはずだよね。何も考えてないわけ? ちょっとそういうのムカつくかも」


 耳が痛い言葉だった。スーツの力で精神状態が高揚していたとはいえ、正義のヒーローとしては当然考慮すべきことだった。


「で、何も質問に答えてくれないの? 一つくらい答えて欲しい。あなた、どうしてそんな格好して平気なの? ねね、教えて」

「正義のヒーローだからだ」


 その女が敵か味方かはかりかねたが、無言のままでも味気ないと思って、胸を張って答える。


「わかんない。正義のヒーローだとどうしてそんな格好なの? どうしてそんなの着なくちゃいけないの?」

「このスーツで力を増幅しているからだよ」

「でも何でそんなデザインなの? まるでテレビに出てくる戦隊ものヒーローみたいなのは何で? もっと別なデザインでもいいはず。普通のパワードスーツみたいなのでいいよね。そう思わない? 私はそう思う」

「いや、この方が格好いいからじゃないかな……」

「はー? 格好いいとは思えませーん。恥ずかしいスよ? 恥ずかしいと思うべきだし、作った人に疑いを持つべき。何で疑わないの? 何で恥ずかしいと思わないの? 君、歳いくつー? 恥ずかしいと思わない特殊な感性って奴? ていうかオタク? なんかすごくキモいよね」


 しつこい問答と女の物言いに、いい加減京は苛立ちを覚える。


「あ、私鳥山正美って言うの。一応日戯威に雇われてて、あんたの敵なんでヨロシク。戦う前に疑問解消したくってさ。答えてくれてありがとうね。答えてもらいはしたものの、全然納得いかなかったけれど」

「そうか」


 敵だと判別がついて、むしろほっとする京だった。逆にこんな腹の立つ女が味方である方がたまらない。

 先程と同じく華々しく名乗りをあげる気にすらなれなかった。また何を言われるかわかったものではないから。


「あれれ? さっきみたいに名乗りをあげてポーズ決めたりとかしないの? それ、すっごく期待してたのに。それとも一日に二回やっちゃいけないとか、そういうお約束がヒーローにはあるのかな? どうなの? ねね、もしかして私の言ったこと当たった? ねえ、教えて。よかったら教えて。後学のために」


 しかし名乗りをあげなければあげないで、結局はとやかく言われることになって、京はヘルメットの下で渋面になる。


「ま、こっちの方なら人とかいないから安心して戦えるよねっ。それにあなたが無様に負けて、ヒーローが負ける構図とか他に見られる心配もないよ。私はあなたの敵だけれどそういう気遣いできることにはちゃんと感謝するべき」

「はいはい」


 物言いから察するに悪人ではないようだが、それでも敵であることには間違いない。左手を突き出し、引き寄せの照準を合わせる京。

 この時、京の頭の中から、ある事実への意識が抜け落ちていた。正美がつい今しがたの日戯威との戦闘の様子とファイナルニートの能力を見たうえでなお、単身京に挑もうとしているという事を。

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