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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
5 世界一下品な遊園地で遊ぼう
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2

 真は雪岡研究所の自室においても、寝る際は手を伸ばせばすぐに取れる位置に銃を置いておく。

 たまに純子に改造されたマウスが研究所内で暴れるせいだ。一度真が寝ている時に自室に乱入して襲われて以来、寝る時も警戒を怠らないようにしている。


「おはよっ、おにーちゃん。朝だヨ。おっきして!」


 だが今回はその気配を微塵も感じることなく、室内に侵入者を許してしまったようだ。

 幼い少女の元気いっぱいな声が、すぐ耳元で響き、真は銃を手に取ってベッドから跳ね起き、声の方向に向かって銃を向ける。


「銃なんて向けちゃらめえっ! せつなはおにーちゃんの敵じゃないヨ。ただの目覚まし幼女だヨっ」


 目に飛び込んできたのは、七歳から九歳くらいの年頃と思われる可愛らしい女の子――の生首が、植木鉢から生えているという光景だった。


「いつの間に入り込んだんだ。まったく……」


 植木鉢を乱暴に鷲掴みにすると、中の土がこぼれるのも構わず、そのまま急ぎ足で部屋を出る。


「あ、何するのぉ、おにーちゃんっ、やめて。せつなはまだ子供だよぉ。こんなのまだ早いヨ」


 生首にされた幼女はどこで覚えたのか、おかしな台詞を口にしている。


「初めてなのにそんなに乱暴にしちゃらめぇ! おにーちゃんっ、も、もっと優しくっ」

「おいっ、雪岡」


 何やら喚いている生首植木鉢幼女の言葉を一切無視して、片っ端から研究所内の扉を開けていき、純子を見つけ出すなり、不快を顕にして声をかける。


「おっはよー、真君。あ、その子どう? 気に入ったあ? ついさっき完成したばかりの、目覚まし幼女生首せつなちゃん」


 真の手にしている植木鉢の幼女を指し、微笑みながら感想を伺う純子。


「気に入るも何もいくらなんでもやりすぎだろ! まだこんな小さな女の子を!」

「んー、でもその子自身の望みだしさあ」


 珍しく純子の人体実験に対して怒気に満ちた声で抗議する真に、戸惑いの表情を浮かべる純子。


「だからって、まだはっきりとした自己判断もできないような子に――」

「ここに来た時は子供じゃなかったよ。四十すぎのおじさんだったしー。可愛い幼女に転生したいっていうから、その望みをかなえてあげたんだよー」

「ぐげえっ!」


 それを聞いて、真は植木鉢を握る手を放す。その場に落ちて頭部を床にしたたかに打ちつけた生首幼女せつなは、呻き声をあげて失神した。


「気に入らなかったかー。残念」


 珍しくアンニュイな表情で溜息をつく純子。真が生首幼女を気に入らなかったことに対してでは無い。


「どうかしたのか?」

「んー、もうすぐ第886回国際マッドサイエンティスト会議が開催されるから、私もそれに出なくちゃいけないんだー。世界中から何千人ものマッドサイエンティストが集まるスペシャルイベントなんだよー。もちろん私や霧崎教授を含めた『三狂』も出席するしねー。ミルクは例によって直接出席するわけじゃないけれど」


 三狂とは、日本国内に星の数ほどいるマッドサイエンティストのうち、特に危険かつ優秀な三人――雪岡純子、霧崎剣、草露ミルクのことを指す。

 霧崎剣とは真も幾度か会った事があるが、草露ミルクに関しては面識が無かった。それもそのはずだ。この人物はネット上にしか姿を表さないことで知られており、容姿、年齢、性別の全てが謎のベールに包まれている。電脳空間に派生した、自我を持つプログラムなのではないかという噂まである。

 不思議とこの人物に対してだけは、誰であろうと君ちゃんさん付けで名前を呼ぶ純子が、常に呼び捨てにしていた。


「会議の最中に会場に隕石でも落下すれば、世界はかなり平和になりそうだな」

「あ、それは無いよー。知り合いのマッドサイエンティストに、いつ隕石が振ってくるかわからないって、四六時中警戒している人がいてねー。その人は自分が行く先々常にマークしていて、隕石が墜ちてきたらすぐさまミサイル発射して迎撃できるらしいよー」


 皮肉で言った真だったが、純子が真面目にそう返す。


(せっかくの知恵と技術も、当人の精神が壊れているが故に、無駄な労力となってしまっているな)


 そう思い、呆れる真。


「もう何年も前から、世界中のマッドサイエンティストが一致団結して、何か凄いものを作ろうっていうプランが出ているんだけれど、まだ何作るかも決まってないんだ。てかね、何を作るかで意見が真っ二つに分かれちゃっているんだよねー」

「どうせろくなもの作らないんだろう?」

「うん、そうなんだよねー。精巧かつ従順な美少女アンドロイド作りたい派と、変形合体巨大ロボット作りたい派の二大派閥に分かれちゃってさー、怒鳴りあってばかりの喧嘩会議が延々と続いてるんだよー。私としては、せっかくあれだけ大勢のマッドサイエンティストが集まって、一丸となって偉業を成そうっていうんだから、もっと有意義なもの作った方がいいと思うんだよねぇ。で、私はというと、女装趣味とMっ気のある犬耳尻尾の生えた美少年獣人が作りたいって、主張しているんだけれど、賛同してくれる人があまりいなくてさー。少数派の立場に回ると哀しいよね。まあ真君と累君がいるから別にいっかーとも思うけど」

「僕らはそんなもんの代わりなのか……。ていうか、女装趣味なら芦屋がいるじゃないか」

「いやー、黒斗君は霧崎教授が手がけたサイボーグだからさー。あ、そうだ」


 純子がカレンダーを見る。


「今日あたり来るかなー、例のブツ」

「午後に瞬一が来ると言ってたな」

「私さー、朝御飯作った後に寝るから、真君受けとっておいてー。例のブツ以外にもいろいろ注文してあるから、大荷物になるけれどよろしくねー」

「また睡眠周期が昼夜逆転か」


 そう言うと真は、床に落ちて失神したままの生首幼女を跨いで、部屋を出て行った。


***


 指定された日時と場所で予定通り、盲霊師こと杜風幸子は流通組織の者からブツを受け取る運びとなった。

 受け取るブツは、オークションにおいて僅差で敗れたはずだったが、何故か落札者がキャンセルしたとの連絡が入り、自分が受け取る事になった。これは僥倖なことだ。もし手に入らないようであったら、ブツの輸送中に力ずくで奪わなくてはならなかったからである。


 幸子の前に現れたのは十五歳前後の、どこにでもいそうな少年だった。幸子を見てにっこりと笑って見せたが、どうにも嫌な感じの笑みに見えた。ビジネスライクな愛想笑いだが、歳不相応というか、瞳の奥に淀んだ光が宿っている。


「溜息中毒の方?」

「そうですよ。どうぞこれを」


 少年が愛想笑いを張り付かせたまま、紙袋に包まれた壺を幸子の方へと差し出す。

 紙袋を開けると、何十枚もの呪札が貼られた古い壺が現れる。それを見て幸子は眉をひそめた。


「封印が緩んでいるわ。一体どういう扱いしたの?」

「うちらもその道のプロですよ。粗雑な扱いをして評判を落とすような真似はしません。最初からそういう状態だったのです」


 咎める口調であったが、少年は物怖じせずに愛想笑いを張り付かせたままそう言ってのけた。口にしていることに関しては信じてもいいとは思えたが、ぬけぬけとした態度だと、幸子はますます嫌な印象を受ける。


「このままでは危険ね。とりあえず礼を言うわ」


 早急に対処した方がよいと幸子は判断をする。いつ封印が解けるかもわからない。当初の予定に従って持ち運ぶのは危険だ。まずは霊的磁場が強く――明るい気で満ちた場所へと運び、結界を張って封印を強化した状態で、組織に救援を求めた方がよい。


 壺を紙袋にくるみなおして足早に立ち去った幸子の後姿を見送り、少年は愛想笑いを歪な笑みへと変えて、己の頭部に手をかけると、カツラを取り、顔につけた変装用の人造皮膚を一気にはがす。

 中から現れたのは、二十代前半くらいの男の顔だ。


「ボス自ら御苦労様です」


 近くで気配を殺して潜んでいた禿あがった頭の初老の男が現れ、声をかける。スーツ姿で、一見して普通のサラリーマンにしか見えない風貌だ。


「重要な役割だし、体格的にも俺と合っていたしね。部下に任せたとして、その部下が捕まってゲロるっていう、そんな展開になる心配もこれで無いわけですよ。何より俺は芝居の類は得意だし、適材適所です。それよりもあいつの足取りは把握しておいてください」


 幸子が立ち去った方角を向いたまま、ボスと呼ばれた若者が初老の男に指示を出す。


「部下に敬語はいけませんよ。で、何故そのようなことを?」

「雪岡純子の信頼を得るために、ブツを奴ごと売り渡そうかと思いまして……いや、思って」


 安楽市最大の流通組織『日戯威』の若き頭目、赤木毅あかぎたけしの言葉に、初老の男は満足そうに頷いた。


「商品の横取りと横流しだけでも危ない橋ですのに、そのようなことをするとは、大した度胸ですな」

「バレなければ問題ありませ……問題無い。組織をでかくするためには、危ない橋も渡る必要がある。危ない橋を渡りきれば、その先で得られるものは多い。いや、危ない橋の先だからこそ、お宝がわんさか転がっているってね」


 知った風なようなことを言うと、初老の男――日戯威のナンバー2青島憲太あおしまけんたは内心呆れていたが、同時に微笑ましくも感じていた。


 日戯威は数ヶ月前に、それまでボスだった赤木猛を病で亡くしている。

 組織内からは、後任は青島と思われていたが、遺言により息子の赤木毅が継ぐこととなった。先代ボスへの忠誠厚い青島はこれを承服して、二代目のサポートに徹している。


「だからさ、できることは全てやっちゃおう。俺は父親が作った組織をただ受け継いだだけの、親のすねかじりで終わりたくないしさ」


 青島の前でいつも語る毅のこの言葉は、嘘では無かった。

 二代目はボンクラというお決まりのパターンになることを、毅は何よりも恐れている。組織をより大きくすることで自分の力を証明したいという欲求に、毅は取りつかれていた。

 毅の人間性はともかくとして、そのひたむきな情熱を酌んで、青島は若き二代目に忠誠を誓っていた。

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