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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
4 殺し屋達と遊ぼう
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終章

 気がつくと、上半身裸で手術台の上に寝かされ、右目以外の治療を終えた状態にあった。

 右目周辺に麻酔を施された状態のために、真には右目を治している最中としか認識できなかったが、傷ついた眼球は抜き取られ、開眼器で眼孔をこじ開けられて固定された状態にされてある。


「あー、気がついらー? ちょっろいい子にしれ待っててねー」


 大きめの飴玉を舐めながら、純子が少し離れた場所で手術器具をいじっている。


「睦月はどうなった? あれからお前が捕まえに行ったりしたか?」

「まひゃかー。真君の治療も終わはないうひに、そんなころしないよー。それに、真君があそこでああいう風に睦月ちゃんを逃がしたろに、さらに追っかけ回すのって、幕引きのタイミングわかってないみたいれ嫌じゃなーい」

「まあ、そうだな」


 納得する真。


「自分でやったこととはいえ、最悪の結末だな。ターゲットである睦月は逃し、その仲間だけは全て殺すなんてさ。あいつはきっと復讐にくるだろうし」


 真からすれば最初からそうするつもりだったわけではない。結果としてそうなったのだが、その結果が何をもたらすかは自覚している。


「中枢には睦月ちゃん殺ふのは無理って言っておひたよー。これれもうあの子もタブーの一人として、中枢から狙われることは無いねー。黒斗君からは狙われるかもしれないけどさ。真君もあの無敵無敗の殺し屋組織を一人で壊滅したってことれ、まふまふハクがついたって感じだしー」

「その僕をさらに退けた睦月は、手出し無用のタブーというわけか。真実を知らない者から見たら、確かにそういう構図の結果になるな」

「私達らけが真実独占とか何か気持ひいいよね」

「別に気持ちよくなんかない。知らない方がいいことだってあるだろ」

「ほーかなー? 私は知っていた方がいいと思うけどろー」


 純子が真を覗き込み、口の中から飴玉を吐き出す。吐き出した飴玉を真の顔へと近づけていく。

 否、飴玉ではなく、眼球だった。


「んじゃー、新しい目玉はめこむよお」

「洗え」


 純子の手の中にある唾液まみれの眼球を見て、真は嫌そうに言った。


***


 気がつくと、遊園地にいた。

 悪名高い遊園地、東京ディックランド。長椅子に行儀よくちょこんと座っている睦月。その隣では、真奈美が弁当箱を広げている。


「ただいまー。自販機中々見つからなくてさー」


 ジュースを両手に抱えた卓也が駆けてきて、睦月と真奈美にジュースを手渡した。


「今日のお弁当、睦月も作ったのよ。正確には作らせたんだけれど」

 悪戯っぽく微笑む真奈美。


「どうして俺が料理なんか……」


 以前にも何度か無理矢理、真奈美に一緒に料理を作らされたが、どうにも苦手だった。


「そりゃ女の子だし、彼氏が出来た時のために、今からでも覚えてた方がいいって」

「あは、できないし、そんなの……それに俺……女じゃ……ないし……」


 最後の方の言葉は尻すぼみになっていた。


「次来るときは英雄も連れて来ないか?」

「いいねー。そうしよう」


 卓也が提案し、真奈美も同意する。


「えー、英雄はこういう所来るの、嫌がりそうじゃないかなあ?」


 遊園地と英雄の組み合わせが、睦月には想像しがたい。


「そんなことないよ。まあ表面上は嫌がりそうだけど」

 と、真奈美。


「無理矢理連れてくればいいよ。そうすれば睦月もいることだし、内心では絶対喜ぶよ、あいつ」

「いや、何で俺がいると英雄が喜ぶのさ」


 意味深な口ぶりで言う卓也に、あからさまに戸惑う睦月。


「別に俺は嬉しくなんかないぞ」


 いつの間にか英雄がいて、隣の席に座って弁当を食っている。いつものあの白ずくめの姿なので、遊園地ではえらく浮いている。


「ちょっ……いつからいたのさ、英雄」


 三人で遊びに来たはずが、何の脈絡も無く現れた英雄にますます戸惑う。


「ずっとここにいた。いや、ずっとここにいる……だな」

「あ……」


 寂しげな笑みを浮かべる英雄に、睦月はあることを意識した。

 卓也と真奈美は見えなくなっていた。英雄の姿も薄れていく。


「これ夢だよ。んで、夢だってわかると醒めるんだよねえ。あははぁ……」


 声に出して喋ると、目の前の全てが消えていく。消えて欲しくないと痛切に願ったが、それも無理なことだと同時に意識しつつ、覚醒する。


***


 気がつくと、睦月は河原の土手の坂で横向きに寝ていた。

 冬ではあるが、睦月の体なら全く問題無い。気温の変化にもかなり強い。


 日は暮れている。暗闇の中なのに暗いと感じない。幾つもの光があった、空では星が、対岸の車道のヘッドライトや、家の明かりが光っている。それらを睦月はぼんやりと眺めていた。


 何か夢を見ていたようだが、夢の内容をよく覚えていない。遊園地に皆がいる夢だったような記憶だけはある。

 ふと、東京ディックランドなどの遊園地に行くのが、小さい頃の沙耶の夢だった事を思い出す。テレビのCMで見て、いつも憧れていた。


「俺が自分で……この光を消していったんだよねえ」


 起き上がり、体育座りの格好になって、星の光と街の灯りをぼんやりと見つめながら呟く。


「沙耶は――外の世界に出るのをずっと夢見ていた。俺はこうして外の世界に出ることができた。卓也と真奈美と会って、掃き溜めバカンスに入って、皆と楽しく暮していた。なのに――」


 ふと、そこまで喋ったところで人の気配を感じた。

 振り返ると、自分と同じ年頃の制服姿の少女が自転車で土手を通り過ぎていった。


「消えた……? いや、出ないっ!?」


 己の中の信じられない変化を意識して、驚愕する。

 自分と同じ年頃の少女を見ても、ドス黒い憎悪が吹き出ない。以前の睦月なら激しい殺意の衝動に駆られていたはずなのに、全くそれが無いのだ。


 真の言葉が脳裏に蘇る。掃き溜めバカンスの面々が、自分のために捧げられた生贄だというあの言葉。真が加藤から告げられたという言伝。


「あは、あははっ、あはははは! そういうこと!? 沙耶のために俺は生贄を捧げ続けてきた。なのに、俺のための生贄として、皆が捧げられた!? あはははははっ! あはははっ!」


 虚ろな瞳で夜空を見上げ、大声で笑った。大して笑いたくもないのに、わざと大きな声をあげて笑っている。


「生贄ってこれの事なのかねぇ? 皆が俺のせいで殺されたから、その悲しみの方が強くて、沙耶の殺意が消えたってこと……?」


 自身が絶望していることを意識し、自嘲せずにはいられない。


(どんなに生贄を捧げても沙耶は戻らないって事にも気付いたし。いや、沙耶はもう……完全に死んでいたんだ。もう取り戻せない。甦らす事はできない。何故なら、この体、この心、今や完全に俺が埋め尽くしている。だから……)


 そう思う一方で、腑に落ちない部分がある。消失したと思われた沙耶の意識を感じた事が、二度だけあった。あれは気のせいなどでは決して無い。真に助けられた時、再会した時、確かに沙耶の意識を感じた。


「あは……そもそも俺って何なんだろうねぇ」


 その答がわかった瞬間、それを意識せずにかき消すように、別のことを考える。


「沙耶は逃げたんだ。沙耶である事から、睦月という俺へと逃げた。俺に自分の憎悪だけを託して逃げた。だからもう現れない。俺の努力――沙耶を呼び戻すために捧げてきた命も全て無駄だった。俺は……俺は一体何なんだよ!」

「芸術品でしてよ」


 叫んだ直後、すぐ背後から声がかかり、驚いて振り返る。

 すぐ近くに一人の女性が佇んでいた。何者かが接近する気配は全く感じなかった。それだけで只者ではないとわかる。全身白ずくめの二十代とみられる女性。白いブラウスに白いロングスカート、白いオーバーコート、そして白いソフト帽。


「郁恵さんは見事に私の期待に応えてくれましたわね。貴女は郁恵さんの創った最高傑作。いえ、私と郁恵さん、それに純子の三人の共同作業の賜物とも言えますわね」


 その女性に見覚えは無かったが、少なくとも相手は自分のことを知っているようだ。さらに純子の名まで口にしている。


「作った? 俺を?」


 その言葉が意味することに、心当たりがあった。物心ついた頃からずっと閉じ込められてきたあの部屋。そして母親の存在。


「はじめまして、私は雨岸百合と言います」


 口元に微笑をたたえ、名乗りながら恭しく頭を垂れる。


「純子のやり方を見習って泳がせていましたけれど、そろそろ回収の時期と思いまして、こうして貴女の前に姿を現しました」


 百合と名乗った女性が、睦月の方に手を差し出す。


「回収……ねえ」

「お気に召しませんのでしたら、力ずくという方法でもよろしくてよ」


 柔らかな口調で挑発する百合であったが、睦月は反発する気力が沸かなかった。行き場の無い自分の前に、絶妙のタイミングで自分を知る者が現れたことに、興味の方が先立った。


「あは……。いいよ、回収されてあげるよ。今は喧嘩する気分じゃないからさ」


 力なく笑うと、睦月は百合の手を握る。固く冷たい感触。


(義手?)


 睦月は笑みを消し、百合の顔を見る。面長で整った顔立ちをしているが、どこか作り物めいた印象があった。


***


 郁恵はこの時を心待ちにしていた。あの少女と会えることを。あの少女の天使のような笑顔をまた見られる事を。


「待っていたわ、純子。どうだった? 私の最高傑作は」


 ここ二十年近く音信不通だった偉大な主が、ようやく姿を現したことに感激を覚え、満面に喜悦の笑みを広げて出迎える郁恵。

 純子の顔に笑みは無かった。それに違和感を覚えたものの、再会の喜びの方が勝った。


 突然連絡を寄こして、わざわざ家まで訪れてくれた純子。その横には累の姿もある。累の右手にはスケッチブック、左手には長い袋の包みが握られていた。


 鈴木郁恵は富豪の令嬢として育ち、将来有望な才媛であったが、二十年程前、純子と出会った事で、彼女の悪逆非道で奔放な生き方に魅せられた。以後、純子に認めてもらわんとするがために服従し、純子の言いなりになって研究素材を製造して提供するだけの存在に成り果てた。


「私は人間を進化させるための研究をずーっとしてきたけれど」


 挨拶も無しに唐突に話を切り出す純子。


「どうもうまく私の理想通りにいかなくてねー。何より確実性が見出せないのが困りもんていうか。ただ、強い精神力や感情なんかがトリガーとなりうるってのだけはわかったんだ。そこでまず、ものすごい悪人か善人ならどうなのかなって思ったんだけれど」


 そこまで話したところで純子は小さくかぶりを振った。言いながら、その結果を思い出していた。


「憎しみだけに染まって悪だけを突きつめた人も、友愛だけを信じて頭の中がお花畑な人も、どっちもバランスが偏っているせいか、うまくいかなかったし、何より面白くなかったんだよねー。人間は善い心も悪い心も持ち合わせているのが普通だから、偏るとつまらなくなっちゃう。ひたすら悪だけ追求する人間も、善だけ追及する人間も、何か薄っぺらさが漂うっていうかさー。でも憎悪と愛情の狭間で激しく葛藤している人間なら、高確率で進化できる適正を持つんじゃないかって思って、郁恵ちゃんにそういう人を探してもらっていたんだよねー」

「ええ、ですからそうした人間を私は作っていたのです。精子バンクから優秀な遺伝子を盗み出し、この身に宿して、それを純子に使ってもらう! なんと光栄で素晴らしいことでしょう!」


 興奮した口調で郁恵。

 純子の要望に応えるがために、郁恵は二十年近く前から、優秀な遺伝子を持つ精子を己の卵子と子宮外受精してから自らの体内に着床させて、何人もの子供を幽閉して虐待しつつ、特殊な環境下で育てていた。


「そして何人もの子を送り出し、純子の役に立ってもらえた! 私は母親として――」

「ただ、ねえ……。私が求める人材を探すんじゃなくて、そのために子供を産んでそういう人材を作為的に作り上げるってのは、どうかと思うんだー。そんなこと頼んでないし。そういうのって、私のポリシーと全然合わないなあ。生まれた時から運命が決められてしまって、本人の選択肢も無いしさあ……。私ルールとしては絶対にノーかな」


 悦に入ってまくしたてる郁恵の言葉を遮って、珍しく随分と低いトーンで淡々と述べる純子。


「私が実験に協力してもらっているのは基本的に、私と敵対した人か、私と同意のうえで自分を投げ売りしている人だって、知っているはずじゃない? 敵対した人でも無い限り、本人の同意無しにってのは、有り得ないなあ。睦月ちゃんは私と契約こそしたものの、そうなるように最初から意図的に仕組まれ、仕向けられていたってのが、これまた有り得ないんだよねー。私の美学にも反するし」


 純子の顔には一切笑みが無かった。純子の語る内容は、郁恵が行ってきた二十年の成果を全て否定していた。


「一言で言うとさ、郁恵ちゃん、何でそんな勝手なことしているのかなあ?」


 純子の詰問に、郁恵は青ざめ、震えだす。自分が長らく正しいと思って行ってきたことが全て間違いだったと、崇拝する相手から言われているこの恐るべき現実に、心底戦慄していた。郁恵を絶望の奈落の淵に追いやった。


「しかしこうすれば純子が喜ぶと、あの人が言ったのですよ! だから私は何人も産んで育ててきたんです! そして私が手塩に育てた子が役に立てて、どんなに嬉しいか」

「そう言ったのは百合ちゃん?」


 必死の形相で喚く郁恵に、真顔で尋ねる純子。その名が出た瞬間、隣にいる累の表情が険しいものになる。

 郁恵は引きつった面持ちで、無言で頷く。


「やっぱりねえ……まあ、もういいから」

「え?」

「もう一切しなくていいからねー。今言ったよねえ? そういうのは私のポリシーじゃないからさあ」

「せ、せめて今育てている子だけでも、そしてこのお腹の中にいる子だけでも! 純子に役立ててください! 必ず気に入りますから!」


 嘆願する郁恵に、純子は小さく嘆息する。


「あれま。これだけ言ったのに、全然わかってないんだねー」


 呆れと諦めが入り交ざった表情を浮かべる純子。郁恵は純子のこんな顔を見るのは初めてだった。純子と長い付き合いである累でさえ、純子がここまであからさまに不快感を表に出すなど、滅多に見たことがない。

 ようはそれだけ純子の逆鱗に触れたという事だと、累は思う。怒りや悲しみといった感情が欠落しているのではと思わせるくらいに、負の感情を人前で見せることのない純子だが、この件ではスイッチが入ってしまったのではなかろうかと。


「じゃあね」


 素っ気無く一言残して、純子は郁恵に背を向ける。

 何か言おうとした郁恵の前に、累が進み出た。


「貴女は幸福だったでしょうけれど、貴女の子供達は、そうではない」


 これまたいつもの累では無かった。いつものたどたどしい言葉遣いではなく、全く淀みない口調で告げると、袋の中から妖刀妾松を抜く。袋の中に鞘を残して。

 黒い刀身が郁恵の腹部を貫く。


「ひあうああううあっ! 私の子が! 純子に役立ってもらうための私の子があァっ!」


 自分が死ぬことよりも、お腹の子が殺されたことへの絶望が先立つ。しかしそれは母親としての感情よりも、別の感情の方が強い。


「そんな……この子は純子のための供物なのに……このままじゃ……純子に使ってもらうために産んで、とってもいい子にっ……育てなくちゃ……いけないのに……」

「お腹の子には罪が無いので、先に死んでいただきました」


 口から血を、血走った目から涙をあふれさせる郁恵に、累が告げる。


「貴女にはそれなりの罰を受けてもらいます。貴女への罰は、死ではぬるすぎる」


 郁恵の腹部を貫いたままで刀を放し、累はスケッチブックを開く。

 開かれたページには、地獄で鬼達が亡者達を拷問する有様が描かれた絵。その絵が急速にアップで郁恵に迫っていく。いや、逆だ。郁恵が絵の中に吸い込まれているのだ。


 霊魂を絵の中に封じられ、崩れ落ちた郁恵の亡骸から、累は妾松を抜き、郁恵の服で血を拭う。


「何より残念な事実は、貴女がどんなに純子を崇拝しても、純子が貴女を特別視することは有り得ないということです」


 郁恵の亡骸に向ってではなく、手にしたスケッチブックに向って言う累。


 累は考える。純子のマッドぶりを目の当たりにして、勝手に魅せられ、崇拝する者や忠誠を誓う者は多い。

 しかし純子は余程気に入った者でないかぎり、それらの追従者を側に置くことはあまり無い。そういう人間に対して興味がわかないというか、そうした態度をとる者に対して、空気のように思っているきらいがある。そもそも純子には支配欲のようなものが一切無い。

 以前、純子を熱烈に崇拝する者が身近にいたが、やはり純子は彼女に対して、何ら興味が無かったように、累には見えた。

 純子が本当の意味で特別視しているのは、累の知る限りでは、この世に三人だけだ。それ以外はその他大勢のどうでもいい存在のように、全く気にとめていないように見える。


「んー、やっぱり郁恵ちゃん殺しちゃったの? 累君」


 玄関まで行くと、累のことを待っていた純子が声をかける。扉を開けて外へ出る二人。


「お腹の子供は可哀想でしたけどね。せめて彼女が今育てている子供達は、後で解放してあげましょう」


 歩きながら哀しげに目を伏せる累。


「睦月ちゃんには悪い事しちゃったねー。それ以外の子達にもだけれど。こんなことになるんだったら、最初から郁恵ちゃんを実験のお手伝いに使ってあげた方がよかったねー。いや、誰でも同じかなあ……」


 純子も珍しく鎮痛な表情を見せる。


「それにしても百合ちゃんは相変わらず、無理矢理悲劇を作って遊んでいるんだねえ。ああいうのが面白いと思う感性が、私にはちっとも理解できないよー」

「彼女はいろいろと僕らの見えない所で動いて、遠まわしにちょっかいをかけてきているようですね」

「累君はまだ百合ちゃんの事が許せないのー?」

「当然です。許せるわけがありません」


 累の声に怒気が宿る。


「私はあの子と一緒に行動するようになった時から、いつか決別するだろうって、予感はしていたんだよねー。いろいろと便利だから傍においてはいたけれどさあ」

「いずれ必ず僕達の前に現れますよ? その時真っ先に狙われるのは、間違いなく……」

「大丈夫だよー。真君は絶対負けないからー」


 純子がここでようやく明るい声を出す。笑顔になっている。このタイミングでいつもの純子に戻った事に、累は目を丸くして驚いた。


「彼が僕と純子の共有財産であることもお忘れなく……。純子や真がどう言おうと、見ていられない状況になったら僕も手を出しますよ」


 屈託の無い笑みを広げる純子に、累はいつになく真剣な声で告げる。


「それを言うなら、今からでも一切あの子を裏通りに関わらなくさせた方がいいよお? 常に危険を孕んでいる世界に解き放っているわけだからさあ」

「それを言うなら、鳥かごの中にでも閉じ込めておくのが、一番いいことですね」

「そもそも累君の行動を制約するつもり無いからさ。思うがままにしていいんじゃない?」


 純子の言葉を受けて、累はしばしの間思案していたが、どうせ自分には何もできない、何をやっても、良い方向には行かないという結論に至り、諦めた。


4 殺し屋達と遊ぼう 終

呪術流派一門を遊ぼうの後に、もっと軽くて明るい話を書こうとした結果がこれでした。

つづくんれす。

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[一言] あか……るい? ペンギンダーなとこかな?
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