表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
31 死都を築いて遊ぼう
1061/3386

27

 西新宿六丁目、そこら中から霊と悪しき気が流れ込む結界の近くへと、純子、累、真、みどりの四人は訪れた。


 みどりが好吉の分裂体と接触した事で、精神世界からサーチをかけ、本体の居場所を割り当てた。本体は結界の中にいるという。

 結界周辺は特に祭りで賑わっていたが、集団の切れ目となっている地帯もあったので、目立たないようにその場へと向かう。


「純子っ」

「相沢せんぱーいっ」


 移動の最中に声をかけられ、四人は足を止めた。見覚えのある四人がこちらにやってくる。凜、晃、十夜、ミサゴだった。


「雪岡研究所の面々がわざわざ足を運ぶとは、結界を解く算段がついたのか?」

 ミサゴが問う。


「そうだねえ。まず結界を解かないとだねえ。私達が来たのは、どうやらこの結界の中に敵の本拠地が有りそうっていう理由でだけど」

「おー、じゃあラストバトルってことじゃん」


 純子の答えに、表情を輝かせる晃。


「これだけ巨大な結界を術や能力で解くってのは、私達でも時間かかっちゃうんだよねえ。だから、オーソドックスな支柱破壊がいいと思う」

「でもここの結界って、ビルそのものが支柱だって聞いたけど。どうするの?」


 凜が尋ねる。


「支柱がこの超高層ビルそのものということは、つまり、ビルを破壊しなくちゃならないですよね」

 と、累。


「結界に必要な支柱の数で最も少ない、三本だね。支柱が少ないほど――三角形に近づくほど、結界の壁そのものは強固になるけど、範囲の融通は利かなくなるし、何より支柱一つ破壊されただけで、結界はおじゃんになる。その代わり支柱が強固であるか支柱の守りが堅いなら、それも問題無い、と。この場合、支柱そのものが強固ってことになるね。このビルがそうだよ」


 純子の指した方向に反応し、傍らにそびえる、200メートル超えの巨大ビルを一斉に見上げる一同。


「ビルの中の人はどうなってるんだろう……」

 十夜が疑問を口にする。


「そりゃもちろん皆死んじゃったでしょー。何しろ結界の支柱も半分は結界の中にめりこんでいるし、悪霊うじゃうじゃ空間だから、悪霊のお仲間入りだよ」


 屈託無い笑顔であっけらかんと答える純子に、十夜は引き気味になり、晃とみどりも苦笑いを浮かべる。凜は何故か今の答えがツボをついたようで、おかしくて微笑んでいる。


「だから遠慮なく壊せばいいよー」

「このようなもの、どうやって壊すのだ?」


 超高層ビルを見上げ、ミサゴが尋ねる。


「雪岡は掌で触れた物を原子分解することができる。だからモグラみたいにビルを素手で掘って、壊していく感じかな」

「なるほど」


 大真面目に解説する真と、大真面目に頷くミサゴ。


「いやいや真君……それは流石に時間かかりすぎるからさ。これだけ大きいとね」


 明らかに本気で言っている真とそれを真に受けているミサゴに、純子は微苦笑をこぼす。


「純姉さぁ、今、自分がモグラスーツ着て、柱の中を掘り進んでいる姿を想像したっしょ~?」

「いや、想像してないけど、みどりちゃんに言われたら想像しちゃったよ」


 頬をかく純子。


「僕も言われてその絵を想像した」

「俺も」

「映画化決定!」

「いや、無いから……」


 晃、十夜、みどりが口々に言い、純子が顔の前で手を横に振る。


「モグラの真似をしないのなら、どうするんだ?」

 と、真が問う。


「別に私は触れた物を原子分解する能力じゃなくて、触れた原子や分子や電子を操作する能力だからね。もちろん分解することもできるし、加速減速することもできるよ。透過することもできるし、核分裂だって起こすことができるしね。ここまで言えばわかるかな?」

「ようするに核爆発も起こせるし、放射線だのEMPだのも発生させることもできるってわけか」


 純子が試すように言って、真の方を見ると、真は思い浮かべたことを答えた。


「正解~。核爆発の余波でEMP――電磁パルスも発生しちゃうけど、まあ、高い場所でやらなければ平気かな」


 にっこりと笑って解説する純子。他の面々は、累以外は息を飲んでいる。


「うっひゃあ……怖えなあ……。純姉って歩く核爆弾かよォ~」


 みどりが苦笑いをこぼす。


「まあ核爆発じゃなくても、水蒸気爆発でもいいと思うけどね。どっちもできるし。でも今回はリクエストにお答えして、核爆発でいってみよっかー」

「誰もリクエストなんかしてないからっ」


 笑顔で嬉しそうに話を進める純子に、晃が突っ込む。


「電磁パルスとかいうのを高い場所でやるのはいけないの?」

 十夜が質問する。


「地球は磁石ね。で、核爆発で電磁パルスっていう、電磁波が発生するんだ。低い場所で爆発させても、地球という磁石に引っぱられる電磁波の範囲は限られるけど、もし高い所で発生させて、地球に引っ張られたらどうなると思う? 広範囲に電磁パルスが発生して、そこら中の電子機器を破壊しまくるよー。まあ、私が起こせる核爆発なんて、そんなに大きいものではないし、威力があったとしても、相当な高度でやらないと大した効果無いけどねー」

「話が逸れまくっている也。結局如何にするのか」


 純子の長い解説に、いささか呆れたような口振りでミサゴが指摘した。


「もう一つだけ聞かせて。その核爆発を起こした純子本人はどうなるの?」

 凜が尋ねた。


「私は吹っ飛ばないかってこと? それも大丈夫だよー。核爆発にしろ、水蒸気爆発にしろ、爆発そのものを空間転移させるからさ」


(核爆発だけを転移できるとか、それって問答無用で誰でも殺せるんじゃないの?)

 純子の答えを聞き、凜はそう考える。


「ビルごと一発で吹っ飛ばすというわけにもいかないから、ビルの支柱を少しずく壊していって、最終的にビル崩壊を引き起こす事にするね」


 言いつつ純子がビルの方へと歩いていく。


「結界の支柱の支柱を壊すってか」

 と、みどり。


「僕らは離れておこう。埃に巻き込まれるのも嫌だし」

「それなら亜空間への避難がベター也」


 真が促すと、ミサゴが亜空間トンネルの扉を開けた。


***


 地下にあるアジトのオペレータールームにて、アブディエルは凄まじい轟音を耳にし、次いで地響きに体を揺らした。


「地震ではないな」

 側にいたラドクリフに話しかける。


「結界が破られました」


 魔術師の一人が蒼白な顔で報告する。


「何だと……。一体どうやって突き止めた。それにあの結界を破るなど、オーバーライフであろうと容易ではないぞ」


 密かに恐怖を覚えるアブディエル。報告が虚偽や間違いとは思えないが、それにしても信じられない。そして結界が強引にこの短期間でこじ開けられたとしたら、途轍もなく恐ろしい敵の襲来と考えられる。


「結界の支柱となっていた高層ビルが破壊されたのです……」


 他のオペレーターが震える声で報告した。


「ビルの破壊とて、短時間で簡単にいくものではないだろう。第一、敵がこの場所の結界を破壊しにかかるのなら、もっと大人数で攻めてくるはずだ。そんな兆候はあったのか?」


 しかめっ面になって、刺々しい口調で早口で問うアブディエルに、オペレータールームにいた者達は緊張する。普段冷静なアブディエルがここまで感情を露わにする所など、初めて見る。


「ビル前に設置されていたカメラの一つに、雪岡純子と雫野累が映し出されているのが、今……判明……」

「今わかっても遅い! そいつらの仕業だ!」


 思わず声を荒げるアブディエル。


(こんな無能共の失態のおかげで、私の計画が狂わされるなど、冗談にもならんぞ!)


 この時のために、散々な時間と労力を積み重ねてきた。それがほんの些細なミスで崩れてしまうなど、アブディエルには我慢ならない。


(父の仇を取るため、私が貸切油田屋の首領となって世界を牽引していくためには、この計画が失敗することがあってはならないのだ。それをこいつら……わかっているのかっ)


 うまくいかない苛立ちを他者のせいにする一方で、アブディエルは次に成すべき最善の手を検討しはじめる。

 しかし検討も何も無く、最も肝心なやるべきことに気がついた。


「ビルを壊すくらいだ。そして敵がこちらの居場所に気付いている可能性もある。地下に我々がいると知られていれば、生き埋めにもされかねない。全員すぐに速やかな脱出を」


 アブディエルの命に従い、地下に設けられた本拠地にいた全ての研究員、魔術師、兵士、その他部下達が、急いで地上への脱出を開始した。


 アブディエルとラドクリフは途中で好吉と合流する。好吉が不安げにあれこれ言っていたが、アブディエルは全て無視した。いや、好吉の言葉が頭に入っていなかった。

 あと少しだったというのに、全てを手放して逃げようとしている現実。悔しくて仕方がない。しかし万が一にも、生き埋めなどにされたらかなわない。


(まだこちらの場所が知られたと限ったわけではない。もしそうでなければ、引き返して無理矢理にでも計画を最終段階へ移行させる。これはただの確認と、念には念を入れての避難だ)


 そう自分に言い聞かせつつ、非常用エレベーターで地上階に出て、エレベーターの扉が開いたその時、その考えが崩れたことを思い知った。


 エレベーターの少し先に、赤い瞳を持つ白衣姿の少女がいた。アジトがあるビルの中の一階に、彼等はすでに入り込み、エレベーターの前で待ち構えていたのだ。

 扉が開いた瞬間に攻撃してこなかったのは情けなのか、他に用があるのか不明だが、だからといって彼等と事を構えずに済むはずがない。


「やっほー、アブディエルさん。さっきぶりー」


 純子がにっこりと笑って手を振るのを見て、アブディエルは憮然とした顔になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ