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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
31 死都を築いて遊ぼう
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18

「またこいつか~。こいつどうせ全部、倒しても意味無い偽者なんだろ?」


 晃も好吉と同じような台詞を吐き、うんざりした顔になる。

 実際の所、分裂体を殺しても意味が無いということはない。殺されればその分裂体は暴れることができないし、そもそも分裂体を一体作るのにも、それなりに手間がかかる。だがそんなことを晃が知る由も無い。


「十夜と凜は消耗が激しい。足手まといだから少し休んでおくがよい」


 そう告げたのはミサゴだ。言い方は悪いが、気遣いに感謝し、凜はその場で膝をつき、鎌にもたれかかる。巨人を倒すのに結構体力を消費した。


「俺はいけるよ。敵は三体いるんだ。こいつは……言っちゃあ悪いけど、機動隊の人達には荷が重いだろ」


 十夜が三人の好吉の前に進み出る。


「すげえ格好だなあ……。コスプレのうえに、全身べとべと……」


 十夜の姿を見て、好吉は思わず苦笑いをこぼす。三人の好吉が同時に苦笑いを浮かべている。


「イーコまでもが俺の敵か……。イーコに憧れていた時期もあったなあ……。でも敵か……」


 ミサゴに目を落とし、覇気の無い声で呟く。


(何だ、こいつ……。やる気ないのか?)


 いまいち闘志を感じさせない好吉を見て、晃は訝る。


「俺が悪役なのか……。一般人側から見れば……。でも、俺からすればお前達こそが悪だ」


 そう呟くと、三体の好吉のうち二体が、喋っている好吉の横へと歩いていき、横に並ぶ。

 分裂体複数を別々にコントロールするのは難しいが、ある程度なら可能だ。そうでなければ分裂体複数をくりだす意味も薄いしかし大抵は、同じような動きになりがちでもある。


(こいつら、仲間なんだよなあ。ま、いいけどさ。今はもう、俺にも仲間がいるんだ)


 アブディエルを意識し、好吉は嫉妬の気持ちを振り払おうとするが、何故かどうしても、振り払うことができない。


(何でだよ。あの人は俺を認めてくれただろ。仲間だろ。あの人の下で戦えれば、それでいいはずだろ)


 自分に言い聞かせる好吉だが、何かが引っかかっている。納得していない。納得できない。しかしその引っかかっているものの正体がわからない。


「何を考えてるのか知らないけどさ、戦いたくないのなら、帰ったら?」


 煽るでもなく、静かな声で言い放った晃に、好吉は現実に引き戻された。


「戦うために来た。戦いたくないわけでもない」


 晃の言葉に反応して、静かに闘志を燃やす好吉。


 三人の好吉がほぼ同時に動く。三人とも晃に向けて、腕を振る。


 晃は見えない遠隔攻撃が来るのも読んだうえで、思いっきり体勢を沈めてかわすと、地面を蹴って横に飛んだ。


 三人のうち二人が、晃を目で追うが、残る一人は、左右にステップを踏みつつ向かってくる、ミサゴを見ていた。

 ミサゴめがけて攻撃を繰り出す。


 その場で素振りをするだけで、狙った空間に届く打撃や斬撃。好吉がこの能力を得たばかりの時は、この能力は無敵なのではないかと浮かれていたにも関わらず、いざ戦いになると、それが通じない相手ばかりだった。

 現にミサゴも、悠々とかわして自分に迫ってくる。好吉は最早驚かないし慌てない。


(じゃあ……これならどうだ!)

 好吉の体が前倒しに倒れた。


 面積を広げての攻撃。パンチやキックより範囲の広い衝撃。

 素早く、そして小柄なミサゴは、これさえもかわしたが、際どい所だった。自分だからこそ回避ができたであろうと、ミサゴは思う。


 実際、晃と十夜はかわせていなかった。好吉は残る二人の分裂体で、同じ攻撃を晃と十夜にも見舞った。受身をせず、勢いをつけて、両手を広げて、前に倒れるだけ。広げた両手も少し後方に逸らし、倒れた衝撃を和らげないようにしている。倒れた衝撃は、好吉の体にも伝わってダメージを与えたが、分裂体なので気にする事も無い。

 一切の受身をとらずに、重力に任せて、前倒しに頭から倒れる。これがどれほど恐ろしいダメージを負うか、理解できない人間はほとんどいないであろう。体重によっては、そして打ち所の悪さによっては、それだけで死にかねない。


 倒された方にも、当たり所によってはしっかりとダメージになる。好吉はそれだけでなく、勢いをつけて倒れた。重力に加えて、遠心力もかかったうえで、己の筋力によるエネルギーもつけた。

 十夜が食らった衝撃は、好吉の腹の部分であったので、さほど大したことはない。ちょっとひるんだ程度だ。


「ぐっ!?」


 晃はというと、運悪く頭部の部分を頭部で食らってしまった。頭が割れそうなほどの強打を受けて、前のめりに倒れ、そのまま白目を剥いて意識を失う。

 ミサゴが、うつ伏せに倒れた三人の好吉へと迫る。十夜は攻撃を食らった分、かなり出遅れてしまった。そのうえ、晃のくぐもった呻き声を聞き、晃の方を振り向いてしまった。


「晃!?」

 倒れた晃を見て、十夜は一瞬足を止めてしまう。


(馬鹿っ! そこで止まってどうする!)


 凜が声に出さず視線で叱咤する。十夜は凜の怒りに満ちた視線に気がつく。


 こういうシチュエーションでも、攻撃を止めてはいけないと、凜に何度も言われていたはずだ。それがさらなる不利な状況を招きかねないと、教えられていたはずだ。なのに、止まってしまった。


 三人の好吉がほぼ同じタイミングで起き上がるが、そのうちの一人が起き上がる前に、ミサゴが後頭部の上を駆け抜けた。


 好吉の頭部が首から切り離されて地面に転がり落ち、起き上がりかけた好吉がまたうつ伏せに倒れる。


 残った好吉にミサゴが迫るが、起き上がった好吉の一人が、大きく後方に肘を振るっていた。

 ミサゴにはそれが視覚的に見えなかったが、殺気という名の電磁波だけを感じ取り、条件反射で体が動いて、大きく斜め後方へと飛びのいてかわす。


 時間差を置いて、もう一人の好吉が、右脚を大きく後ろに振った。これもミサゴの死角をついていた。

 それだけではない。ミサゴが跳躍した直後のタイミングを見計らい、なおかつ、最小限に気配を消して見舞った。


 いつの間にか、好吉は覚えていた。悟っていた。学習していた。攻撃する際に攻撃の意識を見せるから避けられる。なら、その気配を、気持ちを、最小限に抑えてみてはどうかと、ふと思った。

 ミサゴの小さな体が、大きく吹き飛んだ。好吉の念動による遠隔攻撃――孫の手を、避けきれず、ついに体の芯で受けてしまった。


(俺……少し戦いに馴れてきたか? 複数の俺を使いこなして、うまくひょいひょいかわすこいつらにも、当てるタイミングが……ちょっとずつわかってきたぞ)


 倒れたミサゴを見下ろしながらそう思い、好吉はほくそ笑む。満足感と充実感が体の中から沸いてくる。


 少し遅れて、十夜が好吉に迫る。


(ミサゴがやられた……。俺が……晃がやられて躊躇っていたせいか? 出遅れなければ、こんなことにならなかったか?)


 悔やみながら、自分の未熟さと迂闊さを呪いながら、十夜は好吉に殴りかかる。


 その直前に、十夜は好吉から極めてシャープな殺気を感じ取り、上体をひねった。


 不可視の攻撃が、十夜の上半身が先程まであった空間を抜けていく。十夜は肌でそれを感じ取る。

 さらに殺気と共に攻撃が放たれた。十夜が避けた直後の硬直を狙って。


 十夜はその攻撃をかわさず、腕で受け止めた。


 十夜に向けて最初の攻撃を放った好吉。二発目を放った好吉。それぞれ別人だ。


 三発目は、最初に攻撃を放った好吉だ。攻撃の角度も位置も全く異なる。


 しかし十夜は回避する。ワープしてくる攻撃であろうと、十夜は回避する。亜空間越しに繰り出される攻撃。そして液状化してありえぬ角度から飛んでくる黒鎌。凜との訓練で、馴れている。

 好吉も闇雲に能力を使うのではなく、よく考えて、タイミングを合わせて、気配も抑えて行っているが、十夜は見切っている。


(俺は成長していると思う。でもこいつはそれ以上に、戦い慣れしてるってことか)


 好吉が気を引き締め、二人がかりで細かく慎重に、攻撃を切らさずにラッシュをかける。大振りの攻撃は行わない。しかし手数を減らさずゆるめない。そして様々な角度から仕掛けていく。

 この手数の多さは、いくら凜との模擬線をこなしている十夜でも、未経験なものだった。凜はここまで立て続けに攻めてはこない。


 防御も回避も追いつかず、崩れそうになったその時、銃声が響いた。


 好吉の一人の頭部を、特殊な銃弾が貫通していた。徹甲弾をも凌ぐ貫通特化させた弾が。


「痛ってぇ~……効いた……。まだ頭くらくらする……。でも……」


 晃が両手で巨大な拳銃を構え、小さく微笑む。


「まだ半分気失ってるようなもんだけど……。目チカチカしてるけど……。でも……こんな状態でも、狙って撃てるもんなんだな。慣れって面白い」


 さらに銃を撃つ晃。最後に残った好吉は何とか二発目はかわしたが、そのかわした先に、十夜が突っ込んできた。


「メジロ張り手!」


 技名通り、ただの張り手であるが、改造された肉体とスーツの力で、人間相手はもちろんのこと、バトルクリーチャーであろうと致命的な威力を出せる。

 最後に残った好吉の頭蓋骨が、乾いた音を立てて割られる。これで決着がついた。


「終わったか……」

 ミサゴがふらふらと起き上がる。


「もう一体出てきたら、次は私が相手してあげるから、あんた達は休んでていいよ」


 呼吸を整えた凜が立ち上がり、微笑みながら言う。


「一体とは限らないじゃん。また三体出てきたらどうするの?」

「そうしたらそこで見物している機動隊に頑張ってもらうってことで、私達は逃げましょ」


 冗談めかして凜が言い、十夜と晃は笑い、遠巻きに見物していた機動隊員達も困ったように笑っていた。

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