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マッドサイエンティストと遊ぼう!  作者: ニー太
31 死都を築いて遊ぼう
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5

「累君、気付いてる?」


 立ち上がり、怒りに歪んだ顔でこちらを睨みつけてくる好吉の視線を受け止めつつ、純子が累に声をかける。


「もちろんです。あれは……肉人形のようなものでしょう? 本体ではなく、分身か分裂体か。本体はどこかに隠れていて、遠隔操作しているわけですね」


 つまりこの好吉を殺そうが捕えようが、本体の好吉にはおそらく影響が無いという事になる。


「な、何でそこまで一目でわかるんだっ!? お前ら、自分で言っていたように悪魔の使いなんだな! 神もいるのだから、やはり敵である悪魔もいたんだな!」


 累があっさりと自分の能力の正体を見抜いた事に、好吉は心底驚き、そう解釈した。


「脳内で自分の世界を創り続ける系の子みたいだねー」


 好吉の台詞を聞いて、思わずくすくすと笑ってしまう純子。


「悪魔退治だーっ! 死ぬ前にホーリー・ドッキングして、お前らの魂も浄化してやる! 犯されて感謝しながら死ね!」


 好吉から見て、累の方は女か男かいまいちわからなかったが、純子はどう見ても女であるし、自分の守備範囲の年齢なので、その対象と決めた。


 二人と離れた距離で、好吉はパンチを打つ。まるで素振りのように。


「孫の手――黒斗と同系統の能力ですか」


 不可視のエネルギーが自分の顔めがけて放たれたのに対し、累はあっさりと上体を逸らしてかわし、能力の正体を口にする。


「な……何で……」


 自分の能力がまたしても見破られたことに、さらには余裕であっさりとかわされた事に、好吉は恐怖を覚えた。


「殺気丸見えですし、裏通りの最下層のチンピラでも今のはかわせますよ。今から殴るからかわしてくださいと、注意しながら攻撃しているようなもんです」


 好吉が得た力そのものはかなり強いと感じるが、力霊に憑依された好吉が力を上手く使いこなせていないのが丸わかりで、累は嘆息した。


「もうこれ、動かなくしてしまっていいですよね?」


 すでに戦意を半減させている好吉を見て、累が確認を取る。


「別に私に確認とらなくてもいいかと。でもまあどうせなら遊ぼうよ。久し振りにアレやるー?」

「やりましょうか」


 純子に誘われ、累は微笑んで頷くと、好吉に向かって駆け出した。純子に至っては瞬間移動して好吉の背後に現れる。


「えいっ」

「はあああああああぁぁぁあああぁぁぁっ!?」


 純子が後ろから好吉の肩を触れると、好吉の体が激しくスピンをしてその場で回転しだす。


「では、いっせいーのせっ、膵臓!」

「肝臓」


 純子と累は内臓の名を口にして、その場で激しく高速回転する好吉の体めがけて、ほぼ同時に手刀を突きいれ、突き入れた手を抜く。


 手刀を引き出し、それぞれに臓器を手にしている二人。純子が手にしているのは心臓。累が手にしているのは膵臓だった。


「あれま。心臓でくるかと思ったのになー。残念」

「読み通り膵臓でしたね。僕の勝ち、と。これで十八勝十敗三十一引き分けです」

「んー、どんどん負け越していっちゃってるなー」

「純子のバターンが大体分かってきましたから」

「えー、私パターンなんかあるー?」

「あ、純子、僕の返り血も綺麗にしてくださいよ」

「はいはい、きれいきれいにしまちゅねー」


 崩れ落ちた好吉の死体に目もくれず、微笑みあいながら楽しげに喋りあう純子と累。


「うわあぁあぁぁぁんっ、お父さあぁぁぁん!」

「あなたぁぁぁっ!」


 二人の楽しく和やかな雰囲気は、倒れて動かなくなった父親の体にすがりついて号泣する母子によって、中断させられた。


「どれどれ、ちょっと見せてー」


 言いつつ純子は、倒れている父親の体の頭部に手をあて、首筋に注射器を打ち込む。


「際どい所だけど、ギリギリで脳死ライン過ぎてないと思うから……いや、際どいかな。運が良ければ助かるかもねー」


 純子の言葉に、親子は泣くのをやめ、信じられないといった眼差しで、純子と死体を見比べる。


「とりあえず脳と脊髄を摘出して、雪岡研究所に送っておこう。で、培養液に浸しておいて、私が帰ったら蘇生措置施してみるよー。うまいこと蘇生したら連絡するから、連絡先教えてくれないかなー」


 頭蓋骨を開く器具を取り出し、頭をこじ開けにかかる純子。能力を発動して手で切開もできないこともないが、純子はこの器具を使って頭蓋骨を開ける作業が好きなので、あえて器具を使う。


「ほ、本当に助かるんですか……。こんな状態から……。ていうか、あなたは一体……」


 父親を殺した者といい、それをあっさり撃退した二人組といい、明らかに非日常世界の存在であることは受け止めつつも、それでも半信半疑で尋ねる母親。


「こういう者だけど、まあ信用できないっていうんなら、このまま死ぬだけだよー?」


 ディスプレイに雪岡研究所のサイトを映し、親子に見せる。


「ひっく……漢字……ひっく……読めない……」


 泣きじゃくりながら娘が言った。しかし純子が父親を助けてくれそうだという事だけは、もう理解している。


「信用できないならそこまでの話だけどね。信用しないなら、問答無用でお葬式コース。信用してくれたら、ひょっとしたら助かるかもねー。あ、もちろん人体実験及び改造付きで」

「選択肢はありません。すでに助けてもらっていますし、信じます。お願いしますっ」


 その場に土下座して嘆願しだす母親。


「お願いっ! お父さんを助けてっ! 綺麗なお姉ちゃんっ!」


 娘も母親の真似をして土下座し、必死に懇願した。


「綺麗な……」

 女の子の言葉に、純子は大きくのけぞって硬直した。


「ねえ累君、私、この子のお父さん、凄く助けなくちゃいけない気がしてきた……」

「どうしてそうチョロいんですか」


 真顔で呟く純子に、累が微笑む。


「で、累君。本体の位置特定はできた?」


 今殺したのは好吉の分裂体にすぎない。それは一目で看破している。問題は本体の居場所だ。


「その手の術……というか能力は、みどりは得意ですが、僕ではいまいち……。みどりと純子のセットなら、本体に行き着きましたのに、残念でしたね。今度からはずっとその組み合わせでお願いします」

「いや……それはどうかと……」


 累の露骨な要求に、純子が微苦笑をこぼす。


「陽が暮れてきましたね」

 空を仰いで、累が言った。


「このまま研究所に戻らず、新宿のどっかに泊まろう。夜、新宿内で何か起こった時、すぐに移動して現地行けるかもしれないしね」


 純子が決定する。


「じゃあ一緒の部屋で。久しぶりに純子と一緒に寝たいですね」

「うっわー、誤解される言い方」

「ただ寝るだけで、いかがわしい意味は無いってわかってるでしょ」


 人の温もりを激しく欲する性分である累だが、その欲求は、リビドーとは切り離した別のものであり、性欲には結びつかない。もちろん累とて性欲はあるが、温もりを欲する脳に切り替わっている時は、いまいち性欲が沸いてこない。勃起もしない。


「それに真に悪いですし、間違っても手出しとかしません」

「え……あ……うん……」


 ここで真の名を出され、頬をかきながら決まり悪そうにそっぽを向く純子であった。


***


 今度は凜が風俗店の中へと入っていった。


 店はピンサロである。凜が入っていけば、店員募集かと思われそうで、それがどうにも嫌な感じがする晃であった。


「こういう者だけど、怪しい者じゃないわ。ただの裏通りのおねーさんだから。ちょっと話を聞きたいんだけど?」


 受付の店員に銃を突きつけ、声をかける凜。


「こういう顔の人、ここに出入りしてないかな? 正直に答えてね?」


 ホログラフィー・ディスプレイを投影し、アブラハム吉田の顔を映す。


「そ、その人ならうちの常連ですよ……。来る時間は決まってませんが……週に最低でも二回……いや、三回は来ます。あ、来ましたよ」


 店員が凜の後方を指し、凜はゆっくりと振り返る。

 すると店員の言葉通り、道路をこちらに向かって歩いてくる男がいた。ディスプレイに映った顔と、同じ顔の男が。


(こいつ……)


 アブラハムから見えるヴィジョンを見て、凜は眉をひそめる。巻きおこる漆黒の業火。かつての晃に見えたそれが、何倍も激しくなったような代物だ。


 晃と十夜もアブラハムを一目見て、荒事には長けている雰囲気を感じた。自分達と同族であると。


「凄い偶然だ……」

 十夜がぽつりと呟く。


「お客さん……丁度よかった。この人達が、貴方に用があるとのことで」


 店員が悪気無しに告げたので、凜、晃、十夜は絶句した。

 こっそり後をつけようとしていたのに、相手と対面したうえで、探っていることをバラされることになるとは。


「アリスイ、強行手段に移るよ。扉を開いて」

「はーいはいはい」


 凜の声に応じ、亜空間トンネル内で待機していたアリスイが入り口を開ける。


「な、何だね」


 凜に銃を突きつけられ、戸惑いと怯えの表情を浮かべるアブラハム吉田。


「演技が下手ね。表情で怖がっていても、目は怖がってない。いいからそこに入れ」


 有無を言わさぬ口調。従わなければ撃つと、視線と声音が物語っていたので、アブラハムは素直に凜の言うことに従った。


「な、何だ、ここは……」


 次元が一つズレた亜空間の中に入り、アブラハムは戸惑いの面持ちとなる。


「尋問するには最適な場所よ。外からは見えないし、入れないから。尋問が拷問に変わっても問題無いし」


 アブラハムの一挙手一投足を油断無く注視しながら、凜は告げた。

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