満月に吼えろ エターナル会議室
八曲署捜査一課の面々は難事件に直面していた。
犯人はその影さえ見せず、時間は刻々と過ぎていく。
今日は会議室で、今後の捜査方針を決める重要な会議がおこなわれていた。
捜査一課長ことボスのドスのきいた声が室内に響く。
「何か意見はないか」
「ボス、提案があります」
ボリと呼ばれるベテラン刑事が手をあげた。
「何だボリ、言ってみろ」
「この中の誰かが自首するというのはどうでしょうか」
「いいアイデアだな。休暇やるから帰れ」
「ボス、いい考えがあります」
ラメ入りスーツを着込んだズボンと呼ばれる刑事が手をあげた。
「何だズボン、言ってみろ」
「事件の早期解決は難しい状況です。そこで、犯人を一般公募してはどうでしょうか」
「そいつもナイスアイデアだ。明日からもうこなくていいから帰れ」
「ボス、ちょっといいですか」
今時坊ちゃん刈りの王子と呼ばれる刑事が手をあげた。
「何だ王子、言ってみろ」
「お腹すきました」
「鉛弾を好きなだけ食え」
ボスは立ち上がり、会議室備え付けのホワイトボードの前に来ると刑事達をにらみつけた。
「いいかおまえら! 捜査方針だ捜査方針! 投げやりアイデア大会やってるんじゃねえんだ!」
ボスはそう言うと、ホワイトボードに「捜査方針」と大きく書いた。
「ボリ! これはなんて読むんだ!」
「ホワイトボードです」
「そうだ! ホワイトボードだ! ボーナスやるからラピュタにいって飛び降りて来い!」
ボスはボリから視線をはずしてズボンの方を向いた。
「ズボン! おまえならなんて読むか分かるな?」
「何語ですか?」
「さすがだズボン! 今すぐピンポンパン体操しながら垂直落下しろ!」
ボスは全身を使って王子の方を向いた。
「王子! おまえなら読める! 信じているぞ!」
「ボス、鉛弾結構うまいっすよ」
「よくやった王子! 屋上から等速直線運動で森に帰れ!!」
ボスはホワイトボードに向かうと、今度はひらがなで「そうさほうしん」と大きく書いた。
「これならどうだ!」
振り返ると会議室にはボス以外誰もいなかった。
「うおおおおおおお!」
ボスはダッシュで勢いをつけると会議室の窓を突き破って飛び出した。
こうして捜査一課は迷宮入りした。




