代2話
大きな音をたて、シャッターが壊れる。
ひょいっとシャッターの向こうから少年が現れた。
「・・・助けるよ。」
呟くような声でそう言って、私と向かい合うようにして立ち止まる。
この非常事態でも私は冷静だ。
どことなくぼんやりした印象のある少年の思考を探ってみた。
(そんな馬鹿な。)
彼にはおよそ感情と呼べるものがなかった。
得体のしれない奴だ。
少年の手にあるのは、新型の爆弾。
範囲内のものを等しく同じ力でふきとばす、何回も使用できる爆弾。
「事故った部屋は2つ隣だから逃げられない。ここで防ぐ。」
朝までこいつはいなかったはずだ。
「誰なの・・・?」
少年は首を傾げ、
「鬼。」
簡潔に見たままを伝えられた。
ふざけている場合ではないのだが。
むしろ、そういった感情がないからなのか。
「僕には名前はない。」
なるほど。
彼は黙々とそばにある機器を停止していっていた。
そこに緊張は皆無。
恐怖などがないというのも凄いものだなと、感心した。
しかし、常識に従う気も仲間意識もないはず。
なぜ、自分にメリットのない私の救出をしようと思ったのか。
あれ・・・?
今気づいたが、機器の操作は30桁の暗証番号を頭に浮かべる必要がある。
研究員のなかでも数人しか知らない極秘情報を、なぜ彼は知っているのだろう?
「あと、20秒で爆発する。」
機械の暴走だ。秒数どころか爆発なのかさえ定かではない。
「なぜわかるの?」
私はこの際聞いておくべき質問もしてみた。
「あなたで助けられる?」
このレベルの事故はA又はSタイプでしか防げないと、逃げた研究員は考えていた。
「第六感。」
聞いた事はある。たしか・・・
「勘。」
彼は続ける。
「僕の変異だ。」
感情が抜け落ちた顔で私を見つめる。
「脳の本来感情ができるはずの部分が代わりに使われ、一般人の数千倍の精度の勘が発達している。」
そして、問いかける。
「分かるはずだよ。」
30桁の数字は適当にやって当たったということか。
私はさっきから一番聞きたかったことを言う。
「私を助けるメリットがある?」
「君はα種だ。感情を動かせる。」
何が言いたいのかわかった。
「嫌。」
だからこそはっきり否定する。
もう・・・懲り懲りだ。 「私は他人の感情を動かすのは嫌い。」
ぞっとしない。
彼は首をかしげた。
「いつも逃げないように見張ってるよ?」
あぁ。
「本当に逃げたい人は逃がしてあげるよ。研究所全員の記憶から完全に消去してね。」
私は続ける。
「人間なんて、みんな我が儘だ!どいつもこいつも自分の思い通りになるのしか望まない!他人の感情なんて理解出来ないのに!」
私は珍しく激情していた。
「なのに・・・・。みんな私に操らせるの・・・・・?」
彼は言う。
「僕には・・わからない・・・。幸福も熱情も愛情も希望も絶望も何もかも。・・・僕にこのまま死ねと言うのか?」
表情一つ変えない・・・あたりまえか。
あっ!!
彼は私をかばって前に出た。
爆発。
すっかり忘れてた。
彼はさっきの爆弾を撒く。
隙間なく事故の爆風を弾き飛ばす。
神業だ。
私は問う。
「私はあなたを利用するよ?私のエゴで死なせるかもしれない。」
「かまわない。好きにしてくれ。」
「ありがとう。」
人に・・信頼されるのは初めてだ。
人間性に感情は関係ない。
彼を笑わせた。
私も笑った。
崩れていく工場を気にも留めず。
しばらく笑い合っていた。
二人とも初めての笑顔だった。