第弐話(第2話)
現代
「遅かったね。」
彼女に向かって言う。
彼女は周りを気にしているようだった。
そんな性格ではないと思うが・・・。
「とりあえず、何も聞かずについて来て。」
声を潜めて言い、スタスタと早足に歩いて行く。
私はとても混乱したが言われるままに追いかけた。
彼女―三花はとても頭がいい。
変異のせいもあるだろう。
目の変異。
彼女は目で見る全てから、情報を得る。
人の表情を見れば感情・思考が見え、銃を見れば弾が描くであろう軌道を読む。
どちらかと言うと私と同じ透視の方が目立つが。
さらに記憶力もいい。
見た情報を忘れないので膨大な知識を持つ。
そうでなくても思考力もある彼女だ。
その彼女が心配するような事とはなんだろうか。
私は少し不安になり、歩きながら考えてみた。
考えてみたが嫌になって諦めた訳だが。
「というわけで説明お願い!!」
物陰に入ってすぐに私は問いただした。
「何が、というわけ、なんだ。」
どつかれた。
めちゃくちゃどつかれた。
「痛あぁぁぁぁぁ!?」
「説明するぞ。」
説明された。
宇宙の起源から世界の終わりまで全て!!
「まだ何も言ってないだろ。」
「痛あぁぁぁぁ!!」
あ、ちっちゃい『ぁ』1つ分耐久力がアップした!!
彼女には思考が読まれるので心の中のボケでも(激しく)つっこまれる。
「真面目な話だ。ちゃんと聞け。」
素早く正座に移行。
あれ、ここコンクリートなんだけど。
虐めかな。
「自分でやったんだろうが!少しは真面目に聞け!!」
「痛あぁぁぁぁ!!」
国家は何百年たとうと本質は変わらない。
政府は汚職事件を起こし、一部の真面目な真面目な官僚などが被害を負う。
だが、いつの時代もそれに対抗する者がいるのも確かだ。
今で言えば人向野笛がそうだろう。
増えていく鬼の差別、中傷をなくし、原因である公害を減らそうとしている。
だが、残念な事に善意は悪意によってねじ曲げられるのが世の常。
反対勢力により、彼の言葉の真意は歪み、鬼を一匹残らず国内から追い払う事となってしまった。
彼女から聞いた事は大体このようなものだろう。
あまり頭が回らないからか、実感がすくなった。
だが・・・。
「なら、私は逃げるよ。」
私は笑顔で言った。
「・・・そういうだろうな。お前は。」
そう言って、彼女はため息をついた。
「頼りになる鬼の知り合いに連絡をとっておいた。法令発表は明日午後5時。午前2時までに芦和区23丁目の裏街道に来い。」
彼女はそれだけ言って、私に背をむけて立ち去ろうとする。
「待って、三花はどうするの?」
彼女には日本にとどまる理由がないはずだ。
「お前がのこるなら、私も共にのこるに決まっているだろう。」
家に帰って早速準備しようと母に事情を話した。
天然気質の母はう〜んと〜とか言いながら、押し入れを開け、バックを取り出した。
非常用バックを用意していたようだ。
母に感謝して、今日は寝る事にする。
自分の部屋に戻って、バックに目を落とし、ため息をつく。
母の用意したバックには大きく非常用と書かれていた。
人間を動かすのは価値観です。
人のいいなりになるのもぼんやりするのも己の価値観です。
では、僕の価値観は?と考えてみると意外にわからないものだったりします。
人間って面白いですよね。