第壱話(第1話)
3211年6月12日。
梅雨なのに晴れ続きの異常気象に、磁気嵐による電波妨害。
むしろ清々しくなるほどひどい。
近代化を重ねた街は数十年前では想像できないほどに変化している。
直射日光に、金属光沢のある道からのいやというほどの照り返し。
約束より30分は遅れている友達に対して、文句の一つも言いたくはなるだろう。
「……さっさとどけよ。……鬼が。」
後ろにいたおやじにぼそりと暴言を吐かれたが、気にはしない。
私は鬼だ。
最先端の技術には公害がつきものだ。
科学物質は多大なる影響を人類に及ぼした。
障碍という言葉さえ生ぬるい奇形・人外が鬼。
差別国家日本は障碍者を心理的にも受け入れた。
そして、新たな標的として鬼が挙げられたのだ。
法律は生物学的に「人間」ではない「鬼」を守れなかった。
脳に異常がある鬼は獣のように人の目に映る。
同じ「鬼」に対し人々が温かくなることはなかった。
12才になると戸籍からも消され、研究施設に入れられる。良くない噂も多く聞く。
もうすぐ私も12才。
すぐに「八又丈夂」という“人間”は消される。
私も彼女も鬼になる。
そうだった。彼女を待っていたのだった。
私の「鬼」は目にある。
可視光線以外の光も全てみえる不思議な目だ。
物が透けて見えるのだ。
彼女―火隠三花も目に「鬼」があった。
同じ地域に住んでいたのですぐに仲良くなったのだ。
今日は何の用事だろうなぁ。
早くくるといいけど。
定期転送装置の前で待つのは暇だ。
来るのは一瞬だし、その前は見えない。
キンッ
左手の腕輪がバックの金具に当たった。邪魔で仕方ない。
鬼として登録番号が書かれた金属の腕輪は、外出時着用が義務付けられている。
おかげで会う“人”ごとに警戒されてしまう。
買い物でもしていようと思い近くのショッピングモールへ向かう。
半球体の白いドーム。
見た目はこんな感じ。
出入口はなく壁に触れると液体のようになって動き、その部分がぽっかり穴をあける。
便利だ。
通る時に、セキュリティとして、動脈、DNAが確認される。
次の瞬間、頭に直接女性の声が聴こえた。
“鬼のお客様に対しては、通常とは違うサービスになること。そして、一般の方からの素行に責任をおわないことをご了承ください”
了解。
心の中でつぶやく。
“こちらと話されたい方は、手元の仮想ディスプレイからご選択ください”
アナウンスの後に手元に仮想ディスプレイがでてきた。
確か、目の視神経に直接作用させていたはずだ。
会話を選んで押してみる。
“頭の中で話そうと思った事が伝わります”
“分かりました”
こういうサービスは好きだ。
1人での買い物は苦手だから。
“八又丈夂さんですよね”
“はい?”
突然話しかけられて驚いた。
“近所の向井空の母親です”
ああ、
彼は皮膚に鱗が生えている鬼の同級生だ。
“あっ、火隠さんから連絡が来ました”
“後1分で来るそうです。”
“ありがとう”
入ったばかりだが急いで出ないと。
“鬼なりの人生を楽しんでくださいね”
返事はしないで建物を見る。
頑張ってと言う人は上から私を見る。
彼女は違った。
少し嬉しかった。