君が嫌ってくれないせいで僕の人生は輝けずにいたのだ
君が嫌ってくれないせいで僕の人生は輝けずにいたのだ
【Aさん(男性・住所不定無職)の場合】
ある日、僕の前に巨乳美少女ヒロインが現れた。
どーしてそうなったとか、彼女がどこから来たとか、そんなの僕にもわからない。
神様かなにかの不思議パワーってことでいいじゃないか。
大切なのは過去ではなく、現在と未来だろう? あとおっぱい。
とにかく、あの子は都合の良い女だった。
なんにもしなくたって、僕を好きでいてくれた。
ルックスも、声も、やわらかさも、僕が求める『女』そのものだった。
ちょっと天然入ってるところも可愛らしい。
それでいて、そのアホさは苛立つ寸前で収まっていた。笑って許せるレベルってことね。
純情なのに微エロな性格も良かった。色々な意味で良かった。
ここに巨乳のメリットが最大限発揮されていた。
僕が遊び呆けていても、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
僕が寝っ転がっていても、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
僕が働かなくても、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
僕が働きたいと願っても、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
僕が就職先を見つけられなくても、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
僕が僕自身を嫌い始めても、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
僕が一人になりたいと望んでも、彼女はキスをしてから言うんだ。
「だいすきだよ」
そして彼女はどっかへ消えてしまった。
僕の気持ちが落ち着いた頃、ちょうど彼女は帰ってきた。
けしからんことに、着エロに目覚めていた。
それはそれでオーケー。でも誰かに調教されたのかと思うとイラッとする。
言葉づかいも超クール。
はじめて、冷たい声を僕に向けてきた。
「ついてきて」
今にして省みる。
あの頃、私が私を好きになれなかった理由。
それは、私自身の人生が輝いていなかったからであろう。
言語化する術を持たなかっただけで、漠然とした不安と苛立ちを持て余していたように思う。
努力せずに与えられたもので、満足していた。
だが欲求は積み重ねられ、満足できなくなってきた。
それでも満足しようと、自らを捻じ曲げる必要があった。
あの場所で、新たに手に入るものなど、もう何も無かったから。
妥協した生活に耐えられたのは、彼女が私を許容してくれたからだ。
私がどれだけ無気力でも、甲斐性なしでも嫌われない。
そう。彼女が嫌ってくれなかったせいで、私は安堵の下に堕落していった。
私が奮起できなかったのは、彼女のせいなのだ。
しかし世の常、女は男より一足先に大人へ。
一歩先を歩む彼女を追いかけようと、初めて私は焦った。
無知ゆえに見誤り、罰を受け、再び堕落。
今度は社会的制裁を伴った堕落。
堕ち果てた私を見限って、彼女は離れていった。
住む場所も、愛する者も失った。
だが不思議と情念が湧き上がる。
ずっと嫌われなかった私が、ようやく嫌われ、ここから好かれるために進もうじゃないか。
ついに得たのだ、スタートラインを。
再び、彼女と見える日のために。
私は立ち上がってみせよう。
くじけそうな時は、彼女の名前をつぶやいて。
忘れるものか。
お前の名は――
「――イヴ」