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第三話  騒がしい我が家

「成程、我が親友総一がリトルプリンセス達に囲まれるという羨ましい状況にあったのには、そんな理由があったのですか」


幼馴染とは言え深夜に人様の家に無断で不法侵入して来た真琴は、これまた勝手に部屋に置いてあった折り畳みテーブルを慣れた手付きで床に広げると、座布団を敷いて寛ぎ始める。


そして俺が落ち込んでいる理由を折り畳みテーブルの上にミニチュアテーブルと椅子ごと移動した紅玉から聞いた真琴は、思案するように右手を顎に添えて軽く撫でる。見てくれは良いため妙に様になった仕草だ。中身は凄く残念な奴だけど。


「――よし、この俺も告白してこよう」

「……おい待て、何でそんな結論に至った」

「何を言うか。告白を断られ落ち込めば、リトルプリンセス達が総勢で慰めてくれるんだぞ? こんな美味しい話を逃す手は無いではないか!」

『最低ですわね』

『……下衆』


不純極まり無い言葉を口にしていきり立つ真琴に対して、折り畳みテーブルの上で優雅に紅茶を嗜む紅玉と。俺のベッドに潜り込み、未だ俺の携帯電話を弄っているサファイアから侮蔑を多分に含んだ言葉が発せられる。


真琴が俺の部屋に無断で入り込んできてから30分程が経過。時計の時刻は深夜1時を回っている。その頃になると、俺も流石に何時までもウジウジと机の上に突っ伏しているのもアレだと考え、重い体を何とか持ち上げて、座ったまま椅子を回転させ部屋の床に座り寛いでいる真琴の方へと体を向けていた。


それと同時に俺の周りに集まっていた小さな家族達も、その後はそれぞれが部屋の好きな場所へと散っていった。未だ俺の体から離れないのは、腹の上で組んだ両手の中にその小さくもグラマスな体を潜り込ませ、俺の両手に抱っこされる形で包まれてご満悦の表情を浮かべているオパールだけである。……本当に見た目と違ってとんでもない甘えん坊だ。


翡翠は俺の背後にある机の上で、片膝を付いて待機している為に比較的近くにいる。主人である俺のすぐ後で控えるのは臣下の勤めだとか言っていたけど、俺としてはもっと肩を抜いて部屋の中で過ごしていて欲しいというのが本音。だって何時もすぐ背後で控えられていると、何か視線が気になって仕方ないんだよ。他の皆と同様にしてもらった方が、俺としても随分気が楽になるんだけど……妙な所で頑固だから言っても聞いて貰えないだろうな、翡翠の場合。

 

「……そんな不純な動機で告白なんか絶対するなよ。相手に対しても失礼だ」

「む、そうか。だがそれならばどうしたら言いと言うのだ!? これではリトルプリンセス達に慰めて貰えないではないか!?」

『誰がそんな事をするかっての。って言うか告白ってアンタ誰か好きな子がいる訳?』


ベッドの上に置いてあるクッション。そのクションにうつ伏せの状態で身を預けているパールが、真琴の持ってきたファッション雑誌を眺めつつ真琴にそう問いかける。視線を全く向けない所を見るに、それ程興味がある訳では無いようだ。


って、おいパール。お前は何を寛いでるんだ? 全員で俺の告白を盗み聞きした事は、まぁ百歩譲って許してやってもいいけど。言い出しっぺであり、さらに今朝の目覚ましのタイマーをリセットして、今朝鞄の中身を確認させる暇も与えないようにしたお前の所業は許した訳じゃないんだぞ? 


その所為で遅刻ギリギリだった上に、山田さんにあんな……あんな………っ! テメェがそもそもの元凶なんだぞ!! 何で大人しく待ってなかったんだ! おかげで俺は恋だけじゃなくて大切な何かまで失う事になったんだぞ、チクショウッ!!


――うおっ何だ!? 『私は最低です』って書かれた板が高速で俺の目の前を飛んで――おお、パールの頭に見事命中した。『ふぎゃっ!?』って言ってる、アレは痛そうだ。誰だ投げたのは? ああ翡翠か。見事な投擲技術だ。流石我が最高の忠臣よな、褒めてつかわす。


背中越しにグッジョブと右手の親指を突き上げ、俺の背後に控えているだろう翡翠の功を労う。『何すんのよ!?』と憤慨するパールの声はスルーで。


「――しまった! そう言われてみれば俺には相手がいないではないか!?」

『……本物の馬鹿ですわ』

「いや待て! ならば愛して止まないリトルプリンセス達に――いかん! それでは断られた時の悲しみに俺の心が耐えられん!? しかもその後の慰めイベントさえも無くなって本末転倒ではないか!? という事は相手の女は必然的に三次元の女に……告白をするとはこうまで難しい物だったのか!? まずは三次元の女を好きになる所から始め、その中でより好きな相手を見つけなければなら無いとは……! 道は険しく、そして果てし無く遠い……! 三次元の女に告白をされる事なら腐る程あるんだが……」

「……お前今、全国の男の大半を敵に回したぞ」

「何故だ? 三次元の女に言い寄られて何が嬉しい?」


もう本当に色々残念な幼馴染に向かって俺は半眼で睨みつけつつそう言ってやる。だが真琴は心底理解できないと言った様子で眉を寄せ、キョトンとした表情を浮かべる。


……理解できないのはこっちの方だ、何でこんな残念なヤツがモテるんだろ? やっぱり顔か、顔がいいなら中身が超残念でも良いという事なんだろうか。だが告白した女子達は全員が見事に玉砕し、真琴にフラレ済みである。こいつ現実の女には全くと言って良いほど興味が無いからね。


しかもコイツは、告白してきた相手への断り方も酷い。何処の世界に『すまないが、俺は身長20センチ以下の女の子にしか興味が無いんだ』なんて真顔で答えるバカがいるんだ。何時か誰かに刺されても知らないぞ俺は……。


だけど中にはそれでも諦めず『私が倉永君の眼を覚まさせてみせる!』と、俄然燃える猛者までいる。その為、誰が真琴を落とす事が出来るかで校内で賭け事まで起こっていたりする。まぁ確かにこいつは現実の女に興味は無いけど、だからと言って冷たい訳でもないからな。成績も優秀でスポーツだって万能だし。……天は人に二物を与えずとは良く言ったもんだ。真琴を見てると熟そう思う。


『何故、このような俗物がお館様のご友人なのだ……?』

「……家が隣で小さい頃からの腐れ縁なだけだよ。最早呪いの類と言っていい」

『呪い……? パールッパール! 総一に呪いだって!』

『あ~その呪いは流石の私でも解けないわ~』


ボソっと後ろで呟いた翡翠の言葉に、俺は溜息を吐いて答える。


だがその時にポロッと溢した『呪い』と言う単語に、俺の両手の中のいるオパールが敏感に反応してパールへと焦ったように声を掛ける。だがパールはさっき『私は最低です』と書かれた板がぶつけられた頭を摩りつつ、ヒラヒラと手を振ってオパールを適当にあしらった。


おいコラ。お前の場合は呪いを解く云々以前に、ただ単にやる気がないだけだろうが。


こんな性格だけど、パールは腐ってもシスター。神に仕える神官のアニメキャラが元となり姿形が模造された付喪神人形だ。その為こいつは仲間の回復に強力な結界の形成。さらに解毒や解呪などに長けた生粋の補助支援型の付喪神人形なんだよ。


その為戦闘面ではからっきしだが、味方の補助役としては俺の持つ付喪神人形の中でパールの右に出る奴は存在しない。本当は凄い奴なのに、なんでこんなトラブルメーカーなんだろう? 少しでいいからマジで自重してくれ、いや本当に。


『総一は呪われてるの? 痛い? ごめんなさい。オパールじゃ呪いを解けない……』

「あ、ああいや違うって。唯の冗談だよ」


手の中のオパールが、今にも泣き出しそうに瞳を潤ませて俺の手を小さな両手でキュッと握り締めて見上げて来た。それに慌てて冗談だと答える。オパールはオパールで、本当に見事なまでに見た目と違って純粋過ぎて困る。


その俺の言葉にキョトンとした表情をオパールが浮かべた。


『冗談? さっきの総一の冗談?』

「ああ冗談だよ。大丈夫、俺は呪われてなんか無いから。心配させちゃってゴメンな」

『ううん良いの……そっか、総一の冗談だったんだ。えへへ、総一がオパールに冗談を言った』


冗談だった事に……と言うか。俺に冗談を言われたんだと認識したオパールが、何とも嬉しそうに、若干照れを交えた笑顔を浮かべた。そしてギュッと俺の両手を小さな体で抱きしめる。


――何だろう? この可愛いんだけど凶悪なワガママボディを持つ生き物。ハッキリと言ってオパールがこのサイズで助かった。もし等身大だったら、確実に俺の理性が持たない。だけど同時に思う。オパール、お前は何時までも純粋なままでいてくれ。お前が一番俺の癒しになってくれているんだ。


オパールの純粋さに癒されて何だか少しだけ元気を取り戻せた俺は、そのまま甘えてくるオパールに表情が柔らかくなるのを自覚し、お礼も兼ねて右手の人差し指でその小さな頭を撫でてやる。


するとオパールは気持ち良さそうに眼を細めて、更に俺の手にモニュっとした膨らみを擦りつけ――OKオパールは人形。物凄い柔らかくて張りのある肌の感触が、俺の両手からダイレクトに伝わって来るけどオパールは付喪神人形で家族なんだ。分かってるよ大丈夫、俺は正常だ。


「我が親友総一よ。俺は今お前が殺したいほど妬ましく羨ましい」

「突然何だお前は?」

「何だだと!? 貴様ぁ!! オパールたんの非の打ち所のない超絶的な肉体を思う存分堪能しておきながらその言い草は、それこそ何――っ!!」

『あっこの靴って可愛い。ねぇ真琴この靴なんだけど』

『そうそう小間――真琴さん? 実は作って貰いたい物があるのだけれど』

「――はいっどの靴でしょうパールさん! 紅玉様も一体何をご所望で!? 俺に任せてください、どの様な物でも二日で作り上げてご覧にいれましょう!」


俺に向かって凄い形相を浮かべて叫びだした真琴だったが、パールと紅玉の呼ぶ掛けに光の速さで体を反転させると、パールが体を預けているクッションの乗っているベッドへと床を膝で滑りながら移動し、折り畳みテーブルの上にいる紅玉へと交互に笑顔を振りまきだした。


……どんな移動の仕方だ。色々と現金な奴、お陰で矛先が逸れて助かったけど。


ちなみに真琴の言葉通り、俺の付喪神人形達の為に用意されているミニチュアの家具や服類は、その全てが真琴のお手製だ。無論自腹で材料も買っている。以前その分の費用は出すと言ったんだが、自分が好きでやってる事だからと言って絶対に受け取ってくれない。その点に関しては世話になってるし、助かってるから感謝してる。普段の態度のせいで、表立って言う気にはなれないけど……。


『……やっぱり携帯じゃ限界がある。真琴、ボクに合うサイズのパソコンを作ってくれない?』

「いやいやいやサファイア。そりゃいくら真琴で無理だ、作れたらそれこそ人間国宝すら超える超人だぞ? 俺の携帯で我慢しろ」


その時、もそもそとベッドの中から這い出してきたサファイアが、それと同時に恐しく無茶な要望を真琴にお願いしたんで其処は止めに入る。いくら何でもそれは無理だ。


パソコンの形にだけ似せたミニチュア玩具なら作れるだろうけど、中身の精密機械なんていくら真琴でも不可能だ……だよな?


『……もし作ってくれたら、真琴の好きな衣装を着てあげるのを考えてあげても良い』

「其処までして貰えても、考えるだけかよ」

「……っ!?」

「お前もお前で未だかつて無いマジな顔になるな」


サファイアと真琴のやり取りにツッコミを入れて、俺は盛大に溜息を吐いた。全く馬鹿な事やってるんじゃねぇよ、もう。


だが其処で――妙に部屋が静かになったので、俺はどうした事かと思って周りを見回す。すると真琴や俺の付喪神人形達全員の視線が俺へと向けられていた。その表情は総じて気遣わし気な色が現れていた。


な、何だ?


「……やはり今日のお前は本調子とは行かないようだな」

「え?」

「ツッコミにキレがない上に、溜息の量も多い。……此処まで落ち込んでいるお前を見たのはあの時(・・・)以来だ。今回の一件どうやら余程堪えたらしいな」


そう真琴が俺に向かって苦笑を浮かべた。真琴の言うあの時と言えば――俺が最初の付喪神人形である家族達を失った時の事だ。真琴も姉貴も、その時の俺の様子を見ているから良く知っている。


あの時と同じくらいか……確かに失った事の喪失感を感じていると言えば、ある意味状況はよく似ている。今回は今生の別れでは無いけど、それでも俺にとって大きな物である事には変わりはない。


落ち込んでるって? そりゃそうだ、俺は本当に本気で……真剣に山田さんの事が――。


「……本気で好きだったんだよ」

「……そうか」


俺の小さな呟きに、真琴は静かにそう一言答えた。その後は特に何も言わずにじっと口を閉じている。周りの小さな家族たちも無言だ。


……空気悪くしちゃったな。最悪だ格好悪い。


『……あ、あの総一……私、その本当に……ゴメン』

「……いや、八つ当たりした俺こそわるかった。あの後の事は考えてみれば、唯のオマケみたいな出来事だったんだし別に俺が振られた直接的な原因じゃない。もう俺も気にしなから、お前も気にするな」

『……ゴメン』


クッションの上で身を起こしたパールが、見るからに意気消沈して罪悪感に染まった表情で、視線を下に向けて顔を伏せている……あーくそっ、パールを理由にしてたさっきまでの俺をマジで殴りたい。こんな顔を家族にさせてんじゃねぇよ、パールはパールで、結局の所は俺の事が心配だったに決まってるだろう。


――こいつは意地っ張りで、素直じゃないけど本当は優しい奴だって知ってるんだ。他の誰でもない、この俺が一番。


「気にするなって言っただろ? 唯これから少しトラブルを起こすのは控えてくれ」

『な、何よそれ。それじゃ私が何時もトラブルの原因みたいじゃないの!』

『いや、お館様の言う通りだろう』

『そうですわね』

『……パール自重』

『パールが悪いの?』

『はぁっ!? ちょっと皆で酷くない!?』

「そうだ! パールさんを責めるなら俺を責めるんだ!」

「何でだよ」


静寂から一転し、再び俺の部屋が一気に騒がしくなった。パールが赤い顔でムキになってベッドに潜込んでいるサファイアを引きずり出そうと布団を引っ張り、それを布団を被ってサファイアがガードする。


その様子を見て紅玉が少し吹き出しながら手に持った紅茶を少し上に持ち上げると、それに気づいた真琴がミニチュアテーブルの上に置かれていたミニチュアのポットを取り、カップに紅茶を注ぐ。


俺の手の中のオパールもニコニコと笑顔を浮かべて上機嫌に俺を見上げ、そして俺は背後から小さく苦笑する声を聞いて振り返ると、其処には柔らかい微笑みを浮かべる翡翠がいて、俺の視線に気づき小さく礼をした。


あーあ、また騒がしくなったな。全く防音処置してるとはいえ、窓を開けたら確実に近所迷惑だって事を少しは理解してくれよ? だけど今だけはそんな騒がしい目の前の光景が俺にはとても優しい物に感じられた。


――と、その時。不意に翡翠と紅玉が何かを感じたように部屋の窓へと視線を向ける。


『――お館様。ダイヤとペリドットが帰って来たようです』

「あ、そうか帰ってきたのか。お前ら窓を開けるから静かにしろ。紅玉」

『はい』


翡翠の言葉に頷いた俺は、紅玉へと視線を移し一声掛ける。すると紅玉がミニチュアカップを置いた後、右手を自分の前に持ってきて人差し指でスッと立て線を引くように空中で切った。


するとその紅玉の指の動きに合わせるように部屋の鍵が外れ、続いて紅玉が横線を引くように指先を空中で切ると窓がその動きに合わせてガラリと音を立てて開いた。その瞬間に夏夜の暑い夜風が部屋に入り込んで来る。


そして――。


『よぉっす。今帰ったぜー』

『皆ただいま~』


その窓の淵に二体の付喪神人形。外に出かけていたダイヤとペリドットが、帰宅の言葉と同時に降り立った。


「おおっ! お帰りなさい、ダイヤの姉御とペリドットお姉さま!」

『あ? お前まだ居たのか。さっさと帰れ』

『うふふふ、ただいまマコくん。お出迎えありがとう』


ダイヤとペリドットが帰ってきた瞬間に、真琴の出迎えの言葉が二人に向けて掛けられる。そんな真琴に対してダイヤは鬱陶しそうな顔を向けて、そのまま窓の淵から跳躍し俺の机へと移動する。つれないダイヤの態度とは違って、ペリドットはそんな真琴に対して柔かな笑顔を向け後、紅玉のいる折り畳みテーブルへとダイヤと同様に跳躍して降り立つ。


おい窓を開けるから大きな声を出すなって言ったばかりだろうが、夜中は声が響くから近所迷惑になるだろう。出迎えの言葉なら普通に言え普通に。そう思う俺だったが、真琴はそんな俺の心情など全く気づきもしないで、ペリドットの為にミニチュア椅子を引いてあげていた。


紅玉によって再び窓が閉じられたのを確認した俺は、そこでようやく帰ってきた二人に対して口を開く。


「二人共お帰り、何も無かったか?」

『おうただいま。まぁ別に何時も通りだったぜ? あー疲れた』

『ただいま総くん。うふふふ、そうねぇ何時も通りだったわよ?』

「そっか、何事もなくて良かった。二人共ご苦労さま」

『……お、何だよ? チビっとだけど顔色がよくなったじゃねぇか』


二人の報告を聞いて、俺は少しだけ笑顔を浮かべて二人に労いの言葉を掛ける。


すると俺の机の淵に腰を下ろしたダイヤが俺の顔をまじまじと見た後に、ニヤリと口元を歪めて笑顔を向けてきた。……どうでも良いけどダイヤ、お前片足を上げて座るのは止めろ、その位置からだと真琴にパンツが見えるぞ。


「……まぁな。本当に少しだけだけど」

『それでも良かったわぁ。ダイヤったら、ずっと総くんの事気にしてて心此処にあらず状態だったんだもの』

『は、はぁ!? そんなんじゃねぇし! 勝手な事を言うんじゃねぇペリドット!』

『ご苦労さまでしたペリドット、紅茶は如何かしら?』

『あら、ありがとう紅玉。頂くわ』

「どうぞペリドットお姉さま! カップも用意してあります!

『マコくんもありがとう』

『聞けやコラァ!?』

「――うおあぁぁっ!? 馬鹿止せ、ダイヤ!」


ペリドットの発言に慌てた表情を浮かべて、その場で立ち上がり声を上げるダイヤだったけど、それを華麗に聞き流されて憤怒の形相で手に持っていた長槍を振り回す。


おいおい危ないって! それは設定上『神をも屠る聖槍』って厨二設定がされてる武器なんだぞ!? 普段は床に落しただけで折れるけど、今じゃその設定通り『神をも屠る』力を宿してんだから振り回すんじゃない!


焦る俺だったが、そんなダイヤを普通に無視してペリドットが紅玉と共に優雅なティータイムへと入る。それを見てダイヤが歯ぎしりしつつも、盛大に息を吐いて再び乱暴な仕草で机の淵に腰を下ろした。同時に長槍の柄を机に打ち付けた為、机の淵が僅かに砕けて飛び散る。……物は大切にしようぜ、ダイヤ。


『――ったく!』

『……おい』

『あぁ?』


そんなダイヤに対して翡翠が小さく声を掛け呼ぶ。それに機嫌悪く振り返ったダイヤが背後に立って自分を見下ろしている翡翠を睨みつける。


『貴様、先程いつも通りだったと言ったな?』

『あ? だから何だ?』

『……それは本当か?』

『……テメェ、俺の言った言葉が嘘だって言いてぇのか』


瞬間。ダイヤの瞳に剣呑な光が宿り翡翠に向けられた。だけど翡翠はそんなダイヤの態度に動じた様子を一切見せず、涼やかな瞳で見下ろすのみ。お、おいおい何でいきなり喧嘩しそうな雰囲気になってんだよ? 


何故か分からないけど、俺の付喪神人形となった最初からダイヤと翡翠は犬猿の中って言って良いほど仲が悪い。相手の何がそれぞれそんなにも気に食わないのか俺には分からないが、とにかく仲が悪く事ある事に衝突するんだ。ダイヤが喧嘩っ早いのは知ってるけど、何時もは冷静な翡翠も何故かダイヤが相手だと頭に血が上り激しく対抗する。


しかも二人は俺の付喪神人形の中でも屈指の近接戦闘型の前衛組。その戦闘能力は正に圧倒的の一言。そんな二人が喧嘩すれば部屋がムチャクチャになるのは当然の事。過去に何度か実際にそうなった。その為二人が喧嘩しそうになる度に俺か紅玉、たまにペリドットが仲裁に入ると言うのが、いつの間にか日常の一コマとして組み込まれる事になったのは自然な成行きだった。


今は紅玉達よりも俺が近くにいる為、慌てて仲裁に入ろうとする――が。


『――いや、くだらん事を聞いたな』

『……チッ!』


仲裁に入る前に翡翠がダイヤから視線を外し、それに続いてダイヤも一つ舌打ちすると翡翠から顔を背ける。


何だ? いや喧嘩にならなかったのは良いんだけど、この二人にしては珍しいやり取りだった。何か二人にしか通じない事でもあったんだろうか? 聞きたいけど、それは野暮だと思い、この場は口を閉ざす事にした。喧嘩にならなかったんならそれでよし。


『もががが……ぐ、ぐるじいぃ! 出してっ出してってば!?』

『……ふっボクに勝とうなんて百年早い』

『あら、美味しいわ。この紅茶マコくんが?』

「勿論です。心を込めて淹れさせて頂きました!」

『まぁ紅茶の淹れ方だけは褒めて差し上げますわ』

『……さてと、一仕事終えた事だし風呂にでも入るかぁ。おい総一、覗くんじゃねぇぞ?』

『お館様がそんな事をするか。第一貴様の裸など覗くほどの価値など無いだろう』

『んだと、このケツデカが!?』

『ケツデ……!? 黙れ男女!』

「――お風呂……だと……!? も、勿論準備も完了しておりますよ! どうぞっ! こここ、この俺の最高傑作である特製バスルームをお使いください! ちゃんと外装の貯水タンクに保温機能が付いていますから本当にお湯が出ます! 流れたお湯は床底の容器に10リットルまで貯まる仕組みです! さぁどうぞ!」

『『外から丸見え(じゃねぇ/ではない)か!?』』

『……やっぱり最低ですわ』

『あら、でも良く出来てるわコレ。私使って見ようかしら、勿論ちゃんと外から見えないように直して貰ってから、ね?』

『……ボクは何時もの洗面器で良いや』

『ちょっと見えない! いい加減布団から出してぇ!?』

『お風呂……オパール、総一と一緒に入る! 総一とまた(・・)洗いっこする!』

「――ぬわぁぁぁぁぁにぃぃぃっ!? ど、どどどどどういう事だぁ我が親友総一よぉ! 貴様まさか、まさかまさかあああああああああぁぁぁっ!?」


――全員が揃った瞬間から、より一層騒がしくなる深夜の俺の部屋。全員が全員好き勝手に過ごしている光景が、俺の視界一杯に広がっていた。窓なんて開けたら確実に近所迷惑で苦情が来るな。


……こいつらと一緒にいると、騒がしすぎて落ち込んでる暇すら碌に与えて貰えない。全く本当に困った奴等だ。全員時計を見てみろよ、もうすぐ深夜の2時を回るぞ? 


目の前で好き勝手に騒ぎ出す家族+αの姿を見回し、俺はそれでも何処か暖かい気持ちになりつつ苦笑して、腹に力を入れて全員に向かって聞こえるように声を上げた。



「――お前ら静かにしろ! 一体今何時だと思ってるんだ!」



落ち込む事もあるけど、それでも俺の周りは暖かい。


ダイヤとペリドットが、深夜に何をしていたかは次回にて。

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