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第二話  霊能体質と七体の美少女フィギュア

突然なんだけと、付喪神と言う存在を知っているだろうか?


正しくは九十九神って言うんだけど、これらは古い道具や物などを依代に神様や霊魂が宿った存在だ。良し悪しは分かれるけど、魂が宿っているっていう点を見れば人とそんなに大差のない存在だと思う。人にも良し悪しがあるし、魂が宿っている器が違うって事だけで、この付喪神って存在も同じ生き物だと俺は考えてる。ごく身近にそんな奴等がいれば、そう思うのも無理はないけど。


ついでに、俺って実は霊感が強いって言ったら信じて貰えるだろうか。信じる人もいれば、胡散臭い目で見る人もいるし、気味悪がって近づかない人もいるだろう。過去にその事を他人に言ったこともあるけど、大抵が後者の反応だった。それ以来、俺は無闇矢鱈にその事を口にしないようにしてる。黙っていればバレないし、その後何もなければ以前俺の話を聞いた奴も『昔お前ってそんな事を言ってたよなー』と昔の笑い話として流してくれる。そんなもんだ。


さて信じてもらえるかどうかは別として、俺には霊感がある。それも恐しく強力な物が。しかもかなり特殊な霊能体質みたいで、俺以外にこの秘密を知っているのは三人だけ。まずは五つ上の姉である高橋響子。幼稚園の頃から家が隣で幼馴染の倉永真琴。そして俺が霊能体質である事を教えてくれて、その後色々と力になってくれている近くの『輝上神社』で神主をしている大川喜之助さん、年齢72歳の高齢の御老人だ。


特に喜之助さんは俺がこの世で一番信頼している人で命の恩人でもある。小学校の頃に尊敬する人物の名前を書く欄に喜之助さん名前を書いた事があるくらい、俺は喜之助さんを尊敬している。大晦日や初詣の時に休み返上でバイトに名乗り出るくらい屁でもない。真琴も強制的に巻き込むけど。


それはまぁ置いといて、俺の特異な霊能体質について今は説明しよう。俺は霊感が強く強烈な霊能体質である事は言ったけど、この霊能体質は本当に特殊なものなんだ。


まずは第一に、俺には幽霊なんて見えません。


え? お前霊感が強いんじゃねぇのかよって? いや霊感はあるよ。霊感はあるけど……俺の霊感が働くのは一つだけ、最初に説明した付喪神。それも『魂が芽生えた人形』限定の物なんだ。僅かにでも魂が芽生えた人形なら、俺にはすぐに分かる。これは俺の修行による賜物だ。


そして第二に、俺には『悪霊退散!』なんて格好よく悪霊を祓う力なんて毛ほど持っていません。


お前本当に霊感が強いんだろうなってツッコミは無しで。俺には悪霊と戦う力なんて持ってないから、もし目の前に悪霊(見えないけど)がいたら簡単に取り憑かれて呪い殺されるだろう。身を守る術なんか、それこそ他の一般人同様にお祓いグッズで身を固める以外に方法はない……いや一つだけって言うか、身を守る手段っていうか、守ってくれる存在は七つ程持ってるけど、これは今から説明する。


そして三つ目、これが俺の霊能体質最大の特徴。喜之助さんから教えてもらった俺という特有の霊能体質を持った存在。その名を『人形使い』と言うんだそうだ。喜之助さんが言うんだから間違いない。


『人形使い』って言うのは、その名の通り人形を使う者。魂が宿った付喪神の人形達を己の霊力で使役し、思うがままに操ることができる霊能力を持った存在だ。これだけなら十分凄い力なんだけど……ハッキリと言おう。俺は普通の『人形使い』じゃない。『人形使い』って言うのは日本全国にいる霊能力者達の中にもそれなりに存在するから珍しい存在じゃないらしいんだけど、俺はその中でも特に異常な存在なんだ。


ぶっちゃけると、俺って人形達を全く使役できないんだ。好き勝手に動き出すのなんて序の口、しかも対象の人形を自分で指定できないし、俺はどうやら霊力をそこら中に垂れ流すとんでもない存在なんだそうだ。お陰である時間帯の内で傍に人形があって、それが僅かでも魂が芽生え始めた付喪神だったら――そいつは俺の霊力を吸収し勝手動き出し、それが悪霊の部類だったら、人に害を成す存在となってしまう。昔それが原因で、俺は勝手に動き出した人形に襲われ殺されかけた事もある。俺の力は諸刃の刃でもあるんだ。


それだけでも危ない存在である俺なんだけど、俺にはさらに厄介な力が宿っているんだ。普通『人形使い』達が使役する付喪神の人形達は、それなりに時を経た最低でも20年が過ぎた人形でなければ上手く使役できないんだ。人形に芽生えたばかりの魂だと、霊力を与えても良くて普通に動き出せる様になるのがやっと。無論戦闘なんて出来る筈がない。


――だけど俺は違う。俺は僅かでも魂が芽生えた付喪神である人形であれば、俺は自分の持つ莫大な霊力で、まだ弱い魂である筈の付喪神人形達の足りない部分を補い、すぐにでも戦闘が出来る強力な付喪神へと昇華させる事が出来るんだ。


しかもそれだけじゃない。人形であるのに、その体を人と全く変わらない肉体へと変化させる事が可能な上に、その人形の元となったキャラクターの力をそっくりそのまま使えるように出来る。例えば戦隊物のヒーロー人形であれば、TV上でのフィクションで使っていた武器や能力を、現実の物として使用する事ができるんだ。


……嘘みたいだろう? でもマジなんだ。そうする事が可能に出来る存在、それが俺という『人形使い』なんだよ。本当に出鱈目で強力過ぎて傍迷惑で危険な霊能体質だろ。ちなみに飲食も可能です。


でもその霊能体質にも弱点はある。それはその体質の効果が発揮されるのは深夜――それも深夜0時から午前6時の間だけ、一日の始まりである4分の1の6時間だけしか、その効果は現れない事だ。そんな訳で、俺はそれ以外の時間は普通の一般人と変わらない、至ってごく普通の人間でいる事が出来るんだ。


俺がこの体質に気づいたのは小学1年生の時。深夜にトイレに向かおうとした時に見てしまったんだよ……俺の机の上でライダー人形と戦隊物ヒーロー人形5体が一杯やってる姿を。あれはいろんな意味で強烈だった。何で玩具が動いてるんだろうとか、それお父さんお酒だよとか、夢かなこれとか思ったけど。『あ』って感じでこっち見てたそいつらが、慌てて普通の人形の振りしたのを見た後に俺はその場で気絶した。そして翌日俺は母さんに怒られた……俺の最後のオネショ記念の原因だ。


そしてその日の夜。夢かどうかを確認する為に深夜まで待ったら、深夜0時になった瞬間そいつらは開き直ったのか普通に動き出して、俺に説明してくれた。怖がる俺に『コワクナヨー』って近づいて落ち着かせるのにきっとアイツ等は随分苦労した事だろう。俺って来るなって漫画とか投げまぐってたしな。良く両親が起きなかったもんだ。


――それが俺の事を最初に守ってくれていた付喪神人形達……俺を怖がらせないように、秘密にしたまま今の今まで俺の事を守ってくれていた……掛け替えのない家族達との出会いだった。


沢山遊んで貰えたし沢山話もした。そして皆――俺の霊力を吸って襲いかかって来た禍の付喪神人形から俺と姉貴、真琴の事を喜之助さんが来るまで最後まで身を挺して守り抜いて……壊れていった。あの時は涙が枯れるくらい泣きまくった。庭にお墓も作ってまた泣いた。あいつらと以前に一緒に撮った写真は、今でも俺の机に飾られている。本当に最高の家族だった。今の俺があるのはあいつ等の御蔭だ。


それから俺は玩具、特に人形を欲しがらなくなった。あんな思いは二度とゴメンだったし、あいつ等以外の人形なんて必要なかったんだ。代わりに俺は喜之助さんに自分の力を少しでも制御出来るよう鍛えて欲しいと頼んだ。それから中学校入学まで俺は『輝上神社』に週に三回泊まり込みして修行に励む事になる。家に帰った時は、俺の部屋の四方に喜之助さんから貰った霊符を貼って、俺の霊力が部屋の中から漏れないようにして夜は眠った。


そのお陰と言うか、あんまり成果は出なかったんだけど……俺は僅かでも魂が芽生えた付喪神人形の存在が分かるようになり、深夜0時から自動発動する『人形使い』の力と霊力の漏れは防げないけど、自分の霊力を特定の付喪神人形に更に倍増しで注ぎ込む事が出来る技だけは体得した。……あの時この技が使えていれば、きっとあいつらは壊れる事は無かった筈だと、今でも思い出す度に悔恨の念に苛まれる。過ぎた事を言ってもどうにもなら無いのは分かってるんだけどさ。


――で、だ。そんな俺だったけど中学二年生の時に、遂に新しい人形を迎え入れる事になったんだ。喜之助さんが言うには、自分を守る術としてやはり『人形使い』に付喪神人形は必要だし、その付喪神人形達が俺の霊力を吸った分だけ、俺から漏れる霊力の量も削減できるから、そろそろ新しく持った方が良いとの事。


これは流石に俺も渋ったけど、喜之助さんに説得されて俺はその事を了承した。必要な物はまだ魂が芽生えてない真新しい人形のみ。魂が芽生えてない状態の内から大切に扱って愛情を注げば、きっと最高の付喪神人形になってくれる筈だって話だったんで、俺はその日から人形探しに色んな店に足を伸ばす事になったんだ。


真琴の奴も協力して探してくれたけど……あいつが勧めてくるのは、殆どがセクシーな衣装でお色気抜群の美少女フィギュアばっかりだったんで、むしろ邪魔だった。お前はそいつらが動き出したらどうする気なんだよ。お陰で俺があいつに美少女フィギュアを勧められているのを見たクラスメイトによって、同じようにオタク扱いされる事にもなったし最悪だ。いや理解はあるけど、美少女フィギュアを見てハァハァする趣味は俺には無い。無いぞ、いや本当だよ? ……最近の人形って何であんなに精巧なんだ、目のやり場に困るだろチクショウ……!


あ。ちなみに真琴は男だよ? 可愛くてちょっとお節介な幼じみの美少女なんて、そんなもの漫画やアニメの話だ。現実なんてそんなもんだ。アイツがそう言う趣味にドップリと浸かる事になった原因は、やっぱり付喪神人形が動くのを見て『リアル二次元キター!』って叫んでたのが理由なんだろうな。見た感じ知性が溢れる長身の眼鏡イケメンだし、あいつからしたら姉貴は幼馴染の綺麗な隣のお姉さんだから、色々勝ち組な筈なのに何処か残念な奴である。


そして、色々と強そうな設定の人形を探しまくってる最中の事。俺が人形を探してるって聞いた姉貴が、なんと送って来たんだよ人形を。それも真新しいまだ魂が芽生えてない――アニメDVDに特典として付属されている美少女フィギュアを!


高校卒業後、一人実家を離れて都会で一人暮らしを始めていた姉貴なんだが……実は姉貴は声優オーディションに受かって、新米の声優として活躍してるんだ。その姉貴が初めてあるアニメヒロイン役の一人に抜擢されたんだが……それが嬉しかったのか、自分が出演するアニメDVD初回限定特典フィギュア付きを俺に送ってきたんだよ! 


制作されたばかりだからそりゃ真新しいフィギュアだったけど、そりゃねぇよ姉貴!? 俺じっくり選んでたんだぞ!? 真琴も『流石響子さん、分かっていらっしゃる』って頷いてんじゃねぇよ! 何だって全7巻? ちょっと待ってくれ後6体も増えんのか!? 俺って3体を目安にしてたんだけど! 感想を聞かせてねーってちょっと待て、姉貴ぃぃぃ!?


――と言うやり取りの末、俺は七体の美少女フィギュアを自分の付喪神人形として迎え入れる事になったんです、はい。アニメの内容は……何だ? 主人公が何かの王の生まれ変わりで? 同じく生まれ変わりである美少女たちに、自分のかつての恋人だの主君だの夫だのと言われて押しかけられる? バトル有り、魔法有り、お色気有りのハーレムバトルラブコメディー……だったか? 色々スゲェ内容だった。真琴は『アニメの作画と演出は評価できる』って言ってた。内容については『ハーレム物としては及第点。二期は無い』との事。


色々思う事はあったけど、結局俺は一月毎に増えてくる特典フィギュアである人形達を、まぁ大事にする事にしたんだ。真琴が毎日のように深夜にやって来て『動いたか!? もう動いただろう!? 隠すと為にならんぞ!?』って凄く邪魔だったし手入れについても口煩かったけど、まぁ大事にしつつ目のつく場所に飾って、たまに話し掛けたりもした。名前は色々考えた結果、送られてきた月の誕生石を当てはめて名付けた。キャラの名前は別にちゃんとあったけど、自分で名付けた方が大切にできると思ったんだ。


――そして7体目のフィギュアが揃ってさらに月日経った頃。中学三年の春に最初の1体目に魂が芽生え動き出し、それに触発される様に他の6体も比較的早い期間で動き出したんだ。


それが――。


『な、なぁ総一? 元気出せよ、何もそんなに落ち込むことねぇじゃねぇか。女はあの山田ってだけじゃねぇだろう? わ、悪かったって。まさかあんな結果になるとは思ってなかったんだよ』


――机の上にうつ伏せになり絶望の底に沈んでる俺に対し、何時もの気の強い物言いは形を潜め、遠慮がちに話しかけてくるDVD第1巻の特典フィギュアの付喪神人形。神々しい神の鎧を身に纏い、神話に登場する気高くも美しい戦乙女の姿を模した美少女フィギュアのダイヤ。


『申し訳ございません、お館様! まさかあのような事になるとは思いもせず、どうか平にご容赦を! かくなる上はこの腹をかっさばいてお詫びを!』


――そんな俺の机の横で土下座しつつ、今にも切腹をしそうなDVD第2巻の特典フィギュアの付喪神人形。黒生地に桜の花が散りばめられた少し露出の多い忍装束に身を包み、凛とした顔立ちの女忍の姿を模した美少女フィギュアの翡翠。


『うえぇえぇ……何で私だけこんな目にぃぃ~』


――その翡翠の後ろで『私は最低です』と書かれた板を首から下げ、正座させられているDVD第3巻の特典フィギュアの付喪神人形。純白の清楚な衣も身に纏い、儚げで可憐な微笑みを浮かべるシスターの姿を模した美少女フィギュアのパール。


『それにしても解せませんわね。まさか旦那様の求愛を断るだなんて、側室がそんなに嫌だったのでしょうか?』


――俺の右隣にいるダイヤ達三人とは対称に、俺の左隣で机の上に洋物のミニチュアテーブルを置き、そこに設置されたイスに座り、これまた洋物のティーカップで優雅に紅茶を飲んで斜め上な発言をするDVD第4巻の特典フィギュアの付喪神人形。中国清朝時代の官服を彷彿させる服を来た眼鏡中華美少女の姿を模した美少女フィギュアの紅玉。


『うーん、そういう事じゃないと思うのよ。やっぱりそのあとの事が総くんの心に深い傷を残してるんだと思うの。あの時の総くんは知らない人から見れば……ねぇ?』


――そのダイヤと同じく、洋風のミニチュアイスに座って正にそれですって感じの的確な言葉を放ち、困ったように頬に手を当てて苦笑するDVD第5巻の特典フィギュアの付喪神人形。隻眼で勇ましくも野性的な笑みを浮かべ、格好いい船長服に身を包んだ女海賊の姿を模した美少女フィギュアのペリドット。


『……ないね。普通に引く』


――グサリと俺に止めでも刺しに来てるんじゃないかと言う辛辣な発言をする。本棚の隙間に体を潜り込ませ、我関せずと言う態度で俺の携帯電話を弄っているDVD第6巻の特典フィギュアの付喪神人形。天真爛漫な笑顔の眩しい白黒の色が映えるメイド服を着こなす可愛いメイドさんの姿を模した美少女フィギュアのサファイア。


『総一ゴメンネ……! オパールいっぱい、いっぱい応援したのに駄目だった……! ごめんね』


――そんな落ち込む俺以上に泣きそうな表情を浮かべて、俺の左頬に手の平サイズながらもボンッキュッボン! な艶かしいダイナマイトボディを押し付け、無自覚に色気を振りまくDVD第7巻の特典フィギュアの付喪神人形。褐色肌に目のやり場に困る露出の激しいエキゾチックなドレスを身に纏う古代エジプトの女王の姿を模した美少女フィギュアのオパール。


……以上七体が現在の俺を守ってくれる存在であり、俺の『人形使い』の能力によって俺の付喪神人形となった美少女フィギュア達だ。


……まぁ今はとにかく。


「……いっそ殺せよ」

『い、いやいやいや元気出せって! お、おい翡翠何とかしろ!』

『やはり此処は、今回の事を提案したパールを手討ちにした後で、我らも厳しき沙汰を黙して待つのみ……!』

『ちょちょちょちょっと待ってよ!? 皆だって結局参加したんだから同罪でしょ!? 何で私だけ一番罪が重いのよ!』

『旦那様どうか気をお取り戻しくださいませ。大丈夫ですわ、この先何人側室が増えようと、私の旦那様への愛は変わりませんから』

『総くん元気を出して? きっと大丈夫よ、総くんが好きになった子はそれぐらいで距離を置こうと考える子じゃ無い筈でしょう。それにもし告白が成功したとしても、遅かれ早かれ私達の事は話さなきゃいけなかったんだし。ね?』

『……まぁそうだよね。彼女になってたら何時までも隠せる物じゃないだろうし』

『そ、総一ダメ! 死んじゃダメ……! ヤダ、総一死んじゃヤダァ……!』


俺の一言に途端に騒がしくなる俺の部屋。一応色々と備えて俺の部屋の窓は全部二重窓で、ある程度の防音処置が施されてる。


両親は親父が別の県に三年間単身赴任することになり、母さんはその親父について行った為不在だ。姉貴はさっき説明したとおり、故に家には俺と小さな7体の家族のみ。深夜に少し騒いだとしてもある程度なら大丈夫だ。


しかしそれでも煩い事には変わらないから、何時もなら注意するんだけど……今はその気力すら湧いてこない……欝だ。どうして山田さんは図書室の鍵を持ったまま行ってしまったんだ。そして何故それに気づいて戻ってきてしまったんだ。そして何故俺はその時まで図書室に残ってたんだ……!


山田さんの『か、可愛い人形だね……』と言った時のあの少し無理をして浮かべた笑顔が頭から離れない……! 誤解だと説明しようにも、どう説明しろってんだあの状況で……!?


――この夏休み、これから永遠に続かねぇかな……?



「――おっじゃまっしまああああぁぁぁっす! はーっはっはっはぁ! 素晴らしいサマーヴァケーションの到来だなぁ我が親友総一よ! これから毎晩小さなプリンセス達と過ごせると思うと、この俺はこの胸の熱い興奮を抑えられんぞ! お待たせしました美しい妖精達! 君達の忠実な下僕である倉永真琴が只今参上致しましたー! さぁさぁ今回はどんなミニチュア道具がご希望ですか!? この俺が迅速かつ速やかに素晴らしい物を夏休み期間全部使って随時制作に没頭いたします! おおっとそれとも可愛い服ですか? それともゴージャスなドレスをご所望ですか!? はっはっはご安心を、ちゃんと資料も持参し、君達のご希望通りの服をオーダーメイィィィィィドでお作りしま――む? どうした我が親友総一よ。随分暗いじゃな――き、貴様ああああああああああ!? リトルプリンセス達に囲まれるなどと言う何て羨ましい状況に身をおおおおおおおおぉぉぉ!?」


『うっせぇボケェ!』

『散れ俗物!』

『うわっ鬱陶しいのが来た』

『静かになさい。躾のなってない小間使いですわね』

『あらマコくん。いらっしゃい』

『……邪魔だし帰れ』

『総一、死んじゃダメェ……!』



――あ、前言撤回。やっぱり普通に終わって欲しいな夏休み。


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