検査
夫は仕事を休んで車で10分程の泌尿器科へと向かった。
私はまだ子供がまだ小さかった事から、院内で騒がれる事を恐れて部屋で帰りを待つ事にした。
気にはなるものの、大事になるとは思いもしていなかったからなのか、いつも通りに家事をこなす。
暫くすると夫が帰って来た。
「どうやった?」
「触診されて薬渡されたわ。」
はっきりとした病名は分からなかったが、炎症とかそういった診断がとりあえず下されたようだった。
「これで症状が引かんかったら、また行かなあかんねん。」
夫は自分の症状よりも、また仕事を休んで病院に行く事の方を面倒に感じている様子だった。
ひとまずは医者の診断のままに、与えられた薬を決められた時間に呑む。
3日後。
やはり症状は改善されている様子がない。
夫は再度先日訪れた泌尿器科へと向かった。
夫が症状の改善が見られない事を伝えると、医者はこう言った。
「まぁ、まだ若いから大丈夫やとは思うけど。万が一の事があったらあかんからな。」
市内の総合病院への紹介状を渡され、更に後日指定された日にちに検査を受ける事となった。
万が一の事と言われても、当の私達にはまるで実感は無く、ただ言われるままに行動する他無かった。
検査当日。
予定では血液検査からCT、その他一通りの長時間に渡る検査で、詳しい内容は今となってはもう覚えていないが、悪性腫瘍が見つかった。
悪性腫瘍。いわゆる「ガン」である。
私は医学に関してはさっぱりなものだが、検査の結果に診断されたのは「精巣癌」。
精巣に発生する腫瘍で、良性と悪性の発生比率では9割以上が悪性だとされる、非常に進行の早いガンだった。
私は担当の方に別室に呼ばれ、早速と言わんばかりに手術の話をされた。
昔ながらの偏見かもしれないが、「当事者に告知しますか?」そういった話になるかと予想していたのだが、当の本人にはもう知らされていたようで、手術に関する説明を図解を持ち寄って丁寧に説明して頂けた。
手術自体は簡単なものらしく、正確には摘出後の確定診断となるようだったが、現時点でもほぼ悪性腫瘍で間違い無いとの事だった。
入院の手続きを済ませ、一通りの説明を聞き再び夫と合流する。
「聞いた?」
「・・・なんか色々聞いたけど難しいわ。手術らしいな?」
「そやねん。俺、コウガンガンやねん。」
クスクスと含み笑いをする夫につられて、私も思わずクスクスと笑いが零れる。
「何やねん、コウガンガンって。せめて腫瘍っていうてか。」
「会社の人に何て言お?コウガンガンになったんで・・・あかんわ。笑ってまいそうやわ。」
ガンと聞いても体は元気なもので、周りが思う程には落ち込まなかったのだ。
むしろ私達の両親の方が青ざめた顔をしていた事を今でも鮮明に思い出す。
入院前にやることが2つある。
担当の医師から勧められたPET検査。
それと精子の冷凍保存だ。
PET検査とはがんを検査する方法のひとつで、「陽電子放射断層撮影」という意味らしく。
点滴にて特殊な検査薬を投与し、がん細胞に目印をつけるという画期的な検査である。
今回の場合は他に転移が無いかを確認する為に行う。
私は実家に子供を預け、夫を連れて早速紹介された病院へ向かい、待合室で暫くの間時間を潰す。
結果は転移無し。
少しホッとして受付前にあるソファーで会計待ちをする。
得体の知れない検査費用。
心持ち余分には用意して来たつもりだが、正直見当もつかない。
そのお値段何と約9万円。
どうにか用意していたお金で事足りたものの、今後の事を思えばこれは始まりに過ぎないのだろう。
私達は癌発覚の時点では保険契約は行っていない。
今更保険には入る事は出来ないのだ。
そして完治としたとしても7年は生命保険の類に入れない。
この若さで。
この考えが大きな間違いだった。
備えをしてこなかった私達はどん底以下から這い上がるしかないのだ。
平成22年よりPET検査も一部の疾患を除いて健康保険の適用がされるようになったので、その検査費用に関する負担は軽減されるようです。