発覚
この物語は作者の体験を元にしたお話です。登場する団体や名前は仮名となりますので予めご了承下さい。
なお、初投稿にあたり、小説として書き上げるにはまだまだ技術不足と思います。
ご意見・ご感想いただければ幸いです。
よろしくお願い致します。
ピンポーン。
夕飯の支度を終え、テレビの前に腰を落ち着けると呼び鈴が鳴っていた事に気付く。
「・・・はい。」
私は慌てて玄関に駆け寄った。
15cm程戸を開けると、そこにはスーツ姿の女性が立っている。
「こんにちは。第3生命の中西です。」
よくある生命保険の勧誘か。
そう思うとあからさまに邪険そうに対応する。
頻繁に訪れる新聞勧誘や宗教関係の人間にうんざりしていたからだ。
「保険ですか?今は月々に支払って行く余裕が無いからすみませんけど・・・・。」
軽く会釈をして玄関の戸を閉めようとすると、眠っていた息子が泣き出した。
「月々のご負担が少ないプランもありますからご検討下さい。」
保険会社の女性はそう言うと、名刺とパンフレットを差出し丁寧に頭を下げた。
・・・保険。いつかは入らなければならないんだろうけど。
決して月々に支払えない金額なわけでは無い。
ただ、気が進まなかったのだ。
使う事が無いものに月々お金を支払う。
少ない貯蓄も背中を押して、少しでも貯蓄に回したいと無意識に計算していたのかもしれない。
いつかは・・・・って、いつ?
この時に契約していれば、後の人生もまた違っていたのかもしれない。
互いに若くして結婚し貯金という名の貯えは少なく、今時珍しい木造丸出しのアパートに住み、それなりの収入でそれなりの生活。
裕福ではないが、平凡で安定した毎日だった。
普段はこういった勧誘等で渡されたパンフレットは、すぐにごみ箱行きなのだが、その日は何故かテーブルの上に置きっぱなしにしていた。
泣きじゃくる息子を抱き上げ、背中をトントンと優しく叩いては一定のリズムで横に揺らす。
「ごめんごめん、ママおらんくてびっくりしたなぁ。」
息子を抱いたまま、テーブルの前に座りテレビのチャンネルを探す。
四畳半の和室。
テーブルの上に無ければその辺に転がってるのだろう。
部屋の隅に敷いていた子供布団を捲り、少し上体を伸ばして辺りを見渡しても見当たらない。
1歳になった息子を抱いたまま、立ち上がるのも面倒だ。
私は諦めて目の前にあるパンフレットに手を伸ばす。
事故、入院、ガン、どれも実感は湧かなかった。
けれど、いつかは入ろうと思っていた保険。
「月々3000円、二人で6000円。これくらいやったら有りかなぁ。」
よくある主婦の独り言である。
私は前向きに検討してみることにした。
時は少し進んで2月。
何度か訪問してくれていた保険会社の中西さんに、軽めの問診を受け正式に保険契約を進める事となった。
「契約の期間ですがいつ頃から開始します?」
「じゃあキリのいい所で4月の頭からお願いします。」
3月は何かと物入りだ。
子供を保育所に預ける予定だった為、入園にあたって用意するものも多いだろうと踏んで4月からにしたのだ。
3月初め。
いつもの通り夫が会社から帰宅した。
「ちょっとこっち来て。」
夫が子供の目を憚るように私を呼ぶ。
「何?どうしたん?」
「何かコリコリしたやつがあるねん。」
「コリコリ?どこに?」
「・・・玉!」
私はこの事態を深刻には受け止めていなかった。
いつもの調子で大げさな事を言っているのだろうと、呆れ顔だ。
「玉って・・・何ソレ?」
「触ったら分かるんやけど・・・。」
「どれ?」
躊躇いながら話す夫。
私は容赦無くズボンに手をかける。
ふざけるわけでも無く夫は真剣だ。
私もその空気に呑まれて夫が指し示す場所を触ってみる。
「・・・これ、いつから?」
確かに何かの手ごたえがあるような気はした。
けれど異物と認識するにはあまりにも知識が少なかった。
「違和感感じたのは1週間位前なんやけどな。」
脂肪の塊?できもの?しこり?
正体の分からないソレは素人の私たちではどうすることも出来ない。
「一回病院行った方がよくない?」
私は安易にありがちな言葉を放つ。
20代の男性が、医者とはいえ見ず知らずの他人の前で局部を披露するのだ。
内心この違和感が次第に無くなる事を願うだろう。
この日から早くも2週間が経った木曜日。
いつも通りに仕事から帰る夫に、ふと聞いてみる。
「あのコリコリどうなった?」
「うん。まだおるよ。痛みとかは無いけど。・・・少し大きくなった気がする。」
「大きくって、育てとんかいっ。」
平然と話す夫に合わせて明るく返すも、妙に胸がざわつく。
「見てみる?」
改めて触診。
2週間前までは言われなければ気付かない程度だったソレは、明らかに異物として確認できた。
「・・・明日は仕事休んで病院行ってな。」
病院。
この場合一体何科に行けば良いのだろう?
普段は風邪をひいても市販の薬で回復を待ち、ひどい時は内科に足を運ぶ程度で病院には縁がない。
携帯で鍵となる症状等を入力してみると、出てきた答えは泌尿器科だった。
なんて便利な時代なんだろう。
物凄い情報量を持つ愛用品。
検索途中に様々な病名がちらついた。
けれど病院で治療すれば次第に良くなるだろうと信じ、ちらつく病名には目を伏せた。
-----まさか、ね。
そして、不安な夜が明けた。