地デジ移行
昼もだいぶ過ぎた頃にようやく俺は目が覚めた。
寝ぼけ眼でテレビを点けてみると青い画面に字が踊っている。
「そうか、今日だったか」
アナログからデジタルに変わったのだ。地デジ対応してないから使い物にならなくなったか。
俺はため息を付いて電源を切ろうとリモコンに手を伸ばす。
その時、テレビが砂嵐を起こしたと思うと女の顔が映った。
どこかで見たような気がする。どこにでもいる気がする。そんな平凡な顔。
「なんとか48?」
選挙だかをやっているアイドルグループだ。詳しくは知らないが……。
「地デジ対応して無いじゃないですか!?」
「うわっ!」
いきなり女に叱られたので情けなく悲鳴を上げてしまう。
おおかた、地デジ対応を促すためのCMだろう。なんて質の悪い。お茶の間の爺婆の心臓を労れってんだ。
いや、待てよ。地デジ移行が済んだのだから電波は止まっているはず。
「何で映ってんだ?」
「乗る電波を間違えたからですよ」
電波? 本物の電波さんか。
本物の電波さんは困ったように口を開く。
「今から乗る電波を変えようにも一度、電波塔まで行かないとだし。選挙で負けたらどうしてくれるんですかっ!」
むちゃくちゃだ。責められる謂われはない。地デジ対応をしてないのは俺の勝手だ。
「全く、取り敢えずテレビから出ないと、よっと!」
「ぎゃあー!」
なんか出てきた! リ○グの貞○さんみたいに出てきた!?
「ふぅ。それじゃあ私はこれで。出来れば投票してくださいねぇ」
手を軽く振って部屋を出て行った。
流石に驚いたがこういう事もあるだろう。
俺は落ち着いてリモコンに手を伸ばす。
「ん?」
画面に男が映っていた。
この見慣れたサングラスの男は……。
「最後に乗りたくなってね。いろいろ思い出もあるからさ」
……乗り納めらしい。
俺は無言で電源を切った。
どういう原理かテレビの中で悲鳴が上がる。「出れないって! 出してよ!」なんて声も無視。
素早く身仕度を整えて俺はアイドルを追いかけるべく部屋を後にした。
家のテレビが晴れて使い物にならなくなりました。