第7話 「王子の誤解と断罪フラグ爆走回避計画!」
学院祭を前に、校舎はにわかに浮き立っていた。
華やかな飾り付け、甘いお菓子の香り、そして……恋の嵐。
(うん、これは完全に“恋愛イベント期間”ですね)
セシリアは紅茶を飲みながら静かにうなずいた。
(でも私は悪役令嬢。出番は“ヒロインをいじめて断罪される側”。
つまり——関わらなければ勝ち! 断罪回避まっしぐら!)
……だった、はずなのに。
「セシリア・フォン・アーデルハイト嬢、学院祭で私の相談に乗ってくれないか?」
昼休み、教室の扉を開けた瞬間。
王子リオネルの笑顔が直撃した。
(でたーー!! 攻略対象様!!)
周囲の女子がどよめく。
セシリアは内心で全力の危険信号を鳴らした。
(なぜ私!? 王子が話しかけるべきはヒロインのリリア嬢では!?)
「ご、ご相談……とは?」
「実は、学院祭のことで——」
「パ、パートナーですか!?」
「いや、出店の飾り付けについて意見を聞きたいだけだが……?」
「……あっ、そ、そうですよね! ははっ、ですよね〜〜っ!」
(やばい、先走った……! もう悪役令嬢臭がすごい!)
周りの生徒たちはざわめく。
「王子がセシリア様に相談を……?」「あの冷たい公爵令嬢に……?」
(まずい、フラグが勝手に立ってる!!)
その日の午後。
セシリアは“安全に距離を取る方法”を考え、リリアを探した。
「リリア嬢っ! 助けてくださいっ!!」
「……え、セシリア様が私に助けを……?」
「王子殿下が私を呼び止めてしまったんです!!」
「それ、普通は“光栄です”って言う場面じゃ……?」
「違うんですっ! これは断罪への道なんです!」
「……え?」
セシリアは真剣な顔でリリアの両手を握った。
「リリア嬢、あなたが王子殿下の本命ヒロインですよね?」
「えええ!? ヒロインってなんですか!?——」
「だから、あなたが彼と話すべきなんです! 私が出しゃばったら世界が滅びます!!」
リリアは目を瞬かせた。
「……あの、滅びはしないと思いますけど」
「滅びます! シナリオ的に!!」
(※現実には滅びません)
その日の夕方。
中庭での出来事。
王子が再びセシリアを見つけて声をかけた。
「セシリア嬢、先ほどの件だが——」
「お断りします!!!」
「まだ何も言っていないが?」
「はい! でも先にお断りしておいた方が安全です!!」
(あ、しまった……勢いで変なこと言った……)
王子は目を瞬き、くすっと笑う。
「君は面白いな」
(面白い言われた! フラグっぽい空気やめて!!)
その様子を、少し離れた場所からアランが冷え切った目で見ていた。
「……あれが“安全な距離”のつもりか」
横で見ていたリリアが小声で言う。
「アラン様……あれ、焼けてませんか? 表情が……」
「焼けてない」
「完全に焼けてますね……」
アランの微笑みは、まるで凍ったナイフのようだった。
夜。
セシリアは部屋で日誌を書いた。
【今日のまとめ】
・王子から話しかけられる(原因:不明)
・ヒロインを巻き込み断罪フラグを回避(成功率:たぶん20%)
・お兄様の表情が少し怖い(気のせい、であってほしい)
「……明日はもっと地味に生きよう……」
そう呟いた瞬間、ノックの音。
「セシー、起きてるか?」
また来た。お兄様だ。
「お兄様、今日はもう寝ようと思ってました!」
「そうか。……だが、少し話がある」
「は、はい?」
扉が開き、月明かりが差し込む。
その影が、やけに近い。
「殿下と楽しそうに話していたな」
「い、いえ、あれは会話のようなものではなく、災害の一種でして!!」
「……災害、ね」
アランはゆっくりと笑った。
「……まぁいい。学院祭当日、俺が護衛をする」
「ええぇ!? どうして!?」
「お前はトラブルを呼ぶ。放っておけない」
「そんなことありません! たぶん!」
「“たぶん”の時点で危険だ」
(ああ……これ絶対、平和な学院祭にならないやつだ……)




