第4話「嫉妬と微笑」
朝の訓練場。
青空の下、セシリアは魔法陣の調整をしていた。
魔法学の教師が言っていた通り、封印を保つには精密な魔力制御が必要だ。
「セシリア嬢、やはり手際がいいですね」
柔らかな声。
顔を上げると、そこにはエドワードが立っていた。
黒髪が陽光を受けて輝き、真っ直ぐな瞳が彼女を見つめている。
「え、えっと……まだ失敗ばかりです」
「そんなことはありません。あなたの努力は、誰よりも見えています」
「……あ、ありがとうございます」
自然と笑みがこぼれる。
だが、その瞬間――背後に“氷のような気配”が走った。
「……楽しそうだな、セシー」
「お兄様……!」
振り返ると、アランがそこにいた。
柔らかな笑み――のはずなのに、どこか張り詰めた空気がある。
エドワードが礼を取る。
「アラン殿。彼女の訓練を見ておりまして」
「そうか。ずいぶんと熱心なことだな」
声は穏やかだ。
けれど、セシリアの背筋にぞくりと冷たいものが走る。
「……お兄様?」
「いや、別に。ただ――妹を褒められるのは、悪くないと思ってな」
その口元の笑みが、妙に“壊れそうなほど静か”だった。
昼下がり。
訓練を終えたセシリアは中庭を歩く。
アランの様子が気になって、胸の中がもやもやしていた。
(お兄様……怒ってる? なんでだろう。私、何かした?)
「セシー」
また声がした。
今度は木陰に立つアランがいた。
「少し、いいか?」
「はい」
アランは静かに彼女の隣に腰を下ろす。
風が二人の間を通り抜けた。
「……あの騎士団長の息子。お前の訓練に付きっきりらしいな」
「え、えっと……はい。先生から、補助を頼まれて……」
「……そうか」
沈黙。
アランの手が、セシリアの髪に触れた。
そっと、指先で一房をすくい上げる。
「……お前が他の男に笑いかけるたび、胸が焼けるようだ」
セシリアは一瞬、言葉を失った。
「え……お、お兄様?」
「いや、忘れろ」
アランは手を離し、目を伏せた。
夜。
アランの中で、再び魔王が囁く。
『嫉妬だな。美しい感情だ。お前の闇が、また少し育った』
「……黙れ」
『だが認めたほうが楽だろう? 彼女を他人に渡す気などないのだろう』
「違う……俺は、そんなつもりじゃ……」
『では、なぜ苦しい? なぜ笑顔を見るたび心が疼く?』
沈黙。
アランは拳を握り締めた。
「俺は、妹を……守りたいだけだ」
『守りたい? ならばその笑顔を独り占めしろ。
お前が望むまま、俺が力を貸そう』
魔王の声が闇に溶ける。
その瞬間、アランの瞳が微かに赤く光った。
翌朝。
セシリアは学院の渡り廊下でアランとすれ違った。
「お兄様、おはようございます!」
「……おはよう、セシリア」
彼の声はいつもより低く、熱を帯びている。
ほんの一瞬――その瞳の奥に赤い光がちらりと走った。
(え……? 気のせい?)
セシリアは小さく首をかしげた。
胸の鼓動が、なぜか落ち着かない。
アランはゆっくりと微笑む。
「……今日も綺麗だな」
セシリアは顔を真っ赤にして、思わずうつむいた。
そして、知らない。
その瞬間、アランの心の奥で、魔王が満足げに笑っていたことを――。
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