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お兄様と共に断罪ルートを潰してみせます  作者: AAA
第二部

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20/20

第3話「もうひとりの“お兄様”」

 夕刻。学院の中庭には、赤い夕日が滲んでいた。

セシリアは花壇の世話を終え、手を払う。

「……ふう。今日もきれいに咲きましたね」


その背後で、聞き慣れた声がした。

「セシリア」


「お兄様!」

振り返ると、アランが立っていた。

けれど、どこか様子が違う。

いつもの柔らかい笑みではなく――

その瞳は、深い夜のように光を帯びていた。


「手、見せて」

「え?」

アランはセシリアの手を取った。指先に残る小さな傷を、じっと見つめる。


「……こんな傷、誰がつけた?」

「だ、誰って……棘にちょっと引っかけただけですよ?」

「許せないな」


「え?」


アランは笑っていた。だがその笑みは、冷たく、美しく、どこか狂っていた。


「この世界は、お前の指先ひとつにもふさわしくない」

「……お兄様?」


そのとき、セシリアの背筋を冷たいものが走る。

アランの声が低く、まるで別の人のように響いていた。


「なぁ、セシリア。

 この学院も、人間も……お前を傷つける。

 だから俺が――全部、壊してやる」


「……え?」

一瞬、世界が静まり返った。

だがすぐに、アランはまばたきをして、息をついた。

「……セシー? どうした、そんな顔をして」

「え? い、いえ……今、ちょっと……」


「顔色が悪いな。無理をしていないか?」

穏やかな声。いつものアランだ。

けれどセシリアの心には、まだ先ほどの“何か”が残っていた。


その夜。

アランは自室で頭を押さえていた。

「……まただ」


断片的な映像が頭をよぎる。

セシリアの顔、夕日の色、そして――

己の口から出た、聞き慣れない言葉。


『壊してやる』


「……そんなこと、俺が言うはずが……」

額に手を当てる。中から微かな声が響く。


『あれはお前の本音だろう?』

「黙れ」

『違うか? お前は願っている。

 この世界を、妹だけのための場所に変えたいと』

アランは歯を食いしばる。

「違う……俺は、ただ……守りたいだけだ」


『守るために世界を壊す。

 それは、俺のやり方でもある。……アラン、俺を認めろ。

 お前が俺を拒む限り、苦しみは続くぞ?』


アランは机に手をつき、目を閉じた。

胸の奥で、鼓動がひどく早い。

(俺の中の……“こいつ”は――)



 翌朝。

セシリアは中庭でアランと顔を合わせた。

「お兄様、昨日……その、少し怖かったです」

「怖い?」

「なんか、別人みたいで……」


アランは瞬きをした。

「……すまない。覚えていない」

「え?」

「昨日のこと、少し……記憶が曖昧なんだ」


セシリアは困ったように笑う。

「お兄様、最近忙しいから疲れてるんですよ」

「……そうかもしれないな」


その笑顔に、アランの胸の奥がじくりと痛む。

(――違う。疲れじゃない。あれは確かに、俺の中の“何か”だ)



 夜、魔王の声がまた響く。

『お前が彼女を想うほど、俺の力は強まる。

 これは宿命だ。愛こそ、闇を呼ぶ』

「……だったら、俺の愛は闇でも構わない」

『ほう……?』

「それでも、あいつを守れるなら――どんな存在でもいい」


魔王は静かに笑った。

『ならば、俺の力を使え。

 お前と俺、どちらが主か……いずれ決めればいい』


月光が差し込む。

アランの影が二重になった。

ひとつは人の姿、もうひとつは――獣のような形をしていた。

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