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お兄様と共に断罪ルートを潰してみせます  作者: AAA
第二部

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18/19

第1話「囁き始めた影」

 学園の中庭に、春の風が吹き抜けた。

セシリアは笑顔で花壇の花を整えている。

その隣で、アランは穏やかな笑みを浮かべながら彼女を見つめていた。


――しかし、その笑みの奥に潜むものは、もはやただの兄の優しさではなかった。


「……楽しそうだな、セシリア」

「はい! この花、去年よりたくさん咲きましたよ!」

セシリアの無邪気な声に、アランの胸の奥で何かがざわつく。


(……そうやって誰にでも笑うな)


口には出さない。

けれどその瞬間、心の奥から別の声が囁いた。


『妬いているのか、アラン?』

アランの表情が一瞬だけ陰る。

魔王の声――。

封印されたはずのその意識が、今も静かに彼の中で目を覚まし続けていた。

『可愛いだろう? あの笑顔……俺も好きだ』

「……黙れ」

『お前も俺も、同じものを見ている。違うか?』


アランは歯を食いしばり、視線を落とす。

魔王の声は柔らかく、それでいて酷く甘やかだった。


『守りたいんだろう? なら、閉じ込めてしまえばいい。』

「……それは、違う」

『違わないさ。お前の中の“愛”は、もう“独占”に近い』


アランの胸が、静かに熱を帯びる。

その熱は恋のときめきではなく――焦燥と嫉妬が混じった、危うい熱。


「お兄様、今日はエドワード様と一緒に授業なんです!」

(※エドワード=騎士団長の息子、修行を共にした青年)


ぱっと笑うセシリアに、アランの微笑みが僅かに凍る。

「……エドワードと?」

「はい! 魔法の演習を一緒に見直すことになってて……」


(……またあの男か)

アランは静かに微笑みながらも、手の中の手袋を強く握りしめる。

指先が白くなるほどに。


「……そうか。だがあまり遅くなるな。夜は、俺が迎えに行く」

「え? でもそんな、わざわざ――」

「行く」

低く、短く。

その声音に、セシリアは小さく瞬きをする。


(……お兄様、少し怖い声……でも……なんだか、嬉しい?)


天然な彼女は、微妙な違和感を感じながらも、素直に頷いた。

アランはそれを見て、静かに息を吐く。


(……あぁ、本当に。お前は、どうしてそんなに無防備なんだ)


その夜。

アランが部屋で書類に目を通していると、再び魔王の声が響く。


『可愛い妹だな。……お前だけのものにしたくなるのも、わかる』

「……黙れ」

『だが、俺ならばもっと上手くできる。恐れも、ためらいもなく。』


アランの目に、一瞬だけ暗い光が宿る。

魔王の囁きが、少しずつ彼の心に染み込んでいく。


『愛する者を守りたい――それは美しい。

 だが守るとは、他者の手が届かぬ場所に置くことだ。』


アランはゆっくりと目を閉じる。

セシリアの笑顔が、脳裏に浮かぶ。

(……守る。何があっても……)

そして――

その「守る」の言葉の中に、静かに「閉じ込める」という影が、芽を出した。


セシリアはまだ知らない。

優しいお兄様の笑顔の奥に、もうひとつの心が眠っていることを。


アランの中で、魔王の囁きは静かに繰り返される。

『お前も、俺も。あの娘を手に入れたいだけだ』


アランは答えない。

ただ、心の奥にある「独占欲」を、否定しきれずにいた。

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