第16話 「真実を知るセシリアと、お兄様の決意」
学園の静かな午後。
セシリアは図書室の片隅で、手元のノートに目を落としていた。しかし心は、先日耳にした噂のことでいっぱいだった。
(お兄様が婚約……本当に、他の人と……?)
胸の奥がざわつき、視界が少しぼやける。
そんな彼女の前に、アランが静かに現れた。
「……セシリア、少し話がある」
セシリアは驚きとともに顔を上げる。
「お兄様……?」
アランは真剣な表情で、ゆっくりと座席に腰を下ろす。
「婚約の話だが……噂は誤解だ。僕が決めたことだ」
セシリアの胸がぎゅっと締め付けられる。
「……誤解……?」
アランは深く息をつき、落ち着いた声で続ける。
「父上と母上には、婚約は君とすると伝えた。相手方には、我々がきちんと断るように頼んだ」
セシリアはしばらく言葉を失い、目を見開いたまま座る。
(え、婚約は、私と!?でも……お兄様が、私を……?)
自然と胸に疑問が湧く。
(……でも、そんなわけない……! 何か、ほかに理由があるはず……)
「……え? お兄様が私を……好き……って……? そんなこと、あるわけ……ないよね……?」
セシリアは小さく震え、頭の中がぐるぐる回る。
アランは一瞬、目を細める。
「……この天然は」
静かな怒りを含んだ声で吐き捨てるように言い、でもすぐに口元に微かな笑みを浮かべる。
「……まったく、振り向かせてやる。覚悟しておけ」
セシリアは思わず目を丸くする。
「え……振り向かせ……?」
アランはゆっくり立ち上がり、セシリアを見下ろすように視線を合わせる。
「誰よりも、君を守る。そして、必ず俺のそばに置く。それだけだ」
その言葉の重みに、セシリアは胸がじんわり熱くなる。
(……お兄様、本当に……私のこと……?)
夕陽が図書室の窓を染める中、二人の距離は、自然に、しかし確かに縮まった。
セシリアの胸には、まだ理解できないけれど確かな高鳴りが芽生えていた。




