第15話 「お兄様が婚約?」
夕暮れの学園。
セシリアは図書室の窓際で本を広げていたが、心ここにあらずという様子でページをめくる。
「……ん? なんだか噂話が……」
通りかかった級友のひそひそ声が耳に入る。
「聞いた? アラン様がもうすぐ婚約するんですって」
「え……!? そんな……」
セシリアは胸がぎゅっと締め付けられるのを感じた。
(婚約……お兄様が……? どうして……?)
頭の中が真っ白になり、しばらく動けない。
幼い頃からずっとそばにいて、守ってくれていたお兄様が……他の誰かと……?
「……そんなはず、ない……私の勘違いよね……」
心の奥で、理由のわからない悲しさと焦りが混ざり合う。
セシリアはページを閉じ、窓の外に沈む夕陽をじっと見つめた。
(お兄様が……本当に婚約するなら……私は……)
その胸の奥には、守られていた安心が消えかける恐怖と、気づかぬうちに芽生えていた想いの痛みがあった。
セシリアの知らぬ間に、アランは静かな午後、実家へと向かった。
重厚な扉を押し開くと、父と母が暖かく迎える。
「アラン、今日はどうした。婚約の話をまとめるということだったな」
「まあまあ、座りなさい。紅茶でも入れましょう」
アランは深く息をつき、決意を胸に語り始める。
「父上、母上、婚約の件についてお話があります」
両親は興味深げに視線を向ける。
「婚約相手は……セシリアにしたいと思います」
父と母は一瞬、驚いた顔をするが、すぐに柔らかく微笑む。
「ふふ、なるほどね。アランもそう思っていたのね。セシリアも可愛い子だもの」
「そうだな。二人とも我が家の宝だ。セシリアが家にいてくれるなら、安心だ」
アランはほっと息をつく。
「本当に、セシリアと結婚するのだな」
「はい。婚約はセシリアとだけです」
父は頷き、柔らかく言葉を重ねる。
「わかった。君の意思を尊重して、相手の家には我々がきちんと断ろう」
母も微笑み、アランの肩に手を置く。
「その方が安心ね。アランがそう決めたなら、二人の幸せを見守るだけだわ」
アランは静かに息を吐き、決意を胸に秘める。
(これで正式に、自分の意思を示せた……あとは、セシリアと一緒に歩むだけだ)
実家の暖かい空気の中、アランの胸は静かに、しかし確かに高鳴っていた。
彼の決意は、守りたい人――セシリアのために固まっていた。




