第3話 実験からの逃走劇
「まぁまぁ、そう悩まずに。とりあえず、宮坂、壁の修復お願い」
斎田がそう言うと、美也はこくりと頷き、斎田が破壊した壁の方に手を向け能力を使い始めた。
美也の能力は簡単に言うとものを生成する能力だ。
いつも、斎田壊した壁を、美也の能力を使って復元している。
「じゃあ斎田。美也が壁直してる間にこれ飲んで」
俺は斎田に液体の入った水筒を渡した。
「これってまた能力を増幅させるための薬品?」
「あぁそうだ」
俺は斎田の能力を強化するためにこうして薬品を日夜研究し、開発している。
「念のため聞いておくが、副作用とかってあるのか?というかそれより、そもそもこれって飲んでも本当に大丈夫なんだよな?」
何をいうんだ、この世紀の大天才、神風 彰人様が徹夜して発明した薬だぞ!
体調を崩したりなんかなるわけないだろ。
「その世紀の大天才の発明のせいで、先週は三日も寝込んだんだけどな……ほんと、嘔吐が止まらなくて、一瞬三途の川が見えたよ……」
それは……あれだ……世紀の大発明にも失敗はある。いや、俺は失敗をしたんではない、経験を積んだのだ。そうそう、そして、斎田は世紀の大発明には必要な犠牲だったのだ。世界の未来のためにありがとうよ斎田。
「そんな気にするなって。ほれ、イッキ、イッキ」
俺がそう言って、急かすと、斎田は嫌な顔をしながらも綺麗に水筒の中身を飲み切った。
「おい神風……何だこれは……苦いし臭いし……もう少し味とか風味とかに気を使ってくれよ……飲む方も結構きついんだぞ……」
味に気を使っている暇はないので誠に申し訳ないが今後は我慢してもらおう。ごめんよ斎田くん。
「修復終わったよ」
美也がこちらを向き直り、そう言う。
「あいよ。よし斎田、かましてやれ」
斎田は再び壁の方を向き直り、能力を使うポーズをとった。
次の瞬間、先ほどと同じように斎田の体が光り始め、指の先から水の弾丸が放たれた。
斎田から放たれた水の弾丸はまたもや壁めがけてすごい速度でぶつかっていった。
「うーん、やっぱり変わってないな……何がダメなんだ……」
美也が両手で頭を抱え、さらに悩む。
「やっぱり能力が発動する理由とかもっと根本的なところからじゃないと無理なのか……」
俺たちがPCの前で悩んでいると、さっきの能力で若干濡れて、ちょっといい感じになった斎田が声をかけてきた。
「静かに、誰か来てる。神風はPCを片付けて。宮坂は壁の修理を」
斎田はとても耳がよく、微細な音や、足音などを正確に聞き取ることができる。
これは能力でも何でもなく、斎田の体質だ。
「美也、PCは持っとくから早く壁直せ!」
「わかってる!」
美也が壁を直し終えた次の瞬間、ガチャっとドアノブが回る音と共に、ドアが開いた。
「誰だ!立ち入り禁止の屋上で遊んでいるやつは!」
屋上へと入ってきたのは強面の体育教師みたいな男だった。
初めて見る顔なので、恐らく中等部の担当だろう。
面識がないと言うことはこのまま逃げてもバレないか……
「No.2!能力の展開して!」
「No.2」とはコードネームのようなものだ。ちなみに、No.1は美也、No.2は斎田、No.3は俺、となっている。
こうすることで、今みたいに教師が来てもバレないようにと作ったのだ。
「了解!No.1は時間稼ぎを頼む!」
斎田がそう言うと、美也は教師の前に壁をつくり、視界を阻害した。
「おい!逃げるな!」
意地でも逃さない気らしいが、俺達はここでおさらばさせてもらう。
「No.1!No.3!飛び降りろ!」
No.2こと斎田の合図とともに、俺達は屋上の鉄柵を乗り越え、飛び降りた。




